　一粒も残してはなるまい。

　といえども元来齲（う）歯（し）の治療もあたわずにいる義母は「しのぶさん。おれのもおたべ」といい金城しのぶに神の白米を喰らわせようとする。金城しのぶは「ありがとう厶（ござ）います」といい罅（ひび）割（わ）れた義母の茶（ちや）碗（わん）を頂戴する。しのぶは静（せい）謐（ひつ）に欷（き）歔（きよ）しながら白米をいただく。莞（かん）爾（じ）として義母はいう。「最後の御飯らっていうのに浩（ひろ）樹（き）さんがいんねえなんてのう」と。金城しのぶはしばらく沈黙して囁（しよう）嚅（じゆ）する。「浩（ひろ）樹（き）は『親衛隊』としてわたしたちをまもってくれるそうです。これほど名誉なことはありません」と。莞（かん）爾（じ）たる義母は白米を咀（そ）嚼（しやく）しながらいった。「なんらって。しのぶさん」と。金城しのぶはまたしばらく沈黙してつぶやいた。「なんでもありません。お義母さん」と。儵（しゆつ）忽（こつ）として義母は真摯な顔（がん）貌（ぼう）になりこたえた。「なんでもないことなんかねえろう。おれたちがたすかっても実の息子は死ぬかもしんねえがっけん」と。