第68話 Gateway to Hell

 式部、シャドウ、クローバーを大聖堂の警護に残して、再びベアトリクスとグレースの元に戻った。

 まだ目は覚ましてなかったが、気が付けば食事も摂れて元気になる筈だ。


 酷い怪我をしているのは彼女だけと言う事は、彼女もさっきの怪物、若しくは別の敵と戦った筈なので情報が欲しい!



「あの…お医者さん、多分血液不足になってると思うので、血になる食べ物何かありますか?寝ている彼女以外に、私の横の貧乳も怪我して色々足りてないので…」

「貧乳とか足りてないとかいうワードはNGワードですぅ―――っ!!!」


「大丈夫、奥で助手が作っておるから、出来たら皆に振る舞うよ!胸には効かんが」

「一言多いけど、有難う御座います!」

 笑うなベアトリクスっ!


 少し疲れていたので、お医者様に任せてベアトリクスと仮眠を取った。

 私は側の椅子でうたた寝し、ルクレツィアがベアトリクスと交代で見張りをしてくれるらしくて助かる…





 ―――気が付くともう朝になっていた。

 一回も目を覚まさなかったので、かなり疲れていたのかも知れない。

 鳥のさえずりを聞きながら目を開けると、グレースが目を覚まして食事をしていた。

「グレース、目を覚まして良かった…」

「OH!月花、助けてくれてThank you so much.ほんとうにありがとう

「鉄分摂れるメニューらしいからしっかり食べて元気になって!」


「お嬢さんも食べるかい?まだふらつくだろう?」

「あ、頂きます!」

「月花、怪我したの?」

「仲間がすぐに回復してくれたから大丈夫!それより、グレースが戦ったのは翼が生えて角が二本、色々な怪物のいいとこ取りした様な怪物だった?」

「いえーふ!ほれはひこうひをほうひんに」

「OKグレース、じゃがいも食べてから喋ろうか?」


「それそれ!それが飛行機を強引にこちらの世界に引き込んでねー!何故か飛行機を丁寧に置いてから何かをキョロキョロと探し始めたから、どさくさに紛れてやっちゃえー!って挑んだらやられちゃったんだー!」

「何でもアメリカテイストに挑めば勝てる訳じゃないからね?そう、それよりだ…」


「ん?アメリカンビューティーな私を呼んだ本題?」

「うん、まだ憶測の域を出ないんだけど、私達に挑んできた暗殺者達のクライアントがグレースの会社かも知れないって話で…それで携帯は盗聴の危険性もあるし…って事だったんだけど、その話の直後に会社が爆発、飛行機がロストで……」


「月花達の実力なら何処でも欲しがる…でも自社で雇えないなら殺してしまえHototogisuって事…?ウチのボス、そんな命知らずの事するかなぁ?」


「グレースに探って欲しかったんだけど、本社が吹き飛んでるしなぁ…」

「あ、アナザーバースから帰ったら秘匿回線から管理者権限で自社サーバーを洗ってみるよー!」


「サーバー吹き飛んだんじゃない?」

に転送装置を発注して本社の移転をしてる所だったのよー!今回みたいに狙われかねないから場所を隠そうとしててね!」

「また凄いタイミングで狙われたなぁ…」

「会社の人も移りつつあったから被害は想定より少ないかもしれないし、向こうに帰ったら探って見るね!」


「有難う、まずはしっかり回復してくれ!最近グレースを見る度に怪我していて心配になる…」

「ふふっ有難う!女はしぶとくないとねっ♡」

「ほんとそれな!」



 ルクレツィアとベアトリクスが目を覚ましたから、ベアトリクスとグレースの情報合致させる為に残して、ルクレツィアを連れて大聖堂に向かう。


 寝ずに見張りとかしていたのなら代わってあげないといけない。



 到着すると、シャドウが表に立って見張りをしていたので声をかけた。

「おはよう、こちらはあれから静かなもんだったよ。あの敵は戦いの度に一定のインターバルを必要とするのかもしれないな」

「影山もそう思うか?あのパワーで長時間行動は難しいと思うんだ」

「もう突っ込むのが面倒なので影山でいいか…」


「見張り変わろうか?目の下が酷いぞ」

「済まない、こんな心強い交代はないから休ませてもらうよ」

「うんうん!」


「いざとなれば私のジャックさんがその怪物を一撃で仕留めて…」

「それはそれで私達の自信が無くなるからっ!」

「折れてからが伸びしろ……そう思わない月花!?」

「ジャックさんを使いたいだけじゃないか!!」

「最近思ったの……世界を破壊する者…それは月花じゃなくてジャックさんなんじゃないかって……」

技術破壊スキルブラストで一撃の世界の破壊者ってどうなのかな?それより中で寝てるクローバーと式部のほっぺをうにーんとしてきて起こしてきて!」

「いってくるー!」



 暫くするとルクレツィアと入れ替えで式部とクローバーが出てきた!

