第62話 Invincible Identity

 念の為に昼間の内に、ディーヴァと上から戦えそうなポイントと人が少なそうな場所を抑えておいた。



 私は遠くからこの街を見て、奴はこちらに来る確率が高いと踏んだ。


 何故か?

 奴は何回も『魂の輝きが』と口走っていた。

 鍵はきっとあの剣…一番こだわっていたのはそこだ。


 つまり、魂の清らかな者を優先して殺しに掛かると踏んでいる。

 即ち、遠くからでも視認出来る位大きい大聖堂があり、聖職者がいるこの街の方を狙いに来ると読んだのだ。



 今夜は雨も風も無く、視界を確保しやすいので有り難い。

 港町で朝が早い所為か寝静まるのが早くて深夜まで起きている人が少なそうだ。

 だが、教会は燭台の蝋燭ろうそくだろうか、希望の灯火を消さぬと言わんばかりに力強く輝いている。



 その大聖堂前にふらっとフードを目深に被った男が現れる。

 後ろから分かりづらいが背中に帯剣してるのは誤魔化せない!

 奴だ!


 もう既に刀も封印解除シールリリースしている!

名も無き六之太刀ネームレス・シックス炎陽えんよう!!」

 炎属性の回転六連撃を不意打ちで叩き込む!!!

 背中からクリーンヒットしたが、フードが燃え上がっただけで、傷一つ付けていない!

流星触メテオエクリプス!!」

 直ぐにスキルを撃ち放つがスキル無効で掻き消された!



「来たな昨日の奴!もっと魂を輝かせろ!最高潮に達した時、俺が喰らう!」

「はぁっ!ストライクラッシュ!!」

 ガキギギギギィン!

 首を狙ったディーヴァの一撃が物理無効で跳ね返される!


「何だお前も居たか…お前には興味がねぇよ」

「母さんの!仇を!!討つまではぁっ!!」

「そういう余計な感情はいらねぇんだよ、殺るか!殺られるか!シンプルイズベストだぁ!」

 男が我を無視してディーヴァと撃ち合いを繰り広げる!

「あはははは弱ぇ弱ぇっ!!……あ?…そういや、お前は以前…」


名も無き七之太刀ネームレス・セブン!!」

 竜巻を発生させ七回斬り刻むのだが、全て属性無効で弾かれる!

 背中から狙ったのに刃が通らない!!

「属性攻撃も使えるのか…ほんと面白れぇなぁお前!」


「我はもう貴様の手品の種を把握した。貴様はここで朽ち果てろ!」

「……何?」

「無策で属性攻撃を仕掛けている訳じゃない。。分かるな?」

「ほぉ…それで勝ったつもりかぁぁぁ!!!」

 踵を返し、こちらに連撃を入れてくる!

 だが、剣術のレベルは高い訳じゃない!


「召喚シヴァ!凍てつかせろ!!」

 ベアトリクスが来てくれた!

 シヴァが男を足元から凍らせていくが、胸まで凍らせているのに属性無効で薄氷を割る様に簡単に動いている。

 尚もシヴァは氷を男に飛ばし続ける!

「はぁ…無駄だって言ってんだろぉがよ!!!」



「いいや、チェックメイトだ!」


 男の背後から突然人影が現れ、男の首に牙を突き立てる!

 そう、こいつは無敵を装っていたが物理無効と属性無効、スキル無効は同時に付いていない! 


 昨夜炎の柱の中へ斬りつけに行った私に、自分から斬られに近づいたのは、炎の中から出て物理無効にチェンジしたかったからだ!


 そして、牙さえ通れば物理無効でも属性無効でも!!

「うぇああああああああああ!」

 藻掻もがくも、闇の王たるヴァンパイアの膂力りょりょくに勝てず吸われ放題だ。


「さて…赤い亡霊よ。私が次に繰り出す攻撃は…物理攻撃、属性攻撃、スキル…どれだと思う?」

「うぉがああああ属性無効ぉぉぉ!!!」



名も無き封印ネームレス・シール解除弍リリースツー

 刀身を指でなぞると、透明になっていく…

 刀を鞘に納め、構える!!


色無き切り札カラーレス・ジョーカー!」

 必殺の無属性抜刀術で男の身体が上下真っ二つになる!!


