13人目 『暗闇で』

 他には誰もいない、何もない。

 光もすらも届かない。

 そんな真っ暗な世界で


「なんだか、海の底で二人きりになったみたいだね。モチーフ的には間違ってないけど」

「う、うん。そうだね……」


 そんなことを言うあなたの温もりが近くにある。


 その結果。


「(無理無理無理無理!このままだとどうかしちゃうって!!)」


 私は表情だけは取り繕いながら、心の中ではめちゃくちゃ動揺しまくりだった。




 事の発端は十数分前に遡る。


 私達は学年単位の校外学習として有名テーマパークに遊びに来ていた。

 一応男女の班単位で行動、ということになっているもののそんなのは名目上だけ。実際は多くの班が細かくバラけて実質自由行動となっている。

 そして、私達の班も例に漏れずそれを実行している。というよりも、私達の班はそれを前提としたとある狙いを持って組まれた班だった。


 主犯は私と、男女の友達一人ずつの計三人。そもそも、学年単位で行くということは、普段はこういう場所に一緒に行きにくい相手────例えば、片思いの相手と行動するチャンスだということだ。

 そして私達三人は全員そういった相手がいた。だから、私達三人とそれぞれが一緒に行動したい相手三人の合計六人の班を作り、パーク内ではどうにかして二人組三つに分かれる。

 これが私達の計画だった。


 実際、乗り物の待ち時間やちょっとした買い物を上手く使ってそれは成功した。

 そう。ここまでは順調だったんだ。


 想定外が発生したのは今いるアトラクション。

 何でも、深海と潜水艦をモチーフにしたもので観覧車のゴンドラのようなものに乗って色々なものを見るアトラクションとなっている。

 彼氏持ちの友達からは雰囲気がいいから絶対行ったほうがいいと念押しされて来てみたら、アトラクションの体験中に停電が発生。

 アトラクションの進行が一旦停止となってしまった。


 電気が止まっているのでもちろん明かりはない。そして、アトラクションに乗るときに荷物は全部預けてきているのでスマホのような明かりの代わりになるものも二人揃って持ってない。

 つまりは真っ暗な狭い場所に二人っきりで閉じ込められた、というわけだ。




 同じ状況で女友達と二人、とかなら適当な会話をしていればいいだけだったから全く問題なかった。

 しかし、現実はそうそううまくはいかない。


 気になる人とこんな狭い場所に一緒にいるんだから、私の心臓はバクバク鳴りっぱなしだし、もしも顔が見れるなら真っ赤になっていることがすぐにバレてしまうだろう。


「あとどれくらいで直るのかな?」

「……お、大きな停電じゃないとは思うから五分とか……?」

「そうだね。いつまでもこのままだと連絡も取れないから困るし」

「そ、そうだよね。このままはこわ……困るよね」


 困るのはこんな状況が続くとドキドキしすぎて私の心臓が持たないかもしれないから、というのもたしかにある。

 しかし、それと同時に現実的な問題がもう一つある。


 ──私は暗い場所が苦手なんだ。

 普通の日常生活で遭遇するレベルの暗さなら大丈夫なんだけど、真っ暗闇というものは苦手だ。

 だから、今の状況は二重の意味で私の精神衛生上よろしくない。

 そういうわけで早めに復旧してほしいんだけど、停電しているせいでスピーカーからアナウンスも流れない。だから、いつまでこのままなのかという情報すらも入ってこない。



「………いじ……ょ…ぶ?」

「…………」

「大丈夫?」

「ひゃっ!?」

「ご、ごめん!反応がなかったから……驚かせちゃったね」


 考え事現実逃避をしていて話しかけられていることに気がつかなかったせいだろうけど、いつのまにかあなたが隣に来ていた。でも、狭い上に真っ暗なせいで距離感が測りづらかったのかその場所は少しでも動けば触れあえてしまうところだった。


「……だ、大丈夫!私が……聞いてなかっ、た……だけだから」

「ほんとに大丈夫……?」


 私の発した言葉は自分が思っていた以上に大丈夫だとは受け取れないものだ。

 でも、それが私にできる最大限の強がりだった。


「その、間違ってたら謝るけど……暗いところ苦手?」

「………………うん」


 やっぱり取り繕えてはいなかったみたいで、私が隠そうとしていたことの一つがバレてしまった。お願いだから、もう一つのドキドキしている理由はバレないでほしい。


「ごめんね。気づかなくて」

「……私が隠してただけ、だから……」

「できること、何かある?」

「…………そこにそのままいてほしい。誰かいるってわかるだけても安心する」

「うん、いいよ」


 思わず弱音を口に出してしまったが、気がついたころにはもう手遅れだった。

 あなたがさっきよりも距離をつめてくるから確実に触れ合っているし、というか手を握られてるんだけど!!??


「ひぇ、っと……にゃ、にゃにを……?」

「……ダメだった?不安みたいだったから」

「だ、だめじゃない、れす……」




 これ以降、思考が完全にオーバーヒートした私は何も話せなかった。

 どれだけの時間そのままだったかも覚えてないし、復旧してからどうしたかもわからない。

 唯一わかることは、手に残っていると感じられるその温もりだけだった。



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