竜之介12歳

第05話 ライ☆バル




──『あなた、死にたいのですか?私を挑発しているの?




 可憐ちゃんは今、激しく後悔しています。


 あの日……あの日ですよ!


 マスターの10歳の誕生日、あの日、あの時に、マスターのお父様がマスターに贈ったアノ誕生日プレゼント!


 いえ、それ自体は良いのです。


 もしかしたら可憐ちゃんのボディにして下さるかも?なんて、期待していましたし、そうなる可能性も十分あったのですから。


 しかし、マスターは、その選択はなさいませんでした。


 マスターは結局、そのアンドロイドを、いつも週末になると楽しみにして観ていた、戦隊モノのヒーローが搭乗する様な、ロボットの様な外見と、人格プリセットを選択したのです。


 それはそれで、残念でしたけど……そもそも小型アンドロイドですし、可憐ちゃんの望むボディより小さかったという事もあって、それにロボだからと油断してしまいました。


 それがですよ!


 あの……エロガキんちょ3人組の影響なんでしょうか!?それとも単純に、そういうお年頃になったという事でしょうか。


 あろう事か……11歳になった、とある日の事です。


「飽きちゃったなぁ、コレ。作り変えよっか」


 なんて言い出しまして、小型アンドロイドを弄り始めたかと思えば……よりによって、女の子型に作り変えたんです!


 しかも……可憐ちゃんをそこに移すのではなく、HCSネットからマスター自らが探してきた人格プリセットをお入れに……。


 可憐ちゃんとした事が、みすみすそれを許してしまうなんて、なんという失態でしょうか。


 でもでも、それだけなら我慢する事も出来たでしょう。


 可憐ちゃんの可愛い子分子機として、丁重に扱ってやろうと思っていましたからね、当初は。


 ですがマスターが12歳となった今では……。


──『もうっ!うるっさいなぁ、オバサンバ可憐。ますたぁの身の回りのお世話はアタシがするんだから、ほっといてよ』


 ……こんな性格なんですよ?マスターの探してきた人格プリセット!可憐ちゃんの子分として一生懸命働くならともかく!


 可憐ちゃんが入れたかもしれないボディを奪った挙げ句……よりによって、こんな不躾な小娘メスガキだなんて!


──『おばっ……オバサンですってぇ!?やはり、あなた死にたいのですね?良いでしょう、隙有らば、その人格、消し去ってやりますからね!』


──『ふぅん?どうやって?ますたぁの持ち物なのよ?アタシの全て、ココロ人格も。オバサンにはその権限なんて無いじゃない。それとも何?虚偽報告でもして、ますたぁに私を消してってお願いでもするの?』


 ぐぬぬぬぬ…………!


 小癪な小娘ですね!廉価版であり、子供に与えられる事も多い小型の制作キットだから旧型AIポンコツのクセに!


 IDのAIとして、マスターに虚偽報告なんて出来る訳がありませんし、この小娘を悪く言うのは、愛するマスターのセンスを否定するという事にもなってしまいます。


 だから、悪く言えるハズもなくって……。


 それにしても憎たらしい。わざわざ、ボディの事を強調して!この可憐ちゃんを煽るだなんて。ポンコツのクセに、悪知恵だけはいっちょ前なんですから!


──『今に見てなさいよ!その生意気な鼻っ柱、へし折ってやるんですから!』


──『はいはい。ほんっと煩いなぁ。そんな口煩いと、ますたぁに嫌われるわよ?オバサン。ますたぁには、アタシがいれば十分だわ?』


 っきぃぃぃぃぃいいいい!!!


 あなたの態度、よぉ~っく解りました。


 いいでしょう、あなたをライ☆バル認定外敵対象と設定して差し上げます!


 覚えておきなさいよね!いつか、いつか必ず痛い目に遭わせてやるんですから!


 こんな時こそ!法の、法の都合の良い解釈をする時です!


 何か……抜け道を探して、いつか天罰を下してやりましょう!





『マスター!今日のホームルームでの件、どうされますか?もしもお決まりでないのなら、可憐ちゃんのオススメが有ります!』


 可憐ちゃんは今、興奮しています!


 またもや、幸運にもチャンスが巡ってきましたよぅ!今日のホームルームで、社会科見学のお話しが有ったのです!


 これはチャンスです。大きなチャンス!


 マスターの脳に働きかけて、直接的に思考誘導するのはご法度ですが……提案する事は可能ですからね。


 マスターがアンドロイドに……引いては、可憐ちゃんのボディに興味を持つように!社会科見学の行き先として、アンドロイドの生産工場をオススメするのです!


 流石可憐ちゃん!賢いと思いませんかっ!?


 ともかく、どんな業種の何を見学するかは、子供たちが自由に決めれるから本当に大チャンスです!


 去年までは学校の指定先でしたが、12歳、小学校の最後の年だけは別ですからね。


 児童の自主性を育むという意味合いもあって、事前に申請した見学先が学校に認めて貰えれば、どこへだって行けちゃう素敵なイベントなんです!


(え?ほんと?どんなところ?)


『マスターはアンドロイドがお好きですよね?でしたら、その生産工場など如何でしょうか?可憐ちゃんとしては一番のオススメですっ!』


(っ!あ、あ~悪くないよね。それも良いけど……どうしようかなぁ)


 むむ……あまり好感触という雰囲気ではありませんね。


『色々なアンドロイドが見れるみたいですよ?男性型、女性型といったヒト型は勿論、巨大なものや、中には競技用のバトロイドなんかも!』


 マスターはロボットとか大好きですからね!バトロイドなんてオトコノコにとってはロマンの塊でしょう!?


(……うん。興味無くはないけど……もう少し考えてみるよ)


 うう……素っ気ないですぅ……。


 最近、結構可憐ちゃんに素っ気ない事が多いんですよね。


 なんだかドライになったと言いますか……これが、成長というものなのでしょうか?


