017. 激突

レナーはふわりと着地して、振り返った。


「さぁ、みんな〜。行くわよ〜」


笑顔でレナーはみんなに言った。レナーが走り出して、それに全員で付いて行く。



「敵襲ー!てきしゅー!!!」


少年兵団支部内は混乱していた。監視係の団員がRB襲撃を全体に知らせた。


火事の警報が鳴り出し、武装した団員達が次々と外へ出ていく。


「何が起こった?」


囚われている反逆者達は何が起こっているのか分からず、牢屋の鉄格子から顔を出して叫んでいた。建物と地面が小刻みに揺れていて、窓の外からは微かではあるが地鳴りのような低い音が鳴っている。


外で戦闘が始まったと支部にいる全員が分かった。


支部内にいる団員数は総勢約五百名。この人数をRB五人で相手しなければならない。しかしながら、そんなことはRBにとって大したことでは無い。


建物入り口が爆発した。立ち込める噴煙と炎。団員達はみんな吹き飛ばされていく。


「「「三連爆弾矢トリプルボンバーアロー!!」」」


光灰と湯気を纏いながら矢を放ち続けるレナーの姿があった。レナーの攻撃に団員達は打つすべなし。ほとんどの戦力をレナー一人で倒していく。


「すげぇ。建物の中に侵入できた!」


ヒース達はようやく少年兵団支部の建物へ侵入した。ヒースは建物全体を見渡した。


響いてくる音。敵の足音から発せられる波。空気の振動。声や音の振動。それぞれ全てが白い線の波となって見える。


それを瞬時にヒースは脳の中で処理していく。


支部の宮殿は五回建て。ずっと進んだ奥には牢屋があるようだ。


ヒース達が入ってすぐに大きなホールがあった。吹き抜けになっていて、上下左右には団員達がごった返している。


ティーシャはどこだ?


ヒースはさらに神経を研ぎ澄ませる。さらに目を見開いていく。奥の、さらにまた奥の白い波を見て、感じて、頭の中で処理していく。


ある一点に辿り着いた。誰かが息しているのが白い線で見える。


もっと意識を集中させる。牢屋の中にいる人物は誰だ?




──ティーシャの残像が、白い線で脳内に投影された。



「見えた!ティーシャはこの先の牢屋の中にいる。敵は総勢五百十三人。ここに続々と集結している。今のホール内の敵は四百人くらい!」


「良くやった!ヒース!」


ライアンは走りながら言った。


団員達はRBへと走り寄ってくる。


「うりゃー!」


何十人いるか分からない。それすらもレナーが矢を打って吹き飛ばしていく。その度に地面が揺れている。


「少年兵団って言うけど、構成員は女性もいるし、おじさんもいるんだね」


走りながらヒースはロバートに言った。少年兵団というくらいだから、少年で構成されていると思っていたが、どうやらそうではないようだ。


「当たり前だ。少年兵団って言うのは名前だけだ。構成員は性別も年齢も関係なく、たくさんいるぞ」


「全員聞け!」


レナーの後ろを走っているライアンから指示が出る。


「ティーシャはこの奥にある牢屋にいる!ここからは手分けしてティーシャの元へ行く。俺とレナーはそれぞれ単独で戦闘する。ロバート、ヒース、ピトは三人で行動して、敵に注意しつつ、ティーシャを奪還しろ!」


「「了解!」」


全員が分かれていく。レナーとライアンはそれぞれ単独で団員と交戦する。レナーは引き続き矢を放って団員を吹き飛ばしている。


ライアンは向かってきた兵団を殴り飛ばしていく。一発殴ると突風が巻き起こり、団員達は吹き飛ばされる。


「「疾風拳ハイウィンド!!」」


ライアンが拳を振るたびに風が巻き起こって全員が吹き飛ばされていく。そして、ついにライアンも神の力を行使する。ライアンからは光灰と湯気が出てきた。


「「炎拳フレイムフィスト!!」」


ライアンは地面に向かって拳を叩きつけた。炎は瞬時に建物の中を走り、一気に燃え広がった。メラメラと燃える炎にレナーとライアンの姿が照らされる。


二人ともニヤリと笑いながらさらに攻撃を続けていく。


侵入開始より八分。レナーとライアンの活躍により、支部内の戦闘可能な団員数は三百まで減った。




一方その頃、ヒース達三人は団員達と交戦しながらも走り続けていた。ロバートは銃を使って進路を塞ぐ団員達を倒していく。ロバートの銃の命中率は高く、鎧の関節などにある隙間を狙って撃ち込んでいる。少ない球数で効率よく相手を戦闘不可能にしていく。


ヒースも槍を形成し、団員達と交戦する。まだ槍の使い方はぎこちなく、団員達とはギリギリの戦闘だが、なんとか力で押し切り、倒せている。近距離戦は目が活かせるから得意だはあるのだが、初めての戦闘で緊張してまだ全ての力が発揮できていない。




ここで一際活躍したのがピトだった。


ピトは背負っていたフライパンを両手に持ち、それを振り回していた。


「なんだ?ガキじゃねぇか!やっちまえ!!」


団員達は小さくて女の子のピトに警戒心なく攻撃してくる。


「うりゃーー!!」


ピトは目を瞑りながら思いっきりフライパンを振り回していく。


「うぎゃ」


フライパンが顔面に直撃した団員は吹っ飛ばされる。三メートルほど地面に顔を擦りながら滑っていく。それを見た団員達は驚きのあまり動きが止まっていた。


「うりゃりゃりゃりゃりゃりゃ!!!!」


ピトはフライパンを振り回しながら移動していく。まるで台風のようになっている。その台風に巻き込まれた団員達は吹き飛ばされていく。


「やるだろ?ピトのやつ」


ロバートはヒースと背中を合わせながら言った。ヒースはピトの活躍を見てニヤリと笑っている。


「やっぱりすごいよ。ピトは。そりゃそうだ。俺はずっとピトと家事をしていたからよく知ってる。RBを支えるために、あれだけ家事をしてるんだ。力で言うなら、俺なんて到底及ばない」


