第67話 Tangled Mysteries
それは、レティシアとお医者さんと別れてダイヴ・アウトした時だった。
こちらに帰ってくると、スマホが溜まってたメールやチャットを受信するので珍しいことではないんだが、問題は《社》からのメールだった。
『ご多忙の中、失礼します。先日お聞きした暗殺者の依頼主の件ですが、相変わらず確証がある情報はありません。しかし、我々が唯一外国で取引しているアメリカが転送装置の増設を依頼してきました。アナザーバースでの貿易やビジネスの規模を広げるつもりなのか…いずれにせよ、お気をつけ下さい』
「だってさ」
「我々を狙う動機にしてはあやふやだにゃ…」
「アメリカだし、No.1を取りたいだけとか?」
「そんな些細な動機で命狙われたら
アメリカ唯一の企業って事はグレースのいる企業で間違いない。
そこから探りが入れられないか聞いてみよう。
スマホを取り出し久々にグレースに通話してみる。
『Hi!こちらワンダーウーマンだよ!』
「守ろう著作権っ!」
『もー月花も派手に引用する癖にー!で、どうしたの?』
「んー…通話で話せない事なんだ、日本に来るかアナザーバースで会えない?」
『盗聴の懸念があるのね…分かった!いい機会だし、日本に観光しにいく!』
私達の重要案件がついでみたいに!
まぁ、その位の軽さで来てもらう方が安全でいい。
「じゃ、待ってるから着いたら連絡頂戴ね!」
「お土産に某映画の殺人人形持っていくね!」
「いらない!いらない!」
「え、私は欲しいにゃ!」
「いやいや、絶対夜に
そんな事を言いながら自分ちへ四人で戻る。
ママは子供大好きだから、ウェルカム状態だし、本当に有り難い。
四人で着替えをママに渡し、部屋着でのんびりしようとした時に、テレビでニュース速報が流れた。
また地震かなぁ最近多いなぁ…とか考えていたらテロップが予想を超えてきた。
「アメリカの大手アナザーバース進出企業のビルが爆発。テロの可能性」
「………なっ」
目下、我々を狙っていると思しき最有力候補の本社が散った…
グレースは無事なんだろうな!?
慌てて電話してみるとワンコール出てくれてホッとした。
「グレース!」
「見たわ…真偽を確かめる前に沢山の素敵な人達が…どのみちもう飛行機に乗ったし、そちらに行くから!月花達の話とは繋がってるかもしれないし!」
グレースが
「……グレースは助かったけど、多くの人が亡くなったに違いない…本当にテロか…?」
「情報の精度が浅い今は全てを疑わないと…」
「うん、きっと事実を積み重ねて行けば真実が浮き彫りになるにゃ!」
「ささ、悲痛な話の合間でも体力はつけなきゃ!お鍋にしたからご飯にしよ!」
「わーい!六花有難う♪」
「あれ?お姉ちゃんいたっけ?」
「休みでゴロゴロしてたけど、お鍋の匂いがしたから家から歩いてきたー!」
「さすがママにゃ♪」
「肉も買ってきたー!」
『天才かっ!?』
女子会らしく皆で和気藹々と食事をし、お腹一杯になって私もゴロゴロした。
が…………
再度流れたテレビの緊急速報を見て血の気が引くた。
『六時発のロスアンゼルス国際空港発、関西国際空港行きの便が現在消息不明』
「……お、おい…嘘でしょ」
「管制塔が補足出来なくなったとかタダ事じゃないにゃ…」
「時間もピッタリだ、グレースが搭乗してた便で間違いないが…あの子自身は冒険者だし助かるかもしれないけど…」
「他の乗客が…」
テレビも各局テロだと報じ、アメリカから中継を行っている。
ビルは大爆発した訳ではなく、企業が入っていた四フロアが爆発した様だ。
スマホで撮られたと見られる動画が、上空から人や机、書類が舞う光景を幾度も流し、誰もが脳裏を
《社》に暗殺者の刺客の件を問い合わせた。
《社》では調べきれなかったがグレースが所属するアメリカの企業の事業拡大を教えてくれる
その後、その企業のビルがピンポイントで爆発
更にタイミング良くグレースの飛行機が行方不明…
「ねぇ、ベアトリクス?魔法で飛行機をアナザーバースに持っていく、みたいな大技って可能だと思う?」
「それは流石に不可能だ……古代にいた偉大な術士でも、違う次元に干渉した事例は数例の筈……いや、私ならギリギリ出来るかも知れないが…」
「ベアトリクスがやるとしたらどうするの?」
「最大の召喚魔法バハムートを
「それが出来るのはベアトリクスだけ…魔法では流石に飛行機は無理か…丸々人質にするならあるいは…って思ったんだけど…」
「皆が助かっている事は願いたいね…」
「手を
「私は≪社≫のネット探っておくにゃ!何となくここが原因の気がするにゃ…」
「二人は身体を休めておいて!」
「よし、ルクルク!ウィザーズの続きを見るぞ!」
「おっしゃー!」
休めって言ったのに休む気ないな…
私は式部のお尻を枕に少し仮眠を取る事にした。
その前に…
「
第一段階のこの封印の常態化、以前やろうとして中途半端になっていたが、常態化でなくても起きてる時位は常に且つ周囲に目立たない様に展開しなければ…
…………花、…月花!」
―――式部を下敷きにしていたのでベアトリスが起こしてくれた!
