18人目 『知らないままで居てくれればよかったのに』

「はぁ……これからどうしようかな」


 知られなければどれほどよかっただろうか。

 隠しておいたままなら楽だっただろう。

 なにせ、それなら自分一人で考えればすむのだから。


 そんな、現状はただの手遅れでしかない願望を頭に浮かべながら私は物思いに耽る。


 しかし、そんなことをしたところでもう私一人だけでどうにかできる問題ではなくなってしまった。


「今まで通りにただの同級生……は難しいよね」


 まず第一の問題点。確実に今までとは距離感が変わってしまうことだ。私が今まで通りに、いやそれ以上に距離をとったとしても向こうはそれ以上の勢いで距離を詰めてくるだろう。それに、距離感が維持できたとしても接する勢いが変われば確実に不思議がられてしまうことは確実だろう。


「話しかけにくる、とかだけならいいけど……うん。たぶんそれはない。呼び方も戻るだろうし……」


 第二の問題……というよりはさっきの問題の派生点。ただの同級生が急にたくさん話すようになっていることに加えて今まで一度も呼んだことがないあだ名で急に呼ぶようになったら明らかにおかしい。


「というか、昔とは色々違うことさすがにわかってるよね……?」


 問題点、というよりは前提条件のようなものだが。昔会っていた頃はほんとに小さな時だったから明らかな体格差とかもなかった。でも、今は違う。身長をはじめとした体の色々なところに差異が出ている。

 それなのに昔のような近距離のスキンシップをされでもすればどうなってしまうかわからない。主に私のメンタルがもたないという意味だが。


「わかってないと困るけど……困るんだけど…………ほんとに大丈夫かなぁ?」


 不安になるもののここは願うしかない。だって相手は少し前までは一方的に昔から知っていた仲ではある異性なのだ。それに加えて近距離で色々されてしまえばドキドキするのは当たり前でしょ?


「はぁ……どうしよう。平常心保てるかな?いやいや、無理だよね……?無理だってば!」


 というよりも、だ。 

 少し前にバレるまでなぜ私が隠しておきたかったのかと言えば私が彼のことを大好きすぎるからだ。色々あって会わない期間ができていたもののその間もずっと忘れることはなかった。

 昔は私の髪も短かったしもっと……うん、控えめに言っても暴れてたから大きくなって気がつかれなくても当然なんだよね。

 だから気づかれていないならこっそり彼のことを見て想っているだけでいいとそう思っていた。


 でも、もうそういうわけにはいかなくなってしまった。

 私が今まで通りに彼と接することができるか、それが今の平穏を保つことができるかどうかの鍵だ。

 平常心を保つことさえできればまだ……どうにか、できる……はずだから。

 どうにかできれば距離感に関してはおいおい縮めていけばまだ周りにも誤魔化しが効くはず。それができればちょっとくらい欲を出しても……だから!こういうのは成功してから考えないとだめだから!じゃないと平常心を保つことなんてできないでしょ。



 まあ、結果は言わずもがな。

 平常心を保つのなんて無理だったよ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る