第57話 Eternity and Immortality
地底湖から現れた首の長い水竜が襲って来たので、洞窟を壊さない様に退治をしなければ!
障壁越しに見える口腔内は鋭い歯が三重にびっしりと生えてるから肉食だろう。
いや、この状況で草食魚だったら
障壁を消した瞬間飛び掛かり、上顎に斬りかかるが金属音を立てて刀が鼻先で止まる!
この名も無き刀の斬撃を止めるとか、普通に驚異的な硬度だ!
側面から式部の魔槍、ルクレツィアの矢、ベアトリクスの召喚シヴァのアイスニードル、全てを弾く!!
「
力押しされているので力押しで真っ向勝負!
「月花!雷系の召喚で行こうか!?」
「いや、他の生物に被害が及ぶ!雷は最終手段で!」
「なら、どうする!?」
「月花!小屋の蔭にそいつの歯や骨の欠片が沢山ある!大昔、ここで歯を加工していたのかもしれない!」
「なる!それなら何か弱点があるとみていいな!」
「何かヒントが…何かあればにゃ…」
「とりあえず力押しで時間を稼ぐ!」
「
封印を解除し、
「一之太刀!二之太刀!三之太刀!四之太刀!五之太刀!六之太刀!七之太刀!八之太刀!九之太刀!
最後の居合で蓄積したダメージが効いていたのか、頭から首辺りまで綺麗に真っ二つになった!!
「…結果オーライ月花!!」
「我は脳筋じゃないからな!ダメージの蓄積により相手の硬度が下がった処に…」
「はーいはい分かったにゃ♪」
式部が頭を撫でてくれたので納得するが、ルクレツィアさんとベアトリクスさんの我を見る目が脳筋を見る目だっ!
改めて、首筋に刃を立ててみると死後でも刃が通らない。
この魚類の技とかではなさそうだ。
周りの岩と同じ色をしているのが気になる位か…
「とりあえず全員に飛行を付けるから、上から調査していこう。各自トラップに気を付けて、どうしても分からない場合は我を呼んでくれ」
『了解!』
皆が飛行結晶で上昇していく中、小屋の蔭の骨が落ちている場所へ向かう。
周囲の岩の発光に紛れて分かりにくいが、骨が青くなっている物が幾つかある。
尖った青い骨と白い骨を二本拾い、ダウンした魚類の首に突き立ててみる!
思った通り白い骨は刺さらず、青い骨は難なく刺さった。
気になり、小屋の扉を開けてみると…全身青くなった人骨が横たわっていた。
「えと、全員念の為に布でマスクして行動してー!」
『それは滅茶苦茶深刻な事態じゃないのか!?』
「うむ、微量なら問題ない筈だけど念の為にな」
『今、筈って言った?』
『さっきから思ってたんだが、この色…アダマンタイトじゃないのか?』
「恐らくベアトリクスの言うとおりだな。固くて加工がし辛いが、武具防具を放置するだけでアダマンタイトが付着し強靭になっていく。さっきの魚もそのパターンだろう」
『早く出ないと肺が侵食されない?』
「まだ白い骨もあったし、微量なら吸引しても問題ない筈だ。小屋の中にここで加工でも生業にしていたのか、人骨があったから、埋葬してから捜索に加わるよ」
死んで骨になってまで、ここに居たかったのか?
仕事に使命感を持っていたのか、それとも帰れない事情があったのか…
アダマンタイトの骨が土に還るか解らぬが、安らかに眠ってくれ。
供えるものの手持ちがないからカロリーバーで勘弁してくれ。
地面が硬かったが、埋葬も終わり湖の外周を更に調べてみる。
降りてきた階段を左に進んでいくと…大きな洞窟の前に、祭壇のような物が設けられており、洞窟の入口には標準より長いロングソードが突き立てられている。
祀っている?
若しくは供養している?
気になるのは立っているロングソードの刃がこちらを向いている事だ。
供養でも祀るにしても、普通は見た目の良い側面を向けるだろう。
「共存する蛍火」
中はアダマンタイトが周囲に含まれ無いのか暗いので、灯りを灯して中を進んでいく。
飛行状態で進み、何もない通路を進んでいくと、水気の付いた壁にぼよんと当たった。
こんな場所で行き当たるのも奇妙なので触ってみると
壁を蛍火で照らして、血の気が引いたから全速力飛行で通路を戻る!!!
入口の剣が…そういう事か!!