「おはよー!体調はどう?」

「なんか身体がまだ重い気がするねー」

「ほんとにゃ!♪処で敵が何処から来るか分からない状況だし…言い方が悪いけどあの人数の乗客を早く帰してあげないと我々の命取りになるにゃ」


「うん、このメンバーの中なら一番に無理を言えるのは私と式部だから、式部にお願いしていい?」

「そうだにゃ、一度戻らなきゃ連絡出来ないし、戦力の関係でそれがベストかな?」

「《社》の事だ。技術を小出しにしているが、転送装置の関係はもっと進んでいる筈だ。何かいい案を出してくるだろう」


「じゃ、協力を仰いでくるにゃ♪ダイヴ・アウト!」

《社》は日本古来より、人的被害を未然に防ぐ事に特化してきた組織だ。

 恐らく既に何らかの手を高じているに違いない。




 あとは効率良く被害者を無事に送り届ければ、我々も動きやすくなる。

 だが、懸念もある。


『ネライ ハ フクスウアル…セツメイ ハ メンドウ…ゼンイン死ネバイイ』


 あの時、怪物が呟いた狙いが乗客の中に居た場合、乗客を返した処であの怪物が再び私達の世界に現れる可能性がある。


 次の襲撃がいつか分からないがどうやって判別しよう…グレースなら分かるかもしれないが。


 礼拝堂に入り、周りの乗客を見渡しても、アメリカ人が大半で、何人か日本人がいる位だ。

 私では見分けがつかない。

 寧ろ全員憔悴しているから、どうも疑いたくなくなってしまう。


「あ!」

 礼拝堂の椅子に座っている女性が哺乳瓶を落としたので、拾って手渡す。

「あ、有難う御座います」

 女性は哺乳瓶の口を清潔そうな布で吹いて赤ちゃんに哺乳瓶を咥えさせた。

「可愛い、生まれたばかりですか?」

「そうなんだ、顔が僕似じゃなくて良かったよ」

 隣の旦那さんらしき人が申し訳なさそうに話しかけて来てふふっと笑ってしまった。


「いえいえ、滅茶苦茶可愛いですよ!私もいつか子供が欲しいと思ってるのでついつい目が赤ちゃんに行ってしまいます!…ぷるぷるぷるーばーっ!」

 …赤ちゃんが黙ってしまった…

「な…なんか赤ちゃんに嫌われた?」

「大丈夫よ、この子が人見知りなだけだからー!」


 その後、そのご夫婦と談笑しながら周囲を確認していたが狙われる様な要素を持った人は確認出来ない。

「レクス、少しいいか?」

「シャドウ、寝たんじゃなかったの?大丈夫だよ」



 大聖堂の表に出て、小声で会話をする。

「こんな人気のない処に呼び出して私をどうするつもりっ?」

「僕は君に興味は無いから安心したまえっ!先程、大聖堂の中から微量な魔力を感じたんだ」

「まじか…怪物が狙いを付けている人かな?」

「魔力が小さすぎて、対象も分からなかったが少し気を付けておくよ」

「頼む、あの怪物に狙われると守り切るのが難しいかもしれない…」



 シャドウは再び仮眠に戻った。

 見張りは私がいるから良いとして、あの怪物一体何がしたい?

 そもそも人か怪物かあやふやだし……矢張りそういう事なのだろうか……


 頭を悩ませていると、街からベアトリクスが飛んできた。

「グレースとの話はどうだった?」

「ああ、同じ奴で間違いない。それよりも…」

「あの怪物の行使する魔法が、類似、酷使でもない、同一のものである可能性…かな?」


「……ああ、あの怪物自体は知らないがグレースの話と照らし合わすと納得が行く。我が一族しか使えない技だ…」

「この件が済んだらベアトリクスの故郷を偵察に行くか。誰が差し向けたのかも調べないと」

「済まない、私の一族の所為で…」

「いやいや、元々ベアトリクスは私を殺しに来たんだから…変な話だな!」

 と、ベアトリクスの尻を叩くと可愛い声が出たから大笑いした!



「そういえば、あの飛行機は持って帰るのか?」

「いや、手間がかかるからブラックボックス以外ここで処分する。パーツ一つ残すだけで文明に影響してしまうかもしれないから超高熱で溶かそうと思ってる」

「なるの判断らしいな」


「因みにあの怪物…どう操っているか分からないけど、あれだけ暴れて短期間で回復するものかな?」

「魔力の消費は恐ろしく体力も精神力も持っていく…私とて敵に合わせて最終的に使う技を計算しながら戦ったりするが…昨日のアレはそうは見えなかった。何かしら体力と精神力をブーストさせているのか、里に伝わる回復薬でも持っているのか…」



「ソンナ モノ ナクトモ カイフク ハ デキル…ミジュクメ」

「なっ!?」


 昨日の怪物が空から我らを眺めていた!!

『召装?魔法?』

『ベアトリクスのサポートと攻撃』

『対決は任せた!』


封印開始シールリリース彼方よりの星光スターライト・ビヨンド!!」

 手始めに星の光で焼いた後寸分違わないタイミングで、名も無き一撃ネームレス・スラストで突進する!!!

