第8話

 知盛は大船のさきに片脚をかけながら『やじり』を掌握した右手でみずからの左腕の筋肉をきりさいた。やはりだ。知盛は『たまむすび』した。知盛のれん色の血潮が半透明のはんにやしんぎようの文字列となって虚空をゆうする。やがてかいれいなる文字列は巨大なる人間のふうぼうをなして粒子化された。密教の両界まんにあるように褐色の皮膚にけんじんなるかつちゆうをまとわれ右手に仏敵をせんめつするという宝棒をもたれ左手に霊験あらたかなる宝塔をもたれるしやもんてんはすなわち四天王における多聞天である。「四天王同士のたたかい。これは宿命にあり」とふたたび豪傑笑いをした知盛の肉体が半透明の文字列となってしやもんてんの肉体にしようしゆされてゆく。空虚なるシュヴァルツシルト半径の気色をしていたしやもんてんそうぼうに光明がやどるとしやもんてんは加速度をつけてもとの大船のさきにおりたった。大船はごうぜんとゆらめきかいわいびようまんたるそうかいにはかいなるの波紋がひろがってゆく。

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