018. 罠
少年兵団支部、ホール内ではライアンとマイヤース。そして、レナーとラハートによる攻防が始まった。
ライアンとマイヤースによる戦闘は肉弾戦となった。二人の拳が交えるたびに、ホール内には激震が走る。突風が吹き荒れ、誰も近づくことはできない。拳の振るのが見えないほど速く、激戦となっていた。
「「
ライアンは燃える両手を組んで振り落とす。マイヤースの頭に直撃するかと思われたが、なんとかマイヤースはこれを凌いだ。両手を突き上げて、ライアンの攻撃を封じ込めている。
二人はニヤリと睨み合った。そして、ライアンは距離をとる。
二人は息を整える。ライアン、マイヤース共にまだダメージは受けておらず、疲れが溜まっているだけだ。どちらかが、先に一発くらわせることが勝負の鍵となる。
「噂通り、やはり強いな、ライアン=ブルーン」
「どこで噂になってんだか」
ライアンは額の汗を拭った。
「お前らのような反逆者集団は結構いる。ほとんどが連合会や少年兵団によって捕まり、罰を受けている。しかし、強すぎるあまり、活動が活発になっている集団がある。ここらでは、【風龍ラファ】を筆頭とする『レスポール』。【即拳の怪物ヤンティナ】を筆頭とするその一味。それらが代表的な例だ。そこに最近になって名を馳せるグループが現れた。それが最強祝福者夫妻率いる、RBだ」
「それはどうも」
「ここまで暴れられると、そりゃ有名にもなる」
ニヤリと笑っていたマイヤースも、この瞬間、ライアンを睨みつけた。
「しかし、それも今日終わる。終わらせてやる、今ここで」
ライアンは天を仰ぎながら笑った。
「悪いが、今日終わる気はさらさら無い!俺たちはどこまでも上っていく!三大神全部倒して、平和な世の中を作る、それが俺の、このチームの夢だ」
ライアンはニヤリとしながらマイヤースを睨む。
「夢が人をつくる」
ライアンの言葉にマイヤースは叫んだ。
「ほざいてろ!!!」
マイヤースが今度は距離を詰めてきた。ライアンとマイヤースはそれぞれ光灰を纏いながら拳を合わせる。
マイヤースは創造神の祝福者。マイヤースは創造神から体の強化、特に硬化に特化した力を与えられている。まるで体が鉄のように固くなる。体からは鉄のようなものが出てきていて、拳や腕、顔に鉄が生成されている。
「「
ライアンは攻撃を避けた。マイヤースは地面に向かって攻撃を放っている。拳が地面につくと、地面にはヒビが入り、深さ五センチほど、広さ五メートルほどの窪みができていた。
「ふぉー」
ライアンはその窪みを見ながら言った。あんなのが当たったらかなり危険だ。ライアンも負けじと攻撃していく。
「「
ライアンが空に拳を放つと、拳の先から炎の塊が放射された。その炎をマイヤースはうまく避けていく。ライアンは当たるまで何度も何度も拳を振り続けた。
しかし、当たらない。
ライアンの攻撃が止まると、また二人は呼吸を整い始めた。
二人はお互いをずっと睨み合った。
※
その頃、同ホール内ではレナーとラハートによる戦闘も始まっていた。
ラハートが剣を振ってくる。それをレナーが弓で受け流すという形になる。
「なんで攻撃してこないの!!??」
ラハートは剣を振って、レナーを睨みながら言ってくる。
「だって、私弓使いだし〜。遠距離タイプだから〜」
レナー自身、距離をとって戦いたいと思っている。だから、距離をとるために攻撃を受けながら下がっているのだが、ラハートが距離をどんどん詰めてくる。動きが俊敏なのだ。
「このままじゃ、何にもできないまま負けるわよ!デンゼル=レナー!!」
「あら〜。いきなり呼び捨てって酷く無い〜?」
「黙ってろ!デンゼル=レナー!!」
ラハートは剣の振る速さをさらに上げていく。
「あなたから話してきたのに黙れって酷く無い〜〜!?」
「うるさい!」
「余裕が無い女の子はモテないわよ〜」
「……ムカつく!!」
ラハートはいきなり剣で空を切った。レナーに当たるはずもないところで切ったので、空振りしている。
