　全国民は『玉音放送』に傾聴した。

　全国民の胸臆は渾（こん）沌（とん）としていた。

『天罰』による鬼（き）哭（こく）啾（しゆう）啾（しゆう）たる爆心地の界（かい）隈（わい）を囲（い）繞（じよう）する満（まん）目（もく）蕭（しよう）条（じよう）たる新潟市の僻（へき）陬（すう）にて婆（ば）娑（さ）羅（ら）狼（ろう）藉（ぜき）の兵（へい）燹（せん）によって棲（すみ）家（か）を褫（ち）奪（だつ）された無（む）辜（こ）の黎（れい）民（みん）たちが臨時に設置された襤褸（ぼろ）襤褸（ぼろ）の仮設市役所の茶褐色に変色した拡声器からのラジオ放送を静聴していた。神聖冒（ぼう）瀆（とく）すべからざる玉音放送が終（しゆう）焉（えん）をむかえると直立不動で彳（てき）亍（ちよく）していた青年や右手を顳顬（こめかみ）にあてて敬礼していた傷（しよう）痍（い）軍人あるいは堅（けん）韌（じん）に正座して頭（とう）顱（ろ）を撓（しな）垂（だ）れていた老人たちから最初は孑（けつ）孑（けつ）としてやがて氤（いん）氳（うん）として『こえ』があがっていった。いわく「なんだったがあやいまのは」「陛下はなんとおっしゃっていらっしゃったのだ」「雑音ばっかでわからんねっか」「静まれ愚民ども。陛下の胸臆を察せよ」「じゃあいまのはどういう意味だったのさ」など――――。そこで前述の熾（し）天（てん）使（し）ミカエルたちによる『天罰』を生存して疎開のために義母や家具類を運搬せんと荷車をひいていた金城しのぶつまり金城浩（ひろ）樹（き）の母親がこたえた。「おそらく陛下は『国民総特攻』を命じられたのではないでしょうか」と。汚（お）穢（あい）塗（まみ）れの国民服をまとった壮年がきいた。「なんらよそりゃあ。『国民全員で亜（あ）米（め）利（り）加（か）に特攻』でもしようってがあか」と。金城しのぶは忐（びく）忑（びく）しながらこたえる。「そうです。わたくしの息子が神軍の軍人なので仄（そく）聞（ぶん）はしておりました」と。壮年は喫驚する。「なんらって」と。金城しのぶは頭（とう）顱（ろ）を撓（しな）垂（だ）れてこたえる。「日本国民全員が魂（こん）魄（ぱく）接続をして『日本列島そのもの』を神様として粒子化し亜（あ）米（め）利（り）加（か）教国と『最終戦争』をする計画があると――」と。壮年は国民服をめくりあげて腹部をあらわにする。壮年の腹部には端末接続用の機関がくみこまれていた。