17人目 『聞きたくないよ』

「お願い、お願いだから、そんなこと言わないでよ!ねえ、嘘だって言ってよ!」

「……諦めろ。それが現実なんだ」

「やだよ!そんな言葉聞きたくないよ!」


 叫んで目の前の現実から目を背けようとする私に、隣の席の幼馴染みが落ち着いた言葉で淡々と事実を突きつけてくる。


 そこにあるのは

 ────ついさっき帰ってきたテスト結果だった。


 しかもいくつかの教科の得点がとても低い。つまりは赤点、というものだ。

 今回受けたテストは一学期の期末テスト。そのテスト結果がよくなかったということが意味することを身をもって知っているからこそ、現実から目を背けたくなるんだ。


「やだやだやだ!せっかくの夏休みに補習なんてやだ!」

「そうは言っても今更どうしようもないだろ」

「それはそうだけど!なんでそっちは補習ないのよ、裏切り者!」

「いや、そもそも裏切ってすらないからな?」

「一緒に勉強したじゃん!なんで私だけ!」

「一緒にっていうか、一方的に教えただけだろ……」


 裏切り者、と言いはしたものの裏切ってすらいないというのはまったくもってその通り。私の危ない成績とは真逆の、学年でも上位の成績を常に余裕をもってキープしているのだから羨ましい限りだ。


「うぅ……憂鬱だよ~」

「理解度の確認テストでいい点取れば早く終わるんだから頑張ればいいだろ」

「それができるなら補習なんて受けないってば」

「まあ、それはそうなんだよな。去年も同じこと言ってたのにこれだからな」

「今回は頑張ったのにー!ちょっとくらい点数あがってもいいじゃん!」


 私としては去年のようなことにならないように、と今回はいつもよりも早いタイミングで詰め込みを始めたのにテストの点数はいつもと変わらないくらいだった。


「そりゃ、勉強内容の難易度も上がってるんだから詰め込みで簡単に点数上がるわけないだろ」

「でもだよー」


 私はがっくりと机にうなだれる。

 彼は彼で慣れた様子で私にちらりと視線を向けるだけ向けて自分の手元の本を読んでいる。


「助けてよー」

「いつも言ってるけど、助ける義理がないだろ。テスト前の対策もしてやったっていうのに」

「えー。早く終わったら一緒に遊べるよー?」

「こっちは部活もあるんだからどうせ忙しいんだよ」

「ぶー。けち―」

「はいはい。わからないところ聞いてくるなら答えてやるから。手伝うのはそこまでだ」

「……はーい」


 なんだかんだ手伝いはしてくれるのだから彼は優しいんだ。

 でもそれはそれ。どうせならもっとがっつり手伝ってくれてもいいじゃんとは思うわけで。


「その代わり!終わったらいっぱい遊びに行くからね!」

「……はいはい。そういうのは補習が終わってから言おうな」

「うぅ……せっかく頑張ってやる気出したんだから思い出させないでよ」

「悪い悪い」

「全然悪いと思ってないでしょー!」


 こんなやり取りもいつものことで。

 困らせたことをいつも彼に言っている自覚はあるが、それを流しはしながらも受け止めてくれるのだから心の中で感謝はしているんだ。

 これがいつまで続くかはわからないけど、卒業までくらいはこのままでいたいなぁ。

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