第61話 Crimson Murderer

 平日ではあるが、学校は休校だ。


 というのも先日の学校消失事件で、校舎と体育館が不思議な事に半壊してしまったからだ。

 きっと超常現象的なアレに違いない、うん。


 そんな訳で暫くお休みになった訳だが《社》の依頼は留まるところを知らない。




【討伐依頼】

 ガルワルディアの北で何件か報告されている赤い亡霊と言われる者を討伐して下さい。

 姿を見た者もほぼ生存しておらず、それが通り過ぎた後は死体しか残りません。


 時間制限はありませんが、時間経過と共に犠牲者も増えると予測されます。

 無理な場合はまず自身の安全を優先して下さい。




「赤い亡霊ねー…」

「この書き方だと相手がゴースト系の可能性もあるにゃ!」

「不謹慎だけど、死体を見れば物理攻撃かどうか分かるけどねー」

「ふーむ、赤いモンスターとか居たかしら?赤といえばウィザーズ様とウォーズ様…」


「目的も不明だし、何故人を襲うのか…?」

「もし、生存者がいるとすればガルワルディアに担ぎこまれてるかも?行ってみるにゃ?♪」

「うん、詳細不明の敵に勝つには情報量からだよねー!」



 準備を整えて、四人でガルワルディアへとダイヴする。

 ガルワルディアに着いたら、まず一番に…



「ベアトリクス…五分だけ時間貰っていい?」

「いいわよ、どうしたの?」

「あー、ベアトリクス、ゴニョゴニョ…」




「……そうか、それは私でもトラウマになるな」

「ここに来たらまずお花を供える事から始めるのよ」


 今日はまだ花が供えられてなかったので、すぐ側の花屋で買ってきた。

「うちの嫁を見守ってて下さい」

「月花がたまに耳を引っ張るので注意して下さい」

「月花が破壊神になりませんように」

「祈るというかもう祈願になってるんだが…」


「たまには月花の有り様を報告しないとねー?」

「有り様ゆーなし!」

「安心しろ、きっと笑いは取れてるよ!」

「もーベアトリクスまでー!」

 クレド、フィル、新しい仲間もとても良い奴だよ!




 で、次の行き先は例の面倒臭いお医者様の処だ。


 コンコン!

 ノックをして出方を伺う。

 ……コンコンコン!

「獣医ではないからキツネは診れんぞー」

「狐がこんなリズミカルにノックするか!良いから開けて!」


 二cm程扉を開けて、医者が顔を覗かせてきた。

 バタン!

「顔を見て閉めるなー!」

「また面倒な患者か!?今忙しいから帰れー!」

「ん?もしかして急患で忙しいの?」

「一人リバーシをしとる」

「滅茶苦茶暇を満喫してるじゃん!!取り敢えず開ーけーてー!!」


 飽くまでドアは三cm以上開けてくれないが、話が聞ければまぁいっか…

 単刀直入に赤い亡霊と言われる者の被害者を見た事があるかを聞くと医者は頭を立てに振った。

「奴の被害者はどれも酷い傷だった。無数に三本の切り傷が残っておった。獣の爪にしては鋭利すぎて、堅い鎧すら切れておった。荷物や金は手付かずだったから、物取りの犯行ではない」


