第70話 Alchemy of Doom
皆で村内を駆け回り、手当と食料配布もした。
何日前に襲撃に合ったのか分からないが、さぞかし眠れない日を過ごしただろう。
ベアトリクスの両親がこの村の長という事なので、まず誤解を招かない様に挨拶から始めた。
「まずは…私はレクス。
「あの…本当にうちの子なんですか?」
「ベアトより成長はしてるが、顔立ちなんかそのままだ」
「ここから、ややこしい話になるんですが……」
世界の終わり、その場に立ち会ったベアトリクス、上から見下ろす私と式部…
ベアトは偶然出来たクラックにより、崩壊前のこの世界に降り立ち、私達と対峙し一旦の和解を得ている、と締めくくった。
「じゃあ…この子は…」
「次元は違えど間違いなくお二人のお子さんですよ」
それを聞き、ベアトリクスのパパとママがゆっくりベアトリクスをハグした。
「村の掟を守り…一人で戦ってたんだな…」
「ベアトは私の子だもん!でも今は泣いていいんだよ?」
「パパ…!ママぁ!!!」
普段大人っぽいけど、まだ十五だもんな。
三人で少し積もる話をしてもらってから、本題に入る。
「村長さん。村の掟やら戒律やらがあるでしょうが率直に聞きます。何があったんですか?」
日が暮れだしたので皆で焚き火を囲んだ。
体力的に無事な村人は無事な建物に各々入って就寝準備を整えている。
「……あの日は継承儀式の前日でした。娘のベアトリクスが正式に秘技を継承する為に村を上げての祭りでした。この村は秘技を伝える村の為、それ以外の祭りなんて皆無なので、それだけに継承の儀式は皆楽しみに準備していました」
「私も覚えている…祭りの日は陽気で食べ物も普段より美味しくて…弟も妹も喜んでいた…」
今は居ないがベアトリクスには弟と妹がいたのか…
「ただ…その日ただ一つだけ違う事がありました。町の外へ買い出しに行った馬車が我々の村の傍で血だらけの男を拾って来たんです」
「男…」
「閉鎖的な村の我々でも幾らかのスキルは持ってましたが、簡単な回復スキル位しかなく、男は出血と傷の深さで死にそうになりました。だが、弱い回復スキルも重ねがけする内に一命を取り留める状態までは持っていきました…」
「ここからは私が話しますね。ベアトがお世話になってます!その男は療養所へ運び、私達も翌日の祭の日を迎えるだけでしたが、一つだけ大事な役割が残ってました」
「それは……?」
「この街の何処かに隠している秘伝を伝える古文書を、我が家族が夜中皆が寝静まった内に取り出して、星空に一晩捧げる。こうして翌日継承者が古文書で秘技を受取り、終わり…の筈でした」
「その晩に何かがあったんですね…」
「…夜中に古文書を祭壇に捧げるのは次女リーナと長男の末っ子ジェミの筈でしたが、朝起きるとベアトリスと三人共消えていました…そして、夜中に祭壇から大きな炎が上がり、町中の者が避難しましたが、その中で怪物を見たという話を何人も聞きました。翌朝、村内を確認すると療養所の者は全て殺害、男は消え、娘も三人共祭壇の古文書事消え、街中嵐が起こったかの様な姿になりました………」
広場の中央から離れたスペースにそれらしき痕跡が残っていて、炭や何かが燃えた後が微かに見て取れた。
「ただ、一つ気になる事がありまして、古文書の隠し場所に一緒に隠していた禁書も無くなっていました」
「禁書?」
「禁書は一族の禁断の秘儀を収めた物で、命を削るから通常は伝承されずに、非常時のみ閲覧が許可されてるの」
ベアトリクスがそう言うと眉を潜めた。
「多分うちの子が間違えて持ち出して祭壇に飾ったのだと推測しています」
「因みに怪物を倒そうとはしなかったんですか?」
「古文書…言い方は古そうですが、先代継承者が一部血液で書き記し、古文書そのものに術式が印字されます。あとは継承者が読むだけだったんですが…」
「念の為なんですが、その怪我人や外部の物が読んでも使えない秘術なんですよね?」
「はい、慣れている者でも扱いが難しく、特にうちの家系は血の所為か体質なのか、術が使いやすいです」
「という事はその怪我人は何故消えた…?」
「それはだなぁ…」
突然ベアトリクスの背後から声が響いた!
ベアトリクスとルクレツィアがご両親とこちら側に来ると同時に前方に結晶障壁を張った!!!
木の爆ぜる音の中、声の辺りからじわじわと姿を現す男。
隠密スキルか!?
