第54話 The Third Assassin

「派手な技を持っている様だが、私に勝利は在り得ない」

 ネクタイを緩めて胸元を開けるロギンズ。


「そうか?その程度では我には遠く及ばない」



「身の程を知れ、小娘キッズ

 瞬時に間合いを詰め、鍔競つばぜりいを挑んでくる!

 自信満々にそれか…?


名も無き断罪ネームレス・ペナルティ!」

 嫌な予感がして、相手を力で前へ押し戻すと、背後で爆発が聞こえ、衝撃波が背中に当たる!

 隙を見て私の背後に手榴弾を投げていた!


「双子の暗殺者」

 ロギンズの背中から腕がもう一対生えて私の両手を抑える!

 にやりと笑うと、ロギンズが口からナイフを出し、長すぎる舌でナイフを掴んで顔に突き立てる!

 上半身を逸らすも、額を切られ出血が目に入る。



「ハハハ、切り札はこうやって使うものだ」


「違うな、切り札はこう使うのだ」

 突然胸元からコロちゃんが出て来てロギンズの顔に火球を当てる!


「ぐうっ!」

 それでも離す様子が無かったので、両手で握っていた刀を左手だけ離しロギンズに向ける。


流星蝕メテオエクリプス

 えぐり取る技。ダメージでもなく、切り傷でもない再生不可の技。

 頭ごとえぐられれば再生も出来まい。


 見えはしないが、感覚でロギンズが落ちて行ったのが分かった。

「コロちゃん有難う!最高の切り札だったぞ?」

「ににん!」



「小町ちゃんは退避出来たか?」

 インカムで状況確認をする。

『もちオッケー!♪』

「ルクレツィア、そっちはどうだ?」

『式部が助けられる人は殆ど助けたよ!』

「有難う、ルクレツィアも退避しろ。式部は来い。今、目が見えないのだ」


 五秒も経たないうちに式部が身体を掴んでくれた。

「どうしたの!?って、うわぁ、血が!」

「ナイフに毒でも塗っていたのかも知れない、出血が収まる様子がない」


「今、回復するから!」

「いや、後でいい。それより最後の仕事を終わらせる」

「どうするの?ゾンビさん達はあっちだよ?」

「ハドソン川の中央へ誘導してくれ」


「…ついたよ!」

「次はワン・ワールド・トレードセンターとゾンビさん達のいるジャージーシティの中間に我の右手を」

「出来たよ!」


「我は回復すれば幾らでも回復する。だが、ゾンビさん達は今も痛み苦しんでいる。一一秒でも早く終らせて楽にさせてやる。研究施設も含めて全て」

「うん!」


絶対温度アブソリュート・インフィニティ

 小さな豆粒位の火球がハドソン川に入ると摂氏せっし5.5兆度の熱量がハドソン川の水を蒸発させつつ、そこを中心にニューヨークの地形を溶岩の海と沈めていく。

 研究施設もゾンビさんも瞬時で溶岩の渦中へ沈んでいく。

 これでもう軍事転用も無くなるだろう。

 被災者と避難者の補填は大統領に約束させた。


「ゾンビさんと研究施設は消えたか?」

「うん、大丈夫!」


絶対零度アブソリュート・ゼロ

 そのまま鎮火も兼ねて温度を若干下げて置いた。



「よし、帰るか。式部、誘導頼む」

「むー!先に回復しようよーもーもー!」



『お、おつかれ!何か怪我してるけど大丈夫?♪』

『お疲れ様でしたー!お腹空いたから皆でなんか食べに行こうよー』

 インカムに小町ちゃんとルクレツィアの声が聞こえた。

 見えてないけど近くまで来ているのだろう。



「ん、式部?今グングニルいる?」

 ルクレツィアの声が聞こえた瞬間、腹に激痛が走った!

 何かが貫通した!!


「ちょ、式部!何してるの!!?」

「…あいつ…!またあいつか!!…式部!!戻ってこい!!!」


「ここじゃ動きが取れない!一旦ダイヴ・アウトし…」

「傷が酷い!月花!しっか…」



























 ―――意識が戻った…




 静かだ…

 でも良く聞く電子音は聞こえる…

 目が開かない。

 ここは何処だ?


 目をこすろうと腕を上げると、腕に痛みが。

 点滴…病院か?

