　ハンナばあさんは物語った。

　絢（けん）爛（らん）豪（ごう）華（か）なる東京の大聖堂にて獅（し）子（し）吼（く）した。

「わたくしは戦前に誕生いたしました。父親は曩（のう）時（じ）のスペイン人の家系で母親はイギリス人の末（まつ）裔（えい）でした。第二次世界大戦爾（じ）時（じ）和（わ）気（き）藹（あい）藹（あい）たるわたくしたち一族はイギリスのロンドンにすんでいました。労働者層の父親が富裕層の母親のもとに婿入りしたわけです。母親の家系は敬（けい）虔（けん）なるプロテスタントで厶（ござ）いまして恁（いん）麼（も）の結婚のために父親もカトリックからプロテスタントに宗旨がえいたしました。斯（か）様（よう）に両親が熱心な基（き）督（りすと）教（きよう）徒（と）であったがためにわたくしも自然と鬱（うつ）勃（ぼつ）たる宗教心が涵（かん）養（よう）されていったのです。といえどもまだ言葉のよみかきもできないころでしたあのいまわしい第二次世界大戦が勃発して父親は志願兵となりいずこともしれぬ戦場でかえらぬひととなりました。前述のとおりわたくしの母方の家系は裕福でしたので衣食住に難儀することはありませんでしたやがてナチス・ドイツはV2ロケットを製造し連日ロンドンを攻撃しはじめました。這（しや）般（はん）の攻撃によりわたくしの母親は斃（へい）仆（ふ）し豪（ごう）奢（しや）なる邸宅も澌（し）尽（じん）灰（かい）滅（めつ）してわたくしはいわゆる戦争孤児となったのです。大戦末期に欧（よー）羅（ろつ）巴（ぱ）が枢軸国による婆（ば）娑（さ）羅（ら）狼（ろう）藉（ぜき）にさらされるとわたくしはおなじ鰥（かん）寡（か）孤（こ）独（どく）の子供たちとともにアメリカはニューヨークのプロテスタントの教会にひきとられました。