「ディーヴァ!お母さんの仇だ!」

「よくも!母さんを―――!」

 頭に深々とショートソードを突き立て、二度と起き上がって来れない様に心臓も貫いた。


「……お母さん…やったよ…」

 ディーヴァが疲れたのか大地に膝をついた。

「辛かったな…よく頑張った…ヴァンパイアの人も有り難う。矢張り闇の王は強いな」


「急に呼びつけて何かと思えば…まぁ、飯を馳走になったと思えば安い物よ。また飯の種があれば呼べ。我輩は紫外線で肌荒れが怖いから帰る」

「今時女子かっ!でも有難う!」

刀を再封印し、次元の狭間にしまった。



「私とルクレツィアの出番少なくなかったかにゃ?」

「いいや、式部がヴァンパイアの人を連れて来なければ勝てなかったかもしれないし、ルクレツィアがベアトリクスを介抱してなければ駄目だったかもしれん。二人共有難う!」


「疲れた…結局あの男は何だったんだ?」

「推測だけど、物理無効と属性無効、スキル無効は異常な程体力を消費する技の筈なんだ。それを可能にしてたのはあの魔剣…」


「単なる多重攻撃の剣じゃなかったのか?」

「メインアビリティはきっと相手の魂を吸い取りエネルギーに変える…体力が無尽蔵になり、三種の無効スキルをあたかも同時に使っている様に見せて闘いを支配していたんだ。もう強くなりすぎて生死感とかが滅茶苦茶になってたんだろうな」



「しかし、無属性攻撃とか…まだそんな隠し玉があったのか」

「使うタイミングが余り無いからね…ベアトリクスもまだまだ隠し玉あるんでしょー?」

「無論だー!ウォーズでいうと最終回のホピドルコンボみたいなー!」

 とうとうライダー例えを覚えちゃった!!


「さ、ディーヴァ!いい報告しに一旦帰………」





 見ると、男にとどめを刺した彼女の剣が地面にポツンと落ちていた。


「自分の武器を忘れる位…早くお母さんに報告したかったのかにゃ♪」

「届けてあげるかー!アドレス交換しておけばいずれヘルプに来てもらえるかもだし!」

 念の為に魔剣は粉々に破壊し、スキルブラストでスキルを悪用されない様に全損し塵は塵にダストトゥダストで塵に還した。



 自分の愛用する武器を触られる事を極端に嫌う人もいる。

 それ程命を預ける武器は大事なのだ。

 ダイヴ・アウトし、そのまま秘密基地のベッドに座って《社》に電話をしスピーカーで皆で聞く事に。




「はい」

「レクスです。赤い亡霊の依頼を解決しました」

「レクス様、いつも迅速な手際、有難う御座いました。レクス様、デッドエンド様、ルクレツィア様、ベアトリクス様の報酬を振り込ませて頂きます」


「月花、私も?」

「ベアトリクスもこっちのお金があればライダーグッズ買えるよ?」

「有難う月花!コンセレのベルト欲しい!」

「すっかり仕上がったにゃーベアトリクス!♪」


「あ、もう一人冒険者インターセプターディーヴァも合流して助けてくれたので、彼女の報酬もお願いします。それで…彼女が武器を忘れて帰ってしまったので返却したいです。連絡を取ってもらえますか?」





「………えー…仰っておられる意味が分かりません」



「え?先程彼女が先に帰ったみたいなので……」

「……少々お待ち下さい」



「何事?」

「《社》が確認するより早く帰ってきたとか??」



「お待たせしました皆様。非常に申し上げにくいのですが、ディーヴァ様及び母上のスパイラル様は




「………え??」

「いや、さっきまで喋ってたし、赤い亡霊にラストアタックを刺したのも彼女なんだよ!?」


「実は三日前にこちらに帰られた時、既にお二人は酷い深手を負い事切れておられました。ただ…ディーヴァ様の転送装置はインしたままになっており不審に思っておりました。それを今、確認したのですが…確かにダイヴアウトになっていました。彼女は仇を討ち、ようや此方こちらに戻って来られたのだと推測します」



