第12話:自暴自棄
リジィ王国暦200年5月20日:リジィ王国王都王城謁見の間
「陛下、これはどういう事ですか?!
宗主国に対する宣戦布告を受け取って良いのですね!」
「待て、待ってくれ、これは何かの間違いだ!」
「これ以上私を馬鹿にするのは止めて頂こう!
マッティーア王子とモレッティ伯爵がこれまでに行ってきた事、私が何も知らないとでも思っているのですか?!
陛下が全てを知っていて見逃していた事も知っていますぞ!」
「違う、知らなかった、余は何も知らなかった!」
「結構、もうこれ以上話し合う必要がないのがよく分かった。
皇帝陛下に名代を任されて以降、これほどの恥をかかされたことはなかった。
マッティーアの行為は皇帝陛下に刺客を向けたのと同じ!
並大抵の報復になると思うなよ!」
アウフィディウス帝国の大使は、そう言い捨てて謁見の間から出て行こうとしたのだが。
「待ってくれ、いや、待ってください、お願いします。
この通りです、どうかお待ち下さい!」
このままではアウフィディウス・リジィ王家が皆殺しにされると悟った王は、頭を床にこすりつけて詫びた。
1国の王が、いくら宗主国の大使とは言え、貴族でしかない者に頭を下げる。
それも頭を床にこすりつけるほど頭を下げる。
アウフィディウス帝国とリジィ王国の国力差と戦力差を明確に表していた。
「待ってどうなるというのですか?
もうこの国が亡ぶ事は確定したのです。
私が襲われた事は、もう本国に知らせが走っています」
「なっ!?」
「事情を聴きに登城した私を殺し、大使館を襲って職員を皆殺しにして、時間稼ぎをする可能性がある事くらい、分かっていてここに来たのです。
そもそも、殺される覚悟と準備もしないで任地に赴く大使などいない!
無能下劣なアウフィディウス・リジィ王家と同じだと思わないでいただきたい!」
「くっ、分かった、いや、分かりました。
マッティーアとモレッティ伯爵は処分する、処分させていただきます。
ですから、どうか皇帝陛下におとりなしください!」
「処分する?
どのような処分をする気なのです?!」
「それは……」
「下劣な、その場限りの処分発言をして、罰した振りだけして済まそうとは、建国王陛下の勇猛は既に失われてしまったようだ。
本国から新たな血を入れなければ、アウフィディウス帝国の名誉まで穢される!」
「お、お待ちを、どうかお待ち下さい!
マッティーアは北の塔に幽閉させます。
モレッティ伯爵は王国軍を送って首を刎ねます。
これでいかがでしょうか?」
「お前がそれで良いと思うのならそうすればいい!
結果は己に身で確かめろ!」
「大使、大使閣下?!」
王のあまりの愚劣さに、大使は吐き捨てるような言葉を残して謁見の間を出た。
大使はこれまで何十何百も国王と顔を合わせ言葉を交わしてきたが、ここまで愚かで下劣だとは思ってもいなかった。
極ありふれた場で表に出ている姿と、危急の時に顔を出す本性が、ここまで違うとは思ってもいなかった。
突出した才能はないが、普通に国を治める事くらいできる王だと思っていた。
国を滅ぼすような罪を犯した息子をその場で殺すくらい、王族ならば当たり前に持っている決断力なのだが、その程度の事すらできないとは思ってもいなかった。
★★★★★★
「我ながら何とも情けない。
愚王の本性を見抜けないでいました」
大使は王城からロッシ侯爵家の王都屋敷に直行した。
ここで対応を誤ると、もう2度と帝国中枢では働けないと分かっていたからだ。
失敗は素直に認めて前後策を講じられる男だと思わせようとした。
「本当によくやってくださいました。
これで愚か者が自滅してくれます」
話を聞いたレオが満面の笑みを浮かべながら言った。。
その言葉を聞いたロッシ侯爵、夫人、アリア嬢は思いっきり顔を引き攣らせた。
「まさか、王が王子とモレッティ伯爵を抑えられないと言われるのですか?」
帝国大使の常識なら、あそこまで脅しをかけられたら、愚王でも王子と伯爵を処刑すると思っていたのだが、レオの判断は違っていた。
「王は自分が王子や伯爵を操っていた心算なのでしょうが、そんな事ができるのは相手に忠誠心や常識がある場合だけです。
父親や王を弑逆する事に何の躊躇いもない連中に権力と武力を与えたのです。
利用できない王だと思われたとたん、殺されるだけです」
「しかしそれでは、今は良くても後で帝国に殺されるだけです」
大使はそう言い募るのだが……
「後で帝国に殺されるよりもずっと早く、王に殺されてしまうのですよ。
ひとまず王を殺して生き延びる。
帝国との事は生き延びてから考える。
ちゃんと考えて行動するような奴なら、大陸連合魔道学院の主任教授に手を出したりしませんよ」
「確かに、閣下の申される通りですね。
私の考えが甘過ぎたようです。
至急本国に援軍を要請してきます」
「もう遅いですよ。
敵の大軍勢がここと大使館に向かっている頃です」
「なんですって?!」
「そんなに慌てなくても、ここには防御結界を張ってあります」
「大使館は、帝国の大使館はどうなっているのです?!」
「大使として任地に派遣される時は、殺される覚悟もしている。
それは何も大使1人の決意ではない。
職員として派遣される全員の想いですよ。
帝国が王国に宣戦布告するための大義名分になる。
それを理解しているなら、間違いなく喜んで死んでくれる」
「くっ……」
(レオナルド殿、アウフィディウス帝国皇太子のレオナルド殿。
少し話があるのだが、よいかのう」
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