第6話 ドワーフと和解
ドワーフの救援を終えると、私たちはドワーフも含め宴会を始める。
「おうおう。飲むじゃないか! 気に入った。今度うちの鍛冶場で良い剣を作ってやるぜ?」
「ホントかよ。助かる!」
ヘンリ―が嬉しそうにグータッチをしている。
死者ゼロ、負傷者二十一名。うち重軽傷者二名。
なかなかの戦果だと思う。
これでドワーフたちは心置きなく、私たちの傘下に入れる。
今まで通り、王国の一部として活動できる。
それはドワーフにとっても嬉しいこと。
そもそも独立を宣言すると、かなりの数の兵士が必要になる。
暴力は話し合いでは解決しない。
だから軍を持たなくてはいけない。
それを考えると一都市であるドワーフが軍事力を持つなど、無謀にもほどがある。しかも、その軍人はもともと鉱山の採掘と、抽出、研磨などの仕事をしていたもの。
軍人になることによって主要生産が手薄になる。となれば、経済状況が悪化する。
悪化すれば、市民の中で暴動が起きる可能性は高い。
そして反政府組織は内部から腐敗していって壊滅していっただろう。
それは大量の難民を生み出すことにもつながり、今ある鉱山の価値と、人員補助が必要になり、結果、ドワーフ鉱山は経済破綻を起こす。人口流出による過疎化。
最悪の未来を回避するにはドワーフの鬱憤を晴らすのと、サイラス王との会談が必須だった。
とはいえ、私にできるのはこのくらいだ。
「おう! 姉ちゃん、飲んでいるか?」
「ええ」
そう言ってオレンジジュースのコップをカツンっとぶつけ合う。
翌日になり、私は荷馬車に揺られながら兄様と別れを告げる。
「兄様、元気で!」
「ああ。すぐに仕事を終えて会いにいくよ」
兄様はドワーフとサイラス王とのパイプ役を担ってくれるらしい。
まあ、兄様の使い道など、そのくらいしかないのだが。
いけない。
人を使うことばかり考えていてはあのハワードと同じになってしまう。
そろそろハワードも動き出す頃合いか。
◆◇◆
「はいはーい! ラブリー♡」
ハワードは逃げおおせてきたアーロンたちを
「あなたたち、なんで生き残ったのよ♡ 死になさいぃ♡」
はいはーいはーい。
奇妙な踊りがアーロンたちを混乱させる。
しかしほとんどの敗北者は家族を連れてドールズに亡命をしている。
失った手足を動かそうとするハワードのやり方に異を唱える者も多い。
頭だけでは組織は成り立たないのだ。
「しょうがないわね。この手は使いたくなかったのだけど♡」
ハワードは近隣の村々から集めた子どもたちを晒す。
大きな
「きたねーぞ! 人質なんて!」
アローンの仲間の一人が喋るとハワードは持っていた袋でその仲間を殴りつける。
「話し合いなんて無意味よ。すべては暴力で叶えていくの♡ あなたたちも暴力をふるいなさい♡」
いつまでも甘ったるい声音を上げるハワード。
そのもとに集まったアローンたちはひどく後悔していた。
あのクレアとか言う嬢ちゃんが逃してくれたこの命、どう使うべきか。
もしかしたらあのメビウスように家族と一緒に亡命すべきだったのかもしれない。
戦場に出て学んだことは、人のぬくもりと優しさが世界には必要ということだ。
しかし、ハワードにはそんな外聞も心もない。
まるで初めっからすべてが決まっているかのような言い草だ。
「ここまでは計画通りよ♡ 内通者と一緒にあのクレア=オールポートを排除なさい♡」
「……分かりました」
アーロンたちはしかたなく頷くと、子どもたちを見やる。
これではアーロンたちにとっては選択肢はない。
人質などという手を使えば、内部からも外部からも怒りの声は上がるだろう。
そしてその熱は全土を、ハワードたちを焼き払うだろう。
完全に悪手になっていることに気が付かないハワードであった。
◆◇◆
私は計十日の道のりを終えて、アルザッヘルに帰っていた。
