第64話 I was happy to see you.
話の展開が怪しくなってきた。
わらべ唄で伝承していたと思しき水晶に封じられた男女を見つけて、お嬢様の病を治そうとガルワルディアからお医者様に来てもらい、見てもらうと水晶にいる男がこのお姫様が治らない様に状態を維持する魔法を掛けていた!
「医者のおっちゃん!水晶から出そうか?」
「いや、少し待ってくれ。彼女が目を覚ませば何か分かるかも知れん」
「
「ベアトリクス、その繋がりって斬ったらどうなる?」
「斬る!?…もし出来るとしたら…繋がりで状態維持していた魔法が解けるかもしれんが…死の呪詛も魔方陣を解除しようとする事でトリガーするから、斬る事は想定されていない筈よ」
「物は試しよ!!!
封印解除状態にし、刀を居合の構えにして集中する!
「…
凄まじい風切り音と共に空を切り裂く刀!
「どうだ、繋がりは斬れそうか?」
「あんたホント凄いわね…見事に斬れたわよ。御姫様にも影響なしよ」
「何でもやってみる物だ。何せ我は刀術に特化したスタイルだからな、刀で負けると形無しだ」
「……今、駄洒落はいらないわよ?」
「たまたま韻を踏んでしまっただけよ////」
刀を封印し元に戻す。
「医者のおっちゃん、引き続きお姫様を頼むよ!下で食事を作っているから出来たら持ってくる」
「任せておけ。大昔の病気に負けてたら医者の名折れだわい!」
下に降り、式部の手伝いで野菜の皮を剝く。
「…じゃがいもってなんでこんなに
「ゆっくり向いて、ジャガイモの芽は包丁の後ろで切り取るだけ!月花は普段から斬ることはあっても剥いてないからにゃ♪」
「私は村でやってたから料理は余裕よ」
「わたしはオアシカで調理補助もしてるから!」
「女子力の低さがこんな処でバレるなんて…」
「調理は殆ど私が担当だけど、基礎位は出来てないとね?月花パパもママに習ったんでしょ?♪」
「らしいね!流石に小町ちゃんには劣るけど近い味は出せるよ!ママが逆に普通過ぎて…」
「あら、六花ママもお料理美味しいわよ?家庭的で素敵だと思う」
「ベアトリクスはママに似てるから補正が入ってるだけだよー!」
出来上がったのは野菜のスープだった。
病人にも優しいスパイスを抑えた味が野菜の旨味が出ている。
様子見がてらにお医者さんとお姫様にも持って行くが、まだお姫様は目を覚まさない様だった。
「式部、巨人はどうなった?」
「うん、それがここに向かってると思ってたんだけど途中で止まったんだにゃ♪」
「止まった…理由は何だろう…お姫様が水晶から出て来たのに関係してるかな?」
「恐らくそれに違いない…それより月花、地下の施設にあった死体…あれこそがわらべ唄に出て来る魔法使いじゃないのか?」
「上に居る男はお姫様に呪詛を掛けていたし、可能性は高くなったね」
「…ここまで来るとなるとあの質量だ、地形に影響しそうだし巨人は倒しておくべきかな?」
「お姫様の目覚めの前に近づくならやむを得ないな…お姫様に会ったら何らかの化学反応が出そうなんだが…」
「防御魔法もかかってたけど大丈夫?手前ギリギリまで粘ると危ない感じがするよ?」
「医者のおっちゃんもお姫様も危険に晒すことになる。一定のラインを超えたら倒してしまおう…」
―――翌朝。
時折トイレに降りてた様子を見るとお医者さんは徹夜で看病をしていた様だ。
知らせが無い処を見るとまだお姫様は目覚めていない様だ。
しかし、森の中にある屋敷だからか、凄く空気が良くて目覚めがいい!
身体を伸ばしていたら、お医者さんが顔を見せた。
「お姫様が目を覚ましたぞ。彼女の食事はあるか?」
「すぐ温めるから待って!!」
厨房へ行き、釜にスキルで火をくべる。
「火…火…
「
横を見ると式部が肩で息をしていた…
「月花…火起こしで摂氏5・5兆度は過剰で盛り過ぎだから…私がやるから…」
「あー、ごめんね!いつも有難う」
机に戻るとベアトリクスとルクレツィアが呆れた顔してたのだが何故だ…?
