019. 攻略

ヒースが罠にハマってもう一人の幹部との死闘が始まろうとする中、レナーとライアン達も、幹部との激闘が行われていた。


「「「炎鉤爪フレイムクロー!!!」」」


「「「鉄弾メタルガン!!」」」


燃え盛るライアンの拳と、鉄の拳を持つマイヤースがぶつかり合う。お互いの拳がかち合い、痛みを堪えながら何度も何度も拳を交える。お互いの両手は青くなり、アザが広がっている。変色してきて、戦いはほぼ互角となっている。


二人の息はあがっている。一度距離を取り、お互いは睨み合う。


「ところで、お前以外の仲間は強いのか?」


「いきなりなんだ?」


マイヤースから話をふってきた。


「見たところ、お前の仲間は捕まった女を助けに行ったようだな。ガキ二人と、大きなリュックを背負った若い男。あの三人で助けに行ったのか?」


「……あぁ。そうだが、それがどうした?」


「だったら、今頃あいつら死んでるぜ?」


ライアンはマイヤースを睨みつける。


「どう言うことだ?」


マイヤースは顎と両手をあげて得意げに話す。


「オレたちはここの支部の幹部を任されている。幹部はオレを合わせて三人。もう一人は女の牢屋の監視を担ってる。そいつが、幹部の中で一番強いのさ」


「……なんだと?」


ライアンは顔を顰めた。その表情を見たマイヤースは笑った。


「だから、多分もう死んでるさ。三人で向かったとしても、敵う相手じゃない。あいつはこの支部内で最強の人間だ」


ライアンは思考を巡らせた。ロバートを筆頭とする三人で行動させて、少しは安全だと思っていたが、そうではなかったようだ。三人ともまだ戦力としてはあまり活躍できないメンバーだ。そっちに最強幹部がいるとなると、三人は殺されるし、ティーシャの奪還が難しくなる。ティーシャの牢屋の位置はまだヒース以外誰も特定できていない。


……となると。


ライアンはニヤリと笑っていた。その表情を見てマイヤースは驚いていた。


「それじゃあ、簡単な話しだな」


「……簡単だと?」


マイヤースはライアンを睨みつけた。


「お前をぶっ倒して、その幹部も倒せば済むだけだ」


マイヤースは顔を赤くして、額の血管を浮き上がらせる。


「……舐めやがって!!!」


二人はまた距離を詰めていく。一瞬で二人の距離はつまり、また拳のぶつけ合いが始まった。辺りは衝撃で空気が爆ぜている。


ライアンは冷静な判断を続ける。急いでロバート達の元へ行くためにも、まずは目の前の幹部を早く叩き落としたい。


相手の急所はどこか。ただの殴り合いでは勝機は見出せない。見極めろ。相手の弱いところを、隙を。


その時、ライアンは閃いた。


「「うおぉー!!!」」


二人の雄叫びがホール内に響き渡る。拳を振るスピードが上がっていく。


拳がお互い離れた。お互いの光灰と湯気が辺りを彩っている。


祝福の力を召喚する。


「「「鉄弾メタルガン!!!」」」


「「「炎鉤爪フレイムクロー!!!」」」


ほぼ同時に二人は技を発動させた。お互いに受け身はとっていない。どちらか必ず技が命中した。


衝撃がホール内を襲う。辺りには煙が立ち込めていた。


その煙が晴れると、一人が地面に膝をついていた。



──膝をつき、腕に手を当てていたのはマイヤースだった。


「うぁぁぁ……」


マイヤースは激痛のあまり、声を荒げながら攻撃を受けた箇所を押さえていた。


「やっぱりか……」


見下げるライアンを睨みつけるマイヤース。


「お前は祝福の力で、体を鉄にして硬化する能力を持っている。一見最強に見える能力だが、難点がある。鎧と同じ原理さ。鎧は鉄だから剣の攻撃すら打撃になるが、関節部分はそうはいかない。関節部分まで鎧にはしない。腕や脚を曲げられなくなるからな。だからお前も、関節は鉄にしない。曲げられなくなり攻撃できないから。それらを考えて、関節を狙った技を出すとこの通り」


「くそ!くそ!」


ライアンは膝をつくマイヤースを見下す。


「攻略成功だ」


ライアンは吐き捨てるように言った。


悔しさでマイヤースは青く腫れ上がった腕を押さえながら立ち上がった。


「……まだ戦いは終わってないぞ……!!」


「当たり前だ。相手を完膚なきまでに潰してこそ、初めて勝利と言える」


お互いがまた睨み合った。二人の決闘はライアンの一発で戦況が変わった!!





