第65話 invisible assassin

 聞いたばかりの銃声がカフェ・オアシカ店内に響いた!

 咄嗟とっさに結晶障壁を生み出し、外と隔絶し防御を試みる!

 店内を見回すと……撃たれた人を見て血の気が引く!


「ママ!!!」

 胸を撃たれているが、詠唱の時間も惜しんで女神の息吹ブレスオブゴッデスで全回復させる!

 周囲のお客さんは物陰に隠れ、こういう事態に慣れている青鷺あおさぎ副店長が駆け寄ってきた!

「…大丈夫、脈もあるし息してるよ!」


 とりあえずは安堵した。

 だが、一早く察する事が出来なかった自分が許せない!!

 月花の事で気を取られすぎていた!

 前回も転送装置が壊れたのは定員過剰だった時じゃないか!


 きっと首謀者か仲間が着いて来ていたんだ!

 店内を見回しすと、お客さんが怯えているがスタッフが一人一人お詫びしに回っている。


 外を見ても先程と同じく発砲した人物は見つからない。

 スキルで姿と気配を消しているんだ。

 発砲音を聞きつけたのか慌ててルクレツィアとベアトリクスが駆けつけてくれた!

「大丈夫!?」

「何かさっきと同じ音だったよ!」


 ママが撃たれた事と、矢張り敵が見つからない事を話した。

「ママを月花の家に!あそこならセキュリティが高いから早々入れない!」

 副店長も手伝ってくれて無事月花の家に入った。

「お姉ちゃん!?どうしたの?」

「誰かに撃たれたの!相手が見えなくて…きっとアナザーバースから着いてきた」

「魔法の感覚は無かったと、なれば…」

「スキルだよね、絶対!」


 報告が遅れたが月花が行方不明なのも話すと、六花ちゃんはにこっと笑った!

「私とパパの子だから、大丈夫!それより、狙う対象は月花の関係者の可能性があるの?」

「うん、相手が分からないし、見えないけどその可能性が高い…」


「大丈夫よ!ここはセキュリティ万全だし!私がつい…」




 何が起こったか分からなかった。



 気がつけば六花ちゃんが刀を振り抜いていた!!

 赤い鍔無しの刀を振った先に男と銃が真っ二つになり、崩れていった!

 全員が背筋に寒気を感じる程の反応速度!!

 刀を次元の狭間から取り出すモーションすら見えなかった!

履歴閲覧ログブラウズ!」

 死んだ後ならまだスキルの履歴が見られる!

 矢張りスキルを重複させて完全暗殺者仕様で動いていた。


「六花ママ見事です!」

「六花ちゃんいつも凄いねー!」

「私、神様からギフトって物を授かっててね。あまり使わない様にしてるけど、少しだけ時間を戻せるの…だからむ・て・き!」

 道理で六花ちゃんとガチじゃんけんしても勝てないと思ったにゃ……

 本当、そういうとこママそっくりだにゃ!


 死体は《社》の処理班にひっそりお願いした。

「敵は一人で間違いない?」

「転送装置が壊れたのも一つだから来訪者は一人で間違いないにゃ。茶色の迷彩服に銃…現代の人…かなぁ。まずマシンガンとかならもっと危なかったにゃ…」


駒鳥鵙こまどり店長はここに放置していきますので、起きてやる気があれば仕事に戻りなさいって伝えといてね?」

「半分程見捨てられているママ…青鷺あおさぎさんいつもありがとうにゃ!」

 いつもにこやかに手を振って帰る青鷺さん。

 いつも鬼の様な形相でママにお説教してる青鷺さん。

 どっちにしても頭が上がらない!


 使用スキルは判明した。

 後は奴らの接近を知覚するか?

 月花、無事でいて!










 ―――んー…

 意識が戻ったけど。目を開ける前に整理。

 現在痛みが全く無く、どこかに寝かされている。

 友好的な誰かが手当てしてくれた様だ。

 四肢は微かに動かしてみたが問題ない。

 出血したからか多少身体が怠い。


 敵は目視出来なかったが、銃撃の音がした。

 確か底の見えない谷に落ちたはずなので、現在皆の気配がない処を見ると銃撃で撤退したと見ていいだろう。

 グッジョブ式部!

 それにしても、見えない敵と銃弾…私一人なら問題ないが、式部達も事前に用意していないと喰らってしまう…皆が帰ってくる前に敵を撃破出来ればいいのだが…


 とりあえず起きて様子を伺うか!

