第63話 nursery rhyme

 ベアトリクスがウォーズを見終わり、次はウィザーズを見始めた。

 自身も召喚魔法使いなだけに、一話からの魔法使を使うライダーのインパクトは大きかったらしく即ハマった。

 ベアトリクス、ちょろい!


 うちも人が増えて手狭になってきたし、貯めてきた貯金で家建てようかなぁ…

 家建てるなら、式部よめの意見も聞かないとだし、二世帯住宅にするか三世帯住宅にするかも悩む。

 身バレは気を付けているが、セキュリティも導入しないと怖いしなぁ…


 現在の秘密基地は家から出動に苦は無い近さだけど、家の中からなら尚更都合がいい。


 またママと相談してみよう!

 最近常に誰かが居てるから、パパとイチャイチャしてないだろうし。



 そんな事を考えてた時、知らせは突然入ってきた。

 スマホに《社》からの通知。

 最近多いなーと思いながら、内容を見ると…



【緊急討伐依頼】

 一つの王国を遥かに凌駕するサイズの巨人が突然出現し、ゆっくりと進行しています。

 目撃証言によると、その地はここ何百年と平和でしたが、先日該当地にて大規模な決闘らしき行為が行われたと目撃証言があり、そのエネルギーを吸収したのか、もしくは衝撃で目覚めたものと思われます。


 まず、該当地へ趣き、レクス様のチームで処理出来ない場合は他の冒険者インターセプターチームも派遣致しますので宜しくお願いします。




「いやいやいや、今時決闘って…」

「確かに血の気の多い奴もいるけど、今時そんな大袈裟な決闘なんてやらないでしょ?」

「実際何がトリガーで起きたのか分からない位古き巨人なのかにゃ?」

「私の弓矢刺さるのかしら…迷惑よね、そんな巨大なエネルギーをぶつけ合う決闘…」


「まずはその場所にいってみよう!止める方法があればいいし、無ければ被害が出る前に止めなきゃ!」


 四人で指定された座標へ飛ぶ。



 その場所はマーメイドの国ウォータリアより遥か北。

 凄まじい規模のクレーターが残っている小さな街だった。



「ここ、最近来たよね?」

「丁度私が記憶がなかった頃かにゃー?」

「どうしたの?月花もベアトリクスも汗が滝の様だよ?」


「けけけけけ決闘とか誰でもちょくちょく気軽にやっちゃうよね?ほら、私のプリン食べたとかレベルで周囲を溶岩の海にしちゃったり…」

「そそそ…そうそうそうライダーの録画消しちゃったとかそんな痴話喧嘩レベルで人をイフリートで襲うことだってあるあるーあははは」


「あの街に二度と行けなくなるから、被害が出る前に止めるにゃ!」

『お――――――!』

 こんなに固く友情が結ばれたと確信した日は未だかつてなかった。




 クレーターの北側に、遠目でもはっきり分かる位の巨人が歩いている。

 クレーターを登り北に向かおうとしている。

 身体の至る所に防御魔法の式が光り、どうやら古くに創られた巨人の様だ。


「いや、デカいな!!!」

「討伐しても、倒れるだけで被害が出そうにゃ…」

「北に行く理由が分かんないよね、何でだろう」

「まず、あれが何目的で創られたのか…防御魔法も仕込まれてるとこを見ると攻撃される事は想定されてるみたいだが…」



「あの巨人が這い出て来た場所、穴が空いてない?」

「埋まっていただけかもしれないが、もしかしたら研究施設もあるかも?」

 穴に近寄って中を覗き込んで見ると…やはり建造物と思しき小さな横穴が見える。


「何が手掛かりあるかなぁ…ベアトリクス、あの穴に入れる位小さくなれる?」

「問題ないよ、月花は大丈夫なの?」

「うんうん、式部とルクレツィアは街に伝承とか残ってないか調べて貰える?」

「お願いするわ、私達はアレがナニで色々無理だからー♡」


「二人共街で見つかったらがっつりヘイト取りそうだからルクレツィアと行ってくるにゃ♪」



「さぁ、中に入ろうか!九尾の心!」

 以前貰った九尾の動物になれるスキルだ!

