第58話 Acquisition and loss

 コボルドの巣窟となっていたダンジョンは、一通り罠を解除して冒険者ギルドに報告をする。


 冒険者ギルドで内部の詳細の報告と、莫大な報奨を頂く。

 アダマンタイトはこれから先、色々な物として普及していくだろう。


 カフェに入り四人で報酬を山分けし、一息着く…


「はー疲れたねー!」

「トラップに気を使うから気疲れにゃ♪」

「折角短剣を貰ったし、ベアトリクスに教えてもらおうかなぁ」

「いいけど、私は片手剣じゃなくて双剣よ?」


 ベアトリクスがもう馴染んでいて、少しほっとする。

「ねぇ、ベアトリクス。私達、ホームワールドで困ってる人の依頼を受けてカムドアースや他の世界の手助けをしているんだけど、良かったらベアトリクスもウチに来ない?」


「成程、いちいち分かれて合流してを繰り返すよりは、そちらの方が効率がいいか…しかしいいのか?先日まで殺し合っていたのに」

「もう違うでしょ?一緒の方が監視しやすいだろうし」

「では世話になる…って何故ルクレツィアが抱き着くんだ?」

「ベアトリクスは向こうの世界に紐づけされてないからねー!」

『ダイヴ・アウト!』




 突然変わる世界。

 転送ポッドが正常に起動し、自分の世界へ戻してくれた!

「ここが…皆の世界か…狭いな」

「いやいや、ここ秘密基地だし!外を見てごらん!」


 秘密基地の扉を開け、外の風を受けるベアトリス。

 視界に入る犬沢池や、五重塔、奈良の古都の景色だ!

「なんだろう、こういうのを古風というのだろうか?」

「そうだね!古い寺なんかが沢山ある地域なんだよ」


 着替えを終えて、説明しながら我が家に向かう。

 式部はオアシカカフェに行き、小町ママに帰宅の報告をしに行く。



 三人で自宅に入ると、ママが掃除機で掃除をしていた。

「あら、お帰り!新しいお客様?」

 とてとてと近づいてくるママに突然ベアトリクスが抱き着いた!

「…ママ!!ママ!!会いたかった!」

 きょとんとしているママにしーっ!と合図を送ると、ママが優しくベアトリクスの頭をでてなだめてくれた。





「そっかー!ベアトリクスちゃんのママに激似だったかー!♪」

「こっちのママは全力で仕事をサボる気だにゃ♪」

「えへ―――♪」


「御免なさい、本当に似ててつい涙腺が…」

「そんなにゴリゴリだったの?」

「月花?ママも怒る時は怒っちゃうからねっ」

「私のママも腹筋がバキバキで…」

「同じ種族だねー」

「ルクレツィア、種族言わなーい!」


「それはそうと、プロジェクター使っていい?ベアトリクスに戦隊シリーズの説明をしたいのー」

「お掃除終わったしいいわよー!お茶入れるから先に見ていて―!」



 プロジェクターを起動すると驚愕するベアトリクス!

「ななな、これはどういう現象だ!?」

「まーまーまー!これから戦隊のかっこよさを説明するからっ!」


 ここで私は致命的なミスを犯した。

 纏めて説明するのに便利だったので、主に冬に上映される戦隊とライダーの映画、スーパーヒーロー決戦MAX!

 地上波で放送中の戦隊とライダーが手を取り合って巨悪と戦い、あまつさえ放送が終わった過去のヒーローが出てきちゃったりする激熱映画!


 壁に映し出される物語に結構のめり込んじゃってベアトリクスも可愛いなぁって考えていたら、彼女の視線が戦隊に向いてない事に気づく。


「なぁ、月花?あの一人で変化するのは何なんだ?」

「あれはね、ライダーって言って巨悪と戦う為に能力を貰った主人公が葛藤しながら敵と戦うシリーズなんだー!」

「私の召装しょうそうみたいではないか…いい!」

「ウォーズとウイザーズは特に共感出来ると思うからオススメにゃ!♪これ終わった見る?」

「是非!!!!」

 こうして、ここに異世界のライダーオタクが誕生した…




 朝起きると、ベアトリクスは貫徹でウォーズを見ていたらしく興奮冷めやらぬまま「新しいライダーが―――!」とか「アルク様が―――!」等、素晴らしい仕上がりになっていた。

 ハッピーバースデー!!


 それよりも小町ちゃんが制服のまま式部と爆睡してたので、きっちりお仕事をサボり切ったのだなぁと感心した。

 我が叔母ながら青鷺あおさぎ副店長の日頃のお仕置きが全く効いてなくてメンタルつよつよだなぁ、と思う。

 私、ママのお説教(激甘)でもまぁまぁメンタル凹むのに…



 あ、今日は学校の日だったか!