自宅に帰ると、さっそく温泉に向かう私。
ここまできた泥臭さや油汚れ、血を見て衣服を捨てる。
引き出しから新しい衣服を取り出すと丁寧に折りたたみ着替えの棚に置く。
シャワーで体と髪を洗う。
暖かな熱湯が注がれた風呂に慎重に入り、体を癒やす。
ドロドロに溶けてしまいそうになる心地よさ。
風呂好きな私にとっては最高の
「伝令! 伝令!」
「この忙しいときになんだ!?」
私は怒りの声を上げて更衣室に向かう。
シミ一つない綺麗な地肌をタオルで丁寧に拭くと、新しい衣服を着る。
ふわふわもこもこで温かい。
「で。どうした?」
私は伝令を
「北区トールポイにて大規模な軍隊を確認。こちらに攻めてくるようです」
「やはり来たか……。第二から第五戦陣を展開しろ。数で圧倒するのだ!」
私は声を張り上げて命令を言う。
しかし予測よりも三百二十八秒ほど遅いな。
まあ、やってみせるさ。
相手が自壊していくのだろうけど、それでも戦わなくちゃいけないだろう。
まったく好き好んで戦争をしかけるあいつを討ち滅ぼさねば安寧は得られない、か。
そっちも潰したいな。
ぶつぶつと考え事をしながら歩くと一人の兵士にぶつかる。
「はうっ!」
「大丈夫ですか? あ、クレア」
「ヘンリーどうした?」
すっかり家に帰っているとばかり思っていたヘンリーが兵士として我が家にいる。
どうして?
「休暇申請をしようと思っていたのですが……。何があったのですか?」
「お主には関係のないことだ。奥さんと一緒に子どもを守れ」
「なら俺はクレアに付き従います」
「なんだと?」
私は苛立ちで眉根を釣り上げる。
「だってクレアがいなければこの国は崩壊してしまう。なら家族を守るも同然。俺はクレアを守ることで家族を守るんだ」
「ごたくはいい。ならすぐに出陣の準備を」
「了解しました!」
ここからトールポイまでは四日かかる。
援軍を集めて馬車を走らせる。
「こんなに集まって……!」
夜分遅くだというのに軍人は二十を超えて集まっていた。
「いくぞ! 出陣だ!」
私はそう掛け合う。
「おおおおおおおぉぉっぉぉぉっぉお――――――っ!」
怒号のような地響きが伝わってくる。
馬車が走り出したのだ。
地を蹴り、橋をわたり、山を駆ける。
あっと言う間に時間がすぎ、槍を持った騎兵連隊が、前方に展開する。
その後ろに弓兵と大剣使いと、ダガー使いがいる。そのうちの何名かに、ルートを変えるよう指示を出す。
平地であれば、左右に大きく展開するが、山道なのでまるで一騎打ちのような体勢になる。
右は断崖絶壁、左は山。
そんな道を行くと、敵兵は崖から落とそうと槍を伸ばしてくる。
「ヘンリー!」
私が叫ぶと、一番前にいたヘンリーは頭を持ち上げて、槍を伸ばし相手の懐を突き刺す。
痛みで跳ねた馬は、その乗手と一緒に崖下へと転落していく。
「我々に侵略の意思はない! 控えろ! そなたたちのやっていることは単なる殺し合いだ!」
私の言葉が相手に届くかなんてわからない。
でも呼びかけられずにはいられなかった。
何度も叫び、亡命を
「その力、我が国・にて預からせてもらう!」
「何を言っている! ライラックを殺しておいて!」
過激になっている集団だ。
私達の声が
それでも呼びかけなければ何も解決しない。
解決せねばなるまい。
ヘンリーの活躍により前線は押していた。
だが、足場の悪さから馬が震えだしている。
もう長くはないだろう。
「全軍、一時撤退!」
私は部下たちにそう叫び、馬をバックさせる。
馬でくる場所ではなかったのだ。
そして戦略的にも不利だ。
相手は地形をうまく利用し、こちらの本陣を叩く予定なのだ。
部隊を二つに分けて正解だった。
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