取り急ぎ、お医者さんの分とお姫様の分を持って皆で二階に上がる。
部屋に入ると、お医者様と、ブルーの瞳の御姫様が弱弱しく上半身を起こしていた。
「おはよ!敵じゃないから安心して!隣のお医者様に難病は治してもらってるからもう心配いらないよ!」
「有難う御座います…有難う御座います…」
「まずは栄養補給からだにゃ!まだ両手動かしにくい?♪」
「はい…」
そういうと式部が冷ましながら食べさせ始めた。
「美味しい…」
「式部の料理は特別美味しいからね!」
「うむ、確かにあり合わせの材料だろうに、良い味をしておる…」
「にゃはは♪」
「食事中ごめんね、あそこで
「いいえ…その水晶のトラップに掛かっているという事は私を狙ったアサシンだと思います」
『アサシン!?』
「私の所有する魔法を奪わんと何人ものアサシンが送り込まれました。そんな時出会ったのがあの魔道士さんでした…でも、私が水晶に封印される数日前、彼の研究所があった場所に巨大な何かが落ちて来て…それ以来彼は来ませんでした」
「成程…因みにどんな魔法を奪おうと狙われてたの?」
「えっと…飛行の魔法です」
「…そっか、今はスキルもあるしメジャーだけど昔は激レアだったんだね…」
「え?」
「今は飛行って割とあるんだよ。もう狙われる理由はないよ!」
色々ほっとしたのか、涙を零している。
「泣きながら食べると美味しくないよ?しっかり食べて元気出して!」
「はい…はい…」
と、ほっとしたのは良いが、研究所に彼と思しき遺体があったのを言い出すべきかどうか迷っていた。
と、その時、軋みの様な音が聞こえた。
「ん?何か変な音がした?」
「月花!あれ!!」
アサシンの水晶に亀裂が入り、炎が隙間から見えている!
「皆、ベッド側に!!!」
ベッドから結晶障壁を張ると同時に、凄まじい破裂音と火炎が障壁にぶつかる!
「…時が経てば人も変異するのか…可笑しな術を使う…」
障壁の向こう側で男の足元から炎が渦巻いている!!
「…我を愚弄するとは面白い。胸を貸してやるからかかってこい!」
「うお、なんだこれは?」
「貴様が欲しがっていた飛行だ…つけてやるから負けた言い訳にするなよ?」
上空に誘いながら皆の居場所から遠ざける!
「ははは!上等だ、後悔するなよっ!!爆火炎竜!!」
炎の竜がこちらに襲って来る!!
「氷結竜!地岩竜!!水渦竜!!!まとめて喰らいやがれえぇぇぇっ!!!」
纏めて四匹がこちらを襲う!!
「逃げ場もねぇぞ!水鏡の隕石!!」
上下から隕石が降り注ぐ!!
次の瞬間隕石も竜も全て真っ二つになる。
「はぁ!?魔法を斬っただと!意味が分からねぇ!?」
「…数百年後の人間が、自分より弱いと何故錯覚していた?」
「俺が最強だからに決まってんだろおがよぉっ!!」
「そうか?己を過剰評価し過ぎた井の中の蛙だろ?私の仲間の方が五万倍強いな」
「石化!!!」
石になり閉じ込められる。
「はっ、こんな手に掛かるとはクソ雑魚がぁ!破壊衝動!!」
粉々になると思っていたのか、表面の石が零れ落ちるだけでびくともしていない。
「そろそろ手品も打ち止めの様だな?次はこちらのターンだ!」
「くっそ!体制を整えて…」
アサシンが上に上昇し、そう言い終える前に巨人が伸ばした掌に握り潰された。
形容しがたい音が鳴ると、谷に何かが落ちていった。
「……お前」
「…ヒメオ…アイシタカッ…タ」
男の切ない声が周囲に響き渡った…
ベッドの御姫様を見ると、どうしようもない位震えて泣いていた。
「私も…私も…心の底から再開の日を楽しみにしてましたよ…」
その言葉を聞くと、急に力なく崩れ、巨人は谷底へと落ちて行った…
数日も経つと、お姫様…レティシアは動ける様になり、上半身はほぼ元通りに動かせた。
お姫様にそれとなく魔導士の話を聞くと、彼は彼女の水晶を守る為に敢えて一緒に水晶に入らないと言っていた。
だが、運命を引き裂く様に天より降った隕石か何かにより研究所も潰れ、もう会えないと思っていたという。
「ベアトリクス…人形に魂って宿るものなのかな?」
「生き物の身体ならまだ分かるけど無機物に宿る事なんてあるのかしら?」
「…愛かにゃー!♪」
「愛だよねー!絶対!!」
彼の肉体は滅んでいたのかも知れないが、偶発的に周囲のエネルギーを取り込んで起動した人形に宿り、魂を振り絞って水晶から蘇ったお姫様に会いに来たんだ。
無理に理屈を付けなくていい。
会いたかったから会いに来たんだ。
それでいい。
だが決して、クレーターで巨人を目覚めさせる程のエネルギーのぶつけ合いをした人達を責めてはいけないっ!
