第30話 新クエスト

 俺はとにかく全力で走った。早く異世界に行かないと桃乃が危ない。


【投資信託"全世界株式インデックス・ファンド"を所持しているため、全パラメーターが上昇します】


【ETF内訳セクター情報技術40%保持。カテゴリーパッシブスキル思考加速と並列思考の効果増加】


【ETF内訳セクターヘルスケア40%保持。カテゴリーパッシブスキルHP自動回復と疲労軽減の効果増加】

 

【ETF内訳セクター通信サービス30%保持。カテゴリーパッシブスキル自動鑑定効果増加】


 俺の脳内に沢山のアナウンスが入ってくるが、聞いている余裕はなかった。


 目の前に出てきたステータスも確認せずにすぐ閉じる。積み立てて投資している分のため、そこまでステータスは大きく変化はしていないはずだ。


 異世界の入り口に着いた俺はすぐに飛び出ようとするが、何か透明な壁に隔たれている。


 異世界に入ろうとしても押し返されてしまう。


「おい、早くしてくれよ……。俺のせいで桃乃が死んじまう」


 俺は必死に透明な壁を叩いた。いつもならすぐに行ける異世界がこうも長く感じるとは思いもしなかった。


 まだ俺の頭の中でアナウンスが続いているのだ。


「いい加減してくれよー!」


 俺は何もない空間を必死に叩き続けた。強く握った手から爪が食い込んでおり血が流れ出る。


【ETFセクターヘルスケアによる配当報酬。回復ポーション、解毒ポーションをそれぞれ2個ずつ配布されます】


 配当報酬でアイテムが貰えたようだ。目の前に出てこないということは、直接袋の中に追加されているのだろう。


【今回の討伐対象はポイズンスネークです。制限時間は3時間です。救出時間・・・・は1時間です。それでは本日も頑張って家畜のように働きましょう】


 アナウンスが終わると同時に透明な壁が無くなり、俺はそのまま前のめりになり地面に顔をつける。


「痛っ!?」


 顔をあげるとそこは前回と同じような街並みだが、以前より田舎ぽい作りになっていた。違うところは全体的に周囲に緑が多い。


「桃乃ー! どこかにいたら返事をしてくれー!」


 俺は必死に叫ぶが特に反応はない。俺は周囲を見渡しながら走った。


 ここでもゴブリンは出現するが、スコップで頭を叩き割る。


 積み上げてきたインデックスファンドの影響もあり、ゴブリンを簡単に倒せるようになってきた。


 魔物は回収した素材を売る方が良いが、そんな暇はない。


 周囲を探して少しずつ時間が経っても出てくるのはゴブリンだけだ。どんどんとカウントダウンは短くなっていく。


 そんな中、カウントダウンが二つあることに気づく。上はいつも通り同じ場所にあり、その下に38分と違う数字を見つける。


 そこを押すと救出クエストと書いてあった。


「救出クエスト? ひょっとしてあいつは生きているのか」


 クエストになるぐらいだから、きっと桃乃は生きているのだろう。だが、時間が減って行くのが気になる。


「ひょっとして桃乃を助けられる時間ってことか?」


 この数字が0になった瞬間、桃乃を助けられないということなんだろうか。


 頭によぎる今回の討伐対象。


――ポイズン・・・・スネーク


 名前からして毒を持っているのだろう。毒であれば生命の残り時間を算出することができる。


 そう考えると桃乃は今毒状態になっている。俺の嫌な胸騒ぎは現実になった。


 ガサガサと草をかき分ける音に俺は警戒した。考えすぎていつのまにか敵に囲まれていたようだ。


 我を忘れて必死になっていたため、近くに魔物が寄っていることに気づかなった。


 スコップを構えいつ襲ってくるかわからないため敵を警戒し、心の準備をした。


 しかし、飛び出してきたのはコボルトだった。尻尾を振りながら俺に飛びつき、自身の顔を俺に擦りつける。


「ガウガウ!」


「おお、お前達か!」


 同じコボルト達かはわからないが、俺に対して友好的だった。この間もらった称号が何かしら関係はしているのだろうか。


「お前達元気だったか?」


「ガウガウ!」


 俺の言っていることがわかっているのか、話すことに合わせて答えてくれる。


「俺が来たのがわかったのか?」


「ガウ!」


 ふと俺はその時に気づいた。


 俺がこの世界に来たことがわかったのなら、桃乃が来た時にも気づいたのではないかと。


「俺が来る前に他の人が来たか?」


「クゥーン」


 反応からして桃乃の存在はわからないようだ。俺を感じ取れるのは称号の影響なのだろう。 


「なら、この人を探せるか?」


 俺は桃乃の鞄から偶然出てきた小さなハンカチを取り出す。再びコボルトと会う機会があれば、協力してもらおうと思っていた。


 装備は回収されたが細かい物はポケットに入れれば持って行けることは知っていた。それも偶然ポケットに入れていた、腕時計が証明してくれた結果だ。


 俺はくしゃくしゃになったハンカチをコボルトの鼻に近づけた。


「ガウ!」


 さっきよりも反応が大きく、コボルトは自信を持って吠えた。


「よし、俺をそいつのことへ連れてってくれ!」


 俺はコボルトが向かう方向を信じて森の方に走って行く。

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