 お風呂だけ入っておこう。

 その前に式部のスマホから昨日の触手動画を削除する。

 パスワードは熟知しているのでセキュリティは脆弱ザルだ。

 代わりに式部の寝顔にちゅーする動画を撮ってそっと戻した。


 起きているのはベアトリクスだけか…

「ベアトリクスー!少し休憩してお風呂入ろう!」

「お、おふ?」

「こっちの世界の沐浴だよ!ベアトリクスも美人なんだからお風呂は定期的に!」



「こっちの世界は家に風呂があるのか…なんか熱気ないか?」

「暖かい沐浴だから試してみてー!まずは先に身体を洗う!」


「ふんふん、これを押す…うえっ何か白いの出した!」

「エロ風に言わないー!それをスポンジでくしゅくしゅしたら泡になるから、それで身体を洗うの」


「大量の泡になったが…泡は石鹸みたいなもんか?」

「そそ、身体スッキリするよー!」


「…なんか変な感じだな」

「肌に合わなかった?」

「違う、月花との人間関係だ。あんなに憎んでいたのに、今は皆との関係性が心地よくすら思える」

「私は早く誤解を解きたいよ。でも、万が一何かの形で道を間違えたら一思いにやってくれ。大好きな世界に迷惑を掛けたくない」


「その前に道を間違うんじゃない!」

 泡を飛ばされた!!

 目ガ――――――!



 洗い終わって、頭を洗いっこして二人で対面に湯船に入る。

「…何を間違えたらここまで大きさに差がつくんだろう…」

「月花は隙を見せると乳の話になるな」

「これは世間的に流布されてはいけない話なんだが…三年程胸囲が変わってないのだ…」

「世間様はその話を聞いても『あっ…』で済ますと思うぞ?逆に大きくなるの早いと、男からいやらしい目で見られるし、着る服も限られてくるからな…」

「いいなー!一度でいいからそんな状況になってみたい!!」


「ない物ねだりだよ月花。巨乳になったらなったで小さい方が肩凝らないしいいなって思うよ」

「じゃ、ベアトリクスは巨乳と貧乳ならどっちでありたい?」

「……きょぬー」

「ふざけんなー!」

「い―――や―――!ままないで―――!///」

 この後、声を聴いてすぐ目を血走らせた式部が登場したのは想像ついてたからよし!




 支度をし、小花ちゃんを待って学校に向かう。

 今日はママも寝てたのでお昼は購買で買うか…


「式部、お姉ちゃんはそっちに泊ったの?」

「うんうん、今日はお店開店早々、副店長に叱られてると思うにゃ♪」

「懲りないわねぇ…そうまでしてパパの近くに居たいのかしら?」


「……えっ?式部のパパが判明!?」

「多くは語らないけど、月花も会った事ある人だよ。でも話がとても複雑だから勘繰かんぐらないであげて。とても誠実でいい人なのは間違いないから」

「リアルに居たんだ…式部パパ」

「聖母マリアじゃないんだから、あのお姉ちゃんに処女懐胎しょじょかいたいさせてくれる神様はいないでしょ」

「痛切な姉への諦めモードっ」


「どうせ今頃出勤が怖いからって、のんびりお風呂入ってるわよ」

『あ、私達と入れ替わりで入ってきた』

 たまに小花ちゃんの精神年齢はママ達よりも上なんじゃないかって思う…


「じゃ、私帰るから」

「え?体調が悪いの?」

「小花ちゃん送ろうか?」


「大丈夫よ、学校が無いからきっと休校よ?」

『えっ!?』


 確かに、もう校舎が見えていてもおかしくないのに校舎が見えず、代わりに学校の校門には警察が物々しい防衛線を張っていた!


 物々しい警備盲の中には美姫さんと竜安寺先生の姿も見える!


「来たかお前達」

「おー来た来た!おはようさん!」

『美姫さんお早う御座います!あんちゃんちっす!』

「分かりやすく挨拶分けんな!」


「先生や生徒は無事なの?」

「もう全員に帰宅指示出したで?」

「あれ?私達は?」

「勿論、帰宅指示送ってへんで?」

『流石、独身の称号を欲しいままにする先生!!』

 軽く先生とバトルしていると美姫さんが睨んだので三人とも秒で沈黙する!!



「月花、式部、二人に来てもらったのは私だ。ちょっと近寄って敷地内を見て見ろ」


 式部と包囲線を潜って校門まで近づいていくと…敷地内に次元の割れ目が出来ていて丸々学校が無くなっている!

