14人目 『雨に降られて』

「ねぇ、バカなの?」


 私は今の目の前でベットで寝込んでいる相手に対して顔を見て一言目にこの言葉を放った。


「……頭に響くから静かにしてほしいんだけど?」

「自業自得でしょ?風邪ひいて心配させたんだから迷惑料よ」

「それを言われると……」

「まったく……なんであんなことしたの?」

「あの時はいけると思って……」

「ほんっと、バカね」


 目の前の相手──私の彼氏が風邪をひいた理由は昨日の土砂降りの雨


 をがっつり浴びたからだ。

 学校から家までわりと距離があるっていうのに、ひどくなる前には走って帰れると言ってその結果なのだから救いようがない。


「どうせ持ってきてないんだろうなと思って、私傘二本用意までしたんだけと?なんで連絡もなしに帰っちゃうかな……」

「その、ひどくなる前に帰るならできる限り早いほうがいいかなって……」

「はぁ……」


 どうせ傘を持っていないだろう、と思って彼のクラスを訪ねた昨日の私が聞かされたのが「さっき走って帰ったよ?」という耳を疑うような言葉だった。

 教室を出ていったのがその数分は前だったとしても、明らかに間に合わないくらいの空模様なのだ。

 話を聞いた彼のクラスメイトも、私が手に持つ二本の傘と思わず出てしまったため息でだいたいの状況を察したのか、私に同情するような視線を向けていたことを覚えている。


「しかも、よりにもよって家には他にも誰もいない時に風邪ひいたんでしょ?ご飯とかどうするつもり?」

「レトルトとかで……」

「私を出迎えに来る余裕もない人がベッドから出てご飯用意したりなんてできるの?」

「……気合いで、なんとか?」

「はいはい。正直に無理って言いなさい」

「…………無理です、助けてください」

「素直でよろしい」


 ようやく求めていた言葉が聞けたことにほっとしながら、私は鞄から持ってきていたものを順に取り出していく。


「はい。とりあえずスポーツドリンクとゼリー。これくらいは大丈夫?」

「それくらいなら問題ない」

「じゃ、その後薬飲んで寝ててね。あと、掃除とか勝手にやるから」

「……助かる。家主代理で家の中を自由にしていい許可を」

「あ、それは大丈夫。本来の家主に許可取ってあるから」

「仕事の早いことで」

「さすがにね。もしものために合鍵預かってるとはいえ勝手にお邪魔するわけだし。というか、風邪ひいたことの連絡すらしてないと思ってたら案の定だったんだけど?。私が連絡したら驚いてたよ」

「……あー、ずっと寝てたから忘れてた」

「そんなんだからしばらく息子をよろしく、って私がお願いされることになるんだよ?」


 こういう事態が時々あることと、彼のちょっと抜けた性格が合わさり何かあったときは彼本人よりも私のほうが親御さんに信頼されている。

 それは嬉しくはあるものの、もう少しは彼にしっかりしてもらうためにはどうすればいいのか、なんてことは日頃から考えてしまう。


 でも、そんなことを考えるだけ考えても結局手伝ったりしてしまうのだから私は甘いんだ。

 まあ、それで喜んでくれるのを見るとそれでいいかなってなるから私ちょろいなって自分で思うけど。


「そういえば、いつまでいるんだ?」

「え?泊まるつもりだけど?ちゃんと準備も連絡もしてきたし」

「でも」

「でも、何?そんな状態じゃ何もできないでしょ?」

「それは……」

「はい、わかったらとっとと寝る!いい?」

「……わかったよ。おやすみ」

「うん。おやすみ」


 ふぅ、これで一安心。

 ……ああは言ったけど、お泊りにこっそりドキドキしてるのばれてないよね?

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