「あら、もふもふの九尾の狐可愛い!ミニマム!」

 小さくなったベアトリクスを背中に乗せて通路を進んで行く。


 安全な箇所を下方向へ進んでいくと、部屋の通気口から大きな部屋に出た。



 スキルを解除し、中をくるりと見てみる。

 魔導書が所狭しと積み上げられ、椅子と机、外に出られるドアらしき部分はドアが外れて土砂が流れ込んでいた。

 そして机にうつ伏せになる白骨…



「ベアトリクス、何が分かりそう?私は魔法系さっぱりだから…」

「……見回した感じ。本はホムンクルスとか魔導人形なんかの本ばかりだね。恐らく小さく作った魔導人形を大きくしたのがさっきのじゃないかな?あ、でも医療の本や物理構成の本もあるね」

「物理構成って何?」

「簡単に言うと身近な物から別の物を作ったりする魔法だね」


「うーん…あの大きさの人形を動かず理由……絶対何かある筈なんだけど…不穏な発想しか思いつかない」

「普通はそうだよね?力で何らかの事をしようとしか考えられない大きさだし…」

「他にヒントないのかなぁ?」

 部屋の反対側にドアがもう一つあるのでそっと開けてみる…


「ベアトリクス、これ…」

「うん、さっきの巨人の人形だね」

「沢山あるけど、壊れた物や形が微妙に違う物が夥しい数あるね」

 何個か拾って確認する。


「魔導人形ってこんなに軽いの?」

「んー…目的にもよるだろうから一概には断言出来ないけど、子供の玩具みたいな軽さだね。でも、あの人形は目的意識を持って動いてるようにしか見えない…何故だ…」



『月花!街で調査している内に気になる話が出てきたにゃ!♪』

「気になる話?」


『うん、巨人を見て子供達が口々にわらべ唄の巨人さんみたいって言ってるにゃ!』

「どんな歌か聞いてみた?」



  素直な人形の魔法使い


  お姫様と恋をした


  姫様、病気で城の中


  外に出たいが出られない


  橋も谷底 渡れない


  人形を作った魔法使い


  愛しい姫に会いに行き


  空石落ちて会えずじまい



「わらべ唄…少し今の状況と似てるね」


『あの巨人、お姫様の元に向かってるんじゃない?何であのスケールの巨人なのかは分からないけど…』


「合流して、巨人の歩く先を見に行こうか!」

 外に出て、式部達と合流すると、クレーターから這い上がり歩いていく巨人の方向を確認する。


 すれ違いざま巨人を観察すると口から唸りの様な何かが聞こえるが何と言っているかははっきりとは聞き取れなかった。



 巨人を待たずに先に進んで行くと、森林地帯の中にかなり高低差のある谷があった。

「…成る程。道は続いてるけど谷で切れている。谷の向う側に渡ってみようか!」


 飛行で対岸に回る。

 上から見た所、ここは離れ小島のように周りと繋がってない場所になっていた。

「んー…樹木ばかりで何もない?」

「いや、あそこ見て!」


 ルクレツィアが指差した先には大樹と一体化している美しい家があった。

 流石、森でのエルフの知覚能力は高い!



