第54話 ももちゃんは現実世界でも無双します!

 俺は今日も職場の近くのカフェで朝活をしようと思い早めに出勤している。


「おはようございます。今日も朝活ですか?」 


「上司が文句を言うので職場で勉強できないんですよ」


 早くオフィスにいると出勤してきた部長に文句を言われるため、いつの間にかカフェの常連になっていた。


 いつも使ってるカフェは意識が高い人が多いのか、朝から何か作業をしたり読者していたりなど、朝活をやっている人達がたくさんいる。


 気兼ねなく朝活できる環境は今の俺にとってはありがたい。


 俺は注文を終え席に座ると突然後ろから声をかけられた。


「おはようございます」


 振り返るとそこには桃乃が立っていた。


「ももちゃんおはよう!」


「あっ、おはようございます。それよりも外でその呼び方はやめてください」


 桃乃は外で愛称で呼ばれるのが恥ずかしいらしい。たしかにカフェの中は静かだからな。


 桃乃とは最近朝活を始めた仲間だ。


 昨日、異世界から帰ってきた後は、一緒におばさんからもらったおかずを食べてから解散した。


「昨日はちゃんと寝れたか?」


「疲れてたから沢山寝れましたよ」


 ポイズンスネークを仕留める桃乃は少し怖かったが、どうやらトラウマは少し乗り越えられたのだろう。


 俺としては心配だったが、本人がゆっくり休めたのであればよかった。


「今度行くときは声をかけたほうがいいか?」


「あっ、お願いします! 次はもっと活躍しますよ」


 異世界にもう一度連れて行って欲しいと言っていたため、次回も一緒に行くことになっている。


 今まで辛い時も一人で戦って来たが、俺はついにちゃんとした仲間を手に入れた。


 また、桃乃は異世界との時間の軸が異なるため、休みが倍になったように感じて有意義な休みを過ごせたと言っていた。


「それでETFで手に入れたスキルはどうだ? 何か変化はありそうか?」


 桃乃はETF"公共事業"セクターでMP回復速度増加と精神耐性を手に入れていた。


 MP回復速度は何に影響があるかわからないが、精神耐性は精神的なストレスを軽減する何かが効力としてあると俺は思っている。


「んー、どうでしょう。昨日は寝心地が良かったのはスキルの影響かもしれないですね。普段より悩まずに寝れましたし」


 桃乃自体も精神的なストレスは減っている可能性があると感じてはいるが、今の段階では精神的なストレスがあまりかかっていないため確証は持てなかった。


 この後の仕事が桃乃にとって最大の精神的ストレスだろう。


「まぁ、無理せずに気楽に仕事すればいいさ」


「ありがとうございます」


 俺も自分で言ってびっくりしているが、この半年以上でだいぶ考え方が変わるようになった。


 昔の俺は毎日必死に働いて寝るだけの生活をしていた。





 始業時間になると皆が揃って仕事を始める。


 そんな中、朝から聞きたくない声が近くの人を呼んでいた。


「おい、桃乃こっちに来い!」


 いつものように桃乃は糞野郎に呼ばれている。また八つ当たりが始まるのだろうかと俺も準備を始める。


「はい、なんでしょうか」


「これはなんなんだ」


 桃乃は資料を突き返されていた。しかも、投げるように突き返したため、資料は空中に飛び散っている。


 これはなんなんだと俺がこの男に言いたいぐらいだ。どこから見てもパワハラにしか見えない。


 すると普段の桃乃とは違う答えが返ってきた。


「部長これのどこがおかしいでしょうか?」


 いつもなら言われ続けているだけの桃乃が、今回は部長に聞き返している。いつもなら手を強く握っているだけだったのに、小さな反抗を始めたのだ。


「どこがって……もちろん全部だ!」


「部長は本当に中身を確認したのでしょうか?」


 今回は桃乃も引き下がらなかった。確かに理不尽に呼び出され文句を言われるほど、無駄な時間はない。


「これ、部長が言った通りにまとめたものです。何一つ言われたこと以外はしていません」


 桃乃は飛び散った資料を集めて部長に渡した。今回渡した資料は、部長がはじめに指示を出してその通りに作ったものらしい。


 桃乃の言葉に部長は何も言えないでいた。どうやら俺の出番はないらしい。


「ご自身で指示した通りに作りましたが、全てやり直すならご自身で作り直してください。では私も仕事があるので失礼します」


 部長に一言言い放ち、桃乃は自身のデスクに戻っていった。


 俺は桃乃に拍手を送りたかった。中々上司に言い返せないことを初めて言ったのだ。


 桃乃に言い返されると思わなかった部長は驚いて未だに固まっていた。


「ももちゃんキャラ変わりすぎじゃないか?」


「はぁ、疲れた」


 桃乃は自分のデスクに戻るとため息をついている。


「お疲れ様! 大丈夫だったか?」


「全然大丈夫でした! 今までなんで言われ続けたのかわからないぐらいでした」


 桃乃自身が驚くぐらいパッシブスキルの影響が出てるのだろうか。


 それとも異世界に行って、部長より怖い魔物という存在に気づき、何も思わなくなったのかは桃乃しか知らない。


「ははは、パッシブスキル凄いだろ」


「こんなに変わるなら全額投資ですね」


「投資は余剰資金が基本だぞ!」


 本来であれば違う成長をして欲しいが、今の環境を脱却できる唯一の方法だった。


 今まで耐えていた桃乃の成長がみえた一日に自然と笑顔が増えた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る