第66話 People kill people.

 気持ちが先走る…早く月花の元気を確認しないと!


 飛行で三人で谷底へ飛ぶ!

 真下に落ちた巨大魔導人形の周辺にいるかも知れない。

 いなければ運良く誰かに治療されている筈!!







 ドワーフのお店が素敵過ぎて色々と目移りしてたけど、プライオリティが先の事があるので東の谷底の割れ目の先へ足を伸ばす。

 やはりこのあたりは開拓が進んでおらず、これから用途を考えて掘っていくのだろう。


 見えてきた、この地で唯一上絵のへの階段がある場所。

 傾斜が強くならない様に右に左に階段を伸ばして、時たま休憩する場所も設けられている。

 だが少し徒歩では登りたくない高さだ…


 タタタタタッ!!!

「ぐぁっ!」

 後ろで倒れる音がした。

 砂には手形が付いている。


「な…何故跳ね返される!?」

「見えておらぬであろう?我の、光の屈折率を変えた障壁は?」

 刀の封印解除をして闘気で弾丸を防げる様にしたので障壁は解除した。

 序に、先程購入した赤い塗料を頭から掛けてやると戦闘服にヘルメット、銃を構えた男の姿が浮き彫りとなった。

 被弾は防弾チョッキで止まったみたいだ。


「舐めやがって!!」

 機銃掃射で堂々と正面から銃弾を撃ち込んで来るが、全弾が我の闘気で止まる。

 刀を横振りし、機銃を横から右手と一緒に切り落とす!

「あっああああがぁぁぁ!!!」 



「……誰に頼まれた?リーダーはお前か?」

「ぎぃぃぃ…相手は知らねぇ!使いが来て、金とターゲットを聞いただけだ!装備は奪い取っただけでどこのかは知らねぇ!」 

「それはこちらの世界の装備一式…服もだ……殺して奪い取ったな?」

「し…知らねぇ知らねぇ……助けてぐれ!」


「月花――――――!!!」

 上から式部達が飛んできた。

「大丈夫?怪我は?」

 どさくさに紛れて色々触ってくるから、式部達の状況を聞いた。

 手下がホームワールドに付いてきて小町ちゃんを撃ってママをも殺そうとした事を   

知る。


「……あ゛?」

(やばい、月花が切れたから離れて!)

 何故か距離を取る三人。


 尻餅をついたまま離れようとする男の目に拳大の石を拾い全力投球する。

「何処へ行く?何処にも行くな、ここでゴミの様に朽ち果てろ」

 ゆっくり歩いて近付いた処を果敢ににアーミーナイフで突いてきたが…

 名も無き刀の刃に負けたアーミーナイフが真っ二つになる。

「だずげで!誰が!だずげで」


「我だけならいざ知らず縁者まで…微塵も許す気にならんな」

 左手の指五本と左足を落とすと耳障りな声を上げた。

「あ、頑張って置いていたこれは返してやる。

 転がしていた手榴弾を握り、口に殴り入れると我も巻き込み大きな爆発が上がった。


 まぁ、我はダメージゼロだが。



 式部達が近寄ってきたので、封印をほどこし刀をしまい、ベアトリクスとルクレツィアに再会と無事を喜びハグする。

 そして、買ったばかりの指環を渡す。

「何これ!すっごい綺麗!」

「エルフの装飾にも引けを取らない…ドワーフが居るの?」

「そう、ここはドワーフの街なんだよ、すっごく綺麗だよ!」

 そう聞くと二人共好奇心丸出しで走っていった…大丈夫かエルフ?


「はい、式部もね!」

 左手を取って薬指に先の二人より装飾が綺麗な指輪を嵌めた。

「こここここれは世間一般で伝説になっている婚約指輪デスカ!?」

「さぁさぁ、ドワーフの街を見に行こ!」

 式部の手を引っ張って歩く。

 式部が居なくて心細かった、なんて言ったら色々な意味で凄い事になりそうだから言わなかった。


 皆がドワーフの街を現物している内に、オルドフ夫妻に御礼を伝えに行った。

 オルドフさんは、石を砕いた分のお金を手渡してくれた。

 三泊ご飯付きの代金を差っ引いてもそこそこの金額だ。

「またどうしようもねぇ岩が顔を出したらたのむぞ!ガハハハ!」と再開の約束もフラグも取り付けてくれた。



 一通り買い物もし、ルクレツィアはちょいちょい弄られていたが、険悪な感じはなかった。


 まだ少し血が足りないのか、どうもふらつくが、帰って数日ゆっくりしていれば大丈夫だろう。

 若いし。十四歳JCだしっ!!!