 上を見ても学校が無いので覗き込んでみると…そこには星界に数列が流れ行き、星界の中には様々な大きさの違う世界が漂っている…


「あ…アナザーバース…!こんな事ありうるのか?」

「突入が困難極まるアナザーバースをこんな形で…」

 本来は存在を知っていても到達技術は≪社≫やしろと提携会社以外は突入不可能と言われる場所だ。


「これが二人を呼んだ訳だ。流石にアナザーバースに関しては月花と式部には敵わない。だから二人が必要なのだ」

 美姫さんが悔しそうに煙草を消す。


「美姫さんなら単独でも行けそうな気がするけど…」

「私はアナザーバースへの加減が分からん。この穴を蹴って広げてしまうかもしれん」

『美姫さんなら出来そー!』

「無駄に被害を広げる訳にはいかんからな。庵も同様だ、庵は相方が居ないと手加減出来んしな」

「美姫さん酷すぎやわ―――!」


「さぁ、月花、式部、どう攻略する?現状その穴からは学校が小さくしか視認できんぞ?」

「…ここから飛び込んで良いのかどうか…学校の戻し方も不明だし…」

「私は月花に飛行を付けてもらってここから突入、月花は転送装置でいつも通り突入してくれれば、私に何かあっても一緒に帰れるし、まずこの位置と転送装置の数字の海へのアクセスがどれだけ離れているから分からないから、そこも月花が確認しながら来てくれると有難いにゃ♪」

「…分かった、気を付けてね!」

 式部に飛行を付けて、私も飛行で秘密基地の転送装置へ向かう!




「しれっと危険な方を選んだが、式部。大丈夫か?」

「うん、どんなに怖くても月花は必ず来る!」

「結婚式するなら私達も呼べ」

「もれなく招待状送るにゃ♪」

 そういうと飛行で魔槍を装備した状態で数字の海に飛び込む!


「あの気遣いと無謀さは小町にそっくりだな」

「ほんまパパにもそっくりやわ」




 学校の跡地から飛び込んだ感覚は、多少違和感があるものの、いつもの少し重い感覚…水の無い水の様な感覚が身体に軽い負荷を掛ける。


 多くの世界を遠目に見ながら学校の方へ近づくと、見慣れないものが見えた。

 巨大な樹か…?

 周囲の世界と比較すると、通常の樹木なんかより圧倒的な大きさに見える。

 沢山の枝葉をゆったりと伸ばし、土こそないものの根っこも元気よく伸びている。

 よく夏に三週連続TVでやるスタジオの天空の映画のエンディングを彷彿とさせる。

 脳内にあのエンディング曲が回ってるが、先に学校だにゃ!



 ようやく辿り着いて学校の敷地内に降り立つ。


 普段は世界に包まれている建物が剝き出しで数字の海にそびえ立っているのは圧倒的な違和感だ。


 校内に入る前に下駄箱で上履きに履き替える。

 マナーどうこうではなく、校内では上履きの方がグリップ力が期待出来るからだ。

 同時に校内の狭さと、校舎を破壊してしまう恐れがあるので魔槍を次元の狭間に収納し、スキルガンに持ち換えた。


 敵がいるかもしれないこういう場合、セオリーとして上から捜索するが、逃走も容易に許さない状況なので一階から探す事にした。


 職員室、校長室、視聴覚室、一年生の教室…荒らされた形跡すらない。


 二階への階段へ差し掛かると、前方の踊り場に人影があった。

 人だった影、二度と戻れない悲しい影『ウォーカー』

 踊り場から襲い掛かってきたので、前方に結晶障壁を張り、同時にスキルガンで猛襲する針レイジング・ニードルを撃ち出す!!

 スキルガンは詠唱無しで連射可能なので、障壁が見事にウォーカーの爪を止め、ニードルが全身を剣山の様に仕上げた!


 無事、ウォーカーは祓われたので、先を急ぐ。

 特に急ぐ要素は確認出来ないが、時間経過で何かが手遅れになると想定すると不味い。


 階段を一段抜かしで上がり、二階まで上がる。

 角まで進み、左右を確認する!

 右の通路にウォーカーが三体!

 疾駆する小槍チェイシング・スピアを連打し、小さな鋭い岩がどんどん大きくなり進んで行く!

 手前に来たウォーカーは猛襲する針レイジング・ニードルを直接打ち込む!

 三体とも祓ったが、釣られて出て来る敵はいなかった。


 と、いうか校内には人はほぼ居なかった筈なのにこのウォーカーの数…

 ウォーカーは本来、人の怨嗟が募り、姿

 こんなに一か所に集まる事自体が在り得ない。

 ウォーカー使いやその関連なら事態は相当深刻だ!

 人の命が奪われていく!


 速やかに事態を収束させねば!!

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