第53話 スライムって強い魔物のようです! ※一部第三者視点

 俺はゴブリンに捕まることもなくそのまま穴に入ることができた。ついでに倒れているゴブリン1体も袋に回収をしてきた。


 お金にがめついと言われても、大事だから仕方ない。


「あー、今回も命懸けだったな」


 俺は滑り込んだ状態のまま、その場で倒れて息を落ち着かせる。


「先輩大丈夫ですか?」


「ああ、ももちゃんは?」

 

「もちろん大丈夫ですよ」


 特に怪我もなく、今回は無事に二人とも帰還できたようだ。


 下水道のガスによって一度やられてはいるが、命には問題ないだろう。


 拾ったHP回復ポーションと配当でもらったHP回復ポーションが底をついてしまった。今後のことを考えると少し心許ないため、異世界に入るときは配当を貰ってからの方が良さそうだ。


【スライム討伐お疲れ様でした。今回の報酬を計算します】


 しばらくすると脳内にアナウンスが聞こえてきた。どこかで監視しているのか、俺が落ち着くまでアナウンスは流れて来なかった。


「今回はダメかもしれないな」


 実際にクエストクリアと表記されても、システムに何体倒したかまでは書かれていない。そのためスライムを何体倒したかわからない。


 ゴブリン自体も途中で遭遇したやつか、最後に戦ったぐらいであまり数多くは倒せていない。


 今回の報酬はあまり期待していない。ゴブリンやポイズンスネークの素材の売却金だけだろう。


 今回の目標は"桃乃を異世界へ連れて行く"ことだったから気にしないでおこう。


【スライム討伐数58体、民間人死亡0人です】


「えっ!?」


 俺達はアナウンスを聞いた瞬間驚いた。桃乃を見ると彼女も同じような表情をしている。


 これだけのスライムを倒す爆発なら、あれだけの数の魔物を呼ぶのは今なら頷ける。


 それにしてもあの下水道にそれだけのスライムが潜んでいたと思うと、無事に帰って来れただけでも良かった。


【それでは報酬の発表です。スライム1体につき8万円で計464万円になります。パーティー1人あたり232万円の報酬となりました】


 スライムの討伐数でも驚いたが、報酬額にはさらに驚かされていた。確実に年収の半分も稼げたのだ。


 きっとスライムってあの世界では強い魔物の分類なんだろう。


「年収……確定申告どうしましょう……」


 隣で桃乃がボソッと呟いていた。真面目な彼女も俺が初めて異世界に行った時と同じことを考えたのだろう。


 そこに関しては俺も悩んでいる部分でもある。贈与税として申告すれば110万円までは税金がかからないが、明らかに今回だけでも超えてしまう。


 自身で確定申告をして、所得税を支払わないといけないのだろう。


【マジックバックの中身は売却しますか?】


 今回もゴブリンの素材を迷わずに売ることにした。特に素材の使い道もわからないため、お金にした方が利益になる。


【お疲れ様でした。またのご利用をお待ちしております】


 どうやら、時間買取システムは気まぐれのようだ。少し時間も余っていたが、今回に限ってはなかった。


「今回の報酬はすごいな……」


 あまりの金額に驚いていた。ゴブリンの素材が70万円程度と合計で300万円を超えている。


 1日……いや、現実世界ではほぼ時間が経っていないため、時給300万と破格の時給になっている。


 これこそ異世界副業で荒稼ぎだ。


「すぐにお金持ちになりますね」


 桃乃も袋の中を見てニヤニヤとしていた。前回はあまり報酬や素材もなかったが、今回は自身でゴブリンやポイズンスネークを倒したのもあって、素材の売却でたくさん稼いだのだろう。


「じゃあ、家に帰ろうか」


 俺はいつもより重い袋の重みを感じながら現実世界に戻ることにした。





「ついにスライムまで倒したのね」


 女はモニター越しで映像を見ていた。その映像には必死に何かと戦っている二人の姿が映っていた。


「おー、使ったことない魔法であそこまでやるとはあの子も才能があるわね」


 メモを取りながら映像を見ていると、いつのまにか映像は終わっていた。それだけ映像を真剣に見ていたのだろう。


 女は急いで引き出しから、マイクを取り出し接続する。


「スライム討伐お疲れ様でした。今回の報酬を計算します」


「スライム討伐数58体、民間人死亡0人です」


 一度マイクの電源を切ると、右手に電卓を用意しこの世とは思えない早さで打ち出した。


「それでは報酬の発表です。スライム1体につき8万円で計464万円になります。パーティー1人あたり232万円の報酬となりました」


「マジックバックの中身は売却しますか?」


「お疲れ様でした。またのご利用をお待ちしております」


 女はマイクと電卓を引き出しに片付けると大きく背筋を伸ばした。今までずっと椅子に座りモニターを見ていたため、肩も凝っているのだろう。


「ヘへへ、まさかあの彼女も再び行くとはね……。今回は無事だったけど次はどうなるかな」


 女はメモを閉じるとそのまま机に吸い込まれるように消えていった。


 その時どこからかインターホンが鳴っていた。


「はいはい、今出ますよ」


 女は急いで隣に置いてあったエプロンを着け扉を開けた。

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