「レティシア、まだ完治までかかるけど、治ったらどうするの?」
「…はい、もうこの世界には私の知人、友人、家族はいません。けどこうして今私を治せる位の医療が確立されている…それなら私も困っている人を治して行こうかと…そこで先生の
「え、未成年略取?」
「誰が犯罪者じゃ、ワシ国王ぞ」
「それはもう聞き飽きたっ!ここに長居するとガルワルディアの人も困るだろうし、向こうで治療を続ける?」
「そうじゃな、急患が出ていると困るからな。飛ばせてもらえるか?」
「お安い御用よ!」
二本指を差すと二人は飛行状態になる。
「凄い!身体が浮いてる!」
「レティシアは下半身のバランスが取れないから、お尻に飛行を付けたから身体が楽なはずよ」
「レクス、有難う!」
「おっちゃん、レティシアの事お願いね!」
「任せておれ!」
二人はガルワルディアへと目指し帰っていった。
さて、帰るか!
このラブストーリーは実らない結果に終わったけど、彼の願った通り無事に病気が治り、この世界に生きていく事になった。
願わくば彼女が寿命を全うするまで幸せで在ります様に。
タ――――――ン!!タタタタタタッ!
……月花が…撃たれた!
こちらも急いで障壁を張ると、こちらにも銃撃が止まらない!
月花は放物線を描くように谷へと落ちていく!!
「ぁ…ぅあ…ああああああああああああああ!!!!!」
「式部落ち着いて!」
「あの月花が撃たれたんだ、ただの狙撃じゃない!」
「ああああああ離して!月花がぁっ!!!」
「こちらも銃撃が止まない…」
「一度ダイヴアウトするべきか?」
「今の状況、一方的に相手が有利よね?式部、月花の生命力を信じて一旦引くよ!」
「…………分かった」
「ダイヴアウト!」
ホームワールドに戻ってきたけど、焦りや心配が入り混じって何も出来ず、非常用のベッドに倒れ込んだ。
「式部、転送装置に赤い光が付いてるけどなんだ?」
「なんでこんな時に…修理が必要だ…連絡する」
「一旦修理が終わるまで身体を休めましょ?修理が終わり次第月花を探しに行こう!」
「分かった…」
月花がいない時のリーダーは私なのに、なんでベアトリクスに任せてる!
私がしっかりしないと!
着替えて、《社》の修理の人が来てくれたのを確認すると、下に降りてオアシカへ栄養補給しに入る。
入った瞬間、ママに見つかって椅子に座らされて目の前に私の好きなエスプレッソフラペンと食べ物が沢山出てきた。
「なぁに?なんか辛い事あったの?♪」
ママに言われて涙が止まらなくなり、ママによしよしされた。
「んー…そっか…心配だけど、あの子は
「うん…」
「だったら信じて、今出来る事をする!転送装置が修理し終わるまでコンディションを整える!そーでしょ?♪《社》に仕事の終了報告はしたの?」
「……してない」
「じゃ、世界一のラブリーママが《社》へ連絡しておいてあげるから、式部はちゃんと食べなさい!♪」
「……ありがとママ…」
「ん―――!いい返事!流石、宇宙一のラブリー愛娘!♪」
その頃、私服に着替えたベアトリクスとルクレツィアがワクドナルドを買って秘密基地で食べていた。
「月花の家…入りづらいもんねー」
「おたくの娘さんが撃たれて行方不明ですけどお風呂貸して下さいって、かなり狂気の沙汰だからね…」
「そうだよね…月花大丈夫かな?」
「月花の追跡は、妖精の指環で感知出来るし、襲撃者の奴らには追跡をつけておいたから、どっちも後追いは大丈夫よ」
「流石ベアトリクス!」
「とりあえずたべましょ!目の前で修理してるからいち早く分かるし」
「そうだね!早く月花見つけなきゃ!」
タ―――――――――ン!!
ついさっき聞いたばかりの銃声が下のオアシカカフェから響いた。
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