第25話

 金城は実験室からでてきた。

 がら張りの実験室からでてくるとはくの研究室では白銀のかいてん椅子にすわった研究者や宗教家たちがけんけんごうごうかんかんがくがくと議論していた。金城はおもう。みな衝撃的だっただろう。真実を希求するものほど真実からとおいからだ。ふたたび金城が諸賢のまえにてきちよくすると研究者や宗教家たちはないしんいんひようびようと沈黙した。かんとした金城ひろはみなに尋問する。「みなさん。この時点で質問がございましたら御自由に御発言ください」と。諸賢は相互の様子をしてひとりまたひとりと挙手してゆく。金城が「どうぞ」というとひとりの科学者が質問する。「つまりきみは無神論者だった。が科学を追窮していった結果『神は存在する』という宗教的なる結論にいたったわけかね」と。金城いわく「『神は存在します』。といえどもこれは宗教的なる結論ではありません。仰有るとおり『神は科学的に存在する』ことが証明されたにすぎないのです。のうに科学から一旦ひんせきされた宗教なるものがふたたび科学という『母体』にかえってきたにすぎません」と。ほかの科学者が質問する。「ということはだねえ。あのう。ちょっと混乱しているんだが『これからの時代はだれもがせきをおこせる』ようになるということになるのかな。たとえばがんや難病を『せき』でかいふくしたり断末魔の人間を『せき』で永遠の生命にしたりと」と。金城いわく「さまざまな意味でそのとおりです」と。ひとりの宗教家がふんまんやるかたなく質問する。「あなたは人間がような『神の力』を獲得してもよいとお考えですか。ようなる『せき』は科学の運命として軍事転用されないともかぎらない。『神の力』を掌握した人類が戦争を勃発させたらどうなるとおもいますか」と。金城いわく「これを『神の力』というのならばおそらく相対性理論と同様の運命をたどるでしょう。がそもそもわれわれ『素粒子脳科学研究所』は特定非営利法人『社会防衛研究所』の下部組織にあたっておりましてこの建物の防犯対策は社会防衛研究所の指導のもと完璧をほこっております。万一グリーンベレー・レベルの戦闘力を誇示するテロリストなどが重装備で攻撃でもしてこないかぎり『システム』やしやはんのデータがろうえいすることはありえません」と。金城がかんとして「ほかに御質問は」と尋問した刹那だった。研究所かいわいで爆発音がめいた。

 建物がしんとうするなか宗教家がつぶやいた。

「『神の力』を人間がもってはならんのです」と。

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