「貴方は療養所にいた!?」
今、話していた男で間違いなさそうだ。
「その節は助けて頂いて有難う御座いました」
男はわざとらしい礼をする。
見たところ軽装で隠密タイプ、シャドウみたいな攻撃をしそうだ。
「名乗る程の者じゃありませんので、省略させて頂きますが…またお早いお着きで、レクスさん…」
「私の名前を…お前もアメリカの…」
ブラフを掛けてみたが…表情を伺うと微妙に反応した…やはりそうか。
「まぁ、何を知っているか、はたまた知らないか、どうでもよござんす。私は自分で重傷を負ってこの街に入り込み、皆が寝静まった頃に自分の回復スキルで全回復し、療養所の皆さんには…お世話になりましたが騒がれると面倒なので死んで頂きました」
「人間のクズめ!この閉鎖的な村の秘密を何故知っていた?」
「俺の先祖もこの街の者だったのさ。何故出て行ったのかは知らないが、言い伝えで話位は知ってたのさ。だからこの計画に投入しようと決めたんだ」
「娘は!子供達をどこへやった!?」
ベアトリクスパパが悲痛な叫びを上げる!
「あっはっはっは!ご安心を!全員死にました。あ、一人だけ半分生きるかもですが…」
「召喚!オーディン!!」
「ベアト待ちなさい!」
「召喚…カーバンクル…って、あんた何故生きてる?まぁ、いっか、今全員死ぬし」
ベアトリクスにオーディンの無双の一撃が反射され返ってくる!!!
「
真っ向からスレイプニールに乗馬し突進してきたオーディンと刃を交わすが、我の技にオーディンの刃が砕け散り、名も無き刀でオーディンが両断された。
「嘘だろ!?相手は何でも一刀両断しちまう神なんだぜ!」
「その質問の前に応えろ、この夫妻の子供をどうした?」
「平和な
「ベアトリクスか…」
「血族三人揃ったとなりゃ幾許かでも仕事が楽になる!全員バインドで固定して小さいガキ二人に秘術書を丸めて食べさせて、一番大きいガキに禁書を食わせた。後は小さい二人の首を切って、生き血を長女に飲ませりゃ古き継承の儀式は完了だ!あはははは!目の前で呪い、壊れ、正気を奪われていく長女の姿は見ものだったが、俺の命も危ねぇから正気を失くしてる間にずらかったって訳さ!理不尽に命を奪われ、力を持った怪物がこの世界を呪い始めたぁっ!」
「…我は…今日以上に人を憎んだ事は無い…」
「そうか?俺なんか毎日誰かを呪って生きているけどなぁ!」
「なら安心しろ、もう終わる」
「は?」
背後に音も無く現れたのは例の怪物だった。
全てを奪った男を縦に引き裂いて即死させた後、何度も何度も何度も何度も地面に広がる血だまりと肉塊を踏み続けた…
「ベアトリクス!」
「ベアトちゃん…なの?」
召装の姿が解け、中からは瞳が死んでいて、憔悴してボロボロの幼いベアトリクスが出てきた。
「矢張りベアトリクスだったのか」
「レクス、分かってたの?」
「ああ、戦った感触が似ていたから薄々…」
「ベアトリクス!しっかりしろ!」
「ベアト!お薬持ってくるからね?」
と、ママが羽織っていたローブをベアトリクスに羽織らせる。
と、幼いベアトリクスが眼前に何かを見た
空を…斜めに伝う血液
周囲のあちこちに蜘蛛の糸の様に強靭な糸が
出処は、今潰した男の身体
慌てて周囲の全員の周囲に障壁を張ったが…ベアトリクスのご両親の身体がバラバラに崩れ去った…
くそっ!死後発動の
「
糸は全て消えたが犠牲者を出したので何の解決にもならない…
『ママ…パパ…どうして!!!どうしてぇっ!ああああぁぁぁぁぁぁああああ!!』
二人のベアトリクスが悲しいシンクロを奏でた。
ルクレツィアがベアトリクスの悲しみを受け止めに行く。
幼いベアトリクスは私がそばにいようとしたが、手の甲で顔を叩かれた。
「もう、いいんだ…いいんだよ…終らせて…皆で静かに眠ろう……」
「ベアトリクス…」
「パパも…ママも死んだ…弟も妹ももういない……いずれ皆いなくなるんだ…なら今でもいいよね??」
禁書の力なのか、複合召装を再び纏うベアトリクス。
両手を上げると街の建物が火柱を上げ、全て燃えだした!
「な、やめろ!!!」
「召装ウンディーネ、水の調べ!!」
辛い中ベアトリクスが火を消し出した!
「勝負だ、破壊者…全てを終わらせる前に、邪魔な貴様を終わらせる」
「…我に決闘を挑んだ勇気だけは褒めてやる。空の方が貴様も戦い易いだろ?」
二人で上に上がり、さり気なく街との距離を取った!