 右手に切り替えて、目を擦ると瞼が開いた。


 ああ、いつもの病院か。

 ママはまた付き添いしてくれたのか、椅子に座って寝ていた。

 ママの頭からコロちゃんが降りて来て頬ずりをしてくれる。


「ママ…ママ?」

「ん…月花、起きた?良かったぁ…」

 ママにハグハグされた。


「皆は?」

「……あ、お姉ちゃんとルクレツィアを呼ぶね」


 ママが連絡を取ってくれて比較的早く二人とも病室に来てくれた。


 二人とも浮かない顔だ。



「式部はどこ?」


「完結に言うと、恐らく操られていた式部が魔槍で月花の腹を貫いた。そして、遠目で見ていたあの召喚士の女と何処かに消えた」


「マジか…」

「で、式部が消えたけど、月花ちゃんのダメージが大きかったから一端戻ってきて、月花ちゃんに回復技を掛けて貰った後、この病院で輸血と点滴をして、三日も寝てたって訳…」

 小町ちゃんが凹んだ様子で経緯を説明してくれた。


「ごめんね、月花ちゃん…うちの子が…」

「式部は悪くないから大丈夫だよ!」

「そういえば、首がチクッとしたって言ってたけど、矢張りあれが怪しかったのかも…?」

「可能性はある…私の体力が戻ったらすぐ出掛けよう」


「まずは二人ともしっかり食べなさい!スタミナモリモリのスタミナ弁当作ってきたからね!♪」


「いいなー!私も食べたい!」

「ルクレツィアは帰ったら作ってあげるね!」

「店長、有難う御座います!」


「エルフの社会人口調、未だに吹くわっ!」




 ママも三日三晩付きっ切りだったみたいだから、ボディガードにコロちゃんを残して帰宅してもらう。


 例の召喚士、私を殺す為には手段を選ばないか。

 力も未知数ながら、アナザーバースを渡り歩く能力もある様だ。

 前回の言動から察するに式部の命を奪ったりはしないだろうが、式部を仕掛けてくる可能性が十分にある。


 式部は私に気遣って一歩引いてくれているが本気モードならきっと手加減が出来ない。

 命のやり取りスレスレの戦いになってしまうのは何とか避けたいが…



 翌日、目を覚ますと体調がかなり回復していた。

 まぁ、四日も寝ていた訳だから当然だ。

 若いし。

 十四歳だしっ!


 一応先生に確認して貰って、いつも通り無理矢理退院する。

 病院を出る前にトイレに寄り鏡を見る。

 ロギンズに切られた跡が残ってないか気になったからだ。

 着替えた時、身体も見たが傷跡は回復スキルで治っていた様で安心した。



 病院を出てから家族ラインで「退院したから帰るー」って送信するとママからおじいちゃんまで全員から「お帰り」とか「お疲れ様!」って返信があった。

 いつもなら秒で返信のある式部からだけ連絡が無いのが寂しい。


 自宅へ帰るとルクレツィアはバイト中だったので部屋で大人しくする事に。

 早々に晩御飯を食べてから式部を探しに行こう。


「月花、退院明けなんだから無理したら駄目よ?」

「読まれてる…相手は式部に危害を加えないだろうけど、やっぱり心配なんだー」

「そうだよね、毎日一緒だった人が急に居なくなると不安だよね…あ、月花の新しいコート、秘密基地のロッカーに入れておいたよ!」

「ママ有難う!」



 ママのいう事を聞いて翌朝、ルクレツィア、コロちゃんとファンタジー世界へ出掛ける。

 気慣れたコートがダメになったので新しいのに交換してもらったのは良いが、防刃・防弾なあって最初は馴染む迄固い。


 あの女の執着はこの世界だから、ここに戻って来ている可能性が高い。

「式部いないと寂しーいー」

「はーい、月花泣かないで!」

「指輪の反応はある?」

「どうやって使うのこれ?」


「対象をイメージして指環に集中したら、指環から光が伸びるよ」

「むむむ、バルス!」

「唐突に滅びの呪文を唱えるなっ!」


 光が出た!

 これは北東…位置は分からないがこの世界にいるのは分かった!

「聖なる光を失わない…ルァピ…」

「物真似上手すぎか!」



 指環の光の指す方向に向けて旅をする。

 人魚の国ウォータリア付近まで来ても光が下に向かないので、これはいよいよ未踏の地まで行く事になるのか…


「そういえば、私がやられた時何か変わった事を女がしていたとか…ヒントを見つけたい」


「あの時は突然だったからなぁ…動揺して細かく覚えてない………あー、変だなってのが一つだけあったよ」

「どんな事だった!?」

「女の元に去る式部が魔槍を逆さに持ってた」


「…ふふっ」

「どうしたの?」

「昔、インカムとかが使えなかった時に式部と意思疎通の為にサインを決めた事があるんだ」


「あー野球の監督がTikTokみたいにもちゃもちゃしてるあれな」

「野球の監督のハンドサインをTikTokに例えたのはルクレツィアが人類初だな!でも、そう!頭に手を乗せたら姿勢を低く、とか」


「魔槍を逆さに持つのは?」

「動けません、とか自由が効きません、だな。どうやら意識はある様だ」


「あー、今頃動けないのに月花刺した事で凹んでるだろうなぁ…」

「うん、早く助けてあげなきゃ!」




 もうすぐ昼になろうかという時間になった。

 ウォータリアの川も超え、海を渡り、光の指す方向に進むと陸が見えてきた!


