020. 最強夫妻

攻略によって戦況が変化したライアンVSマイヤース。開眼によって本領を発揮したレナーVSラハート。どちらも決闘の最終局面を迎えていた。どちらの戦いも、最強夫妻ライアンとレナーが優勢となっていた。


ホール内で戦うライアンは、相手を攻略したことで一気に勝利への手綱を引き出した。関節部分には鉄による硬化が起こっていないことを見破ったライアンはその部分を狙って総攻撃する。


「「「炎鉤爪フレイムクロー!!!」」」


この技は俊敏性を損なわせず、さらに威力も高く維持できる近接戦闘において効果がより発揮できる技だ。それによってマイヤースに攻撃は確実に当たり、かなり効いている。


「ぐはっ!」


マイヤースは腹に一発くらった。攻撃によって体の疲労が溜まり、ついに関節部分以外にも攻撃をくらい始めた。


「仕留める!!」


ライアンの気迫の声が響いた。血を流し、関節部分が青くなったマイヤースはとある秘策を出す。


「くそ!こうなったら、我慢比べだ!」


そう言ってマイヤースは膝と両腕をつけて守りの姿勢になった。


「「「鉄盾メタルシールド!!!」」」


腕から分厚い鉄の板が召喚された。文字通り、盾になったのだ。これで、ライアンの攻撃が当たることはない。


マイヤースの上半身はこれで完全に防がれた。


「我慢比べだ!オレの盾か、お前の拳か、どっちが持つか勝負だ!」


しかし、ライアンはマイヤースの言葉に全く反応しない。一瞬も止まらなかった。ライアンは迷わず攻撃してくる。


「うおー!!」


ライアンの雄叫びがホール内に響き渡った。何度も何度もマイヤースの盾にライアンの拳がぶつかる。


「なんだこいつ……全く躊躇してない!!」


衝撃が響き渡る。空気が、地面が揺れる。ホールの壁には衝撃によって、音を立てながらヒビが入る。


「くそ!止まらない!!」


マイヤースはひたすらライアンの攻撃を受け続ける。拳が盾に当たる度に体には骨を揺らす衝撃が走っていた。


「こんな所で負けていられない!オレはもっと上り詰めて少年兵団本部へ行かなくてはならない!!より良い世界のため、反逆者を排除するためにはこんなところで終われない!」


マイヤースはさらに力を込めていく。ライアンの攻撃が弱まる瞬間をひたすら待つ。そして、攻撃できなくなったときにライアンを仕留める。


「「うおー!!!」」


二人とも雄叫びを上げた。どちらも負けられない。マイヤースはひたすらライアンの攻撃に耐える。足元は衝撃のあまり窪みができた。


そして、ライアンの最後の一撃が放たれる。


ライアンは両手を組んで大きく振り上げた。


大きな攻撃が来ると悟ったマイヤースはさらに盾の強度を上げるために神の力を行使する。


お互いの光灰と湯気が混ざり合う。まさに激闘。


「「「鉄純盾ハイメタルシールド!!!」」」


「「「炎落双拳フレイムハンマーロット!!!」」」


ライアンは問答無用で盾の上から攻撃を放った。マイヤースもライアンの攻撃を受け止める。その時、これまでで最も強い突風と衝撃が辺りに広がる。


数秒間、お互いの技がぶつかり、雄叫びをあげていた。



すると、盾がライアンの攻撃に耐えられず、崩壊した。そのままマイヤースに攻撃が当たり、マイヤースは吹っ飛ばされた。


勢いそのままマイヤースは壁にぶつかった。そこには土煙が立ち込めた。そして、マイヤースはその場に倒れ込んで気絶した。


ライアンはゆっくりと息を上げながらマイヤースに近づいた。マイヤースが白目を向いて気絶しているのを確認した。


決闘は終結した。


「お前は守りに入った時点で負けていた。守りに入っていいのは優勢な方だけだ。負けているのならば、迷わず立ち向かえ。攻撃を止めるな。負けているからこそ、攻めるべきだ。攻めていれば、必ず勝機は訪れる。どんな形でもだ」


ライアンは息をゆっくり吐いて、笑っていた。


「まぁ、聞こえていないだろうがな。楽しかったぜ。いい運動になった」


そう言って、ライアンはヒースたちが向かった牢屋の方へと向かっていく。


疲れや攻撃時の怪我はあるが、ライアンがマイヤースから受けた攻撃はゼロ。そして、マイヤースはライアンの猛攻により気絶。


やはりライアンは最強。少年兵団支部幹部に無傷での完全勝利となった!