「悲しいだろうけど手伝ってルクレツィア!ベアトリクスが火を消した所全て回って怪我人を回復していくにゃ!」
「…了解っ!」
「さて、貴様の禁術とやらは凄いな…様々な怪物の良いところを継ぎ接ぎして活かしている。だが、魔力も生命力も長く保つまい」
「いい…いずれ全て滅ぶなら、代償として少ない位だ…私の命なぞ…」
「命の価値を理解しているのだろう?家族は失ったが
「弟と妹の生き血を飲まされ、やっと討った敵にパパとママを殺され…そんな事をする下衆な人間がいる限り不幸は連綿と続く…種の選別など面倒だ、全て殺せばいい」
「…物分りの良い子供みたいな口を聞くな。なら何故ここに来た?100%の憎悪で満たされてない…純粋な自分が何処かにいて、止めて欲しがってるんじゃないのか?だからパパとママに会いに来たんだろ!?」
「そんな事などある筈が無い!世界等…全て!!滅んで!しまえば!いい!!!」
巨大な魔法陣で召喚してきたのは…九つの首を持つ毒竜ヒュドラ!!!
首が様々な角度でうねり襲ってきて食い殺そうとしている!
空中で効率よく避けながら素早く何本か首を斬るが、すぐに癒着再生する様で切りがなく、おまけにヒュドラの身体から毒の霧が散布されている!
その間隙を縫う様に氷の槍や炎の槍を飛ばしてくるベアトリクス!
毒は何とでもなるが忙しい戦いだな!
ルクレツィアと一緒にベアトリクスをハグする。
ご夫妻の身体には一旦毛布を掛けてある。
「ベアトリクス…ルクレツィア…私の昔話を聞いてくれるかにゃ?」
「凄いタイミングでぶっこんてきたね式部!」
「少し気も紛れるかと…私の家・
「いじめ、ダメ!絶対!」
「有難うルクレツィア。丁度十歳の時に月花と二人でアナザーバースを《社》の御使いでウロウロして、戦いも少し頑張って…勿論私の方が早く上達したにゃ」
「式部は…何でも上手だからな…」
「けど、ある日突然気付いたにゃ。ボス敵はいつの間にか月花が相手をして必ず勝っている。初見の攻撃を顔色一つ変えず
「手の内は多いし、確かに強いのは認めるが…」
「小さいベアトリクスにお仕置きする為に、今日は少し本気を出すよ、きっと!」
「どうした!?ひと振りも私に届いておらぬぞ?!」
「準備は終わりだ…死ぬ気で受けてみろ」
「は?」
我の目前にヒュドラの倍もある巨大な魔法陣が現れる。
魔力が少ないので闘気で代用し陣を描く。
要は正確にイメージ出来ていれば良い。
「
陣を介して恐ろしい大きさの星を統べる竜が現れる!
「な…な…んで…」
「耐えろよ?終焉の奔流!」
丸で地球と太陽位の比率で滅びの奔流が怪物に向かう!ヒュドラはもう頭から焼かれて再生を諦め、幼いベアトリクスは自身も同じ技を出そうとするが、大きさが違い過ぎ、ターゲットを我に変えようと呼び出したバハムートと下から回り込むが…
「召喚…カーバンクル!」
持っていた滅びの奔流を突然跳ね返され、巨大な終焉の奔流に飲み込まれていった。
バハムートがそれを口から撃ち放つと、怪物は大爆発と共に帰ってこなかった。
雲に穴が開き、滅びが急速に見えなくなっていった。
「ああいう目視コピーとかをやってのけるのが月花の規格外の所以にゃ♪」
「何か言ったか?ベアトリクスとルクレツィアが凄い顔してるんだけど…」
降りて来た王が話しかけてきた。
「何でもないにゃ。さ、辛いけどお墓作らなきゃだね…」
色々としている内に丸一日が過ぎた。
弟と妹の訃報を聞いた直後にパパとママを目の前でを亡くしたんだ。
二日三日じゃ心が癒えないだろう。
私も瓜二つのママが死んだシーンを見てしまい心の傷が増えた。
私達は街の復興の手伝いをしていたが、ベアトリクスはお墓の前にずっと座っていた。
時折ルクレツィアや私達も花を手向けに訪れていたが。
「………なぁ、月花」
「どうした?ベアトリクス」
「私は、確固たる決意を持って、この世界に来た筈なのに…いざ来て見たら月花じゃなく私自身が世界を滅ぼす存在で…更に家族を殺されて…私の存在って…一体何なんだろうって……」
「辛い事、嫌な事は続くよね…でも悪い事ばかりが記憶に鮮明に残って、嬉しい事を忘れがちなんだ。ベアトリクスがこの次元に生きて辿り着いて嬉しい。私達と友達になってくれて嬉しい。ベアトリクスがライダーシリーズを好きになってくれて嬉しい。最近だとルクレツィアと非常に仲が良くて嬉しい、とか?」
「……ヒミツだ!///」
「ヒミツなら仕方ないなぁ。晩御飯はいい肉が貰えそうだから、式部が腕を奮ってくれるってさ!パパとママにもお供えしなくちゃな!」
「今まで済まなかった、私の良き親友よ」
「ババ臭い言い方しなーい!もっと若々しい言葉をだなぁ…」
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