 何はともあれ、谷の上まで上がる事にした。



 飛行で元の位置に戻ってきたが…

 また…撃たれるんじゃないかと不安に駆られる。

 三人と言っていたらしいので問題はないが…



 そこに…

 ふと前方を見ると、フードとマント、ウエスタンブーツに大剣を担いた男がこちらを睨んでいる。

「…えっと…対決とかデュエルとかそんな感じですか?」


 男は煙草を咥えながら首を立てに振る。

 くっそー面倒過ぎるー!

 早く帰って寝たかったのに…



「……鹿鳴月花ろくめいつきか、現在14歳。十歳の時から従兄弟の駒鳥鵙式部と《社》の依頼でアナザーバースに潜り始める。途中何らかの幸運に恵まれ、名も無き刀と魔槍グングニルを入手する。以降度重なるアクシデントを乗り越え名も無き刀の能力と刀と得たスキルによってアナザーバースで名の知れた冒険者となる……」

「……キモっ」


「おいおい!ここは『何者だ貴様!』って感じの台詞だろぉが!」

「知るか、JCの胸中から出た率直な感想を受け止めろ!」

「まぁ、そんじゃいっちょ…頼むぜぇぇぇぇ!!」

 大剣を上から叩き込んできた!

封印解除シールリリース名も無き断罪ネームレス・ペナルティ!!」

 刃を横にパワーアップ技で受け止めたが重い!

 初手で刃が斬れないのは矢張り魔剣の類か!

 押し合いも余裕で笑ってる…強さはある様だな!


「我を狙う理由は何だ!?」

「出る杭は打たれるって言葉はもう習ったかぁ!?」

「…マルフォイは打たれるなら知ってる!」

「マルフォイ最後はいい奴だろーが!お前マグルかよグリフィンドール!!」

大剣を引いて鍔迫り合いを終わらせたかと思うと回転から横薙ぎを入れてくる!!

 刀を立てて受け止めるが、遠心力の付いた大剣は重すぎる!


「レクス!!」

「デッドエンド、手出し無用だ。こいつは我にしか興味が無さそうだ!!」

「お目が高いねぇ!俺の名はステロイド!覚えておくと良いことあるぞ!」

「この状況ならご利益なさそうだから忘れるとしよう!名も無き一撃ネームレス・スラスト!!」

 必殺の高速突きを放つと、大剣でギリギリ受けた!

 まだ技の効果中なので押し続けるが、なかなかの怪力で押し留めている!


 技の効果が切れ、バックステップで後方に逃げた!


 …振りをしてもう一度名も無き一撃ネームレス・スラストを放つ!!

 こちらを追おうと大剣を後ろに回したばかりのステロイドはもう一度大剣を構えようとするが、その重さでは間に合わない!

 それでもステロイドの首を少し斬った程度で、あのタイミングの突きを避けるとは…



「勝負ありだな、治療スキルはあるのか?」

「あー…そこまで情け掛けられたら萎えるわ…終わり終わりー!」

「お前の雇い主は誰だ?その大剣、それ程血の匂いはせぬぞ?」

「まぁ…悪目立ちするとやっかむ者も都合の悪い者もいるってこった。またその内来るわー」

 ステロイドは首に回復スキルを掛けながら体験を轢き釣り帰っていった。



「何者だにゃ…殺意もないしスキルもあるみたいなのに使って来なかった」

「真っ向勝負したかったんだろうな。それよりも我々が狙われ始めた。リアルワールドに持ち込まない様にしないとな」

「≪社≫が時間かかったけど、私達がきっちり触れていない生物は弾かれる様にしてくれたよ!」

「本当、六花ママが居なかったら誰か死んでいたかも知れない…」


 刀を封印し、一息つく。

「帰るか!少し休もう!」



 ダイヴ・アウトし、秘密基地に帰ってきた。

 あのステロイドという男、会話の内容からすると明らかにこっちの世界の人間だった。

 こちらで戦闘を仕掛けられることは無いとは思うが…こちら側の≪社≫の提携企業なのは確実。

 そして我々を狙う人物、若しくは企業はアナザーバース側ではなく、こちら側かも知れないという可能性。

 人助けを中心にしてきたから、殺される程恨みを買う事は……でも憎しみは連鎖する、無いとは言えないな…



 小町ちゃんとウチのママの無事を確認したら、どっと疲れが出たのか睡魔が酷くなったのでママの膝枕で寝てしまった。





 その夜、オアシカでいつもの晩御飯会の時に、皆で情報を整理する。

 銃で暗殺を企てた三人組はこちらの世界からの冒険者インターセプターを殺して装備を奪い取ったという事。

 次にステロイドという男も同じく刺客としてきたが、依頼者が同一であるかどうかは不明。

 その事を≪社≫に調べてもらうも、ステロイドという男は提携企業には存在していない事、銃を使った三人組の冒険者インターセプターがアナザーバースから戻って来ないので当該の冒険者は、その三人組に殺されたので間違いないだろうという事。


