第59話 Wish to meet you

 この事態は時間との勝負なのかもしれない!

 二階にいたウォーカーを祓い、教室内、トイレをチェックする!



 よし、次は3階!

 階段をそっと上り、登った先の角で左右を確認する。

 三階にはいないのかな?

 走り出した瞬間、教室の窓ガラスを突き破りウォーカーの手が私の喉を掴んでくる!


「来い、魔槍よ!」

 スキルガンを腰のホルダーに収納し、魔槍で腕を切り落とす!

 腕が教室内へ戻るのと同時に魔槍で五連突きを入れると、ウォーカーは塵のように消えた…



 再び武器をスキルガンに交換し、捜索を進めるが、三階にはこれ以上何も無かった。

 廊下の端まで行き、重いドアを開けると非常階段に出る。


 飛行で上から校舎を俯瞰する。こちらの屋上にも異常なし…残るは体育館と理科室とかがある離れ校舎…

 離れ校舎から行くか!


 飛行で上から非常階段に降り立ち、中へ入る。

 三階はコンピューター室、生徒会室兼放送室、異常なし。

 二階に降りるとまたウォーカーが二体いたので猛襲する針レイジング・ニードルで祓う!

 二階は理科室と旧視聴覚室。

 今ので二階は終わりかにゃ?



 次は一階、図書室と宿直室。

 図書室は以上ないが…宿直室から明かりが漏れているのでそっと覗き込む。


 明かりが付いており人の気配はないが、テレビが点いていて朝の情報番組が流れている。


 荒らされた形跡はないが…コーヒーがまだ暖かい。

 ご飯も食べかけだ。

 用務員さんか宿直の誰かがいたのか?


 人命に関わると不味いので、残る体育館へと急いだ!

 中に突入すると、中にはぽつんと男性が一人いた。



「用務員さん無事かにゃ!?」

「ん、駒鳥鵙こまどりちゃんか。大丈夫だよ」

「化物が湧いてるから、地上に戻りましょう!」


「ん、何故だい?」

「怪物がまだ残っているかも知れない!用務員さんも危ないにゃ!」

「あはは…危なくはないさ、だって僕が呼んだんだもの」



「……え?」

「君達は《社》の冒険者インターセプターだったね。何でも相当の実力を持つ有名人だそうじゃないか…わしの孫もそうじゃった」


「お孫さんも冒険者インターセプターだったの…?」

「そう、《社》《やしろ》のエースである君達に憧れ、提携企業を通じ冒険者として活躍しておった…だが、ある日突然…孫は帰ってこなくなった。《社》も企業も誠実に対応してくれた。捜索も出し、このまま一定期間帰ってこなければ遺族への謝罪も支払います、と」


「……」

「だが、金の問題じゃない……誠実に対応されても、それで僕らの痛みが消える訳じゃない…孫が帰ってくる訳じゃない…」


「あ…なんと言っていいか分からないですが……」


「皆、誠実に対応してくれた。誰も非がある訳じゃないのに!!!胸の中は憎悪と絶望で溢れておる!逆怨みでしかないのに!…孫に会いたい会イタイアイタイアイタイ…」


 用務員さんの存在が裏返っていく…

 胸に穴が空き、ただ黒い影に…

「スキル…増殖!」


 これは!

 さっきの影は自分を増殖させていたのか!

「邪魔ハサセナイ…見慣れた学校ヲ目印に置イテオケバ…孫ガ見ツケテ帰ッテクルヤモシレン」


 連射モードで猛襲する針レイジング・ニードルを撃ち、倒していくが、増殖すると本体の見分けが付かない内にまた増殖していく!


「破壊無クシテ創造ナシ」

 増殖が最大になったとこでウォーカーが融合して行く! 

 巨大な塊となり体育館の屋根を貫いたので、急いで飛行で体育館を飛び出して距離を取る!!



 何だあの大きさは!

 体育館の屋根から伸びたその姿は敷地全体を覆う位の姿で、見た目より早い速度で腕を振り下ろしてくる!!


「穿て!魔槍よ!」

 巨大な掌が魔槍の一撃で散り散りになるが、早々に再生し、裏拳を放ってくる!

 結晶障壁で一撃を防ぎ、猛襲する針レイジング・ニードルで本体を攻撃する!


 針を右手で防ぎ、左手がもう一度来る!

 直感で障壁を創り左上に急回避すると、後方から更に腕が迫って来ていた!!

 上に回避していたので事なきを得たが危うかった!


 これはこのまま腕が増えていく…?


「廻れ魔槍!二―ベルングの指環!!」

 猛烈な円運動をしながら腕を連続で穿って行き、追撃で猛襲する針レイジング・ニードルを撃ち込み腕を一本崩壊させるが、入れ替わりで一本生えてきた!

