19人目 『怒ってないよ』

「はぁ……何あれ、信じられないんだけど」

「僕なら大丈夫だから、怒らないで、ね?」

「……大丈夫、怒ってはないから。ムカついてるだけ」

「ぼ、僕は気にしてないからね!」

「私が気にするの。ごめんね、すぐに切り替えるから」


 今日は彼とのせっかくのデートだというのに、いきなり雰囲気がよくない。

 それも全部、少し前に話しかけてきてたあいつらが悪い。あいつらが余計なことさえ言わなければこんなことにはならなかったのに。


「僕がもっと早く着いてれば……」

「電車が遅れたのは仕方ないって。それに、相手のことも見れてないあいつらが悪いだけ。あんな調子じゃどうせナンパなんてうまくいかないから」


 詳しい理由まではわからないけど、彼が待ち合わせに乗ってきてた電車が遅延。それを待っている間に私がナンパされてしまった。

 だいたいナンパしてくる人たちは適当にあしらっていれば諦めて次の人を探しにいくんだけど、今日の人たちはすごくしつこかった。

 それに、私が明らかに嫌がってる態度をとってもそれに気がつきもしていなかった。周りの人たちの方が私の機嫌をよくわかっていたと思う。


 まあ、それで終わっていればしつこい人たちだった、で済むんだけど残念な人たちはそれだけですまなかった。

 遅れてきた彼が近づいてきてからも私に話しかけ続けるし、一番最悪なのは彼なんかよりもその人たちと遊ぼうと言ってきたのだ。


 漫画とかで見る分には空気読めない人たちだなって思うだけだったけど、実際に言われてみるとそんな感想すら出ないくらいには不快だった。



 そして、彼らに罵詈雑言をぶつけそうになるのを我慢し彼の手を引いて無理矢理その場を離れて今にいたるというわけだ。


「んー、よし!あの人たちのこと忘れる!デートデート!」


 言葉に出して無理矢理にでも思考を切り替える。

 考えれば考えるだけあの人達のことを忘れられずにイライラし続けてしまいそうだ。


「ほんとに大丈夫?」

「大丈夫大丈夫!ただ……ちょっとだけ移動はしたいかなぁ。この近くだとまた出会うかもしれないし」

「うん、それもそうだね。じゃあ……」


 それから数分。

 彼はスマホとにらめっこし続けると、何かを見つけたのか私に見せてくる。


「まずここ行こう!気分転換には甘いものだよ」

「……一つ聞いてもいい?」

「うん、何?」

「前から行きたかったリスト一つ消化できてうれしい?」

「うん!あっ……」


 元気よく返事してから彼は思わず自分の口を手で押さえる。


「大丈夫大丈夫。ちゃんと選んでくれたのはわかってるから」


 というよりも、そういう色々素直に言動に出るところがかわいいと思うし癒されるからそのままでいてほしい。


「……ほんとに?」

「ほんとほんと。早く行かないと混んじゃうでしょ?」

「そ、そうだよね」


 私は彼の手を取って歩き出す。

 さっき手を握ったときは焦っていたけど、今は落ち着いて手を引いて歩くことができている。

 この手は体格通りに小柄な手だけど、いざってときは頼りになるんだ。


 まあ、でも。普段の言動は可愛いから甘やかしたくなるんだよね。


 うん。今日はこれからたっぷり可愛がってデート楽しむぞー!!

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