第60話 Blind Revenge

 シャドウの誘導で空から次の街へ向かう。


 目指すはオークに襲われて被害を受けていたという街だ。

 王城から飛び立ち、それ程時間が掛からずに街が見えてきた。


 三人が降り立ち目の当たりにした光景は凄惨な物だった…


「手分けして救護活動ね!」

「分かったにゃ!」 


 まず崩れている外壁を結晶障壁で一時的に補修して安全な場所を確保する。 


 次に生存者を探しながら火災の火種を消していく。

 消耗が激しいが女神の息吹ブレス・オブ・ゴッデスを連発して怪我人を救助していく! 


 その後、一旦事態が収束してから広場の噴水前に一旦全員集まってもらった。



「《社》の冒険者インターセプターです。私はレクス、隣がデッドエンド、シャドウです。依頼を受けて先に現地入りしていたクローバーという女性を知りませんかか?」

「…はい、暫く滞在して護って下さってましたが……オークの兵の中に、ある日突然オークロードらしき巨大なオークが現れまして…」

「オークロード!?」


 オークより上位のボス的な存在で、統率力、攻撃力も段違いの奴だ。


「街の自警団が疲弊した所にオークロードが来て、殺戮・略奪をされ私達はピンチでした。クローバー様はオークロードと接戦を繰り広げておられたのですが、別のオークが投げた石が命中し、家畜と一緒に持ち帰られました…」


「持ち帰った!?何の為に…」

「食料ではない…大金も宝物も持っていない…交…」

「はい、それ以上考えない!目指す場所が分かったんだ!行こう!」

「皆さんの全回復は終わっています。外壁は一時的に補修してますので、中で体制を整えて下さい!討伐が終わったら戻りますので!」

「……有り難う…有り難う…」


 涙ながらにお礼を言われるが、いち早くシャドウが飛び出してしまった!

 私達もすぐに後を追い掛ける!

 冷静な判断を書いた戦いはリスクが高すぎる!!



 シャドウは追跡能力が高いのか、彼を追い辿り着いたのは上から見るにどうやら遺跡跡の様だ。

 水場があるから拠点にしているのだろうか、簡素な小屋を木材で作り集落の様になっていた。


 遺跡の柱にもたれかかり、焼けた肉を食べている一際大きいのがオークロードか!

「きぃぃさまぁぁぁぁぁ!!!彼女はどこだぁっ!?」 

 オークロードへ直接突進し、魔剣を振り下ろすが、動きが直線的過ぎたのか右手ではたき落とされる!


 飛ばされた先でオーク達がシャドウを棍棒で殴り始めた!

「式部!右!」

「りょ!」


 私は上から唐突にオーク達の前に降り立たつ!

名も無き一閃ネームレス・フラッシュ!」

 横薙ぎに巨大な光が左側のオーク達を真っ二つにする!


「滅せよ!魔槍よ!」

 放たれた魔槍が生物の様に右側のオーク達の

 腹をえぐっていく。


 残りはオークロード一匹だ!



「ふぅ……ごれだがら雑魚はづがえねぇ…」

 やはりオークロードとなると知能は高いか!


「おい!さらった女性はどこだ!?」

「オンナが?俺ぐらいになるど、イイ女と子供をのごずのが普通だが…俺は違う!頭は一人でいい!俺がいるのは子供じゃなぐ!勲章!!!」

 オークロードが指を上に伸ばしたので、目で追うと……人が吊られていた。

 両手首を杭で打たれ、傷だらけで服はボロボロ、炎天下で痩せ細り目が半開きで生気もなく虫が集っていた……


「ゲゲゲゲ…まずは一人だ…強い奴を倒した証でここを埋め尽ぐず…お前達もだ!」

「あああああああああ!!!」

 シャドウが血を流しながら突進していく!

「シン・フレイム!シン・ライトニング!」

 炎、雷撃と共に魔剣で斬りかかる!

「スキルキャンセル」

「何っ!?」

 魔剣で斬りかかり、頭に命中したかと思いきや、下あごから生えている牙で受けられ、再び右手ではたき落とされる!!


「式部、こっちは任せてくれ」

「了解にゃ!」


 名も無き刀の封印を解除し、闘気をまとい紅い眼でオークロードに近付く。

 オークロードのリーチ内に入った瞬間両手で拍手の様に叩かれる!

 が、ワンパターンなので障壁を張っていた。


「んふー…やるではないが?だが、スキルも使えず力でも叶わない俺にどう勝づつもりだ?」

「……ふっ」

 鼻で笑った瞬間、我を楽器の様に猛烈に叩き始めた!