「月花、封印解除出来の意地出来ているな!あと≪社≫から緊急依頼、依頼主は不明だが、矢張りアナザーバースに飛行機が落ちていたらしい!!」
「…ベアトリスの話が正しいのならベアトリクス級の敵が背後に居る筈。気を引き締めて挑んで、全員助け出す!」
『お―――!!』
「…この、おー!の瞬間だけ皆女子っぽくていいよね♪」
≪社≫が指定してきたのはドワーフの谷より更に北。
私達もこれより北は未踏の地なので地形の把握もしないと!
ドワーフの谷を通り過ぎ、北に向かうと…大きな山と山に融合している様な塔、麓には大きな街が広がっており、煙突の煙が沢山上がっていた。
「月花!ここって!」
「ああ、
更にその北の山間部の大きな森に飛行機が落ちていた。
見た感じ不時着した跡も胴体着陸した形跡も見られなかったが、木に当たって多少損傷している。
「大事な物の様に置いた様だ…あれなら生存者も沢山いる筈!!」
「街が見える位置にあるし、逃げ込んでいるかも?ルクレツィアとベアトリクスは街を見て来てくれる?」
「わかった!」
「私と式部は飛行機を偵察に行くよ!」
「にゃっ」
上から見た感じ、飛行機はほぼほぼ無事だ。
よく見るとパッセンジャードアが開いており、避難用の滑り台も使った跡がある。
だが、土足の跡も残っている。
飛行で直接パッセンジャードアから入る。
案の定、いるわいるわ…
ゴミ漁りのスカベンジャー!
乗客の残した荷物を漁りに来たか!
「魔槍・無我」
式部が槍を構えた状態で秒で駆け抜ける!
脆弱なスカベンジャー達が瞬時に肉片に変わった!
「式部、新しい技ルートを開放したんだね!」
「投げるだけではもう王に追い付かないにゃ…纏めて始末してしまって良かったかな?」
「あいつら何処からともなく沢山湧いてくるからGの感覚で倒して大丈夫よ!そもそもマント被ってて人かどうかすらも…」
「うわぁ……」
「それより乗客の残りがいないか探そう!」
少し機内を捜索してみたが、こちらには乗客は残ってはいなかった。
滑り台の下に降りて靴跡を探ると、同じ方向に靴跡が続いている…更に北だ。
共存する蛍火を使い、灯りを灯しながら森中へ進んでいく…
すると、山と岩場の陰、更に森の木々に隠されたかの様に隠された協会が顔を見せた!
西の港町の大聖堂にも匹敵する大きさで、明かりも確認出来、人の声もするので思い切って入ってみる!
ドアを開けると礼拝堂の様で、私達が見知ったスーツや服に身を包んだ人々がいた。
今は協会の人が食べ物を分け与えてくれている。
短時間だが突然の異世界ツアーで憔悴している人もいる様だ。
「あの…すみません。飛行機に何が起こったんですか?」
「何だ、あんたら…」
「向こうの世界から皆さんを救出に来ました…ただこの人数を纏めては現状難しいです…」
「む…そうか…飛行機が航行中に突然おかしな動きをして…海に落下…かと思ったらこんな山の中に放り出された。怪物を見た、と言ってた奴もいたな」
「怪物……」
『あーあーレクスさん聞こえますかー!クローバーと影山君ヘルプに来ましたー!』
『僕の名前だけ本名はやめたまえ…』
「助かる!クローバーと影山!現在ウォータリア北のクレーターの更に北、山間に隠れた大聖堂にいるの。狼煙を上げるから生存者の護衛をお願いしたい!敵は現在不明!」
『了解!』
鞄から打ち上げ式煙幕を放つ!
パラシュートがついていて多少落下が遅いから目印になる。
『……レクス、グレースを見つけたけど…酷い怪我だ…治癒を拒む何かが邪魔している…』
「デッドエンド、クローバー達が来るまでお願いしていいか?」
「うん、私もすぐ追うから!!!」
超高速で機械仕掛けの街に飛ぶ!
森の木々が肌を傷付けるが、グレースの容態の方が気になる!
街の上から見下ろすと、松明を持ったルクレツィアが見えたので急いで降下する!
「容態は!?」
「女神の息吹は効いてないけど生命の安定はギリ効いてる!跡はお医者さんとベアトが見てる!」
中に入ると…酷い傷を追って苦しんでいるグレースが居た………
「ベアトリクス、毒とかの可能性は?」
「毒の反応は見られない。ただ、傷が全て再生不可の属性が付いている」
「……属性…属性に縛られている。それを戒めと捉えれば……よし」
次元の狭間から刀を取り出す!