剣を避けて地底湖まで躍り出ると、案の定奴は剣の手前でピッタリと止まった!
ワームなのかミミズなのか分からないが、あの剣は奴を出さない様に建てられたんだ!!
祭壇は奴にやられた人の供養だったか?
地響きが鳴ったので全員こちらに降りてくる!
「うええ、何にゃあれー!?」
「エロアニメで見た事ある奴ー!」
「パパとお風呂に入ってる時にみた事あるー!」
「ルクレツィアとベアトリクスは後で職員室に来なさい!」
剣から手前には出てこないが、触手みたいなのを伸ばして来て、我の四肢を絡めとる!!
「うええ、気持ち悪い!!」
「式部!あれは今から脱がされるの!?」
「ちょっと待って!録画するからそれまで待って!」
「…あれが大人の
「ちょ!エロい展開は無いから――――――!!!」
手首の可動域だけで切れる触手を切断し、右腕の触手から順番に斬り落として、自由になった瞬間再度触手に捕らわれる!
再生が早いのか、触手が幾らでも生えて来るタイプか?
いや、あの狭い洞窟の中でずっと動けないのならそんな進化を遂げていてもおかしくない!!
「
掌をワームに向けてスキルを撃つと、雷撃が伝った場所が順に爆裂していく!
触手も同時に弾けたがまだ本体が死んでいない上に再生も早い!!
間合いを詰めないと勝てない!
触手を斬り払いながら上から接近し、二メートルまで距離を詰めた!
「
ワームの鼻先にスキルを打ち込むと、効果範囲内の全てが塵に変える!
入口周辺と突き刺さっていた剣も塵に帰っちゃったけど、大丈夫だろう。
ワームの残っている部分が断面から謎の体液を吐き出し
「さ、残る部分を探索して洞窟を降りるぞ!そこの三人!残念そうな顏をしな―――い!」
よく見たら、式部だけ動画の取れ高をほくほく顔で見ていたので、あとでデータは消そうと思う。
地底湖の周辺の壁の階段は居住区だったと見え、微かに青いベッドやコップ等の生活の跡が残っていた。
推測するに、アダマンタイトを含む鉱石の採掘場所を発見、研究でアダマンタイトはアダマンタイトで切断出来る事を突き止め、切り出す為に設備を整え、作業小屋も作り現地で生活する人達を配備するものの、長期間ここに滞在するとアダマンタイトの微粒子が生物に害を及ぼすことが判明し、この鉱山を破棄…そんな所か?
雑な説で幾つか謎が残るが、概要はそんな感じであろう。
コボルド達はワームもいるし、本能的に近寄らなかったのだろうな。
収穫は短剣二本と鉈、両方ともバッチリアダマンタイトでコーティングされている。
「短剣はルクレツィアとベアトリクスに一本づつ、鉈は…式部いる?」
「いるー♪」
「いいのか月花。恐ろしく高価だぞ、きっと」
「ベアトリクスは即戦力だし、ルクレツィアは近距離武器欲しかった処だからな」
「そういう事じゃなく…まぁ、有難く使わせてもらうよ」
先日まで死闘を繰り広げてたから仕方ないが、武器は適材適所でこそ光るというものだ。
さっきのワームの表皮が溜まっている洞窟下の広場まで来た。
特に何も無い広場の様には見えるのだが、一つだけぽつんと扉がある。
罠がないかどうか確認し、ノブを引き手前に開ける。
中は…アダマンタイトの光だろうか…微かに光る、体育館位の広さの広場。
奥にはベッド、一対のテーブルと椅子、古い本棚と本、王座の様な豪華な装丁の椅子、そこに一人の男が座っていた。
足を組んで肘をつき微睡んでいたが、目を覚ましこちらを見ると手招きをした。
トラップも警戒しつつ恐る恐る近付く。
「ワームを倒したか…冒険者か?」
男はよく通る美声で声を発した。
「ああ、冒険者ギルドに引き渡す前にトラップだけ解除しておこうと思ってな。あんたは…ダンジョンマスターか?」
ダンジョンの主や支配している者をダンジョンマスターと呼ぶ。
「いいや、弱すぎるダンジョンマスターなぞ大昔に滅ぼした…済まないがそこの紅い眼の少女よ、私を殺してくれないか?」
「断る。理由なき奪命行為は好きではない」
「理由ならある。私は大昔、無害な生命を強さに任せて殺戮・略奪を繰り返した」
「既に
