第58話 割り勘になった訳

「この前はどうだった、上手くいったのか?」

「もちろんだ、ばっちりだよ」


「じゃあ、オレのおかげだな、感謝しろよ」

「オレが何でお前に感謝しなきゃなんないんだ」


「オレが教えたんだから当然だろ」

「お前がオレに教えただって?、寝ぼけてんのか」


「ゆうべは徹夜だったから、ちょっとは眠むたいな。だけどよ、P&Gのシャンプーを貸しただろ、忘れたのか」

「ああ、あれな結構よかったな」


「じゃあかゆみもフケも無くなったんだな」

「フケもかゆみも無くなったけど、P&Gのシャンプーはオレの彼女の瞳ちゃんも使ってたぞ、だからお前に教えてもらわなくたって、彼女のマンションでシャンプーしたら、すぐに分かるってもんだろ」


「お前は彼女のマンションでシャンプーしてたのか」

「当然だろ、さっきまで瞳ちゃんのマンションに居たんだからな、オレもお前と同じで徹夜だから、ちょっと眠たいな」


「おめえ、許さねえぞ、オレは報告書を書いてたのに、お前は彼女といたのか、不公平って言うもんだろ、土光さんに言ってやるからな」

「土光さんって誰だったかな?」


「土光敏夫さんって言ったら正直者で有名な人だろ、東芝の社長をやったり、国鉄民営化をやったりして、中曽根さんからも信頼されてる人だ、それにな石川播磨重工の社長を長いことやってたろ、JALもANAも エンジンは全部、石川播磨重工が作ってんだろ」


「そうだったな、オレんとこのエンジンもGE とかプラット&ホイットニーとかロールスロイスなんて言ってるけど、実際に作ってんのは石川播磨重工(現IHI)だからな」


「修理だってお願いしてんだろ」

「本当はそうなんだ、オレは機体は直すけどエンジンは石川播磨重工のヤツが見てるんだ」


「そんことはもう、すっかりばれてんだからな、素直に白状しろよ」

「正直に言うと、昨日も瞳ちゃんと同じ便に乗ってオレだけは今朝、関空から帰ってきたとこだ」


「そんなことだと思ってたわ、それでお前と別れた後、彼女はどこへ飛んでったんだ台湾か?」

「瞳ちゃんは国内線専門だから、今ごろは札幌だな」


「国内線と国際線は違うのか?」

「今オレんとこの国際線の常務員は、香港の子会社の所属で、アテンダントは皆んな、香港とか台湾の人たちだ」


「じやあ、国際線のスッチーに日本人はいないのか?」

「アテンダントになれるなら、給料が安くたって。どんな会社でもいいから、とにかくアテンダントであればいいって言う子はいっぱいいるから、そんな子は香港まで行って面接を受けるんだろな、だから少しは日本人もいるだろな」


「パイロットはどうなんだ」

「パイロットは元々、半分以上が外人だから、会社の場所なんかどこだっていいんだ、住んでる場所なんか世界中バラバラだ」


「そういうことなのか、外からじゃ分かんねえもんだな」

「そういうことだ、どんなでっかい会社でも、潰れることもあるんだからな」


「ところでよ、お前の彼女は、今日は札幌に泊まるのか?」

「札幌から関空までの折り返し便に乗って、今日は大阪泊まりだな」


「ホテルは決まってんのか?」

「心斎橋の日航ホテルだと思うけど、なんでお前がオレの彼女のことを聞くんだ?

 何か、企んでるな」


「お前の彼女になんか興味ある訳ないだろ。ただ関空に行ったら、杉本町に寄ってみたらどうかなって思っただけだ」

「杉本町ったら、お前の学校と蔵兵衛ANNEXちゅう変な店があるとこだろ、そんなとこにオレの大事な瞳ちゃんが行ったら、お前の後輩どもに何をされるか、分かったもんじゃないだろ。一体何をしようってんだ」


「蔵兵衛ANNEXに春と巌の絵があるから、見て欲しいなと思っただけだ」

「そんなら、お前の河内の姉ちゃんを行かせたらいいだろ」


「律子とは今度行くつもりだ、お前の彼女の飛行機に乗ってやってもいいけどな」

「乗せてやってもいいけど、お袋に律子を会わすのか」


「そうだ、オレは律子と結婚するつもりだ」

「じゃあ、前祝いに一杯やるか、今日は本当にオレがおごってやるからな」


「そんなら、頭が痛くならないのにして欲しいな」

「分かった任せとけ、いつもよりちょっとだけ高級な焼酎を頼んでもいいぞ」


「高級たってよ、あそこの店には一種類しかないだろ、どうやったら高級になるんだ」

「今日は特別な日だからしょうがないな、水じゃなくて、ウーロン茶で割ってくれ」


「まあいいか、リゾッ茶よりはましだからな」

「リゾッ茶なんてお茶は聞いたことがないな、きっとまずいお茶だろな」


「お前は自分の会社のことも忘れたのか、リゾッ茶はJALのキャンペーンのテーマだろ」

「そんなこともあったな、確か木村佳乃さんが宣伝してたような気がするな」


「そうだ、ようやく思い出したみたいだな」

「だけどリゾッ茶は、お前んとこの伊藤淳二がJALの会長になった時にできたんだからな、責任取らすからな、今日はお前のおごりだ」


「しょうがないな、やっぱり割り勘にするか」


 ☆☆☆☆


「大丈夫なの?昨日も徹夜だったでしょ」

「今は大事な時だから仕方がないな、もう少し待てば株価も上がるし、そうなったら、ボーナスもいっぱい出るし、休みも取れると思うから、リゾッ茶に乗って、ハワイにだって行けると思うな」


「ハワイなんかいいけど、本当に体は大切にしないといけないわよ」

「うん、本当に大丈夫だよ、君は心配しないでいいからね」


「じゃあ、休みが取れたら久しぶりに、明舞団地にでも行ってみましょうか。汐子さんの話だと明石海峡大橋もだいぶ出来てきて、舞子の景色もずいぶん変わったそうよ」


「そうだね、明石焼きも食べたいな」

「私と麻衣はこの前、蔵兵衛ANNEXでお好み焼きを食べたけど、明石焼きも食べたいわね」


「隆一さんは元気なのかな」

「隆一さんは今は姫路の日航ホテルの工事をしてるけど、もうすぐ終わるそうよ」


「日航もちょっと危ない時があったけど、カネボウから来た伊藤淳二さんが辞めてから、株も少し上がってきてるから大丈夫だと思うよ」

「伊藤淳二さんが辞めてたら良くなったの?いない方が良かった人ってことなるわね、でも株でそんなことが分かるの?」


「全部じゃないけど、大体は分かるよ、日航みたいな大きい会社は監督官庁がしっかり見てるから、発表した数字は信用してもいいと思うよ」


「カネボウはどうかしら」

「カネボウはうちと同じ中央青山会計が監査をしてるから、嘘は発表しないと思うよ」

「中央青山会計ってそんなに信用できる会社なの?」

「中央青山会計は4大会計監査法人の一つだけど、その中でもトヨタとかソニーの監査もしている会社だから、一番安心できる会社だと思うよ。それにうちの山一証券だって中央青山会計監査法人にお願いしてるくらいだからね」


「じゃあ、安心していいのね」

「もちろんだよ、日航もカネボウも山一証券も絶対に大丈夫だよ」







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