第10話


「おはようございます」



ひかるの働く、スナックへ出勤する。


「おはよう…なんか、大変みたいだったわね」


ママが心配そうに話掛ける。


「ダーリンにフラれちゃって…」


「そうなの?やっぱり…。大丈夫?」


頷くひかるの、膝に巻いた包帯が痛々しい。



「今日はカウンターでやってね」


ママが、気遣う。


「無理しちゃダメだよ」


あかねも、ひかるに声を掛ける。


師走の店は忙しい。


しかし、忙しさに振り回される方が、今のひかるには、有り難い。


雅史のことを考えずに済むからだ。



ひかるは、店が終わり、片付けて、カウンターから出ると、スツールへ座り、タバコを吸う。


着替え終わったあかねが、ひかるに話掛ける。


「今日も、うちへ来ない?一緒にごはん、食べようよ」


「おねぇさん、ありがとう。でも、食欲無いし、ダーリンと連絡取りたいから…」


「そっか…でも、何かあったら、すぐに連絡してね。うちにおいでね」



家路の途中、雅史に電話する。


相変わらずの着信拒否…。


悲しさと悔しさでメールを打つ。


“一通のメールだけで、終わりですか?10年も付き合っていたのに、メールだけですか?”



部屋に戻り、灯りをつける。


携帯が震えた。



“妻と話した。本気でひかると暮らそうとした。でも、妻の涙と子供の寝顔を見たら、やっぱり、家族と離れられなくなった。ごめん…もう、会えない”



“別れるなら、ちゃんと、あたしに、会って話そうとは思わないの?いつから、あなたは、そんな卑怯な男になったの?まだ、情けがあるなら、わたしの目を見て別れを言って…”


しかし、この後には、雅史からの電話も、メールも来ることはなかった。



みんな、あたしから離れてゆきよる…。



一睡も出来ずに、朝を迎える…。


窓からは、闇に交じって光が生まれ、鳥のさえずりさえ聞こえてくるのに、ひかるは、まだ、暗闇の中にいた…。


郵便受けに、朝刊が差し込まれる音を聞く。


ひかるは、フラフラと立ち上がり、郵便受けを開いた。


新聞を抜き取ると、床に微かな金属音がする。


見ると、雅史に渡してあった、ひかるの部屋の合鍵…。


拾い上げて、胸に抱くと、胸が熱く込み上げてくる。


まぁちゃん…。


ホンマに終わったんやね…。


ひかるは泣いた。


泣いて泣いて泣いて…。


涙で雅史を流し消そうと泣いた。



泣いて泣いて泣いて…。


雅史を過去の男にした…。

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