「封印解除……名も無き解除……!」
グレースに勢い良く刀を振る!!
「女神の息吹!!」
ルクレツィアが抜群のタイミングで良く詠唱するとグレースの傷が完治した!
先日の我みたいに失血で動けないだろうが…
「はー……あんたの刀、本当に凄いね」
「今の刀の力は三割程だ。要は自分が斬りたいものを綿密に理解し、斬れるという確信。今のは多少無理矢理だったが、全ての技にイメージを乗せるのは有効だぞ」
「……そうだね、小さい頃パパにもよくそう言われて教わったわ…」
「信念を込めればジャックさんも強くなるかな?」
「あれは動きが奇妙なだけで元々強いよね?」
刀を封印…しようとしたが、式部の到着が遅いのが気になる!
蜻蛉返りで急いで教会へ、ベアトリクスを連れて戻る!
飛び上がった瞬間、教会に爆炎が上がるが誰かが障壁を張ってくれている!!
「シンサンダー!!!」
「永劫の束縛!」
「穿け魔槍!!」
シャドウの雷が直撃し、クローバーの大地からの束縛が空中の敵を束縛し、魔槍が胸の中央を貫…かない!
束縛を強引に引きちぎり、魔槍を手で止めている!!!
何だあの翼のある人サイズの獣は…突然襲って来たのはいいが攻撃が効かない!
さっき何か言葉も話した気がした!
『チガウ……オマエデハナイ』
「言語を!?誰かを探しているのか?」
「教会の人達…死守するよ!!!」
「オッケーにゃ!!」
スキルガンに持ち替えヘヴィを連射する!
地味だけど機動力を削ぐには有効なスキル!!
シャドウとクローバーが飛行スキルで飛び上がり、慣れた連携を刻んでいく!
「ハラガ……ヘッタ」
今、この状況で発動して欲しい魔剣の効果はそれじゃないにゃぁぁぁぁぁっ!!
孤独な感じのグルメドラマかっ!!!
『クゥオオオオオオオオアアアアアアアアッ!!!』
怪物の叫びと共に、魔方陣が怪物の左右に二つ現れ、岩石を握った筋肉隆々の片腕と蒼白い氷を持った細腕が出現する!
『双唱!』
瞬間に超重力で地面に三人共落とされ、地面に冷気で凍らされる!!
重力も氷結もびくともしない!!!
『葬送…』
頭上に上げた手が超高熱の球を生み出した!!
直撃すれば…この一帯が消える程の超高温!!!
だが、斬撃音一撃で超重力と氷結が解けた!!
王が到着した!!
我の刀で三人の戒めを斬り、空中で謎の怪物に対峙する!
「貴様…何が狙いだ?」
見ると伝説の怪物の良い処取りした様な禍々しい形状をしているが、打ち上げ花火の音が身体に当たるかの様に、空気から強さが伝播して来る!
「ネライ ハ フクスウアル…セツメイ ハ メンドウ…ゼンイン死ネバイイ」
「
容赦なく殺しに掛かる!!
だが、右手の甲で難なく止められた!
でも、距離を詰める為だった、これでいい!
「名も無き乱舞!!」
至近距離からの十一段連続奥義!!
「一、二、三、四、五、六、七、八、九、
技の最後の締めである乱れ斬りからの居合斬りを決めた!!
全身傷だらけ、且つ幾つかに分割したが、二秒ぐらいで癒着し、再生した!!
「な、超再生…」
再生直後に猛烈な突進を喰らい、背後の大聖堂の壁面を貫通した!!!
「…召装ラーヴァナ!!」
ベアトリクスの姿が、腕が六本の神の姿になり、弓を構えてエネルギーを貯める!!
「神の矢!ブラフマーストラ!!!」
化物が動き出す前に、神の矢が貫いた!!
動きが止まった瞬間を狙って、
今度は意図して頭を狙ったが…
「どうせ、対して効いてはいないんだろう?」
「イマ ハ オマエ ガ イチバン オモシロイ カ」
腹を何かで貫かれ…なっ!
「タノシンダ…イマハコレデヨイ…」
我を刀から蹴りで抜き落とし、真上に飛んで雲の中に消えていった…
咄嗟に下にいた三人が受け止めてくれて傷を治してくれた!
「いってて…何が狙いなのか…ただ暴れて力の誇示をしている様にしか見えなかった…」
「月花、その件なんだが…あの怪物、私が呼ぶ召喚獣と性質が似ている…月花の刀は恐らくカーバンクルの反射技だと思う…」
「性質が近しいのなら攻略もベアトリクスが切り開いてくれそうだな」
我々が狙われている件、アメリカの≪社≫の提携企業が爆破された件、怪物に飛行機がアナザーバースに轢き釣り困れた件…問題が山積みだが、まずは被害者の人達を元の世界に返さないと!!
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