 目を開けて周囲を見る。

 どうやら洞窟の様だ。

 完全に住居の様に改造しており、湿度以外は快適に見える。

「あら、起きた?体調はどう?」

 そう声を掛けてくれたのは、背丈が低くずんぐりむっくりな体形をした女性だった。

 耳も尖っていて、筋肉質だ。

「えと、助けて頂いて有難う御座います」

「いーのよー!スキルで治しただけだし…ホントスキルって便利よねー!お腹空いてる?」

「あ、はい」

「じゃあ干し肉と野菜のスープがあるから持って行くわね!傷は治癒したけど失血した分は治ってないからまだ寝てなさいねー!」

「有難う御座います!」


 肉って聞いたらお腹が空いてきた!

 ご飯を頂いて様子を見よう。


 二時間も経った頃、旦那さんらしき男性が帰ってきた。

 同じ様な身体的特徴でサンタの様な白いひげを蓄えている優しそうな人だ。

「おお、嬢ちゃん目を覚ましたか!かなり出血しとったから無理しないで寝ておけよ?うちのカミさんの料理食べたらすーぐ元気になるからよ!」

「有難う御座います!」

 どうやら彼らはドワーフ族の様だ。

 背は低いが力があり、彫金、家事、石工を得意とする気の優しい一族だ。


 状況確認の為に立ち上がる。

 ん、矢張り失血の所為がふらつくな。

 おおっ!!

 倒れそうになった処を奥さんが支えてくれた。

「丁度良かった、旦那も帰ってきたしご飯にしましょ!」

「有難う御座います!」


 頂いた野菜のスープは野菜の味がしっかり出ていて最小限のスパイスで野菜を引き立てている。

 パンもまた焼き立て熱々で本当に美味しかった!

 がっつき過ぎたのか、気が付くと二人がニヤニヤしてて気恥ずかしくなった。

 コロちゃんも熱々のパンはお気に召した様だった。


「あの…まずは助けて頂いて有難う御座いました!私はレクスと言います。私、上から落ちたんですが…見つかった時どうなってました?」

「おお、礼儀正しい子じゃ!ワシはオルドフ、こっちが妻のフレイ。どうじゃ、美人じゃろ?」

「もーやだー貴方ったらー!」

 奥さんが照れ隠しビンタしたら凄い音が鳴ったんだが…旦那さんもびくともしていない!


「レクスちゃんは丁度落ちた場所の真下なのかな?地面に叩きつけられる前に浮遊がついていたのか地面スレスレで静止していてな。その猫がワシのブーツにしがみついてきてな。助けて下さいって言ってるみたいだったよ」

「この子、私のお姉ちゃん的存在なのです!」

「ににんに!」

「そーかそーか、いいお姉ちゃんを持ったな」

「はい!」


「美味しかったー!ご馳走様でした!」

「はい、お粗末さま!そんな早く血は出来ないから、ゆっくり寝てなさい」

「フレイさん有難う!」

「あ、そうじゃ!お主の物か分からんが拾っておいた物があるぞ?」


「え?」

 手渡されたのはつい最近見た、子供が遊ぶ様なありふれた人形だった。

「有難う、友人に渡しておきます」




 そのまま二日が過ぎ、漸く身体が回復してきた!

 その日は少し外を見て回ろうと、初めて外に出てみた。


 洞窟を徐々に光の方へ出ると、その光景に息を飲んだ。

 こんな谷底に草木が生い茂り、岸壁を削った階段と店や住居。

 光量が足りない部分は光る苔みたいなのを植えて光を補っている。

 そして圧巻なのが至る所に施された彫刻!

 模様やモンスター、文字までが美しい。

「は――――――――――――!!」

「どうしたレクス、発声練習か?」

「いえ…街が美しすぎて…エルフの街も美しかったけど、ここも負けない位芸銃的です…」


「まてまて、一つ誤解しておる」

「何でしょう?」

美しい…だぞ?」

「ふふっ!あはははは!!」

 そうだ、エルフとドワーフって仲が良くないんだった!



「親方―!オルドフの親方!」

「なんじゃ、騒がしい、何かあったのか?」

「採鉱の為に掘り進めていた横穴の先にやたら硬い大石が出て来て、行き詰ってるんです…」

「何…すぐ行く!!」



 一緒に着いて行くと電車のトンネルに近い大きさの穴があり、中に置かれたランタンの明かりが行き先を教えてくれている。

 暫く進んだ先に見えてきた、洞窟に食い込む様に埋まっている巨岩。

「これが恐ろしく硬くて、刃が立たないし爆破もびくともしないんでさぁ」

 オルドフさんが巨岩に近寄り、腰の道具袋からノミとハンマーを取り出して思い切り打ち付けた!


 洞窟内に金属音が木霊する!

