5人目 『もっと甘えていいんだよ』
君はいつだってそうだ。
私のために、って言って色んなことを頑張ってる。
私から見える範囲でもそれだけ頑張ってるんだから、実際に頑張ってる量はもっと多いんだよね。
そうやって私のために頑張ってくれるのが嬉しくて、その好意に甘えるだけで君のことをちゃんと見れてなかった。
だから、無理はしてるって頭のどこかでわかりながらも実際にそれがどれくらいなのかは気がつけなかった。
「それを実感するのが、こんな形だなんてお姉さん失格だね……」
病院のベットで眠る君を見て、思わず弱音がこぼれてしまう。
お医者さんが言うには過労に体がついていかなくなって気絶させることで無理矢理電源を落としたような状態らしい。
ちゃんと回復すればすぐにでも目を覚ます、と説明されて頭ではわかっていてもこのまま目覚めないんじゃないかという不安をぬぐい去ることができない。
「……ねぇ、起きるよね? あんなのが最後なんて、私いやだよ?」
思い出すのは病院に搬送される直前の光景。
些細なこと、それも私に原因がある小さな喧嘩。頭を冷やしてくると言って部屋を出ていこうとした君がなんの前置きもなく倒れた。
ふらつく、といったこともなく急に倒れてしまったから死んでしまったんじゃないかってすごく取り乱した。
今思えば、そんな状況で救急車をちゃんと呼べただけでも驚くくらいだ。
電話をしてから病院で説明を受けるまで実際にはそんなに時間は経ってなかったと思う。でも、私の感じてる時間はとても長くて、何時間にも感じられた。
命に別状はないって聞いて緊張から解放された直後は看護師さんとお医者さんの前だというのに思いっきり泣いてしまった。
「あれ、なんか……また…………もう泣かないって決めたのに、おかしいなぁ」
泣いてしまった時のことを思い出してしまったせいだろうか、いくら服の袖でぬぐっても涙が止まらない。
それどころか、ただ涙が出るだけでなく瞼が重くなってくる。
緊張から解放されて泣き疲れていつの間にか限界だったのだろう、そんなことを頭の片隅で思いながら私の意識は失われていった。
眠ってしまってどれくらいがたったのだろうか。
ゆっくりと浮上する私の意識は自分の両手に何か暖かなものを感じ取る。
「えっと……」
「おはようございます」
「え、えっ!?起きて大丈夫なの?」
「はい。随分と心配させてしまったみたいで……」
君が自分の手元に視線を向ける。
それにつられて見てみるとその手を私が両手で包み込んでいた。
寝てしまう前にそんなことをしていた記憶がはっきりとないことを考えると、寝ぼけながらやってしまったのかもしれない。
「ご、ごめんね!すぐ離すから!」
「……少しそのままでも、いいですか?」
「……えっ?」
「その……久しぶりに落ち着いた気がするので、もう少しこのまま過ごさせてください」
「そっか、そうだよね」
あらためて、君がずっと頑張りっぱなしだったということを思い出す。
そのせいだろうか。気がつけば両手を離し、困惑したままの君を優しく胸に抱きしめていた。
「君はね、頑張りすぎなんだよ。私のために、って言うならもっと休んでほしい。それと、もっと私に甘えていいんだよ」
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