第51話 魔法使いももちゃんのスライム一掃作戦
俺達はスライム討伐に向けて話し合った。その名も"魔法使いももちゃんのスライム一掃作戦"だ。
「じゃあ、さっき言った通りに桃乃くんはやってみようか」
「ふふふ、先輩いつまでそのキャラを通すんですか?」
ちなみに作戦名は俺が考えた。名前を出した途端桃乃は吹き出して笑っていた。
「先輩ではありません。先生と呼びなさい!」
「はい、服部先生!」
「よろしい」
命懸けの異世界も笑いは必要だろう。そんな桃乃も今では満更ではない表情をしており、肩を回してやる気に満ちている。
気合が入っているなら別に問題ないが、肩を回す必要性はあるのだろうか。
「ではいきますね」
俺は桃乃を守るために前方に位置しスコップを構える。
マンホールから10mは離れているところから魔法を放つ予定だ。
炎がガスに引火したら爆発する可能性も考慮するとある程度の距離が必要になる。
桃乃は集中して魔法を唱えると、さっきより大きい炎が出ていた。
どういう基準で大きさが変わるのかわからないが、桃乃はマンホールに向かって炎を投げ……いや、浮いていた。
俺の予想ではそのまま勢いよくマンホールに向かって放つ予定だったが、空気中に浮いているのだ。
それはもう……ぷよぷよと浮いているだけだ。
炎は今までのより大きい炎でも速度は遅いため、マンホールに行く途中で消えるかもしれない。
「おいおい、これじゃあ消えないか?」
「なるべく火力を高めた方が良いと思ったら大きくなり過ぎました」
どうやら集中して魔力を込め過ぎると、火力は上がるがスピードやコントロールは落ちるらしい。
俺も魔法が使えたら異世界での副業がもっと楽しくなるんだろう。
さっき言ったことはフラグの回収だったのか、俺の予想は思った通りになりマンホール近くでそのまま炎は消失した。
「……」
「……すみません?」
桃乃自身も呆気にとられている。予想していた俺自身も空いた口が塞がらないほど、早く消えたのだ。
「もう少し近づいてみようか」
さらに5mほど近くの距離に位置し、再び魔法を唱える。今度は大き過ぎずに操作しやすいサイズで出してもらおう。
「じゃあ、先輩行きますね!」
桃乃はマンホールに向かって炎を放った。今回はさっきよりは何回りか小さく、スピードもノロノロとせず早かった。
その時、俺の中で何か危険を感じた。むしろそのスピードが俺達を大変な目に合わせることとなった。
「桃乃走れ!」
「えっ?」
俺は桃乃に伝えるが本人は何を言われているのか理解していない。
たぶん炎を放つのに精一杯なんだろう。コントロールするのにも集中しないといけないとさっき言っていた。
俺は咄嗟に桃乃を担ぎそのまま走り出した。こういう時に
そして、急に抱えられた人はどうなるか。
「ギィイヤアアアァァァァ! セクハラ! パワハラ! 糞親父!」
桃乃は俺の肩で絶叫していた。それよりも俺の精神を保つことができなさそうだ。
今まで糞親父だと思われていたのだろうか。
一方桃乃の魔法はコントロールが必要ないほど、マンホールの中に吸い込まれるように入っていった。
炎が瞬く間にガスに引火し、爆発とともに地面が大きく揺れた。
スライムの攻撃で壁が崩れるぐらい脆かった下水道は爆発によってどうなるか。
俺達が立っている地面は亀裂が入り、崩れ落ちそうになっていた。
「お前マンホールの中に放り投げるぞ?」
「いえ、嘘です。急に抱かれる私の気持ちにもなってください」
それは気持ちを整理しないと、俺に触れられたくないということだろうか。地面よりも俺達の関係に亀裂が入りそうだ。
「ほら、先輩走ってくださいよ!」
俺は少しムッとしながらも必死に走る。それでも地面が崩れるスピードは早かった。
「おっ!」
「先輩落ちますよおおおおお!」
足元が急に無くなった俺は落ちていく瓦礫を踏んで足に力を込める。
「うおおおおお!」
俺達は大きく宙を舞うように飛び上がる。足元を見ると、2階以上の高さまで飛んでいるだろう
「私高所恐怖症なんですううう!」
落ちていく俺に桃乃はべったりとくっつくように抱きつく。さっきまで元の世界に戻ったら、何の嫌がらせをしようかと
無事に地面に着地した俺は桃乃を地面に下ろす。
桃乃はその場で腰が砕けて倒れている。それだけ高いところが苦手なんだろう。
「おっ、クエストが完了したな」
"魔法使いももちゃんのスライム一掃作戦"はその場ですぐに考えた方法だったが、無事に成功した。
「ガウガウ!」
クエストの成功にコボルト達も喜んでいるのだろう。
今回はコボルトの力を借りずに無事にクエストを終え、俺もその場で全身の力が抜ける。
「はは、異世界はどうだ?」
「最悪です。臭いし、急に高いところまでジャンプするし……」
まさかこんな展開になるとは、誰も思っていなかったはずだ。
「ガウ! ガウ!」
周りにいる沢山のコボルト達は吠えて祝福している。
「でも先輩がかっこよかっ――」
「ん? 何か言ったか?」
ずっとコボルト達が"ガウガウ"言っているため、桃乃が何を言ったのか聞こえなかった。
コボルト達がずっと吠えていたが、この時はスライムを倒して祝福してくれているのだと思っていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます