第25話 自動鑑定って結構便利なんです

「なっ、なんだね」


 桃乃の時と全く態度が変わっていた。その姿に俺は少し笑いそうになる。


 前よりも俺への態度が変わったと思っていたが、代わりに桃乃に当たっていたのだろう。


 それよりも俺に対して嫌悪感を感じているのか、表情以外は強張り、体から黒色のモヤが出ていた。


 俺は自動鑑定を手に入れてから、オーラのようなモヤが見えるようになった。


 初めは何かわからなかったが、身近な人ほどオーラは、はっきりと見えていた。


 俺に嫌悪感や害をもたらすような人には黒色のオーラのようなものが出ている。単純に部長からしか出ていないため、危険な人という認識で合っているのだろう。


 全く無関心な人は白に近いほぼ透明で、好意がある人は淡い暖色系に近い色をしている。


 そこから俺に対して害をもたらす人は徐々に暗い色となる。


 そんな自動鑑定で見た部長のオーラはドス黒く、漆黒のような黒色だ。本当に俺に対して害を与える人物なんだろう。


 実際に今まで仕事を散々押し付けてきたしな。


 俺は桃乃が作った資料を手に取り再度確認する。間違えたところがあれば、桃乃の資料を確認した俺の責任になるからだ。


「これのどこに問題があるのか教えてください」


 見たところ特に資料に不備はなかった。俺が見逃しやミスをしたのかと思ったが、そうでもなかった。


 単純に部長の腹いせに文句を言われているだけだ。


 これもスキルのおかげなのか、ミスをしているところはパッと見ただけでわかるようになってきた。


 間違っているところはそこだけ輝いて見えている。


 以前の俺も同じように怒られていた。あの時は誰も助けてくれなかったため、ただ謝ることしかできなかった。


 今となってはパッシブスキルのおかげで怒られることはなくなった。かなり仕事に役立つ有能なスキル達だ。


「えっ……いや……」


 俺が問い詰めると急に部長はどぎまぎとしていた。急に来て問い詰められるとは思ってもなかったのだろう。


 今までの俺なら言い返すこともなかった。その結果、奴隷同様の部長の雑用係になっていた。


 だが、誰よりも仕事ができて、早くできるようになれば文句は言えないはずだ。


「この資料は一度私が確認しています。何か資料のミスや文句があるのであれば私を呼んでください」


 俺の言葉に部長は何も言い返せないでいた。ただでさえ、資料に問題がなければ今の俺に対して何も言えない。


 そして、異世界で命懸けの経験をすると、今まで喚いていた部長が全くもって恐怖感を感じないのだ。


 ただ言えることは近くにいるのに、大きな声で話すため、その存在自体がうざい・・・


「こんな怒る時間があるから、少しでも仕事を終わらせてあげたほうが桃乃のためになると思いますよ」


 少し嫌味を込めて部長に言い放つ。桃乃に対して戻れと言いたいのか、すぐに手を桃乃に向けてひらひらと上下に振っている。


 この男はいい歳して言葉も話せないのだろうか。そんな部長の態度に桃乃もイライラしている。


「じゃあ、これで失礼しますね」


 俺はそんな桃乃の状態に気付き戻るように伝えた。こいつに絡んでいたら碌でもないことしか起きない。


「あんなやつに振り回されるだけ時間の無駄だ」


「ありがとうございます」


 小さな声で話しかけると桃乃の声は震えていた。どうにか我慢して耐えていたのだろう。あれだけ言われて耐えられる桃乃に拍手だ。


「あいつはただ人に八つ当たりしたいだけだから気にするなよ」


 桃乃も自分が八つ当たりされているのは理解していた。それでも、部長という肩書きには逆らえないのは部下の定めなんだろう。


「では、部長失礼します」


「ああ、早く戻れ」


 桃乃を席に戻した後に、俺は部長に一言声をかけると部長のオーラはさっきよりも黒くなっていた。


 初めの時より吸い込まれそうな真っ黒の状態だ。たが、桃乃に対しての件は終わらない。むしろ終わらせるつもりはない。


 脱社畜奴隷は今日で卒業する。


「そういえばこの前言われた資料をまとめ終わったので確認をお願いします」


 俺は自分のデスクに戻ると大量の紙を持ってくる。


 50枚程度でまとめた資料を部長に渡す。これでも端的にまとめたのだ。


 ただ、黙々と仕事を終わらせて一気に渡しただけだ。


 そのまま俺は自分のデスクに戻った。


 ちらっと見た時には、仕事を増やされたことに対してなのかさらにオーラは黒色が強くなり、奈落の底のようになっていた。


 今までやっていたことを、代わりに俺が再現しただけだ。誰だって定時前に仕事を振られれば残業しないと帰れないことはわかる。


 定時まで残り一時間。それまでに部長が仕事を終わらすことができたら、一生この人に頭が上がらないだろう。


「先輩さっきはすみません」


 席に戻ると桃乃は謝っていた。別に桃乃が悪いわけでもない。ただ、このままでは桃乃が嫌がらせの対象になってしまう。


「何かあったらすぐに相談しろよ。俺が助けてやるからな」


 そう言って桃乃のデスクにある資料を手に取る。すでに自分の仕事を終えていた俺は代わりに部長が桃乃に渡した仕事をすることにした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る