 むむむ、これは火力が追いついてない…


 周囲を確認し、月花が到着していない事を確認し、結晶で巨大な歯車を二枚作り上げる!

「舞え、歯車よ!!」

 歯車が前後に発射され、腕を連続で切り刻み胴体だけの状態に持って行く!


 チャンス!

 と、思ったが一斉に腕が六本生えて捕まえようと伸びて来る!!

 今、私、アニメでミサイル避ける戦闘機より早く動いてそう!

 歯車は動きを止めていないし、今もう一枚を作って本体に向けた!


「恨ミハナイガ孫ノ為消エテクレ」

 腕が更に増え、死角から捕えられた!!

 瞬時に周囲に障壁を張るが、恐ろしい加圧で障壁を破ろうとしてくる!!


 その時、強烈な光が前方から放たれ、腕を三本持って行った!!



 光の出所を見るまでもなく、暗い星界の中赤と青の光が猛烈な勢いで近づいてくる!!

 王が来た!!






 思ったより時間を取られたが…遠目に式部が捕まってる事だけは分かるから、腕を彼方よりの星光スターライト・ビヨンドで焼いたが…ウォーカーか…申し訳ないけど祓わせてもらう!!


襲撃の魔狼アサルト・ウルヴズ!!腕を食い荒らせ!!」

 まず最初に式部を掴んでいる腕を斬り落とし、式部を救出した!

「流石、王!いいタイミングにゃ!」

「すまぬ、思ったより距離があった!ウォーカーが出てたとはな」

「あれは用務員さんにゃ…お孫さんがアナザーバースで帰って来なくなったらしい」


「…用務員のじいちゃん…辛い話だが、もうウォーカーになれば戻れない。祓うから腕を頼む」

「了解にゃ!」


 高速移動し、ウォーカーの目前で止まる。

「用務員さん、お孫さんは残念だ。だが、思いの丈に任せてこういう事をしては駄目だ。お孫さん帰ってきたらどうするつもりだ?辛くとも…望み薄だとしても待ってあげるのが大事なんじゃないか?帰る場所が無いというのは辛いんだよ」


「事ヲ起シタラ引キ返セナイ…孫ニ会イタカッタ」

「調べて我も探す。せめて遺品だけでも持ち帰る。生きてたらちゃんと家に送る。約束する」

「……鹿鳴チャン、アリガトナ」


名も無き必滅ネームレス・モータリティ

 名も無き刀をウォーカーに突き立てると、ウォーカーの末端から光の粒となって消滅していく。

「…すまぬ、我が早く到着して居れば苦しむ時間も少なかっただろう…我は無力だ」

「…それは自分を責め過ぎにゃ…冥福を祈ろう」

 二人で手を合わせ一礼する。



「式部、スキルは?」

「亡くなる前にもらっておいたにゃ!」

「学校、戻せそうか?」

「多分…喪失した欠片!」

 今の呪文は学校をパズルのピース見たいに扱う呪文であろうか?

「……人の思いがこんなスキルを生み出すなんて…孫に会いたい・反転!」


 そう唱えると、学校はゆっくり上昇して行った…

 パズルのピースの様に学校が元ある場所にハマったので、封印解除し式部とダイヴ・アウトしてホームワールドへ帰る。


 そのまま再び学校へ飛んで戻った。



 庵ちゃんと、煙草を吸っている美姫さんが見えたので降り立ち、事のあらましを説明する。

「そっか…用務員さんか…お前らサボる時必ず用務員室行っとったからな。かなり辛かっただろ…お疲れ様」



「先生、学校…少し大破してるから休みだよね?」

「SFを少し不思議って読ませる超有名漫画家さんみたいにゆーな!少し大破どころじゃなくて大惨事ゆーねん、こういうのは!」


 滅茶苦茶遠目で彼方よりの星光を撃ったから、式部はしっかり助かったが体育館と校舎半分位はちょっぴり半壊になった。



「じゃあ、行ってくるよ」

「ん?家帰るんか?」

「用務員さんのお孫さん、探しに行ってくる!」




《社》に連絡を入れ、そのお孫さんの情報とどの世界、どんな依頼で消えたのか等詳細と顔写真を請求した。

 程なくして送られてきた内容はそれほど難しくないミッションだった。


【討伐依頼】

 近隣の村に被害を掛けているオークの群れの討伐をお願いします。

 村は小さい集落だが外壁が堅牢な為長年被害がなかったが、外壁の一部が地震で倒壊したのをきっかけに狙われ始めたものと思われ、数が多く自警団でも対処出来ないので依頼が出されたとの事。