 これは…

 上から見るからこそ分かる…

 隕石でも落ちてきたのか凄まじい大きさのクレーターだ。


 世に言うツングースカ大爆発でも30kmから50kmだったのに、それを上回る爆心地だ。

 ただ、痕跡は古い様で、クレーターの外周にいくつか街が広がっている。


「ルクレツィア、光はどっちを向いている?」

「むむむ、クレーターの側の街からだ!」


 光を頼りに街中を彷徨いていると高そうなご飯屋があった。

 ご飯屋に入るなり、女と視線が合う。

 式部も横にいる!



 無言で相席に座る。

「騒がないでね、破壊者…街の人の迷惑になる…」

「式部を開放しろ」

「この子には何もしない…貴様が死んだら無事解放する」

「その割に式部めちゃめちゃ御飯食べてるな」



「いらっしゃいませー!ご注文は何にされますか?」 

「一番高い肉料理のコースとノンアルコールで一番高いのを二つづつ。支払いはこの巨乳の痴女ちじょが払います」


「誰が痴女ちじょかっ!」

「ほらほら、声をらげると他のお客様に迷惑になるから」

 スタッフさんがクスクスと笑いながらオーダーを受けて立ち去っていった。


「どーせ、殺すって言うんだろ。いつやるんだ?」

「明日、昼に太陽が真上に来る時間に、クレーターの中心で」


「了解、他人を巻き込まない配慮がお前らしい。悪いが名前だけ教えてくれ」


「……ベアトリクス」

「素敵な名前の痴女ちじょだな」

痴女ちじょゆーな!!」


「今の内に聞きたいんだが、私は何故世界を滅ぼした?何故ベアトリクスはこの時間に移れた?」

「世界が何故そうなったかは…片田舎で細々と召喚士の秘伝技術を伝承していた私には分からない…だが、ある朝突然世界は崩壊に及んだ!大地も荒れ、たけり、空は万雷ばんらいうなる!人々も全て消え、私が様子を見に空へ上がった時には貴様らがその禍々しい刀を大地に振り下ろし、真っ二つに砕け、徐々に崩壊していった。年頃からして貴様らが二十歳前後位だろう…」


「あ、話が長かったから先に頂いてるね」

「ちょ、月花!この肉料理めっちゃ美味い!」

「人が深刻な話をしてるんだから食欲をプライオリティの先頭にするな!!」


「『貴様ら』って事は、式部もいたのか?」

「居たな、貴様の傍らでひざまずいて身動き一つしなかった」


「私がそんな事をして、式部が止めない…そんな事が在り得るのか…?」

「ひっとふぁふぃかのひゆうああっふぁんふぁふぁい?ほれほいひいへ」

「そこの長耳!行儀悪いから食べてる時は喋らない!」


「あとベアトリクスはどうやってこの時間軸へ?召喚の技で?」

「…いや、傍にたまたまクラック裂け目が開いたんだ…まさか崩壊したこのカムドアースに再び戻れるとは…しかも過去に飛べるなんて思わなかった」


「それで、私を探して殺そうとしたのか…過去にベアトリクスが飛んだ時点で未来が変わるとは思わないか?」

「変わる保証もないだろう?あんな凄惨な光景…もう見たくない」

「ねぇねぇ、カムドアースって何?」

「この世界の名だ…そんな事も知らぬのか長耳」


「…ごめん、三人とも知らなかったからざっくりとファンタジーの世界って呼んでた」

「ちょっと表に出て世界に謝ってこいっ」


「あ、うん、なんかごめん…」

 ご飯処を出て、ルクレツィアとそのまま宿屋の手配をした。

 計画通り一番高いご飯をベアトリクスに奢らせたが、明日滅茶苦茶怒ってる気はする。


「月花、大丈夫?寝込みを襲われたり、暗殺されたりしない?」

「式部を使った件は暗殺とは違ったし、何よりあれは本当に善人だわ。敵意はあれど悪意や他意もない。真意で世界を救おうとして私のみを殺そうとしてる」


「このすれ違い、どうにか解決出来ないのかなー…」

「拳で語るとか前時代的なノリは避けたいんだけどなぁ」

「R-1みたいにネタで殴り合うとか?」

「ピン芸人のネタを一晩で捻り出す方が難しいわっ!」



 翌日。

 ルクレツィアと朝食を済ませ、色々と考え事をし、昼前にルクレツィアを街の手前に残して指定場所へ向かう。


 向こうは、待合せ時間に遅れることなくクレーターの中央に飛行待機していた。

 式部もいる!


「来たぞー!悪いが一対一にしないか?式部を巻き込みたくない」


「いいわよ。こちらも犠牲者は出したくない。但し、試合が終わるまではこの子はこの状態を解かない」

 念のいったことだ、式部がどんな状態かヒントを出さないつもりだ。


 ベアトリクスが指を指すと式部はさっき居た街の方へ飛んでいったので一安心だ。



「今日ここで、世界の未来の為に散りなさい!」



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