一方、レナーとラハートによる攻防も続いていた。ラハートによる空斬スカイブレイクとレナーの爆弾矢ボンバーアローの相打ちが続いていた。この二人の戦況もあまり変わらず、どちらかが攻撃を当てた方が勝ちとなる。


「このままじゃ埒があかないわね〜」


レナーは矢を放ちながら言った。矢がラハートの攻撃で悉く防がれている。


「一気に畳み掛ける!」


ラハートは一瞬で距離を詰めてきた。


レナーもすかさず矢を放つ。しかし、近距離になれば矢は放ちにくく、的中率も落ちる。なぜなら、距離を詰められると相手の動きが速くなるし、攻撃されるかもしれない焦りがあるからだ。


ラハートの剣をレナーは弓で防ぐ。また最初の戦況に逆戻りだ。剣と弓が交わるたびに火花が飛び散っている。


レナーはこの相手に対する打開策が浮かんでいなかった。思考は繰り返すが、やはり行き詰まる。距離を詰めた戦闘は今のように剣を弓で受けるしかなくなり、勝機は無い。かと言って、距離を取ると相手の攻撃で自分の矢が防がれて攻撃が届かない。


「はぁ……」


レナーは思いっきりため息をついた。


「どうしたの?デンゼル=レナー!!もう諦めてくれる?」


ラハートはそう言って剣の振り方を変えてきた。下から上に剣を振ろうとする。守りが弱いところをついて、トドメを刺しにきた。


「終わりよ!」


ラハートが剣を振る。その瞬間、レナーは地面に向かって矢を放った。


地面に放った矢はその場で爆発した。お互いが守りの体勢では無かったので、吹き飛ばさせる。


「きゃあ!」


ラハートは一瞬声を上げた。そのまま十メートルほど地面の上を転がっていた。


「……痛った」


ラハートは頭を抱えながら立ち上がった。辺りには煙が立ち込めている。


「こんなときに、自爆?いや、でもそれなら私を狙った方が確実に仕留められる。あえて地面を狙った。私と距離を取るために……??」


ラハートも分析を始めるが、それに対する対処はもうある。


「距離を取られたなら、もう一度空斬スカイブレイクで攻撃を防いでいればいい!私の祝福の力、斬撃の創造を駆使していれば必ず勝てる」


ラハートは剣を握りしめた。煙の向こうでは影が見えていた。レナーだって馬鹿では無い。自爆なんてあり得ない。もちろん生きていた。


煙が晴れると、レナーは俯いていた。まるで動きそうな気配は無かった。


その様子を見てラハートは声を出して笑った。


「どうしたの?来ないの?本当に諦めたの?これがデンゼル=レナーの実力なの?こんな物なの?」


レナーはゆっくりと顔を上げた。目を瞑っている上の瞼には少し煤が付いていて、それを指で拭った。少し黒くなった顔からはまだ諦めたようには見えない。


「……考えても考えても、勝機は見出せなかった。私は馬鹿だから、考えても無駄なんだわ〜……。だから、もういい。あと五分で決着をつける」


「どうやって?私とデンゼル=レナーの戦闘相性最悪よ?」


「そうね〜……。でも、それでも私はあなたに勝てる」


ラハートは顔を顰める。


「何ですって?」


「そろそろ、本気を出すわ〜……」


その時、辺りには異様な空気が漂っていた。不気味な静寂が広がり、ラハートはゴクリと唾を飲み込んだ。今から何かが起こりそうな雰囲気が漂った。


「開眼……!!」


レナーはそう言って目を見開いた。レナーの瞳は鮮やかな紫色で、吸い込まれそうな感じがする。大きい瞳がラハートの全身を捉えていた。


ラハートは危険を察知して剣を構えた。そして、空斬スカイブレイクを出すための準備をする。


レナーは弓を引いた。ギチギチと鈍い音が辺りに響き渡る。その瞬間、レナーの体からいつもより倍くらいの光灰と湯気が出てきた。そして、レナーの瞳から焔のようなものもメラメラと上がっていた。


「「「……究極矢アルティメットアロー!!!」」」



放たれた矢はこれまでの矢の威力と比にならないものだった。炎は燃え盛り、空気を轟かせながら一瞬でラハートのところまで飛んでいく。


「「空斬スカイブレイク!!」」


ラハートは斬撃を放ったが、全く通用しなかった。勢いそのまま、ラハートに向かってレナーが放った矢が向かってくる。そして、ラハートに矢が直撃した。


「きゃあ!!」


炎と爆風に巻き込まれ、ラハートは吹き飛んだ。そしてそのまま地面に倒れ込み、よろよろと体を起こした。


「……何よ、これ。目を開けると、祝福の力が増した?」


ラハートは、はだけた部分を隠しながら立ち上がる。しかし、レナーの一発をくらったラハートはもうほとんど体力を使い切った。


「……攻撃が防がれるのは自分と相手の攻撃力がほぼ同じだから。だったら、その攻撃力を上回ることができれば済む話。何も考えが浮かばないなら、力尽くで戦うだけよ〜……」 


