第69話 Shangri-La

「がぁあっ!!!」

 喉を刺され、呼吸と詠唱が出来ず悶え苦しむ怪物。


 後ろでは式部がベアトリクスをスキルガンで回復、ベアトリクスは赤ちゃんに掛かった魔法の解除を試み、式部が偽物のシャドウとルクレツィアと戦っている!!


 流石に頭にきたので、喉に突き刺さったままの刀を二・三回回して抉った後、心臓まで一直線に刀を降ろしてみた。

 両手で邪魔してくるが、刀の鞘で上手に捌いている。


 流石に死にかけたのか、後ろに飛んで間合いを空けようとするのを等速度でぴったり着いて行く。

「さぁ、何秒保つ?超再生は刀が心臓に刺さったまま傷を再生を続けるのだろう?」


 空に逃れるのを刀を刺したまま追い、様子を見ていたが、無詠唱で腹から岩石みたいなものを撃ち出して来た!

 直撃を避ける為に刀を怪物から抜き、岩を斬る!

 斬った瞬間岩陰から怪物の蹴りが来たので刀で受ける!!


双唱そうしょう!」

 蹴りの威力を変えずに魔方陣を二つ生み出す!

 最初の魔方陣から出てきたのはクラーケンの触手!!

 触手が一瞬で伸びて四肢と頭を拘束する!!

 次に魔方陣から出てきたのは…髪の毛が蛇の女の頭…メデューサ!!

「頭部も固定した!石化は避けられまい!」



「お前には…仲間がいるか?」

「は?」



 目の前にいち早く展開されたのはベアトリクスの召喚カーバンクルの反射!!

 メデューサの石化が反射され、怪物が石に成り果てる!!

「我には…信頼に足る仲間がいる!!!」


名も無き断罪ネームレス・ペナルティ!!」

 力で石化した触手を砕いて、石化した怪物に斬りかかった!

名も無き残響ネームレス・リフレイン!!」

 居合で斬りつけた個所から衝撃が残響の様に響き崩していく!!


 粉々に崩れたのを見届けていると、まるで磁石に吸い寄せられる砂鉄の様に崩れた身体が再生していく。



 その一部が、刀にまとわりつき、強引に奪い取ると空から放り投げた!!


「はぁ…はぁ…武器が無ければ動きも鈍る筈!スキルも全て超再生してやるぞ!来い!!!」


「言ってなかったが…呼べば刀は戻って来るぞ?」


「…は…?」


「済まない、少し本気を出してしまって刀にトラウマを付けてしまった様だ…」

「そんな訳ないだろうがぁっ!」


 インカムで式部に通信をする。

「式部、武器チェンジ」

 秒で我の手に魔槍グングニルが飛んでくる。

 代わりに式部の元に名も無き刀が届いている。


「…言っただろう?地獄の入口はここからだ」


 後退して逃げの姿勢を見せる怪物。

魔槍技スノッリ・エッダgeirrinn nam aldri staðar í lagi


 怪物の元に目掛けて放った魔槍は高速で相手を穿くと、再び周囲から現れ、無限にターゲットを貫通し続ける!!