「被害者は多いのかにゃ?」

「うちに運び込まれただけで35人。もしかしたらもっと被害は出ておるかもしれん」

「有難う、これ以上被害が出ない様に食い止めるわ!」

「また来るにゃ!♪」

「えっ!?」

「えっ!?てゆーな!」



「面白いお医者様だったな」

「次はベアトリクスが相手してー…私はその内引っぱたいてしまいそう…」

「まーまーまー!取り敢えず北の出没範囲を捜索しよ?」



 ガルワルディアの北には道が伸びていて、先は小高い丘となっている。

 左手はサラの居た屋敷がある森。


「手分けして探そう!もし、赤い亡霊らしき者と遭遇したらバトルに入らずまず全員集合ね!」

『了解!』

 四方に手分けしてヒントを探しにいくが、何も見つからず偵察がてらに丘の上へ降り立つと下に広がる光景が目に飛び込んでくる。

 左手は海になっていて海岸が右にカーブして続いている。 街が海へ伸びていて大きな船に波止場もあるのできっと港町なのだろう。


 ……駄目だ駄目だ、仕事を忘れて見入ってしまった。

 丘の下へ目をやると、今まで気付かなかったがライトアーマーに身を包んで、髪を後ろで括った女性が目に入った。

 腰にはショートソードを帯剣している。


「あの…こんにちは!」

「……はい?」

「もしかして《社》の関係者なのかな?」

「あ!はい、そうです!」


「と、言う事は貴方も赤い亡霊を?」

「…そうです。私は母とこの依頼を受けていたのですが母は奴に…」

「そっか…御愁傷様です…私達四人で来てるんだけど、合流しない?人数が多ければミッション成功率も上がるし!」


「…これも何かのご縁、宜しくお願いします」

「有難う!私はレクス!宜しくね!」

「え、あの有名な!?私はディーヴァ!握手お願いします!」


 人生で握手求められたの初めてだったけど、ずっとこの風の中立っていたのか少し手が冷たく感じた。



 その後、彼女を連れて全員で集まり、近くに東屋があったのでそこで座りながら情報を纏める。

 何もないけど飲み物とカロリーバーだけはあるから女子会みたいになってきた。

 ちなみにデッドエンドさんも握手を求められ珍しく照れていた!


 内容を聞くと、どうやら夜にだけ現れ、暗がりから襲い掛かってくる上に、そいつのミドルソードで斬りつけられると魔剣なのか一度で三ヶ所斬られるらしい。

 体術が優れていてスキルも使うが、殺す事以外は興味を示さない赤い服を着たシリアルキラー。



「纏めると、夜行性で血液が大好きな魔剣使いのド変態でいいかなー?」

「ルクレツィアが纏めると深刻な感じがしないにゃ!」

「深夜に奇行を抑えられない人でどうだ?」

「警察に任せた方がいい気がするにゃ♪」

「二人のネーミングセンスでディーヴァが笑い死にしそうだから止めてあげてっ!」





 ―――その夜は冷たい雨が降っていた。

 道の処々に設置されている外灯を目印にその馬車は港町まで進んでいく途中だった。

「もうすぐ見えてくるかなぁ…早く宿に入りてぇ……ってうわっ!!」

 馬車を慌てて止め、再度前方を確認すると……背中にミドルソードを装備した赤い服の男が傘も刺さずに立っていた。


「おい、酔っ払ってんのか!?悪いが急いでるんだ!退いてくれ!!」


「……貴様は魂を磨いているか?」


「は?」


「……魂をぉ…磨いているかと聞いているぅっ!!!!」

 ミドルソードを抜いて襲い掛かってくる男!


「うそだろぉっ!?」

 咄嗟に避けて馬車の後方に逃げるが、秒で追い付かれる!!


 ギィン!!

 御者の背中にミドルソードが届く寸前、魔槍グングニルが凶刃から御者を救う!

「おじさん、逃げて!!」

「おおぉ恩に着る!!!」

 場所を置いて逆方向へ逃げていく!


「ルクレツィア、御者さんを護って!」

「オーキドーキー!」



 撃ち合いを続ける式部とスイッチして赤い亡霊と鎬を削る!


「……ハハッ!お前はいい…磨かれた魂…そういうのを殺りたいんだよッ!」

 眼光は狂気の沙汰で血走っている。

 前情報の通りひと振りで衝撃が三回走るので、まともに食らうと間違いなく痛手だ!


 式部が背後から魔槍で狙うも、逆手で短剣を抜き受け止めた!

 魔槍を短剣で!?

 信じ難いパワーだ!


「せぇい!」

 両手が塞がった状態でディーヴァが腹部を狙いに行く!


 腹部にショートソードが突き立つ!

 が、貫通しない!

 突然男は手の力を抜き、刀と槍が…鎧で止まる!


 ずぐっ!

 私の腹を刺し、抜いた瞬間に式部を斬りつけた!

 怯まず男の頭を真正面から容赦なくy斬りつけた!

 だがそれも男は正面から受け止め跳ね返し、短剣でディーヴァの腹部を突く!


「…ふへへへ、物理無効……これ手に入れてから楽しくてなぁ…」


「ならば属性攻撃は防げまい!!」

 ベアトリクスがイフリートの火炎を男の上から直撃させる!


 炎の柱の中から男がゆっくり出てくる……

「馬鹿な!!」

「魂の火炎!!」

「召喚カーバンクル!」

 男の炎を自身に跳ね返すも炎の中でケロッとしている……

「属性も無効なんだよ…短き魔封!!」


 男が手を握る動作をすると、ベアトリクスの身体が握られる様に縮み、骨が何本か折れて、カーバンクルが突如消え去る!

「ぐああっ!!」

 ベアトリクスが力なく崩れ落ちる。


彼方よりの星光スターライト・ビヨンド!!」

 しかし、スキルも掻き消える!

「スキル無効もあるんだぜぇ…はははっ!!」


 こいつ無敵か!?

 未だ炎の中で燃えている男に再度斬りかかると、男が進んで斬られに来る!

 相変わらず頭で刃が止まる!