ラハートは息が荒くなっていた。迫り来る危機に、体が少し震えていた。


レナーは開いた目でラハートを睨みつける。


「女の子は、大らかに、大袈裟に、気高く、力強く生きる。それこそが至高の女の子にとって必要なことなのよ〜!」


レナーは気高く笑っていた。


「さぁ、まだまだ踊り続けましょう。やっと胸がステップを踏み出し始めたところだわ〜」


ラハートは微笑むレナーを見てただただ呆然としていた。





ティーシャが囚われている牢屋、その下の階。ヒースとヤンキーの死闘が始まっていた。


ヒースは必死に戦っていた。槍を振り続け、相手を倒そうと頑張っていた。顔の表情は引き締まり、腕も脚も懸命に動かして何とか一撃を与えようとしていた。


それとは対照的に、ヤンキーの顔は表情が無かった。というか、不思議そうな、呆れたような表情をしていた。ヒースが懸命になって振っていた槍の攻撃なんて、ヤンキーからすればただの子供のチャンバラごっこの相手に過ぎなかった。


「なんだ?君。ここまで来た割には槍の基礎のキも分かってないぞ。どうなってるんだ?なぜ君はここまで生きて来れたんだ?なんでボクはこんなガキの相手をしていなくちゃいけない?」


そう言ってヤンキーはヒースの腹に一発蹴りを入れた。一瞬息が出来なくなったヒースはその場に倒れ込んだ。そして、何度も咳をした。


「……がっかりしたよ……。こんなガキが相手なんて想像もしていなかった」


槍は蹴られたときに吹き飛ばされた。ヒースにとって危機的な状況だった。槍は無くなり、体は動かない。


「はぁ……」


ヤンキーは大きなため息をついていた。そして、倒れているヒースの胸ぐらを掴んで言う。


「神が支配するより良い世界のために、反逆者をひたすら葬ってきた。ボクがそうすることで暮らしやすい世の中になるのならボクはこの仕事に誇りを持って今までやってきた……。でもね?流石のボクでも子供相手となると心が痛む。だから、今すぐ死んでくれ。それか、もうこれから反逆行為を致しませんと言え。そしたら、許してやる」


ヤンキーはヒースの上に馬乗りになった。そして、ヤンキーはヒースの顔に何度も何度も拳をぶつけていく。


「さぁ、言え!」


ヒースは口の中を切った。血の味がする。鉄の味が舌の上で転がって気持ちが悪い。


鼻血が出てきて、口の中に流れ出す。口の中も出血している。口の中はもう血の池となる。呼吸がうまく出来ず、血の泡が喉の奥で溜まっている。


目の上や頬にはアザやコブが出来始めた。腫れていく。流石の自動回復でも、もう追いつかない。痛みに必死に堪える。


抵抗しようとしても、馬乗りになっているから腕や脚は動かない。というより、受けている痛みのせいで体が言うことを聞いてくれない。


「言え!」


「言え!!」


「……早く言えー!!」


言葉を発するたびにヤンキーの殴る強さが上がる。気が何度も飛びそうになるのを我慢する。それでも、ヒースは口を開かない。絶対に言わない。


ヒースは思っていることがある。攫われた時に聞いた村人たちの嘆き。ティーシャの過去。ガルダとリリーの命を奪った、神が支配するこの世の中。それが間違っていない?そんなわけがない。ヒースはこの世界は間違っていると思う。そもそも、神なんかいない。神は全員に幸福を与える存在のはずだ。なのに、この世界には不幸な人がいる。その不幸は自分の失敗やこれまでの行動の結果による物ではなく、生まれによる身分や神などが運用する『連合会』の独裁的な政治が原因だ。


息を上げたヤンキーは立ち上がった。


「……もう死んだ?」


ヒースはなんとか体を動かそうとする。しかし、もう動かない。息は何とかできる。


「もう諦めな」


ヤンキーの言葉を聞いて、ヒースは何とか首だけ動かしてヤンキーを睨む。


「……絶対に言わない!!」


ヒースはそのあと思いっきりの笑顔を見せた。それは挑発だ。ヒースはまだまだ余裕と言うことをヤンキーに思い知らせたのだ。


力を振り絞ってヒースは立ち上がる。よろよろとなっているが、自動回復の効果のおかげか、何とか立ち上がった。


「……お、俺は諦めないぞ!!必ず……お前を倒してやる!そして、ティーシャを奪還する。俺を舐めるなよ……」


ヒースはニヤリと笑う。


「俺らは反逆者だぜ?」


ヒースのニヤリと笑った顔は月光に照らされていた。血まみれで、ボロボロなのに、ヒースの瞳は曇り一つなかった。


ヒースを見ていたヤンキーはギロリとヒースを睨みつけた。


「……そうか、それじゃあ今すぐ殺す!」


ヤンキーは拳を握りしめて構えた。その後、ヒースもヤンキーと同じように拳を握りしめて構えた。


お互いが睨み合う。二人の死闘はまだまだ終わらない。

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