「…嘘だろ、俺の道具を思い切り打ってこの小さい傷一つかよ…」

「これがある限り予定の工程まで進めません…ここは他の用途で考えるとして他の場所を…」


「ねぇ、オルドフさん!これを何とかしたら、オルドフさんに世話になっている恩返しになりますか?」

「ん?そりゃあ、こちらが金を払う位有難い話だが…出来るのか?」

「多分問題ないよ!二人共後ろに下がってて!」


 名も無き刀を取り出し、封印解除する。

「…名も無き残響ネームレス・リフレイン!!」

 抜刀術で巨岩を一刀の元に切断し、斬り口から威力が残響し、崩落していった。


「ふーっ!」

 体力の消耗を抑える為にすぐに封印し、刀を締まった。


「いや、たまげた…あんた凄い腕の持ち主だったんだな…」

「ど…どうなんでしょう…?相方には規格外って言われる事ありますけど…あ、《社》に連絡下されば何時でもやりますよっ」

 調子に乗って横ピースしてみる。


「有難うよ!滞在費なんか頂かねぇし、後で御礼させてくれ!」

「オルドフさん有難う!少し散歩をしてきていい?」

「おう!行っといで!」


 どこの石階段にも手摺りが備え付けられており少し高所のお店でも怖くない。

 ドワーフの道具のお店、生活雑貨のお店、彫金のお店等、どれを見ても質実剛健な作りなのにデザインが洗練されている。


「こんにちは、いらっしゃい!」

 アクセサリーを見ていると店主さんが優しく挨拶してくれた。

「こんちはー!初めて来たんですがどれもこれも素敵で…」

「ホホホホ、有難うよ!これなんかどうじゃ?」

 見せてくれたのは青白く光る指環だった。

「うっわー綺麗!」

「綺麗なだけじゃないぞ?これは御守効果があってだな…」


 …………効果も気になって買ってしまった。

 いいなぁ…ここ!

 和やかだし、美しいし、何より人の心が豊かだ。

 多少の争いはあるだろうが、妬み嫉みとは無縁の人達。

 そういえばエルフもそうだったか。


 それよりも謎の狙撃者達…数も存在も発砲音が出るまで分からない。

 ……ん?単発じゃない…銃撃音が複数だった…

 単発じゃない、つまり長距離からではなく中距離…いや射程の短い銃を当てる為に至近距離まで完全に気配を消して近づいてくるのだ。

 つまり、撃たれるなら数メートル以内にいる。

 それを逆手に取れば…

 二日寝ていて安全だったのは、向こうが飛行を持っておらず追うのが遅れていると見ていい。

 私達を狙う位だ、死亡確認が取れてない事を恐れる筈………







 修理に時間が掛かった為に三日も出遅れてしまった!

 月花の怪我が心配でならない…

「式部、将来破壊者になるかも知れない奴がこんなところでくたばらないって」

「月花は何だかんだ強いし悪運もある。状況を読み取って動ける人だから大丈夫だよ!」


「ベアトリクス、ルクレツィア、有難う…」

 体制は整えた。

 まずは月花を見つけたい!


「ダイヴ・イン!」

 座標を指定していなかったから前回と同じ谷底の側に降り立つ。


 砂埃が立つ程度の風が渦巻いている。

 私は出来るだけ迅速且つ無言で魔槍を投げる!


「ぶほぁ!」

技術強奪スキルスティール!」

 何もない空間から吐血が起こり、スキルを全て奪い取る!

 現れたのは六花ちゃんが斬ったのと同じ迷彩服の男。 


 近寄り槍を数回抉る様に回してみる。

「うぐおおおおおお!!!」

「コンディションが悪かったな、砂と風でまるみえだったぞ?それより叫び声じゃ分からん。命は助けてやるから依頼主、お前が誰なのか答えろ」

「依頼主は知らねぇ…使いの者が現金前払いで仕事を依頼してきた。俺達はしがない強盗だったんだが、向こうの世界の装備を手に入れて名が売れてきたばかりの賞金稼ぎです…助けて下さい…」

「この装備の奴が後何人いる?」

「さ、三人だ…お前達に付いていったのと、レクスを追跡しに行ったリーダー…」

「そうかそうか…ちなみに服まで奪うとは念入りだな?………殺して奪い取ったな?」

「ち…違うんで…」


 魔槍を三回転程させると上半身を抉られて絶命した。

「日頃大人しい人を怒らせてはならないという典型的な例だねぇ…」

「私、初めて式部にドン引きしたわ…ところで下に降りるんでしょ?飛行どうするの?私はあるけど…」

「……あ…二人とも今から見る事は絶対に黙ってて欲しいにゃ…特に月花の家族には…」


 二本指で二人に飛行結晶を付ける。

「え!?式部も使えるの?どういう事?」

「どうもこうも、そういう事なんでしょ?他人の色恋に口挟んだら駄目だよ!」

「は―――い!」

「…二人とも有難う!」


 このまま下に降りれば月花の落ちた辺りだ。

 月花、どうか無事でいて!!!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る