 穴だらけになり魔槍の貫通に対して超再生を繰り返し続ける怪物。



「貴様!矢張り貴様が障害!!殺す!!必ず滅す!!!」

 どういう理屈か分からないが次元転移らしきもので逃げおおせ、魔槍が弾かれ帰ってきたのを右手で受け止めた。




 ベアトリクスの元に戻ると、呆れた顔をしていた。

「本っっ当に奥の手が多いなっ!感心するよ。思わず見入ってしまった」

「有難う我が友よ。貴様も我が奥の手だよ……って見てただけか?」


「お前、機械仕掛けの神デウス・エクス・マキナ狼二匹フレキ・ゲリを忘れてただろう?」


「あ」


「力が有り余ってるらしくて偽物をフルボッコにしてたぞ」

「良かったー捌け口があって」

「偽物に憐憫れんびんじょうを催すわっ!」

「赤ちゃんは?」

 笑顔でピースサイン出したからベアトリクスには余裕だったんだろう。


 よく見たら式部も座ってデッ君とフレキ・ゲリを観戦していた。



「式部、有難う!反撃が面倒くさい処だった」

「手足を切断されていて血の気が引いたにゃ…」

 刀と槍を交換し、刀の封印を施した。

「ごめんて!正直、あんなに伏兵が来るなんて…」

「大聖堂の裏にルクレツィアとシャドウは拘束されていたけど、命に別状はなかったにゃ。逆にそこが何で?って思う」

「うん、私は殺して良くてあの二人はただ拘束しただけ…まぁ、生きてて良かったけど」


「あの…本当に済まない事をした…」

「本当にごめんなさい…子供を人質に取られていたとはいえ…」

「いえいえ、あの状況は仕方なかったですよ!逆の立場なら私でもそうしていました!」


「ただ、貴方達は仕方なかったとはいえ、人一人を殺しかけたという事は覚えておきなさい。その小さな心の棘でチャラにするわ」

 ベアトリクスがビシッと言ってくれたお陰で充分反省してくれるだろう。



「済まない、こんな不覚を取るとは…」

「やらかした影山君は暫くアレお預けですー!」

 どれがお預けなのか気になるが怖いから聞かなかった。


「ベアト、ごめん…」

「ルクルク、今回は相手が手強かったし仕方ないよ!次、頑張ろ!」

 ベアトとルクルク…仲いいなぁ最近。



「式部、転送装置の方は?」

「転送装置は問題無いんだけど、パーソナルデータをスキャニングしてアナザーバースに降りてきた訳じゃないから、パーソナルデータを手入力でするのに時間が掛かってるって」


 まだここに留まらなきゃ行けないなぁ…


「レクス、お待たせー!」

「グレース!もういいのか?」

「正直まだだけど、時間がないのも確かだから!怪物は倒したの?」

「いや、追い返すので手一杯だった…」

「OH!レクスが斬殺し損ねるとか珍しいです!」

「いやいや、人を伝説の辻斬りみたいにっ!早速だが、中の乗客を見て知り合いや見た事ある人をチェックしてくれないかな?」

「了解アルヨー!」

 突然の中華キャラ!!!!



 十分位して出てきたグレースの顔色は良くなかった。

「どうしたの?」

「知ってる人がいた…ウチの会社の科学技術グループの主任さんだよ」

「……命を狙われていた?」

「可能性はある…ただ、今回の件は難解で不明瞭な点が多すぎるよね…信用して話を切り出すには信用出来る要素が少ないし…」


「うん、矢張り戻ってからグレースの企業のサーバーが生きていれば探ってほしいなぁ…」

「それは試みて見るけど…あの怪物は人間?」

「うん、口を開けた個所から見えていたのは人…声は変えているが恐らくは女性…」

「もし、うちの里の者の女性なら限られてくる…私の世界と同じならの話だが…」

 ベアトリクスが眉をひそめる。


「犯人は絞られてきたかもだけど、動機が…いや、世界を壊す為に私を障害と睨んで誘き出したのか?しかも暗殺者を用意して周到に油断を誘っている」



 その後、全員分のパーソナルデータが入力された様で、本当にレアなケースで≪社≫の関係者がスーツ姿のまま飛行で到着し、支度してくれた。

 何故そうなのか?

 特別ケースとして秘密裏にしている場所の転送装置を使うらしい。

 それに辺り、全員目隠しのまま転送を行い、目隠しのまま車で関西国際空港へ送るという異例の事態になった。

 勿論体調に異常をきたしている方は最寄りの病院へ転送される。

 その件で説明役として一人派遣されてきた訳だ。


 飛行機の乗客はこの非日常を前にして、勿論二つ返事で了承した。


 そのまま広い場所に全員集まり、我々が警護する中、次々とダイヴアウトしていき彼らの姿はその内消えていった…

 グレースも乗客だから帰ったか。




「おわっっっ……た――――――!!!」

「いえ、飛行機の処分が先なのでひとまずブラックボックスを回収させて下さい」

「わーすーれーてーたー…」

 皆に笑われたっ!


 垂直尾翼の付け根を刀で削ぎ落し、ブラックボックスを≪社≫の人に渡し、機体を切断してベアトリクスの召喚技である程度分解してまとめて貰ってから、絶対温度アブソリュート・インフィニティで融解、形が無くなったあたりで絶対零度アブソリュート・ゼロ温度を下げる。


 すると顔色を変えた≪社≫の使いに注意される。


「レクス様…今の技は世界を壊しかねません。空中、水中は使い方次第ですが、大地へ直接撃ち込むのは短時間でも推奨致しかねます…」

「…ここはツッコミというか、踏み込んではいけないとこかな?」

「お察し下さい。いずれご説明する時が来るか、この世界の構造をご理解頂ける時が来れば…」

「分かった、使い方に気を付けるね!」

「恐れ入ります」

《社》の使者は五〜七キロのブラックボックスを片手にダイヴ・アウトして行った。


 世界を壊す……ここ最近私の周囲を回っている言葉だ。

 強い力を持ったからって考えなしに使ってはいけない。

 教訓としておこう。


「シャドウ、クローバー、助かったよ!この借りはいずれ必ず!」

「不覚を取って済まなかった。こちらこそ借りが増えていく…」

「レクスさんの手足が斬られた時はどうしようかと…生きてて良かった!」

「処で…シャドウにお預けとか言ってたけど何をお預けしたの?」


「あーそれは…ゴニョゴニョゴニョ…」

「……ふおおおお…影山、お前四葉に何させてるの!?」

「何の話をしてるか―――!!!」

 本当にゴニョゴニョとしか言ってなかったんだが、動揺する辺りにやましさを感じる!