ピトは次々に敵を吹っ飛ばしていく。


「それに、前に抱きつかれた時、トドメを刺してきたのはピトだった。俺はピトのせいで肋骨が折れたから、ピトの力が強いことはもう分かってたよ」


ヒースがそう言うとロバートは笑っていた。


「そうか!ピトの力が強いこと知ってたのか。……よし、ヒース。俺らも負けてはいられないな!」


「おう!」


ヒース達の足は止まっていた。止めざるを得なかった。敵の数が多すぎて、もう囲まれてしまったのだ。


ヒースとロバートは背中を合わせて、前方の敵に注意する。ピトは目を瞑っているので問答無用で相手を吹き飛ばし続けている。


ヒースとロバートは同時に前へと駆け出した。そして目の前の敵を倒していく。ヒースは槍を振り、ロバートは敵に接近して捕まえ、隙間から銃を撃ち込んでいく。次々に団員達は倒れていく。


「道が開いたぞ!」


ロバートがそう言うと、全員が戦闘をやめて、再び走り出した。三人は合流すると、並んでまた走り出した。何人かはヒース達を後ろから追っては来ているが、ほとんどが戦意喪失していた。


ヒース達は目の前を睨みながら突き進んでいく。


──待ってろ!ティーシャ!!!






入り口付近、ホールにて。


未だレナーとライアンは暴れ続けていた。戦力は大幅に削ることができていた。リーダーと副リーダー二人の猛攻により、ほとんどの団員が戦意喪失になっていた。


「そっちは片付いたか?」


ライアンは向かってくる団員を殴り飛ばしながら遠くにいるレナーに叫んでいた。


「こっちはもうほぼ片付いたわ〜」


レナーはヨロヨロと起き上がってくる団員を弓で殴って気絶させながら言った。二人とも顔に傷はついているが、爆発の煤や汚れであって、全く攻撃は受けていない。


トップ2はまさに最強。レナーとライアンが合流する頃にはホール内にいるほとんどの団員が倒れていた。


上の階から眺めていた団員達は下りてこない。


「な、なんだあの二人……、化け物か」


「あんなのに勝てるわけが無い……」


上の階にいる団員達は恐怖で体が震えていた。レナーとライアンの猛攻を見て、何もできなくなっていた。


「なんだ?こんなもんか?少年兵団!!」


ライアンは上を見ながら言った。上の団員達は恐怖で武器を捨ててどこかへ行った。それを見た他の団員達も同じように武器を捨てて走り去っていく。


……──ドーン!!!



何かが落ちてきた衝撃音。


上から何か黒い大きな影が降ってきたのだ。静寂に包まれるホール内。緊張が走る。


ゆっくりと立ち上がった黒い影が姿を現した。ライアンほどある筋肉と身長。体つきはがっしりとしていた。顔には眉から口元にかけて切り傷がついていて、かなり古い傷だった。逃げようとしていた団員達の前に立ちはだかる。


「ひっ……。マイヤース様……」


団員はそう呟いて顔を真っ青にしていた。


「も、申し訳ございません!どうかお許しを……」


団員は言いかけた途端に地面に叩きつけられた。団員は気絶して、出血していた。


マイヤースは一つため息した後、立ち上がった。


「お前ら……二人に対してなんてザマだ。情けない……」


マイヤースは下にいるライアン達を睨みつけていた。


「あれが……噂のRBのツートップ。破壊の祝福者であり、最強夫妻か」


周りにいた団員達は安心する。


「やった!よかった!!ついに来てくれた!少年兵団幹部のマイヤース=ガリアット様だ!これで俺たちが勝ったもの同然だ!!」


団員からは歓喜の声が上がり始めた。


「……あれが支部の幹部、マイヤースか」


ライアンも睨み返す。


すると、今度はレナーに向けて何か黒い影が降ってきた。瞬時に反応したレナーは弓を上に突き出して、影の攻撃を弾き返す。


影は攻撃を受けられると、瞬時にレナーと距離を取る。


「へぇー、私の攻撃を凌いだか……」


もう一人は女の人だった。振り返ってそう言った。剣を握りしめていて、レナーをじっと睨みつけていた。


上にいた団員達がまた話し始める。


「こ、今度はまたも幹部のラハート=レイスイス様だ!支部幹部のお二人が、こんなに早くこの場に登場した!!!」


「「「おおおー!!」」」


さっきまでの不穏な空気が一気に消し飛んだ。団員達はまたもやる気を取り戻したようだ。体の芯が震えるようなほどの大歓声が上がっている。


「まぁ、こんなもんでは終わらないよなー」


「また、胸が躍り始めたわ〜」


ライアンとレナーはニヤリと笑いながら言った。


「お前らは、ここで潰す」


「次の攻撃は、絶対に当てる」


マイヤースとラハートは二人を睨みながら言った。RBツートップと少年兵団支部の幹部二人がついに激突する。


ライアンとレナーからは光灰と湯気が上がり始めた。ライアンはマイヤースの方へ、レナーはラハートの方へ向かって攻撃する。



「「うりゃー!!」」


ライアンとレナー、二人が哮る。

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