　まさしく地獄だった。

『天罰』は神の憤（ふん）怒（ぬ）にほかならなかった。

　爆発に喫驚して木造建築にすがりついていた男性は木造建築と躬（み）自（みずか）らの肉体が融合して『建物人間』となった。一（いつ）家（か）団（だん）欒（らん）していた家族をまもらんとみなで抱擁しあっていた六（ろく）親（しん）眷（けん）族（ぞく）はみなの肉体が融合して『合体人間』となった。一（いち）縷（る）の希望によって爆発から遯（とん）竄（ざん）せんと疾駆していた女性は筋肉を緊張させていた両脚から地面に植えつけられて『樹木人間』となった。逃走爾（じ）時（じ）に顛（てん）躓（ち）したことによって家族にとりのこされた子供は背中から虹色の胡（こ）蝶（ちよう）の翅（し）翼（よく）がはえて『蝶（ちよう）人間』となった。ほかのものたちもあるいは肉体が巨大化して皮膚が千切れ五（ご）臓（ぞう）六（ろつ）腑（ぷ）の団塊となりあるいは百（ひやく）骸（がい）九（きゆう）竅（きよう）の骨（こつ）骼（かく）が肥大化して裡（うち）側から肉体をつらぬいて斃（へい）仆（ふ）しあるいは心臓にシュヴァルツシルト半径が発生して内臓から皮膚から眼球からすべて内側へと輻（ふく）輳（そう）されあるいは数秒間に異常な速度で肉体が進化し皮膚という皮膚から目玉がうまれたり歯がはえたりして意識を喪失しあるいは満（まん）腔（こう）に穿（せん）孔（こう）があいて巨億の銀（ぎん）蠅（ばえ）が飛（ひ）翔（しよう）してゆきあるいは四肢と十指が関節から截（せつ）断（だん）された。新潟市は魑（ち）魅（み）魍（もう）魎（りよう）の地獄となる。『受肉した使徒』を中枢に斯（か）様（よう）にして虹色の球体は澎（ほう）湃（はい）として巨大化したのちに『滅（め）茶（ちや）苦（く）茶（ちや）』になった新潟市内のもろもろを量子力学的に波動関数を聚（しゆう）斂（れん）させて『一個の巨大なる団塊』へと嘯（しよう）聚（しゆ）させていった。無（む）辜（こ）のひとびとは輻（ふく）射（しや）状の波紋で羅（ら）利（り）粉（こつ）灰（ぱい）にされたのち輻（ふく）輳（そう）状の波紋にすいこまれてゆく。鼓（こ）腹（ふく）撃（げき）壌（じよう）の日常生活がなされていた新潟市のもろもろは『巨大な廃（はい）墟（きよ）の球体』にされて波紋にまきこまれてゆき這（しや）般（はん）の残（ざん）滓（し）が巑（さん）岏（がん）たる『十字架型』のキノコ雲となって縹（ひよう）渺（びよう）たる廃（はい）墟（きよ）のうえに聳（しよう）立（りつ）していった。最後に『巨大なる新潟市の廃（はい）墟（きよ）の団塊』は襤褸（ぼろ）襤褸（ぼろ）の十数万人の死骸とともに轟（ごう）然（ぜん）として破裂して大地に墜落してゆく。羅利粉灰にされた新潟市内には蒼（そう）穹（きゆう）から婆羅婆羅になった黎（れい）民（みん）たちの肉塊や五（ご）臓（ぞう）六（ろつ）腑（ぷ）および鮮血の豪雨がふりそそぐ。斯（か）様（よう）にして新潟市に『天罰』をくだしたミカエル厳密には操縦者であるトヨヒコ・カガワは翩（へん）翻（ぽん）として流（りゆう）暢（ちよう）なる日本語で奇（き）蹟（せき）的（てき）に生存した新潟市民へと宣告した。「『最後の審判』の日はちかい。爾（なんじ）等邪宗のものよ。改心するがよい」と。