 念の為にこちらに恨みを持つ様な企業と提携が無いかを調べてもらっている。


 小町ちゃんは昔使っていた障壁を展開する指輪をしてもらっている。


「私達はどうしよう?」

「魔法で防御展開するのも多少のタイムラグがあるからね」

「さっき渡したドワーフの指環なんだけど、多少遠くても殺気を感知出来るの!だから人数分買ったの!」

「予兆を早く察する事が出来ればこちらもそれだけ早く動ける。本当に注意しなきゃいけないのはあのステロイドみたいに殺気を出さない奴だ」

「そうだにゃ、暗殺を生業としている奴が雇われたら少し怖いにゃ」


 今日はカレーだったから、少し大きいマイスプーンで口に運びながら皆に話す。

「ここで、委縮してビクビクしていたら向こうの思うつぼだと思うんだ」

「そうだにゃー、調子に乗って更に刺客を送り込んでくるかも知れない」

「そこで我々の方針なんだけど‥何もしない!」

「何も??」


「正確に言うと、いつもより派手に暴れる。強さを誇示し、我々を『手出ししたらただじゃ済まない』と認識させる」

「成程、敢えて相手への認識を上へ書き換えさせると!私は気に入ったわ!」

「派手にやれば依頼主も早々雇えなくなるだろうし、逆に強い奴はステロイドみたいに真っ向勝負したがるだろうしね!」

「そもそもガチの暗殺者アサシンはリスクの高い冒険者より要人暗殺を得意とするからね。絶対じゃないけど確率は大幅に減る」

「私はショートソードと弓だから、アサシンが刺客になる確率減るの助かるー!」

「後は出来るだけ捕獲しないとね…情報を得ないと後手後手に回ってしまう…」

「そう…だね」


 人を殺せば恨みが付きまとい、復讐や怨嗟も連鎖し交差する。

 武器や兵器が人を殺すのではなく、人が人を殺すのだ。


 だが、家族を殺されたらその連鎖に身を置かないという保証はない。

 だからこそ、今このタイミングで威嚇行動めいた強さの誇示は必要なんだと感じた。


 そういえば中国の武術の達人はその強さ故誰も勝てず、最終的に毒殺という非業の死を遂げたものがいると聞いた事があるので、その時周りに居た家族全員に封のしていない食品や飲み物は出来るだけ口にしない様に伝えておいた。

 パパはいなかったけど、多分平気だろう。




 その後、何件か受けた依頼に関しては、全員で派手な攻撃をし、どこの誰とも分からない者に対して力の誇示を続けた。

 この事態が収束してくれる事を願いながら。

 そんな事態の中、忘れていた事を思い出した。


「ねね、ごめん!帰る前にガルワルディア寄っていいかな?」

「いいけど、どうしたの?お墓参り?」

「んーん、ドワーフの谷でこれを預かったのを忘れててさ」

 見せたのは例の巨大だった魔導人形だった。

「あー!谷底にないと思ったら小さくなってたんだね!!」

「それならレティシアに渡すのが一番いいにゃ♪」



 四人でガルワルディアまで飛んで、お墓に花を供え、医者の所へ行く。


 コンコン!!

 …相変わらず一回で出てこない。

 コココココココココココココココココン!!!


 ガチャ!!

 二センチ位開いたドアの隙間からレティシアが見えた!

「この扉はもう二千年も開いていない開かずの扉…」

「医者―――――――――!レティシアに面倒な事させるな―――!!!」

「あら、レクスさん達?」

 すんなりドアが開いた。

「レティシア、ややこしい連中にはドアを開けるんじゃない」

「でもレクス様達ですよ?」

「……ちっ」


「なんじゃその舌打ちは―――!!!貴様の白髪を染料で紫にして、変な噂が立つようにしちゃる―――!!!」

「はいはい、月花落ち着いて!」

 三人掛かりで止められた。

 でも、顔パスで中には入れてもらった。



 レティシアにお茶を出してもらい、少し近況を聞いてから本題に入る。

「それでね、今日来たのはこれを君に渡そうと思って…」

「…!それはあの時の…」

「もう小さいし、動かないけどきっと君の傍に居たいんだろうなって思って持って帰ってきたの。傍にあれば、ずっと忘れないでしょ?」


「はい……はい!有難う御座いました…」

「そういえばお前達、悪名にも近い名声が轟いておるが…何かあったか?」

 先日あった暗殺者達とステロイドの事を話した。


「ん…成程。それでは畏怖する者も多かろう。効果的とは言える。が、どこで不評を買うやもしれん。派手にやるのはここまでにしておいて、次の段階へ進め」

「次の段階?」

おびき出しと捕獲じゃな。根元を叩かないと堂々巡りになる」

「うん、その辺りは四人で相談するよ!悪いけどこの四人なら負ける気はしない!」


 動機も聞きださないといけないし、早く親玉を捕まえないと!!



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