 全て障壁で防いでいるが。

「スキルキャンセル!スキルキャンセル」

 スキルキャンセルを唱え再び私を乱打し始める。


「ふふふふっ…あはははははは!」

「何がおがじい!!!!」

「お前の動きが猿そのものだからだ!子供の玩具を見ているようで笑いが止まらん」

「俺を馬鹿にずるずもりが……」

 オークロードが立ち上がり、斧のような物を左手に持ち立ち上がる。


「座れ」

 竜の威圧ドラゴンアイを最大出力で発する。

「ぐぐ…ぐ…」

「我は…お前に、座れと言ったぞ?」

 オークロードが圧に耐えかねて膝を折る!


 両腕を切り落とし、左足に名も無き刀を刺して地面に縫い止める。


「シャドウ、勿論お前がやるよな?」

「……勿論だ…見くびらないでくれたまえ!」

 傷だらけだが、起き上がって魔剣を構える!

「魔剣カラミティ!断末魔テスタメント!」

「スキルキャ…」

 オークロードは喉を穿かれ、頭をそのまま上に割られて崩れていった…

 名も無き刀を引き抜き、刀身に付いた血をひと振りで払い落とす。

 その時シャドウが膝から崩れ落ちたが、女神の息吹で瞬時回復する。

 が…意識はあれど、彼は全て使い果たしたかの様に動かない……


「レクス!シャドウ!クローバーの意識が戻ったよ!」

 見えない建物の影から声がした!

「え……」

「ダメ元でデッドエンドに治療してもらってたんだ。彼女の生命力が高くて良かったな?」


 慌てて二人で走っていくと、やせ細った身体こそ戻ってないものの、スキルで先程よりは顔色が良くなっていた!

「クローバー!分かるか?」

「…ふぁ…影山くん…?」

「いきなり本名バラすな!」

「多少不味くてもいいから丼一杯何か食べたい…」

「食欲旺盛かっ!」


「二人共ダイヴ・アウトして報告と治療だな。我達は事が済んだ報告と街への支援がある」

「済まない、一生掛かっても返しきれない借りが出来た。必ずお返しする!」

「突然呼びつけて『アイス買ってきて』位はさせてやろう」

「さぁさぁ、具合が悪くならない内に入院してくるにゃ!」

「恩に着る!」

 そういうと二人でダイヴ・アウトした。

 刀の封印を施し、次元の狭間にしまった。


「シャドウって、時代劇口調というかおっさん臭い話し方するよね」

「え!今までわれ口調だった人が言うかにゃ?!」



 こうして、無事にクローバーを助け出し、街の方は外壁の修理の手伝いや、食料の運搬、自警団の武器の強化等を手伝ってから帰路についた。





 ダイヴ・アウトし、秘密基地に帰ってきた早々、力が抜けたのかベッドでゴロ寝した。

「自己満完了ー!」

「自己満してなかったら、クローバーは死んでたかもしれない。いい自己満だったにゃ!♪」

「ほーんと!でも、お爺さん亡くなった話がまだ待ってるよね」

「シャドウが支えてくれてるといいね…」


 着替え終わって本格的に休もうと思い帰宅すると、ベアトリクスがウォーズを全話見終わったらしくて「アルク様が…アルク様が…」と号泣してたので、映画と昨年の記念新作映画の事を教えたら、視聴疲れでそのままいい笑顔で気絶した。

 なお、服はママのはちみつ大好き黄色いクマのつなぎパジャマだ!


「式部、オアシカに何か食べにいこ!回復連打で疲れた…」

「本当だにゃ♪でも救える命を救えた充実感は凄い!」

「ほーんとそれね!胸を張れる!」

 この後滅茶苦茶生クリーム増量してフラペン飲んだ。





 ―――二週間後、学校から帰宅途中に《社》から連絡があり、シャドウとクローバーがお礼をしたいから会いたいとの事だったのでオアシカを指定して待ち合わせをした。


 店の奥の席で待っていると、高校生らしき制服の二人組がオーダーを済ませて席にやって来た!