「凄く綺麗な住居だ…エルフの国を思い出す…」

「こんな場所に大きい家…わらべ歌の御姫様がいた家かな?」

「生活の跡が分からない位の年月が経ってるね。お邪魔してみようか」


 そっと両開きの扉を開き、屋敷の中に入る。

「静寂…やはり無人だね、まず一階を調べてみようか」

 全員で部屋や台所を見て回る。

 使用人の部屋が幾つもあるが、豪邸という規模ではないので数は少なく、人の気配はまるで感じられない。

 他の部屋も同様に綺麗に整頓されたままだった。


「屋敷の人達の私物がまるでない。被害にあったとかじゃなくて引き払った様感じだね」

「そーだにゃ。紛争の跡はない、住人は出て行ったと考えるのが自然かな?」

「二階も見に行こう!」


 正面の大階段を上がり、正面の部屋の扉を開けると……青い光が目に飛び込んでくる。

 ベッドの脇にある燭台の炎はどうやら魔法の様だ。

 魔法の炎に照らされた青い光の光源…

 巨大な青い水晶が部屋の正面に。

 そしてその中には美しい少女が封じられている。

 そしてその側には男が1人、膝を付いた状態で同じく水晶に封じられていた。


「わらべ唄の二人…?」

「だろうな、攻撃されてこの状態ではなさそうだ…」

 ベアトリクスが側にあった書物を手に取り目を通している。


「やはりな。このお嬢様、不治の病だったみたいだ」

「後の世に回復を託し、男も一緒に…ってラブロマンスみたいにゃ♪」

「うん、この日記には対象の病気が治癒出来る世の中になった時は、お嬢様を起こして下さい、と書いている」

「その病気って今も治せないの?」


「今はスキルもあるしな。厄介ではあるが普通に治癒可能だよ」

「じゃあ起こして治癒してあげようよ!」

「……勿論起こしてあげるのが正解だろうけど、何百年も経ち、知り合いもいないこの世界を二人はどう思うのかな…」

「サポートはしてあげよ!何ならあのクレーター側の街なんかいいんじゃない?」

「ベアトリクス、薬はいる?スキルじゃ無理?」

「少し厄介な病気だから薬がいるね!月花、あの医者の所に行ってもらえる」


「うえええーやっぱりー!!」


 爆速でガルワルディアに戻り、いつもの医者の元を尋ねる。




 コンコンコン!

「タダイマ、デカケテオリマス。モウスコシジカンガタッテカラ…」

「あーけーてーってば!!」


 二cmほどドアが開き、医者の顔とドアチェーンが十本位見える

「……ちっ」


「舌打ちすなー!お薬欲しいの!」

「胸を大きくする薬はないぞ?」

「あれば百回でも土下座するわっ!後天性筋繊維硬化症って分かる?」

突然、勢いよくドアが一cm多く開く!

「何!?もうとうの昔に無くなった病気だぞ?どこで病気をもらった!?」

 長いけど一から話をして、水晶に閉じ込められた二人を見つけた事を話した。


「ふむ、珍しいケースじゃが昔は不治の病に掛かると後の世に治療の希望を託し水晶に封じるのは稀にあったのじゃ」

 ジャリジャリジャリ…ガチャ!

 ドアが開き、医者が出てきた!


「ワシを連れて行け、進行状況も見ないと危ないやもしれん!」

 この人の良い所は患者を絶対に見捨てない強い意志だ!




 お医者さんに飛行を付け、飛ぶのに不慣れなお医者さんを誘導しながら屋敷に戻った。

「ただいまー!」

「あれ?お医者さんも一緒に!?」

「うん、レアケースだからちゃんと見てくれるって!」


「これがわらべ唄の二人か…まぁ、まずはそのお嬢様からだな」


「どうやって水晶から出すの」

「水晶に魔法陣があるだろ?それに触れて水晶が無くなる処をイメージするんだ」

「流石ベアトリクス!」


「ねぇ、男性の方は何故魔法陣が床にあるんだろ?」

「うん、そこが少し気になってるんだよね」


 式部が魔法陣にイメージを注ぐと、水晶が薄く消えていき突然消滅した。

「おおわわわ!」

 咄嗟にお嬢様を抱き抱えてベッドへ連れて行った。


「では、診察をするから待っておれ。水晶の男の方も同じ病だと困るからなまだ水晶から出すんじゃないぞ?」




 余りにする事がないので、式部が巨人の偵察がてら、買い出しに行き料理をつくるらしい。

 異世界で式部の料理が味わえるのは嬉しいのでホクホクしながら待っている。

 たまに水をバケツで汲んであげる位しか仕事がない。


 ベアトリクスとルクレツィアは周囲を散歩に行った。


「レクスよ、少し上まで来い」

 二階からお医者さんに呼ばれた。

 初めてお医者さんに名前を呼ばれた気がするが、なぜ呼ばれたのが気になり上に行く。


「どうしたの?」

「……あー、今のままではこの娘は治らん」

「え!何で!?昔の病気何でしょ?」

「うむ、これを見てくれ」

 彼女の胸元を少し空け、指で触れると先程見たのとはまた違う魔法陣が現れる。


「これって!?」

「簡単に言うと魔法による呪詛だ。この娘の病気を維持しておる。恐らく魔法陣に手を加えると進行を早めるか…死に至る」


「ベアトリクスを呼ぶよ!魔法のエキスパートなら何か分かるかも知れない!ベアトリクス、聞こえる?」

『ん、どうしたの?』

 事情を話すとすぐ飛んできてくれた!



「ふーん、その医者の行った通りだね。魔法陣を解除しようとすると命を奪う仕掛けだよ」

「誰がそんな質の悪い事を…」

「どんな魔導でも私の眼は誤魔化せない…微かだが魔法陣と繋がる糸が見える」

「追えば何か掴めるかも!」


「その必要はない…魔法陣はその水晶の男から伸びている!」

「えっ…?」

「わらべ唄の通り恋人同士ではなかったの?」


「裏があるな…一旦状況を整理しよう!!」

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