 全滅が望ましいですが、危険と判断した場合は撤退・若しくは応援要請をお願いします。



 オークは、コボルド、ゴブリンよりは強く、頑強な人間の身体に豚に近い顏、受け口に大きな牙を持つ種族だ。

 知能は高くないが、短気で強奪等を平気でやる種族だ。

 情報によると、用務員さんのお孫さんである二つ名『クローバー』は中級の冒険者、オーク掃討は一人で充分こなせる…何らかのアクシデントがあったとしか考えられない。


 写真は黒髪セミロングで髪留めをしている優しそうな少女だった。



 生存していて、何らかの事情で帰れないだけのなら早く連れて帰ってあげたい。

 今回はルクレツィアはバイトに駆り出されているし、ベアトリクスは恐らく気を失うまでライダーを見ているだろうから置いていく事にする。

 今回は≪社≫からの依頼じゃないので報酬も出ない。

 完全に私の私情だから手伝ってもらう事に気が引けるからだ。



「式部、私情に付き合ってもらってごめん」

「私も私情だにゃ!二人でいつもサボらせてもらってたからね」

「…うん。いい報告出来る様に頑張ろう!」



 ≪社≫にもらった座標を転送装置に入力し、カムドアースに飛んだ。

 私はそこでいきなり息が止まりそうになる。


 以前に転送装置の不具合で飛ばされた少し小さな王国。

 もう滅んで廃墟になり、クレドとフィルに会った場所でもある。


「月花、顔色良くないよ?」

「ああ…クレドとフィルに最初にあった場所なんだ…少しトラウマが…」

 と伝えると、式部がハグしてくれた。


「大丈夫、私がついてるから」

 大きく何回か深呼吸し、周囲へ五感を伸ばす…

「有難う、式部!…落ち着いた」

「月花に抱き着けて私が一方的にお得だったにゃ♪」

「ちゃっかりしてる!」


「この街はどうする?位置が近かったし捜索してみる?」 

「うん、まずここを調べてからオークに襲われた街を探してみよう」


 無人の門を潜り、無人の街を探索する。

 あの時はフィルの両親である国王夫妻が生き残っていたが…娘も民も無くし帰る気になれなかったのだろう。


 一軒一軒、式部と手分けして回るが、空き巣の形跡、旅人が使った後書いたお礼の言葉等がある位で、以前と変わらない様だ。


 小さな国なので街は然程時間も掛からず見終えて、次はお城の中を調べる。

 部屋数は多くないので、謁見の間まで辿り着くのは早かった。


「やはり誰もいないか…」


「そこに誰かいるのか!?」

 男の声がしたので、戦闘態勢を整えるが出てきた男は知らない顔ではなかった。


「ん、お前達は」

「あ、私の顔に石ぶつけた奴!」

「悪かったよ、根に持つな!」

 男の名前はシャドウ。

 以前依頼が被った様で、私達が依頼を終えた後に腕試しを仕掛けてきた事がある。


「シャドウ、この街にはどうして?」

「…人を探している」

「もしかしてクローバー?」

「何故それを!?」


 私達は依頼のきっかけになった用務員さんの話をした。

「そうか…良い方を無くした」

「会った事があるの?」

「ああ、交際を許してもらいに伺った事がある」

「あ、お付き合いしてたのかにゃ?」

「それは仕事どころじゃないよね…」


「もし、良ければ捜索に参加させて貰えないか?彼女はオークなんかに不覚を取る人じゃない…絶対にどこかでトラブルがあって帰れなくなっているだけなんだ!」

「楽観視は出来ないけど、信じて探そ!協力するから!」

「すまない、恩に着る…」


「この謁見の間より先に部屋はある?」

「国王夫妻の部屋がある。見るか?」

「念の為…複数人で見ればヒントの取りこぼしも少なくなる」



 謁見の間の裏から頑丈な扉を数枚潜って、登った先が夫妻の部屋だった。

 防犯の関係上か、嵌め殺しの美しい巨大な窓以外はほぼ石造りで、ベッドとテーブル以外は書物、本棚、燭台位だった。


 採光窓の横の扉を開けると、強い風が吹き込んでくる。

 窓の外は足場しかないベランダだった。

「何だ、この危険なベランダは…」

「隣国が飛空艇を持っているから、ここが発着陸場所になってたんじゃないかな?」

「なる程有事の際はここから…」


『何故フィルも一緒に連れていけなかったのか』等と詮無き事を考えてしまう。

 よそう、国王夫妻もあんなに泣いていたんだ。



「シャドウ、オークに襲われてる村って場所分かる?」

「ああ…把握している…だが済まない。私は飛行を持っていないから歩きになる」

「ああ、それは大丈夫」

 指先をシャドウの足に向けると突然シャドウが浮き出す。

「うお!何だこれは!」

「説明すると長いから省くけど、私のアビリティだと思っといて」

「うーむ、凄い能力だ…」


 ふふっとなったが、気を取り直して次の街へ三人で向かう!


 生きていてくれ!!

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