「私達はまだやる事があるから戻って大丈夫だよ!」

「それじゃー先に戻りますねー!またねー!」

「何かあれば頼ってほしい。それでは」


 影山が相変わらずおっさん臭い口調だなーって思いながら見送る。




 さて…

「ベアトリクス、行くか」

「ああ、あの怪物は間違いなくうちの村の秘術を使っている。犯人を特定せねばならん!」


 私、式部、ルクレツィア、ベアトリクスで彼女の故郷を目指す。

 村人は皆召喚技を多少使え、一番召喚技が出来る人が技を継承しているらしい。


 場所はガルワルディアより更に西。

 サラと会った森より更に西らしい。

 途中ガルワルディアでお昼を食べる。

 特に私は失血してるから摂らないとまずい。

 せっかくだしサラも呼び出して5人で食事する。

 サラは今まで食事の美味しさを知らずに生まれたから、本当に美味しそうに食事をするから見ていて凄く微笑ましい。


「月花、失血してるんだからしっかり食べな」

 食べ終わったベアトリクスがローブを脱ぎ始めていた。


「え、脱ぐのにゃ!?」

 式部の一言で店内の全員の視線を浴びるベアトリクス!

「脱ぎません!このローブは一族のだから目立たないのに着替えるだけだ!」

「ちっ」

「誰だ今舌打ちしたの!?」

「すみませーん!この鳥の煮込みおかわり下さーい」

「サラ、それ気に入ったんだね?」

「うーん!鶏肉の旨味がもー最っ高♡」


「サラ、今はサラが元いた屋敷の近くなんだけど、森の奥からベアトリクスの一族みたいなの来た事ある?」

「うーん、そもそも森の向こう側は海だからねぇ…でも何故かそちら側から街に抜けていった人はたまにいたな」

「うちの村は秘術を伝える為に外界から閉鎖的に暮らす村だから、スパイスとか育ちにくい物はガルワルディアまで仕入れに行ってたんだよ」


 食べ終わった後は、サラを帰して森の方まで飛んでいくが、木々で飛びにくくなっているので降りて歩いていく。


「心なしかウキウキしてる?ベアトリクス」

「直接会わないけど、ママやパパや弟、妹の顔を見れるし、この頃の自分を客観的に見る機会なんてないからな!」

 パパ・ママ大好きなのは皆同じだから彼女の気持ちが伝わる。


 だが、名乗り出れないという事は辛いだろう。


 森の先が見え明るくなってきた。

 木々を抜けて暫く歩くと見渡す限り海の場所に着いた。


「ベアト、何も無いけど何か隠してるでしょ?」

「流石ルクルク!うちの村は隠し村だからね、外部の人が入れない様にしてるのさ」

『あのあだ名…怪しいにゃ…』

『ほぉ、式部さんもそう思いますかー…』


 ベアトリクスが前に出て、手を前方に差し出す。

「我、秘術の血族なり。道を示し給え」

 そう唱えると、海に道が出来て、海の上に大きな村が現れる!

 名はシャングリラというらしい。



 だが、見えた村は……まるで廃墟の様に崩れ、焦げ、人の気配が無い……

「マ……ママ!パパ!!!」

 息を呑んで走り出したベアトリクスを追い、我々も走って村内に入る。


 門を潜ると、いきなり何人かの亡骸が見え、村内に人の気配が無かった……

「昨日今日襲われた訳じゃないな…手分けして生存者を探そう。ベアトリクスは自分の家族を探して!」

「…ごめん!」


 思っていたより大きい村だが、やはりあの怪物が襲ったのだろうか?


 駆け足で通りに沿って家を一軒一軒調べていく!

 お母さんと子供が隠れていたり、放牧地区の厩舎の中にいたり、矢張り恐れて隠れていたのだろう。

 全てに回復を掛けて、一度分かりやすい所に集まって欲しいと告げる。


 少し回るとルクレツィアと合流したので、街の中心付近を調べに行くと、少し大きな家の前でベアトリクスが村人と揉めていた!


「貴様!秘術の流れを感じるぞ!あの怪物だな!?」

「うちの子を返しなさい!!」

 …!似ている!本当にウチのママに瓜二つだ!

 という事は、親子で争っている!?


「ちょ、ちょっと待って下さい!!私達は助けに来ました!」


「笑わせるな!この村には村のものしか入れねぇんだ!」

 埒が明かないし、ベアトリクスがショックで動かないので、ベアトリクスのフードを取ってみせた。


「え…ベ…ベアト…なの?」

「だが、体格が…どうなっている?」


 話が長くなりそうだから、一旦街の広場に集まってもらい村人の治療と食料補給を先にしてもらう事にした。


 一体この村に何があった……?

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