「……嘘……また…もっと早く私が…」

 式部が立ち上がり抱きしめてくれた。


「依頼を受けた時にはもう二人は亡くなってた。あの地に留まっていたのはきっとディーヴァのアディショナルタイムだったんだよ」


「月花…凄く悲しいだろうけど、総合的に見てどうにもならない事を自分の所為せいだと背負い込んだら駄目よ?たらればを考えたら心の闇から這い上がれなくなる」

「うんうん、きっとお母さんの仇を取れて、月花に感謝してると思うよ!」




 彼女にデジタルノイズを見たのは見間違いじゃなかった。

 ただ、死して魂を置いてきてでもお母さんの仇を討ちたかったんだ。

 自分は万能じゃないのに、まだ何か出来たんじゃないかと堂々巡りの考えを払拭出来ず、ただ式部の胸で黙って落涙する事しか出来ない自分に無力さを感じていた。






 ディーヴァのショートソードは《社》が形見としてお持ち下さいとの事だったので、護ってくれる様にと願いを込めてルクレツィアに託した。

 その内稽古をつけてあげないとな。


「レクス様、お待たせしました」

 夜の犬沢池…人気が少ない所に呼び出したのは先日、電話に出てくれた《社》の社員だ。

 普通はエージェントが代理として現れ、守秘義務性の高い社員は人前に現れる事は本来あり得ない。


 だが、長年所属し実績も上げているから信用が高いのか特別に社員が呼び出しに応じてくれた。


 ベンチに座る私の横に座る。


「来てくれて有難う御座います」

 片膝を抱えながら視線をやらずに礼を言う。


「いえ。私を指名という事は…先日の件でしょうか」


「うん。お参りに行きたいから二人の墓を教えて欲しい。他に家族はいたの?」


「ご主人様と…妹様がいらっしゃいます。言い方が悪いかもしれませんが、お二人への感謝として十分な金額をお渡ししておきました」


「…有難う。経済的な話で心は癒えないが、生きている者には必要不可欠だ。さて、本題だが…まだあるんでしょ?話してない事が。あの話の先が」


「お察しでしたか…実は実験的に転送装置にを導入していました。勿論その転送装置を使う方にはお伝えして、了承を貰っていました」



「…それだ…我はそれが聞きたいのだ」


 刀を取り出しても抜いてもいないのに、封印解除状態になった。

 紅い瞳と紅い闘気。

 少し《社》の社員が動揺している。


「実装までには至りませんが、転送される個体のボディをデータ化し、メンタルデータをコピーして合わせて送り出し、ダイヴアウト時にはデータと本体を統合…というシステムを試作中なのです」


「何の為に作っている?」

「勿論、冒険者インターセプター様の命を無碍むげにしない為です。研究が進めば、転送先で命を落としたとしてもオリジナルは絶対に安全です」

「で?何故ああなった?」


「ディーヴァ様達は残念ながら亡骸なきがらとなり戻って来られましたが…彼女の強い無念が図らずしも装置を擬似的に作動させてしまったのだと我々は推測しています」


「そうか…彼女が残した物を無駄にしないでくれ」

「お約束します」

「それと、応用出来たら安全な決闘スキルも視野に入れてくれ。訓練にも使えて決闘も安全だ」


「上の者に伝えておきます」

「ただ、彼女のデータを非人道的な事に使っていたら……《社》は即日この世から消滅する。分かるな?」

「心得ておきます」


 気を抜くと封印解除は自然に消えた。

「有難う。ごめんね、忙しいのに」

「いいえ。では失礼します」




「そんな事があったかにゃ…」

「ちょ、式部!いつから椅子の下に!!!」

「いや、話が不穏になったら止めようと…にゃはは♪」


「そのシステムが出来たら死に戻りが出来る…楽だけど命が軽い。ゲームみたいだ」

「そーだにゃ、命の重さを感じない世代が増えていくんだろうな」


「リスク無しで人を救えたら確かに良い事だけど、アナザーバースの人達からしたらリスク無しで自分達を殺せる存在って驚異だからね」

「実装するかは知らないけど、その時は使う人間を選んで欲しいね…」





 後日、ディーヴァ親子の墓参りに四人で行ってきた。

 そして、私のファンだと言ってくれた彼女に、ああいう輩がのさばらない様にしますと墓前で誓ってきた。


 で、ショートソードを受け継いだルクレツィアはと言うと…




「はっ!せい!」

「おお、狙いが良くなってきたにゃー!♪」


 犬沢池のほとりに多重結界を張って、式部が稽古を付けていた!

 式部はハンデで先日のアダマンタイトのなたで相手をしている。


「リーチは私の方が長いのに全然当たらないしー!」

「ショートソードはリーチが短い分、敵の懐に入りやすいけど、それは逆に相手のリーチ内にいるにゃ!」

「えー…間合い外ギリギリをキープし続けるって事かな?」

「正解にゃ!」

 超高速でルクレツィアと間合いを詰めて、式部が鉈の背をトン!と当てた。


「今のは凄く直線的な動きで間合いに入られた。ショートソードは間際でも相手にダメージを与えられるから大振りはしないにゃ!」

「はーい式部先生!」


「良かったら横に別の先生がいるからチェンジするにゃ?」

「式部先生がいいでーす!月花先生怖いし、ベアトリクス先生は超間合い外からライダーキックしてきそうだし!」


「怖いとはなんだー!でもベアトリクスはライダーキックしそうだな!」

「流石にトレーニングで本気のキックは出さないわ…」

「ライダーのTシャツ着てると説得力薄いなっ!」


「ルクレツィアは飲み込みが早いから!すぐ上達しそうだにゃ♪」

「だといいなー!弓も楽しいけど、やっぱり剣てかっこいいなぁ!斬った感触もダイレクト…」

「怖い怖い怖い!」


 悲しみの分だけ強くならなければ。

 そして自分の手の届く範囲の人を守りきる。

 悔いがない様に毎日を歩なきゃ!

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