第60話 ????の魔物

 俺は桃乃の後ろをついて行くように歩いていた。


「先輩、またいじけてるんですか? いじけてないで行きますよ」


「いじけてないもん」


 俺は歩くのが遅いのか桃乃に引っ張られている。ええ、いじけていますとも。


 キラーアントを探す道中で桃乃が魔法を連発していて、あまりの派手さにいじけている。


 だって、両手から違う魔法が同時に飛び出してくるんだぞ?


 そりゃー、いじけるだろ。炎やら水やら土の固まりが飛び交うんだぞ。


 戦い方は違うが俺も剣と魔法で戦いたかった。


 それが今のところスコップか鋸を片手にただ綺麗な魔法を放つだけしかできないのだ。


「はいはい、先輩いきますよー」


 俺は桃乃に森に連れ込まれるのだった。そして、またそこでも桃乃は無双している。


「おい、俺のポイズンちゃん残せよ!」


「いやー、火力調整難しくて死んじゃうんですよ。あいつらってこんなに弱かったですか?」


 桃乃は水と風属性魔法を同時に扱い、ウォータージェット切断のように小さい穴に通すような細い水流で水を噴出している。


 そのためか魔物達が刃で切断するように、一瞬で切り刻まれていくのだ。


 桃乃が無双し過ぎて俺の出番がない。


MP魔力の使いすぎには気をつけろよ」


 以前コボルトの治療でMP魔力を序盤に使った時から、常に桃乃に言うようにしている。


 やはり魔法は俺の力技に比べると汎用性も高く、使い勝手がいいのだ。俺の魔法はキラキラしていて鑑賞用で何にも使えない。


「キラーアントって中々いないですね」


 森を探索しながらキラーアントを探しているが、一向に姿が見えないのだ。キラーアントという名前からしてアリの姿をしているのだろう。


「んー、情報では木々が多いところに生息しているらしいからもう少し奥なのか?」


 俺は神光智慧大天使ウリエル の力を使って、情報を集めているが、どうやら見当違いの場所を探しているのかもしれない。


「とりあえず、時間もまだあるから奥の方に行って考えようか」


 俺達はさらに森の奥の方に行くことにした。それにしてもここの森はどこなんだろうか。


 屋敷があった場所のように開けた場所が森の中にも存在しているのだろうか。


 建物もない大自然を俺達は警戒しながら歩き続ける。





 俺達はそれから30分ほど歩くが、今度は魔物すら姿を見なくなった。そもそもコボルト達も見当たらない。


「先輩そろそろ引き返しますか?」


「ここに居ても見つからないし、魔物もいなければお金は稼げないから――」


 俺達が森を引き返そうとしたら、脳内に直接語りかける声が聞こえた。


【神々に選ばれし天使よ。我らの願いを聞いてもらえませんか?】


 俺はいつもの感情がないデジタル音声ではない声に立ち止まった。


「先輩どうしたんですか?」


「ももちゃんはこの声が聞こえないか?」


【我らの願いを聞いてもらえるのなら姿を見せよう】


 どうやら声の正体はどこかに隠れているらしい。


「また声が聞こえたけど……?」


 俺は桃乃に確認するが首を横に振っていた。どうやら桃乃には聞こえていないようだ。


「あなたの願いを聞かせてもらってもいいですか?」


 声の人物に語りかけると、急に森を抜ける風が吹いた。咄嗟に目を閉じるとなぜか桃乃が俺の名前を呼んでいる気がした。


「ももちゃんそんなに慌ててどうしたんだ?」


 目を開けるとそこには桃乃の姿はなかった。


 周囲はさっきと変わってないが、桃乃だけがいなくなったのだ。


「いや、ここはどこだ」


 俺は魔刀の鋸を構えた。見た目は変わっていないと思っていたが、周りはトレントばかりに囲まれていた。


【神々に選ばれし天使よ。武器を下げるのだ】


 脳内に直接語りかけてきた声が聞こえてきた。さっきまでは若干掠れていたが、今ははっきり聞き取れている。


 俺が魔刀の鋸を下げると、トレント達が動き始め一本の道ができた。


【この先を進みたまえ】


 声がする方に俺は進んだ。何者かが俺を呼んでいる。それだけしか情報はなかった。


 そのまま言われた通りに真っ直ぐ進んでいくと、たくさんのトレントに囲まれた大きな木が立っていた。


――????


 自動鑑定でも名前が表示されないが、そこにある大きな木は魔物で間違いはない。ゲームの世界であれば世界樹とでも言われていそうな大きな木だ。


 何かとてつもないものがそこには存在している気がした。


【私の名前はドリアード。この森を守る守護者です】


 突然大きな木が姿を変えると、そこには緑色の髪をした綺麗な女性が立っていた。


「すごい美人だな」


 俺はいつのまにか声が出ていた。俺の声を聞いた女性はさらに微笑み掛けていた。その笑みに俺は心が引き込まれそうになる。


 その時頭の中で激しくアラーム音が鳴っていた。


「くっ!?」


 あまりの音の大きさに俺は頭を抱える。頭の中で音量最大の目覚まし時計が鳴っているようだ。


 俺はアラームを止めるために、必死に視界の縁にある鐘のマークを押すとアラームは止まった。


「選ばれた者よ。流石ですね」


 声は前のドリアードという名前の女性から聞こえていた。さっきまで脳内に直接語りかけてきた声と同じだ。


 そして、さっきまで自動鑑定で????と表示されていたのがドリアードとなっていた。どうやら魔物の種類がわかれば表記が変わるのだろう。


「私の魅了を防げるとは流石です。私達の願いを聞いて貰えませんか?」


 ドリアードは何か頼み事があるのだろう。でも、なぜ俺が選ばれたのかわからない。そもそも頼む相手を魅了するとは危ないやつだ。


「どうして俺が選ばれたんですか?」


 俺は警戒を緩めずにドリアードに質問した。


「あなたが植物に選ばれた天使だからです」


 やっぱり言っていることが全くわからない。どこに植物に選ばれた天使の要素があるのだろうか。


「あなたのその右手に持っているものと魔法が証拠です」


 魔刀の鋸と木属性魔法が何かしら関係しているのだろう。


 それでも魔刀の鋸は木を切り倒すため、木から言えば天敵にしかならないはずだ。ただ言えることは、目の前にいる美女は俺よりも格段に強いということだ。


「まずどうするかは話を聞いてからでもいいですか?」


「ええ、それからでも構いません」


 ドリアードの願いを聞いてから判断することにした。

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