何をしているのか分からなかったレナーは止まっていた。
その時、弓に衝撃が走った。
「……なるほど。見えない斬撃で攻撃してきたのね〜。空気を切り裂いて斬撃を作り、そして攻撃となる。これが祝福の力……一体なんの力なのかしら?」
ラハートからは光灰と湯気が出ていた。
「私は、フリー距離で戦える!」
フリー距離とは、近距離や遠距離と言ったタイプに関係なく、攻撃が可能ということ。
「……なるほどね〜。近距離ならば剣を振って戦えばいいし、遠距離ならば見えない斬撃を使って攻撃できるということね〜」
ラハートはさらにレナーから離れていく。またも訳のわからない行動をし始めてレナーは戸惑ったが、すかさず弓を引いていく。
……距離をとると私に有利な戦況となる。それに、離れるとその斬撃も威力が弱くなって私に届かなくなるのではないの?とりあえず、ここはチャンスね。
「「
レナーが矢を放った瞬間にラハートも剣を振って斬撃を形成した。
「「
すると、さっきより倍の大きさの斬撃が飛んできた。見えなくなっているとはいえ、風の吹き方や雰囲気で大きさは大体感じ取れる。斬撃のところだけ景色が歪んで見える。
矢と斬撃がぶつかると、その場で矢は爆発した。レナーの一矢が斬撃で凌がれたのだ。
……なるほど。おそらくだけど、距離が離れるほど、逆に斬撃の攻撃力が上がる仕組みになってるのね〜。だから、あの子は私と距離をとって斬撃を放った……。遠距離と近距離、両方で戦えるのはハッタリではなく、本当だったのね〜……。
分析を進めるレナー。レナーは天を仰ぎながら笑った。
「いいわ〜。楽しい!!これで私もさらに本気が出せるわ〜!」
レナーはラハートを睨んで言う。
「出力、さらに上げていくわ〜……」
ラハートはレナーの目つきに、背筋に寒気が走った。
※
ロバートを筆頭とするヒース、ピトの三人チームはティーシャ奪還のために走り続けていた。団員達が道を塞ごうとしているところをなんとか攻撃して道を切り開いている。
「ヒース!ティーシャの位置までどれくらいだ!!」
ロバートは銃を撃ちながらヒースに尋ねる。
「ここからあと少しだ!そこをまっすぐ行けば辿り着ける!」
「よし!踏ん張るぞ!」
ロバートは銃を撃ち込み、ヒースは槍を振り、ピトはフライパンを振り回しながら敵を薙ぎ倒していく。
それでも、やはりなかなか団員達の数は減らなかった。敵の数が多すぎて、倒しても倒しても敵がやってくる。さらに、レナーやライアン達に比べて力や決定力が弱く、倒れていた団員達もゾロゾロと立ち上がってまた攻撃してくる。
「くそっ!キリがない!」
ロバートたち三人は息を切らし、汗を流して戦った。これほどしんどくなる戦闘は初めてだ。団員の強さは無いとは言え、数の差で押し込まれそうになっている。
「ここはもう、割り切るしかない……」
ロバートはそう呟いた。そして、ヒースに向かって指示を出す。
「ヒース!今のところティーシャの位置を正確に理解できているのはお前だけだ!だから、ティーシャ奪還はヒースに任せる!ヒースはこのまま戦わずに牢屋まで走れ!」
ヒースは槍で攻撃を受け、ロバートの方に振り返る。
「ロバート!平気なの?」
ロバートはニヤリと笑った。
「なんとかしてみせるさ!」
ロバートの言葉を信じたヒースは槍で攻撃を受け、敵を薙ぎ倒した後、牢屋の方へ向かって走り出した。
ヒースが走っていく方向には細い廊下がある。そこをまっすぐ突き進み、その奥にある牢屋の中にティーシャはいる。
「行かせるか馬鹿野郎!」
話を聞いている団員たちはヒースに向かって走りだす。当然の判断だ。ヒースさえ止めれば、牢屋へは誰も辿り着けない。
ヒースに向かって団員達が攻撃をしてくる。
「とったー!」
一人の団員がヒースに向かって剣を振る。後ろからだったので、ヒースの反応が一瞬遅れた。そして、気づいた頃にはもう剣の先がすぐそこまで到達している。
──ドン!!