「およそ千二百年」
「せ…」
「そんな長きをこの部屋で…よく正気を保てたな!」
「…その通りだ。当時このダンジョンに不老不死の薬があると聞き、仲間と妻も連れて入った…無事薬が手に入ったのはいいが、巨大なワームが現れ、仲間に襲い掛かった!」
「その調子だと貴様は下にまた何かあると考え、下に逃げたんだな?」
「そうだ。欲をかいて仲間を置き去りにし、妻とこの部屋を見つけたものの、ワームが帰って来ると扉を圧迫して出られなくなってしまった」
「自業自得だな」
「そうだな…不老不死の薬を妻と飲み、助けを待った。百年、二百年、最初は何なりと過ごした。だが八百年が過ぎた頃。妻は自害した。私の目の前で。ボロボロと崩れ、砂の様に消えた…」
「お前はそれを見てどう思った?」
「生まれて初めて大声で泣いた。苦悶し、絶叫し、悔いた。今までの略奪行為も、殺してきた人々も同じ思いで殺されたんだと。恐らくここは、俺の様な欲深き人間を後悔させる
「こればかりは計り知れぬが、貴様がそう思うならそうであろう」
「話すべき事は話した。生きていても害しかない者だ。殺してくれ」
「一人で死ねぬのなら
「いやー妻も部下も冷酷で残忍なのばかりだったから…」
「やべー集団だったんだなー」
その瞬間、椅子の横に立て掛けていたロングソードを握り、一瞬で間合いを詰めて我に横薙ぎに振る!
我も横薙ぎを止める為に、刀を正面から振り下ろす!!
ギィィン!と接触した剣は経年劣化で粉々に砕け、我の刀が袈裟斬りに男を斬りつけた!
「貴様!わざとか!おい!!!」
慌てて抱きかかえると、満足そうな表情で語った。
「悪人の最後なんぞは…これでいい…もし…次があるのなら…誰かを助ける役を…仲間と…妻と……………」
男は生を終えるとふわっと粉の様に崩れた。
名も無き刀を鞘に納刀する。
「我に嫌な思いをさせおって。
後ろにいる皆に目を見られないように、周囲を見渡す。
懺悔の部屋…本当にそうだったんだろうか?
「皆、部屋の中の壁を見てくれ。もしかしたら何かあるかもしれない」
全員で部屋の壁を調べて回る。
壁には特に何かなかったが…
「月花、これを見てくれないか?」
ベアトリクスが呼んだので行ってみると、床に変なマークがある。
「このマーク、床のあちこちにあるんだが規則性が分からないんだ。固まってたり一つだけあったり…」
「確かに…これに意味があるのか…?」
「月花ー!こっちには四つ均等にマークがあるよー!」
「……そうか!家具だ!椅子の足がピッタリ乗らないか?」
「…丁度収まるにゃー!」
ダンジョンの地下の広い部屋に家具が備え付けてるのもおかしな話だ!
間違いなく何かのギミックだ!
全ての家具の脚がピッタリ嵌まる様に家具を動かした。
すると奥の壁が空き、見えてきたのは宝物庫の様だった。
沸き立つ皆の声!
宝物庫に飛び込もうとしたので、刀を横に差し出すと、真横に巨大な刃が横断してくるが、我の刀で真っ二つになる!
「随分念入りなネズミ返しだな。だが、もう大丈夫だろう!欲しい物を少量だけ貰って、あとはギルドに任せよう」
『しゃ―――!』
「これで…食事代が補填出来る…」
ベアトリクスがまだ根に持ってそうだから突っ込まないでおこう。
皆が宝物を漁っている時に私は一つの迷いを抱えていた。
先程ドロップしたスキルだ。
【不老不死】
このスキルを保有している限り、老化と自然死をしなくなる。
このスキルは複製出来ず、譲渡も出来ない。
一人だけ老いず死なず生きていくのは滑稽だ。
我は式部と生きていきたい。
例え、式部が死ぬのならば、我もその日に旅立とう。
「
不老不死のスキルを両断し破棄する。
「月花?なんかスキル貰ったのかにゃ?」
「ああ、我には要らぬ物だ」
かちんっ!と刀を再封印し、式部の手を取る。
「さ、お宝を漁ろう漁ろう!」
「お―――にゃ!」
「でもさっきの録画は消すからー」
「え―――…にゃ!」
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