同ホール内、レナーとラハートが戦っている所にライアンとマイヤースの激闘による衝撃波が微かに届いてきた。お互いこの衝撃波はライアンとマイヤースによるものだと薄々悟った。


「さぁ、私たちも決着の時ね〜」


ラハートは余裕そうなレナーを睨みながら息を上げていた。


もうラハートはボロボロだった。開眼して本領を発揮したレナーの前でラハートの攻撃は無に等しかった。


はだけた服。煤で汚れた顔や体。衝撃による打撲。疲れでラハートからはほとんど光灰は出ていなかった。


対照的に、真っ直ぐ紫色の瞳を向け、気高く佇むレナー。弓を持ち、綺麗な服に身を包んでいた。勝敗はもう目に見えていた。


その姿を見たラハートは歯を食いしばった。泣きそうになる目を擦り、剣を握りしめてまだレナーに向かってくる。


「うりゃー!」


しかし、その攻撃はもう攻撃とは言えなかった。ただ剣を振りかぶって向かってきているだけだった。ガラ空きの腹に向かってレナーは弓を振った。


鋼鉄の弓がラハートの腹に直撃する。ラハートは腹を押さえてまた倒れ込んだ。


悔しさのあまり、ラハートの目からは涙がこぼれ落ちた。


「……反逆者なんているから、この世の中は不幸になるのよ。神に祈り、神の言う通りに生きていればいいだけなのに。みんなで楽に生きられるのに。なんでこんなことするの……?」


ラハートは俯いて言った。


「私たちは、神を必要とせず、人間が人間のために生きられる社会にしたいと思ってる。過ごしやすい、誰も食に困らない、そんな世界」


真面目な口調でレナーは語りかける。


「……神の言うことを聞いていれば、楽に生きられるのに……」


レナーはその言葉を聞いて、疑問に思う。


「楽に生きられることが、幸せなの?」


レナーは上を見上げて言った。


「私はそうは思わない。私の幸せって思う瞬間は、皆んなが笑っていて、楽しそうで、温かいご飯を食べている。それとか、下の子達の成長を感じたり、愛している人と同じ時間を過ごしたり、そういう心があったかくなる瞬間ね。それを味わっていける世の中にしたいの。私はもう十分なのだけれど〜」


ラハートはレナーの言葉を聞いてさらに歯を食いしばった。


「そう言う綺麗事が大っ嫌いなの!!!」


ラハートはまた剣を振って立ち向かってきた。その時、レナーは弓を地面に落とした。そして、手の平でラハートの腹を打ち抜いた。


「きゃあ!」


そして、自分の腕にラハートの首をかけ、ラハートを地面に薙ぎ倒した。


ラハートは苦しそうにもがいている。抵抗するのをレナーは余裕そうな表情で押さえている。


「……どうする?まだ、続ける?」


レナーはラハートの瞳に問いかけた。すると、ラハートは抵抗をやめた。レナーは腕をどかして、立ち上がる。


すると、ラハートは地面に倒れ込んだまま、仰向けで泣き始めた。溢れる涙を何とか止めようと、目の上に腕を押し付けている。


レナーは立ち上がって言った。


「女の子だから、顔に傷はつけてあげなかったわよ♡」


ラハートはその言葉を聞いてさらに泣き始め、声をあげていた。


「感謝しなさい。以前の私なら、あなたを殺していたわ。でも最近、人を殺せない子がチームに入ってきたの。その子は人を殺すことにものすごく抵抗を感じている。初めは疑問だったけど、考え直してみればそれが普通の反応で、私たちがおかしかったのだと最近気づいた。だから、私たちは人を殺さずに平和を勝ち取ろうと少しずつ考え方を変えていくことにしたの。だから、あなたは殺さないでおいてあげる。私たちの仲間に感謝しなさい〜」


それだけ言い残して、レナーはまた走り出した。皆が行った奥の方へと向かっていく。遅れをとるわけにはいかない。


レナーも無傷。敵を圧倒する強さを見せつけた。少年兵団支部幹部に無傷での完全勝利。


まさに最強。RBのリーダー格、二人の最強夫妻の、幹部に対して完全勝利というこの活躍は後々伝説となって語られる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る