第52話 異世界に来たら猛ダッシュは確定です!

 しばらく経ってもコボルト達はまだ吠え続けている。初めはスライムを倒したことに喜んでいると思ったが、そわそわしている反応からして何かが違うと感じた。


「ギャウギャウ!」


 次第に吠え方が変化し、チラチラと後ろを気にするようになっていた。俺はコボルトに近づくが距離を置き、どこかへ逃げてしまう。


「あっ、臭かったんだ」


 体が汚れていたのを忘れていた。それにしても何かコボルトの様子がおかしい。いくら臭くてもさっきは鼻を押さえていただけなのに、今は全く押さえていないのだ。


「先輩、コボルト達の様子がおかしくないですか?」


 コボルトの異変は桃乃も感じていた。何かを伝えようと必死に吠えているのだ。すると遠くから足音とともに魔物の雄叫びが聞こえてきた。


 声からして数も多いのであろう。さっきの爆発で魔物達も音に気付き、こっちに向かって来ているのだろうか。


「魔法はまだ使えそうか?」


 ゲームの世界ではMP魔力を消費して魔法を使ったりするが、必要なMP魔力も限度があるはずだ。


 ポイズンスネークを討伐するときに桃乃は魔法を連発していた。


「感覚的には数発しか無理そうです」


 どうやらMP魔力の概念はあるようだ。数の多さがわからない以上ここで戦うのは無謀だと感じた俺は桃乃とともに現実世界へ戻ることにした。


 すでにクエストを終えているため、ここに残っている理由もない。


 桃乃が魔法を使えなくなったら、逃げる手段は俺だけになってしまう。


「よし! 走って逃げるぞ!」


「えっ!? また走るんですか」


 前回も穴まで猛ダッシュをしたが、今回も穴まで走ることにした。


 桃乃の体力も気になるところだが、ここから穴まで距離もあるため早く逃げないと追いつかれてしまう。


 俺と桃乃は穴に向かって走り出した。ちなみにコボルト達には一定の距離を保ってもらい、魔物達が近づいてきてないか報告してもらっている。


「ギャウギャウ!」


 左にいるコボルトが吠えてきた。どうやら左からも接近しているようだ。普段と吠え方を変え、わかりやすく伝えているのだろう。


 指示した訳でもなく、自分達で考えて行動できる頭の良さに能力の高さを感じる。


 それから足が痛くなっても俺達は必死に走った。桃乃の体力が心配だったが、どうにかふらふらしながらもついて来ている。


 こういう場面を想定すると桃乃にも投資信託の割合を増やして、ステータスをあげてもらった方が良いのだろう。 ただ、AGI素早さが上がる投資を探さないといけないのが問題点だ。


 他にも投資のことをこっちから指図するわけにもいかないし、お金がない間に分散投資をしてしまえば元も子もない。


 最終的にはお金さん・・・・も増えずに能力スキルも習得しない可能性がある。


「よし、お前たちはそのまま逃げるんだ」


「ガウガウ!」


 俺の声に反応してコボルト達は左右に散って逃げだす。あいつらも他の魔物達に囲まれたら流石に逃げ切れないだろう。


 今まで助けてくれたことに感謝して、ポケットに隠し持っていたおやつを遠くに投げる。本当に持っていけるとは思わなかったが、それだけは見逃してくれたのだろう。


 穴までの距離はあと100mもない。後方からはまだ魔物達が追いかけてきている。


 俺と桃乃は全力でそのまま走り切る。


「グヒヒ!」


 そんな中、穴の目の前にはゴブリン達がちょうど待機していた。その数およそ20体はいるだろう。


 しかも、ゴブリンの多さと一体のみ体格が大きい他のゴブリンとは違う存在がいた。きっとホブゴブリンだ。


「くそ! 魔法は打てそうか?」


 俺の問いに桃乃は首を横に振っていた。魔法を放つのに集中する必要がありそうだ。


 今後は走りながら魔法を打てるように練習も必要だろう。


 遠距離で先制攻撃が出来れば追いつかれる心配はないが、どうやら接近戦をしながら穴に入るしかない。


 俺はさらに早く走り、桃乃が到着する前にそのままスコップを構えながらゴブリン達に突撃した。


「うぉー!!」


 スコップで薙ぎ倒すように大きく振りかぶる。


 勢いもあったためか、ゴブリン数体はそのまま吹き飛ばされていた。


 ステータスが上がる度に、少しずつ強くなってきたと実感する。


「先に中に入れ!」


 俺は桃乃を先に穴の中に入るように伝え、その間にゴブリン達を倒していく。


 それでも隙間時間にゴブリンの死体に手を触れ、回収するのは忘れない。


 なんたってこいつらを回収すればお金になるんだからな。


「先に行きます」


 桃乃はどうやら間に合ったようだ。目の前のゴブリン達もある程度倒したが、それでもまだ数は残っている。


 後方から近づいて来ている魔物も距離としては後わずかだ。


「ワォーン!」


 そんな中どこからかコボルト達の遠吠えが聞こえてきた。その声にゴブリン達は驚いて動きが止まる。


 コボルトのスキルが発動しているのだろう。俺はそのチャンスを見逃さなかった。


 スコップをそのまま地面に突き刺し、滑り込むようにスライディングして穴の中へ入って行った。


 あいつらのために今度は倍の量のおやつをポケットに詰めないといけないな。

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