4人目 『こんな世界は滅べばいい』
運命、というものは本当に存在するのか。
存在するというのならば、それを決めているのは誰、あるいは何なんだろうか。
自分の選択が運命に影響を及ぼすかもしれないが、その選択すらも運命によって定められているとしたら。
そう考えてしまうと全ての出来事は定められたレールの上を進むだけ、ということになる。
だが、実際はそんなことはどうでもいい。
今の目の前の光景が決められた運命だというのならば、その運命を、それを決めた何かを恨む。
運命なんてものが存在しないなら、私は私を永遠に恨み続ける。
「ねぇ……お願い、返事をしてよ…………ねえってば!!」
私がいくら呼びかけようとも、答えは返ってこない。
ほんの数分前までは隣で笑っていたはずなのに。私の話にもちゃんと返事をしてくれていたというのに。
目の前に広がるのは積み重なった瓦礫と鉄骨の山と──その隙間から流れ出る赤黒い液体。
突然空から降ってきたそれらが彼を。否、正確には私の居た場所に降ってきたそれらが彼を押し潰した。
その瞬間までの一連の光景は鮮明に覚えている。
強い風が吹いた、そう思った直後だった。耳に届いたのは大きな音と周りの人が叫ぶ声。
その直後、それに驚いてその場で動けなくなった私をすぐ隣からの衝撃が襲った。
突き飛ばされた。そう理解した私の真横で鳴り響く轟音と、舞い上がる土煙。
それが少し落ち着いた頃には気がつけばそちらへと駆け寄っていた。
周囲の野次馬の喧騒が巨大なものとなっていることを肌で感じながらも耳には届かなかった。きっと、目の前のこと以外の情報を受け入れる余裕が私にはなかったのだ。
それからどれくらいの時間が経ったのかもわからない。
とても、とても長かった、永遠とさえ思えた。
ずっと、ただ瓦礫の山とそこから流れる血だけに意識を奪われ、慟哭をあげるだけだった私の体が揺さぶられ、誰かの通報で駆けつけたであろう警察官が何かを言ってくる。
おそらく、状況から考えれば私を心配する言葉か、危ないから離れるようにとか、そんなことを言っているのだろうということがなんとなく頭ではわかるものの心はそれを受け入れない。
心にぽっかりと穴があいてしまって何も残っていないとしか感じられない。
そのはずなのに私の全てが彼のことだけで埋め尽くされているような、そんな不思議な感覚も同時にする。
少し前までは彼のことだけを考えるのがとても幸せだったというのに、今はその幸せが何も感じられない。
感じられるのは虚無感と痛み、それがほとんどだ。
「ああ、すっごく痛い。体は何も傷ついてないはずなのに全身が痛いよ。ねえ、私どうすればいいのかな……?」
そんなことを尋ねたところで答えは返ってこない。
もしも返ってきたのなら何かしら私を慰めてくれるのだろうが、現実は非情だ。
「こんな世界なんて滅んでしまえばいい……ううん、私がこの世界からいなくなってしまってもいいのかな」
君がいない世界に生きる価値なんて、もう残ってないから。
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