 鳩尾みぞおちを目掛けて突き刺した!

反撃の魔狼リベリオン・ウルヴズ機械仕掛けの神デウス・エクス・マキナ!!」

 予想通り前回と同じくカーバンクルで突きを反射してきたので、それを再度反撃の魔狼で潰す!

 飛べないデッくんに飛行を付けると、我に当たらない角度からガトリングガンで怪物を穴だらけにする!

消失する根源ヴァニシング・コア!!」


 根源を無くせば存在を保てなくなる!

 更にベアトリクスの氷魔法で内側から氷に穿かれる!



「フフフフフフ…」

「何がおかしい?」



「ブンタイ デモ ソレナリ ニハ タタカエルノダト オモウト オカシクテ」

 唐突に背中から腹を手で穿かれた!

「レクス!!!」


 分体は崩れ去り、背後の怪物の手を切り落とし振り向きざまに身体を斜めに斬りつける!!


 その一撃でお互いに距離を取り、私の腹はベアトリクスが回復魔法を飛ばしてくれて、怪物は超回復で傷も手も生えてきた。


「おい!一つだけ教えろ!最終目的は何だ!?」


「…セカイ ノ シュウエン」


「何の為に!?」


「コノ セカイ ハ オワリハジメタ……スベテ ホロボシテ…アラタ ナ セカイ ヲ 創星 スル」


「終わってなどいない!悪い奴もいるが、良い奴も沢山いる!皆一生懸命生きている!」


 その時、怪物が口元の肉を開いてほんの少しだけ口元を見せた!


「お前は…家族を殺されてもそう思うか?世界の為だとかいう大義名分を掲げ!!!理解出来ぬ正義をかかげ!!!略奪と虐殺を繰り広げ!!…それでもお前は…お前は世界が平和で良い世界と思えるかぁぁぁぁっっ!!!」


 その時、ベアトリクスが召装シヴァで背中から襲いかかる!


「貴様!今の話はどういう事だ!お前は……誰だぁっ!!」

 身体を氷結で凍らせて、顔の召装を剥がそうとした瞬間、氷を砕いてベアトリクスに長い爪を振り下ろした!


 超高速でベアトリクスを抱えて下に降りる!

「レクス!ベアトリクスは任せて!」

 ルクレツィアが到着したので任せた!


 騒ぎを聞きつけて礼拝堂からシャドウ、クローバーと何人かの乗客が出てきた!

 昨日の赤ちゃんの夫妻もいた!



「危ないから礼拝堂に戻って!」


 ザクッ!

 ズシュッ!



 例えるならばそんな音であろうか…

 先程の夫婦が私の胸と腹をナイフで刺した!


「……えふっ!」

 よく見ると夫婦が泣いている…

 赤ちゃんの顔に魔法陣が見える…人質か……


「レクスさん!!!」

 クローバーの悲鳴が上がる!

「何をしている貴様ら!!!」


 ザンッ!!!

 左腕が飛んだ!!!

「へへへへ、俺も混ぜてくれよ!」

 口調がもうシャドウではない!


「ふふふふ、いい世界だねぇ…滅ぼすには貴様が邪魔だからな」


 怪物が嬉しそうに上から見上げている!


「待って、回復に行く!」

 そう言ったルクレツィアも我に駆け寄り、ショートソードで足を切り落とし、バランスを失った身体が崩れ落ちた。




 …プライオリティ


 クローバーと乗客を守り、赤ちゃんの魔法陣を解除


 次、女神の息吹で全回復


「ぶ…………」



「はっ、麻痺毒でスキルも使えまい!」


 さっきのルクレツィアも偽物だったので、ベアトリクスがまるで回復していない…


 ここまでの大掛かりな事件がたかが我一人を油断させて殺す為のシナリオ…


 降りてきてジリジリと土を踏み鳴らし、我の頭に足を掛けた。


「終わる気分はどうだね?」

「おわ……」

「そうか、麻痺だったね。辞世の句すら聞けなくて残念だが死んでくれ」

 怪物が足に力を入れ頭を踏み砕く!

 その瞬間、闇が我の身体を包んだ!




「ヴァルプルギスの夜!我が王よ、黄泉の淵より還り給え」

 式部が間に合って特殊再生技を掛けてくれた!

 怪物の目の前に闇の球が出来上がる!

 怪物は闇の中に渾身の攻撃、ありとあらゆる属性攻撃を撃ち出すが闇の球は微動だにしない!


 左手で内側から闇を引き裂き、同時に怪物の喉を名も無き刀で怪物の喉を見えている本体から照らし合わせ穿く!

「ガハッ!!!」


「…何だ、わざわざ弱点を晒してくれて…お前も技名を発していたな?…それにこの大掛かりなシナリオ…実に効果的だったが…我をそこまで怖がってくれるなんて嬉しいじゃないか」


「くっがっ……」


「…安心しろ、ここからが地獄の入口だ!」

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