「やっほー!」

「顔色良さそうで良かったにゃ!」

「レクスさん、デッドエンドさん、助けてくれて有難うね!」

「あの時は本当に世話になった」


「影山君、学生らしい話し方しようよー」

「影山君ゆーなっ!」


「まずは…祖父がお世話になりました…」

「私達もね、サボってる時用務員さんとこで散々お世話になってたんだ…だから、こういう事になってしまったのは辛かったよ」

「いつも孫が孫がって自慢してたにゃ♪」

「私も両親がいなくてお祖父ちゃん子だったんで、いつも遊びに行ってました…でも、自分が仕事でミスしてこんな事になるなんて……」 

 落涙するクローバーをシャドウが肩を寄せて慰める。


「六番でお待ちのお客様お待たせしましたー!」

 フラペン一つづつにラップチキンやクッキー、チーズケーキ等が山盛りで登場した。

「……影山さん、彼女さんの食費大変じゃない?」

「食べて太ったらめさせるけど痩せの大食いというか…」

「彼女の痩せた太ったっていつどこでチェックしてるのか気になるよねー?」

「どこでお勉強してるのかにゃー?♪」

 盛大にむせる二人。



「えほっえほ!あ、私は四葉よつばでいいですよ!隣は影山先輩」

「ほぉー、学校の先輩とな!」

「夜は先輩プレイなのか気になるにゃ!♪」

 影山先輩むせっぱなし!


「私は月花、彼女は式部ね!宜しく!」

「あの…今回私達がミスしてしまったのは何が原因と思いますか?」

「んー…もう少しレベルが上がるまでは二人一組で動く事かな?あの世界は常に予測不能が付きまとうから、今回もオークロードまでは対応出来たかもしれないけど、知能が比較的高めでスキルキャンセルを無駄に使ってきた事が予測不能ポイントかもね」

「シャドウは遠近しっかり技が充実してるのに、彼女の事で頭に血が上って冷静さを掻いて直線的な動きになったのが怖いポイントだったにゃ!」


「ううっ」

「返す言葉もない」

「そーそー!この二人私を一回殺して顔色一つ変えないんだから怖いったらありゃしない!」

「あの…このお店エルフいるの?」


「仲間のルクレツィアだよ!バイトしてるのはアニメグッズを買う為と社会勉強!」

「で、殺したって何ですか?」

「ああ、悪魔が取り付いたから、憑依を解く為に一秒だけ殺して、すぐ蘇生したのよ」

「ほーんと心臓に刀突き立てられて、ああ!もうあのアニメも、このアニメも見れなくなるのねっ!って考えた」

 副店長に引きずられていくルクレツィア。



「私、お二人に憧れて冒険者インターセプターを目指したので、今度ご一緒出来ると嬉しいです!」

「二人の戦いは見ていたが…頭一つ抜けているどころか、何をどうしたらそのレベルになるのか…雲の上が見えないのと同じ感覚を覚えるよ」

 隣では四葉さんが小動物の様にもぐもぐとチーズケーキを食べている。



「四葉が食べ終わったら、お二人の武器…拝見してもいいかな?同じ魔剣使いとして興味がある」

「はーい!」

「分かったにゃ♪」


 四葉さんがおやつを大量消費した後、私の家に呼んで武器のお披露目会を開催する。



「これがレクスの武器・名も無き刀…正直冷や汗が出る…圧倒的な圧を放っている…」

「式部さんの魔槍グングニル…流石伝説の武器だけあるわ…恐怖すら感じる」


「影山先輩の魔剣カラミティ…重い!これはメンズ向け武器だわ…どういう能力なの?」

「相手の幸運を当てた数だけ吸い取るんだ。鍔迫り合いや拮抗しても必ず勝機は俺に来る」

「強っ!」


「四葉さんはショートソードなのかにゃ?能力とかあるの?」

「はいー、一定の確率で無音、盲目、空腹のどれかを与えますー!重複もするので打ち合うと何も見えない、何も聞こえない、お腹空いたって歌の歌詞っぽくなりますー」

「空腹が付いてるのがおしゃれポイントだにゃ♪」


「いや、二人とも強い魔剣持ってるなぁ…尚更打ち合いに頼れない場合のアプローチを考えた方がいいかもね?」

「はーいはーい!ママの武器も見てー!」


「お母さんも武器あるんですかー?」

「見てみてー!」

 多重結界を張って周囲に影響が無い様にしてから、奥義・八岐大蛇やまたのおろちで周囲一帯を更地にするママ。

 結界を解いて周囲を元に戻し、ワクワクと感想待ちするママ。


「えー…ママさんマジパネェ」

「レベチってこんなに密集してるものなのか…」

「白猫ちゃんも炎吐いてる…」

「何だろう、自信喪失する要因が数限りなく存在している…」


「ここだけこのレベルが多いの何でだろうね?」

「まぁ、私達も呼び込んでるからにゃ…」

 後ろで黄色い繋ぎパジャマを着てぐったりしている人がつい先日まで私の命を狙ってたとか言ったら余計に混乱するだろうから黙っておいた!

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