　界（かい）隈（わい）の国民たちも躬（み）自（みずか）らの腹部を確認する。

　壮年のいわく「『國民総動員』がかかったときに手術したこれかい」と。金城しのぶは壮年の腹部を凝視してこたえる。「はい。神軍は盧（ろ）溝（こう）橋（きよう）の事件ののち『万一』国民総決戦の時（じ）宜（ぎ）がおとずれることを予測して嬰（えい）児（じ）から老人までわたくしたちすべてに手術をほどこしました。息子が然（さ）様（よう）に申しておりました」と。壮年は顔面蒼（そう）白（はく）となってつぶやく。「ってことはおれたちは死ぬってがあか」と。金城しのぶは憂鬱鬱（うつ）勃（ぼつ）たる顔（がん）貌（ぼう）で沈黙している。須（しゆ）臾（ゆ）の静寂が響（と）動（よ）めく。やがて金城しのぶと壮年との会話を傾聴していた界（かい）隈（わい）の国民たちからつぎつぎにこえがあがっていった。「そうだ。おれたちは死ぬんだ。神國の名誉を永遠たらしめるために」「神國は負けねえ。おれたちの『命』をかけて亜（あ）米（め）利（り）加（か）をびっくりさせてやろうじゃねえか」「神風だ。神様が蒙（もう）古（こ）から日本を御（お）守（まも）りくださった御礼に今度はわれわれが神風となるんだ」「神と神との一騎打ちだ。『どちらが本統の神を信じているのか』わからせてやれ」――。