第43話 桃乃の方向性 ※桃乃視点
あれから1ヶ月が経ち、私は先輩と投資の勉強を始めた。会社に行く前に精神的に辛い日もあったが、毎日が忙しくていつのまにか時間が経っていた。
部長からの嫌がらせも、先輩が目を光らせているおかげで少しずつ減ってきている。何かあれば駆けつける、私専用の警備員のような存在だ。
そして今日も朝からカフェで先輩と勉強している。
「結局どういう方針で運用するんだ?」
証券口座を作ったがまだ投資はしていなかった。そもそも学生の時からお金を貯めているから、資金自体は用意してあった。
「生活防衛資金は残して投資するんですよね?」
生活防衛資金とは生活費を半年から一年分を何かがあった時のために残しておくお金である。いわゆる生活で使うために貯めた貯金ってことだ。
例えば生活費に毎月20万円使っていたなら、120万円から240万円程度のお金を投資せずに残しておく必要がある。
「そうなるな。元々投資に抵抗がある人は少額ずつで勉強するのがいい。向き不向きもあるから、ダメならやめればいいさ」
まずは投資を始めるきっかけがあれば、そのうち勉強するという認識で良いらしい。様子見として投資を少額から始めるのがオススメの始め方になる。
「あとは何かありますか?」
「あとは病気のことも考慮しないといけないかな」
「病気ですか?」
特に今まで大きな病気になったことはない。体調崩しても風邪を引く程度で体は丈夫のはず。
「さっきの生活防衛資金もそうだが、高額療養費制度は知っているか?」
「んー、聞いたことはあります」
なんとなく知っているが細かいことまでは知らない。そもそも入院したことがない。
「入院や手術にいくらかかるか知ってるか?」
私はわからなかったから首を振った。家族に実際に入院した人がいないからだ。
「高額療養費制度は一か月の上限額を超えた治療費を国が補助する制度なんだが――」
「入院したらお金がたくさんかかるのも仕方ないですよね」
実際入院したことはないが、治療費が三割負担のため結構な値段になることは予想している。
「事前申請が出来ていたら問題ないが、高額療養費制度って基本的に後から戻ってくるから、全体の三割の入院費を払わないといけないんだ」
それだけ聞くと、パッとしないが費用がかかるのは理解できる。
「平均的に1回の入院で払う自己負担額は20万円程度と言われている。もし、病気が治るのに時間がかかって入院期間が伸びるとどうなる?」
「たくさんの入院費がかかると思います」
先輩の話では大体平均入院日数は29日と言われているらしい。
しかし、病気によって異なり脳卒中などに罹患するとリハビリ病院に入院することで入院費が嵩むことが多い。
救急車で運ばれてそこで入院治療する。その後、リハビリ病院で数ヶ月入院治療したら、三割負担でもたくさんお金が必要になる。
「だから基本的に生活防衛資金と入院した時も考慮して絶対に使わない貯金は残しておく必要がある。俺達みたいな会社員はそこまで考えなくても良いが、自営業はもっと大変だからな」
どうやら会社員は社会保険に入っているため、長期の休みは傷病手当で給料の約六割程度は補償される。しかし、国民保険の自営業などは補償されない。そのため、多く現金での貯金が必要になるそうだ。
「じゃあ、120万円から300万円程度残せば良いんですね?」
「そういうことだ。結局は投資もどうなるかわからないからな。貯金がないと精神的に余裕もなくなるし、ご利用は計画的にって感じだ」
過去のこともあり、貯金は少しずつしている。社会人2年目でも大学生の頃からのアルバイト費用のお金も含めて400万円程度は貯金として持っている。
「なら200万円を投資に回して、半分は残しますね」
「そういうところは天然なんだな。貯金額を俺に教えて大丈夫なのか?」
私はつい口が滑ってしまった。でも先輩にならバレても気にしない。将来は結婚する可能性だって……。
「顔が赤いけどまた体調悪くなってきたのか?」
先輩のことを考えていると顔が赤くなっていた。私の顔を覗き込むように心配する先輩に、胸の高鳴りが早くなる。
「ははは、ちょっと暑いのかな」
私は服をパタパタと仰ぐ。
「異世界のスキルも考えてETFと欲しい個別株だけ試しに買ってみます」
すぐ話を戻し、何事もなかったかのように話す。私が先輩のことを気になっているのがバレてしまうところだった。
私は配当金を目当てに投資を考えているため、初めは投資信託より手数料が低いETFを中心に購入する方向性に決めた。足りない部分は個別株で補填する予定だ。
ステータスは投資信託でしか上がらないと言っていたが、実際にそれが事実なのかもわからない。
ゲームの中ではパッシブスキルでもステータスを上げるものも存在するらしい。
結局はNISAを利用しながら、ステータスを強化していく予定で積み立てNISAの年間40万円分だけしか投資信託は買わないつもりだ。
「じゃあ、買ったら異世界に行ってみるか?」
「はい!」
私は相場が少し下がったタイミングで投資を始め、それに合わせて異世界に行くことにした。
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