「はぁぁ…お前面白いなぁ…!魂の輝きが違う…」

 腹をもう一度刺される。

 その場に倒れると赤い亡霊に頭を踏まれる。


「うめぇものってさぁ…最後まで取っておきたいだろぉ?面白いからお前らは殺さねぇ…次の獲物を喰って待ってるから…生きてたらいつでも殺しに来い!」

 荷馬車から馬の綱を解いて乗り換え、先程見えた港町へ走り去っていく!


 その瞬間を見てルクレツィアが全員に女神の息吹ブレス・オブ・ゴッデスを掛けてくれた!

 それを合図に、式部に飛行結晶を付けると逃走した先に高速で飛んで行く!

 式部は秒で男を捕捉し、小さく見える馬上の男に魔槍を投擲する!!


「式部、どうだ!?」

「……あれは幻影だ!…男を見失った………」


「まじか…ルクレツィア!ベアトリクスは!?」

「気を失ってるけど、もう大丈夫!」

「ディーヴァは大丈夫!?」


「まただ…お二人に両手を封じてもらい、あまつさえ渾身の力で挑んだのに…」


「いや、物理無効に属性無効、スキル無効は強キャラすぎる…」

「それよりどうする!?先に見える街に向かった奴は幻影だった…もし逆に逃げたとなるとガルワルディアが危ない!」


 ………名も無き刀で斬りつけても傷一つ付かない、ベアトリクスの魔法の炎でも火傷一つ付かない。

 場所が特定出来ない故に戦力を無駄に分けるのは愚策。

 だが、全員の戦闘スタイルを鑑みても勝機が……



 ……いや…あの男、さっき妙な動きをした。

 予想が当たっていれば良いが、賭けに仲間を巻き込みたくない…


「式部、あの港町からガルワルディアまでインカムが届くと思うか?」

「……出力を上げれば短時間なら…」

「よし、二手にチームを分ける。港町には私、ディーヴァ、ベアトリクス。ガルワルディアには式部、ルクレツィア」


「班分けの意味は?」

「恐らくガルワルディアには来ない。年の為に街の入り口二ヶ所に一人ずつ警護してくれたらいい。さっきの戦いを見て際立ったのは物理無効と属性無効。まぁ、ベアトリクスがやられたスキルもあったが…奴の攻撃力は大した事はない」

「なる程、確かに剣の攻撃が主体だったにゃ!」


「今晩は奴も動かず明日の晩まで消耗を控える筈だ。そこで…式部に頼みがある。夜明けまでもう少しある。あの、腹ぺこの平和主義者を探し出して連れて来て欲しい。奴の協力がいる」

「腹ぺこ……ああ!今晩中…行けるかにゃぁ…」

「探索系は私は不得意だけど、駒鳥鵙こまどりの家系の天賦てんぷの才能があれば必ず探し出せる」

「月花は買い被り過ぎだけど…その期待、絶対に応えるにゃ!♪」


「なら、明日の晩まで休憩!」

「向こうの街に泊まるの?」

「恐らく赤い亡霊はあの海辺の街に現れる。ディーヴァもあいつを倒したいだろ?」

「母の仇…必ず討ちます!」

「よし!なら休憩だ!向こうに宿を取り、昼間は街の構造を把握しよう」

「はい!」

 馬がこちらに戻ってきて御者さんが再度馬車を動かしたので、街まで相乗りさせてもらった。


 ふと、ディーヴァを見るとこれから向かう街に思いを馳せていた様だが…私の見間違いか、一瞬デジタルノイズが見える。

 初めての現象だが…転送装置の不具合か…それとも私が疲れてるのか…




 港町の名前はサン・ヴァラド。

 聞くと、この近辺では一番の漁獲量を誇りガルワルディア等周辺国に魚を卸しているらしい。

 名物は大きな教会と魚料理。


 ディーヴァと宿を取り、深夜でも開いている食堂があったので魚料理を注文してみる。

 郷に入って郷に従えって奴ね。 

「……わわっ!美味しい…」

「本当に!美味しいね、ここの魚料理!式部が見たらヨダレ止まらないんだろうなぁ…」

「あははは!」

 魚料理を堪能して、回復の為一眠りする事にした。



 昼過ぎに目を覚まし、街を上空からチェックする。

 ディーヴァは飛行に慣れなくてあわあわしているのが可愛い!


 街は思った通り海沿いに沿って横長に建造されており、海辺に市場らしき場所が並んでいる。

 そこから離れると普通の家が並び、街の一番端に大きく教会が建てられている。

 規模から言うと教会というより大聖堂に近い。


「レクス、本当にこっちに来るの?」

「どちらに賭けると言われたら間違いなくこっち!万が一ガルワルディアに出ても連絡くれるから時間は掛からないよ!」

「良かった、もうお母さんみたいな犠牲者は絶対に出さない!」


「切り札はある!次はあの殺人鬼を仕留める!」

 

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