銃声が鳴り響いた。撃たれたのはヒースを狙っていた団員だ。その団員はその場で倒れ込む。ロバートが向ける銃口の先からは煙がフワリと上がっていた。
「か、間一髪……」
ロバートはそう呟く。
しかし、反撃は止まらない。今度は反対からヒースに向かってる団員が進んでくる。
これを止めたのはピトだった。フライパンを振り回して迫ってきていた団員を吹き飛ばした。
「「いけ!ヒース!!」」
二人がヒースの目を見て叫んだ。ヒースはそのまま走って狭い道の中へと進んでいく。
「ありがとう!二人とも!」
ヒースは二人のおかげで道の中に入れた。そしてそのまま中まで走っていくことができた。
「追え!!」
団員達はヒースの後を追おうと狭い道へ走る。しかし、道の入り口にロバートとピトの二人が立ちはだかる。
「悪いが、この先は通れねぇ!」
ロバートはニヤリと笑いながら言った。ボロボロになりながらも、堂々とした立ち振る舞いのピトとロバートに団員達は尻込みしていた。
息を上げながらヒースは暗くて細い道を突き進んでいた。ロウソクが等間隔に並んでいて、進むたびにそれが後ろへどんどん消えていく。
一番奥の牢屋に辿り着いた。ヒースは息を切らしながらも、鉄格子を握りしめ、その先にいるティーシャに呼びかける。
「ティーシャ!聞こえる?ティーシャ!!」
ティーシャは両手を縛り上げられ、吊り下げられていた。首がだらんと下がり、目を瞑っている。
そして、応答がない。
……そんな、なんで??
見たところ、目立った外傷はない。気絶しているだけだよな?とにかく、この中に入ってティーシャを奪還し、これで終わらせる。
「ティーシャ待ってて!今牢屋の中に入る!」
牢屋の端には鍵穴があった。ここを壊せば牢屋は開く。
ヒースは牢屋の端に移動して、鍵を壊そうとした。
その時、地面の石が一つ沈んでバランスを崩した。
なんだ??
その後、その石を中心に直径一メートル程の穴が空いた。
ヒースは一瞬の出来事だったので、対処が追いつかず、そのまま穴の中へと入ってしまった。
「くそ!あと少しだったのに!落とし穴か!」
ヒースは罠にハマってしまったのだ。
ヒースは数秒間落ち続けたあと、地面に着地した。とある部屋に来たようだ。
窓からは月光が差し込んでいた。少し開けていた。ここは一体、どこなのだろう。
上下左右、石でできている。隅には蜘蛛の巣ができていた。ここも牢屋みたいな作りになっていて、不気味な空間だ。
「……ネズミが迷い込んで来やがったな」
ヒースは男の声に瞬時に反応して振り返る。ヒースは槍を構えた。
影で姿は見えないが、どうやら誰かいるようだ。おそらく、敵だろう。
「ここまで来たってことは、なかなかしぶとい奴らしいな。……上の奴らは何しているんだか……」
影から徐々に姿を現した。足元から月光にゆっくりと照らされていく。ヒースはその姿を見て少し気が引けた。
体格や年齢はロバート同じくらい。両手にはナイフを持っていて、少し前傾姿勢で歩いてきた。ヒースをじっと睨みつけている。そして、左目の周りには痛々しい火傷の跡があった。
「お前がRBか……。今ここで、殺してやるよ」
ヒースは構える。どんな攻撃が来るか分からない。まずはよく相手のことを見て……!
すると、相手の男はいつの間にかヒースの後ろにいた。そして、ヒースからは腕や足、顔、腹に切り傷ができ、出血する。
「くく……」
ヒースは痛みに堪えるために声が漏れた。
「……へぇ。やるねぇ、君。もしかして、ボクの攻撃見えているのかな?仕留めたと思ったのに」
ヒースは白い線、波が見えている。さっきの攻撃はあまりにも早いのだが、なんとか凌いだ。まともに受けていれば即死だった。槍を構えていたことが良い結果となった。
正直、ヒースは戸惑っていた。あんなにも白い線と波がはっきり見えているのに対処できなかった。相手は波を起こすのとほぼ同じくらいに次の動作を行っている。あまりの速さに、ヒースは相手の強さを思い知る。
ヒースは相手をじっと見た。全身黒い薄い生地の服に身を包んでいる。長くて細い手足。俊敏性を生かしたナイフでの攻撃。これはかなり手強そうだ。
「君、これが欲しいんでしょ?」
男がそう言って取り出したのは、牢屋の鍵だった。おそらく、ティーシャが囚われている牢屋の鍵なのだろう。男は笑ってまた鍵をしまった。
「欲しければ僕を倒してみな。でないと、あの女は救えない。君にできるかな?」
ヒースは男を睨んだ。月光に照らされた体と瞳は輝いていた。
「やってやるよ」
「では、少年兵団支部幹部、ハイナフ=ヤンキー。参る」
ここにきて、ヒースは幹部と激突することになる。幹部と聞いて納得だ。
引いてはならない。もちろん怖いけど、必ずこいつに勝ってティーシャを奪還する!!
二人は同時に動き出した。ヒースにとって負けられない、幹部ヤンキーとの死闘が始まる。
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