「残念ながら神は実在します」と。

「もしあなたがこんな嬰（えい）児（じ）でも理解できることを理解できないのならば証明してみましょう。このカテドラルのなかに重度の障（しよう）碍（がい）をおもちのかたはいらっしゃいませんか」と。ようやく通訳がおいつくと臚（ろ）列（れつ）された長椅子の片隅で七色のサングラスをかけた青年が挙手した。いわく「わたしは先天性の全盲です」と。ハンナばあさんは祭壇で莞（かん）爾（じ）としてほほえみ天井へとむかって両手をくんだ。いわく「ヤハウェ神よ。かれに光をあたえたまえ」と。爾（じ）時（じ）だった。全盲の青年は儵（しゆつ）忽（こつ）として絶叫し頭（とう）顱（ろ）を撓（しな）垂（だ）れて両手でかかえた。界（かい）隈（わい）の『信者』たちが喫驚して環視すると青年は緩（かん）舒（じよ）としてサングラスをはずし「みえる」とつぶやいた。「みえるみえる。光だ。これは色だ。色がみえる」と。くだんの青年は淋（りん）漓（り）として落涙しながら大聖堂内を見（み）霽（はる）かすと「Hallelujah」とひとりごちて右手で双（そう）眸（ぼう）をおおい号泣しはじめた。そんな破（ば）家（か）な。一（いち）伍（ご）一（いち）什（じゆう）を目撃した金城浩（ひろ）樹（き）はハンナばあさんをかえりみて咆（ほう）哮（こう）した。「いんちきだ。詐欺だ。あなたはかれと密約していたのですね。いいかげんにしてください」と。ハンナばあさんは慈悲深く莞（かん）爾（じ）としていった。「日（につ）蝕（しよく）のときにも太陽は存在します。あなたは神にたいして日（につ）蝕（しよく）をおこしているにすぎないのです」と。憤（ふん）懣（まん）やるかたない金城浩（ひろ）樹（き）が「破（ば）家（か）破（ば）家（か）しい。わたしはだまされない。神など存在しない」とさけんだ瞬間だった。