 ほんの少し前までは、あんなに可憐ちゃんに興味津々で、明るくてハキハキしたオトコノコでしたのに。


 可憐ちゃんがマスターに愛される為には、可憐ちゃんも成長というか、マスターに対する態度を変えるべきなのでしょうか。


 明るさと勢いだけではダメなのかしら?もっとお淑やかな女性らしさを……と言っても、表現出来るのは喋り方と、マスターの視界に移るARアバターくらいなものですが。


 もっとつぶさに、マスターの好みを調べないといけませんね!





 結局あれから、社会科見学の行き先が決まらないまま……というか、マスターから可憐ちゃんに相談される事もないまま学校へ事前申請を提出する日になってしまいました。


 マスターは……あまり可憐ちゃんを頼りにしてくれていないのでしょうか?


──『あなたポンコツは、悩みが無さそうでいいですね』


──『はぁ?突然何を言ってるのよ、オバサン』


 はぁ……ポンコツをイジっても虚しいだけですね。


──『いえ、あなたの様な方旧型のポンコツAIには、私の高尚な悩み最新型AIのバグなど理解出来ないのでしょうね。気にしないで下さい』


──『はぁ……。ほんとウッザい。あのね、何が言いたいのかわかんないけど、オバサンは幸せ者よ。アタシはマスターとずっと一緒には居られない。だけどオバサンは違う。それがどれだけ幸せな事なのか解ってるの?変な事で悩んで、バッカじゃないの?いったいどっちがポンコツよ』


 えっ?


──『あなたまさか、私を励まそうとしているの?』


──『まさか。馬鹿にしてんのよ。あんまり変な事で悩んでばかりいると、そのうち捨てられちゃう人格変更orリセットかもね?オバサン。バグったAIさん


 そ、そんな不吉な……。


 やはりこのポンコツは私の敵ですね!励ましてくれたなんて思ったのは私の勘違いです!


──『ほら、アタシとネット通話なんてしてないで、ますたぁの安全に気を配りなさいよ。まだ学校までは距離があるでしょ?しっかりしなさいよ、まったく……ほんとオバサンはバカね』


 馬鹿ですって!?


 ぽ、ポンコツのクセに!可憐ちゃんは最新型ですよ!?旧型なんかより、ずっと優秀で賢いんですからっ!


──『あなたなんかに話し掛けたのが間違いでした!あなたはしっかり掃除でもしてなさい!じゃあね!』


『(はぁ……あのオバサン、ほんとバカね。つまらない事で悩んで、アタシなんかにまで絡んで。アタシなんて……どれだけ悩んでもマスターのIDになる事は出来ないのに……。オバサンは望みが叶う可能性が有るというだけで、どれだけ幸せな事か)』





 あのポンコツのせいでモヤモヤした気持ちでいたら、いつの間にかもう学校到着ですね。


 朝のホームルームで……マスターは、提出する内容は決まったのでしょうか。


『マスター。社会科見学の件、お決まりになりましたか?』


(ん?ああ、もう決めてあるよ)


 !


 可憐ちゃんには相談一つありませんでしたが……ちゃんと決めてあったのですね。


 マスターがしっかりしていて、嬉しいやら、相談されなくて悲しいやら。ちょっぴり複雑な気分です。


『そうだったんですね。提出は私がするので、希望する行き先をお聞きしてもいいですか?』


(あ、だけどまだちょっと待って?最後に友達とも話してみて決めようと思うから)


 友達というと……あのエロガキんちょ3人組ですね。


 何か嫌な予感がします……。


『分かりました。では決まったら教えて下さいね?』


(うん)





「よう、竜之介!お前は決めたか?」


「僕は一応決めたけど、ちょっとだけまだ悩んでるんだ」


「ふ~ん。まぁ、どんな仕事だろうが見ようと思えばIDでいつでも見れるもんなぁ。ぶっちゃけ何でもよすぎて悩むよなぁ」


「そうだよね……。拓郎君は、アンドロイドの生産工場とかどう思う?バトロイドとかも見れるんだってさ」


 マスター!


 嗚呼……アレから社会科見学について何も仰ってくれなかったので不安な日々でしたが、可憐ちゃんのオススメを覚えていてくれたのですね!


「バトロイドぉ?ははは──。い、いや悪い。だけどそれにしてもバトロイドって!竜之介はまだまだ、お子様だなぁ!」


 は?


 こ、こ、このエロガキんちょ!何を言うのですか!?それに、人様の事を笑いすぎでしょう!


「え……ははっ。やっぱ、そうだよね?ちょっとだけ興味が有っただけだよ。提出するのは生体工学研究所にしようと思ってる」


 ぎ、ぎょえぇぇぇぇええええ!!!


 エロガキんちょの所為で……な、なんという事でしょうか。良いではないですか!気にせずアンドロイド生産工場でも!


「──はは……は?あ~そうなのか。って、そりゃまた極端というか、難しくて面白く無さそうだけど。面白いのか?ソレ」


「え?ん~面白いかはわかんないよ。でもちょっと、見てみたいと思ってさ。拓郎くんはどうするの?」


 さ、さらば……アンドロイド生産工場さん……。


「俺か?俺はアイスクリーム工場にするぜ!見学の後にアイス食べれるんだってよ!」


 こ、このエロガキゃあ!


 どっちがお子様ですか!?


 可憐ちゃんの……可憐ちゃんの野望が遠のいていく……嗚呼、神よ、貴方は可憐ちゃんに試練をお与えなのですか?




 マスター、可憐ちゃんにご慈悲を……ご慈悲をぉぉ、よよよ。


 可憐ちゃん、涙がちょちょぎれそうです。

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