第53話 President's wise decision

 異世界オアシカで休憩しながら現状からのベストエンディングを思案する私…



「………ずずず」

 思考に集中し過ぎで動きが止まってるから式部がたまにフラペンのストローを口に入れてくれる。

 エコだとは言え、この紙のストローって口辺りが好きじゃないなぁ…


 あ!


「ごめん皆、私に二時間頂戴!」

「何故二時間なの?」

 ルクレツィアが長い耳をピクピクさせている。


「ここからワシントンDCまで車でざっと四時間、私の結晶飛行なら往復二時間で行ける!」


「さっきの大統領の話に繋がるのかな?♪」

「小町ちゃん当たり!ちょっと大統領を脅S……お話ししてくる」

「うっかり口走っちゃう辺りがパパそっくりねー♪」


「二時間後、ここに再度集合。小町ちゃんは侵入経路とかチェックしておいて!」

「峰不二子の生まれ変わりと言われた私に任せて!♪」


「峰不二子死んでないじゃん!式部とルクレツィアは、ゾンビさん広場で下調べ…救援を始めてもいいけど、チェックして大丈夫ならビルの屋上に避難してもらって!」

 おもむろにサラも呼び出す。

「サラ、一人でも多くの命を救いたい。魅了で避難遅れの人を誘導してもらっていいか?」

「わかったわよー、でもラップサラダとフラペンは頂戴ね?」

 サラにお金を渡すと鼻歌交じりでレジへ向かった。


「あと、成功するか分からないけどワシントンDCに向かいながら、並行して作業するから、ワクチンを一つだけ持っていくね!シリンジは要らないから!」


「……むむむ…あー…それに賭ける手があるかにゃ♪技術移動スキル・トランスファーも準備しておくね!♪」


「さす式部!全員飛行出来る様にしてあるから、二時間後まで体力温存しておいてね!」


「行ってらっしゃい!お土産は大統領のヅラでいいよー!♪」

「小町ちゃん、それ本当に欲しい?」

「記念に欲しーい!♪」




 ワシントンDCを飛行で目指しながら、同時並行する作業は…ワクチンのスキル化!


 例のバグスキルに願うという初めての行為…

 いつもは危ない時に助けてくれてたけど、願って宛にした事はなかったから成功するか分からないけど上手く行けば、より多くの人を救えるかもしれない!

 日頃の行い良くないけど、お願いします!


 そういえば私、空軍に撃墜されないだろな…?





 ルクレツィアと私は、ゾンビさん広場を上から偵察している。

 ママは峰不二子っぽく何処かに潜入しに行った!

 見てると、感染者じゃない人を目指して歩いてるのは映画と同じ…身体機能的に食欲ではないから矢張り保菌してない人を感知して襲っているのかにゃ?


「危ない!」

 ルクレツィアに引っ張られたので背後を見ると、ゾンビ鳥に矢が刺さって三匹落ちていった!

「ルクレツィア、ナイス!鳥は行動範囲が広いから、可哀そうだけど仕留めてしまおう…屋内、ビルに避難民がいないかもちら見しておいて!恐らく建物にゾンビさん達が群がってる」

「かしこまりました―――!」

「今、接客用語は吹いちゃうからやめてー!」





 現アメリカ大統領は、悩んでいた。

 次期大統領選挙に若き人気のある実力派議員が出馬声明を上げたからだ。

 今期、我が国の為に色々やって来た。

 言っちゃいけない事も多少やらかした!

 それもプライベートで!

 根強いファンの御蔭でかなりの固定票を獲得しているが…

 負けてしまうと軍事関係でママにだって叱られそうな事や、私が愛した絶世のマドンナ達がうっかりテレビ局のインタビューとかに出てしまうかも!!!


 執務室に入りライトをつけようとしたその時!

 反射で銃を向けた先には…暗闇に赤い眼をした…我が立っていた。


「キッズ、ここは入ってはいけない場所だ。私の限定サインと限定キャンディーを進呈するから帰りたまえ」

「今の独り言、聞いてたぞ?叩けば埃が天国まで舞い上がりそうだ」


 次の瞬間、大統領の拳銃が躊躇なく我に火を噴いた!



 六発全段撃ち尽くして、大統領が見たのは微動だにしていない我の姿だった。

 正確に言えば、我の闘気の前で静止している弾丸を見て驚愕していた。


「我は実は≪社≫の使いでな。件のゾンビ騒動の鎮圧に来たのだが…思わぬスキャンダルが耳に入ってしまったな」

「それなら現場が違うだろう!早く鎮圧しに行きたまえ!」



「それがな、大統領に少々お願いしたい事があって来たのだ。救出者が多い方が次の大統領選にも有利になるのではないか?謎のゾンビ共から市民を救う英雄……星条旗の元に活躍する大統領は支持率間違いないだろうな」


「断れば?」

「市民を研究施設と軍ぐるみでゾンビにした情報がマスメディアに漏れなく提供される」


「何を証拠にそんな根も葉もない事を…実存しない事実を誰が信じると?」

「まるで完璧に証拠を隠滅したかの様なセリフだな?そういえば銃声がしても誰も来ないな。防音性を上げたのは情報漏洩の為だけではあるまい?」


「知った口を…やるならやりたまえ。私とてミスター・プレジデントと呼ばれた男だ。脅しには決して屈さない!」

「あー、あと大統領が愛した絶世のマドンナ達が、何故か八十オーバーのマドンナ達になってマスコミにあんな夜やこんな夜の話を赤裸々に話す事になるが後悔はないな?」


「私とてキッズの願いを無下に断る程、度胸のない男ではないのだよ!」

 笑顔で硬い握手を交わした!

 キッズ扱いが気になるが、ちょろかったのでよし。

 カツラは地球儀がスペアを被ってたので貰って来た。





 お膳立ては整ったが…後は我が準備を出来ていない…

 頼む!動いてくれ!一人でも多く救いたいのだ!


 ニューヨークに移動しながら願っていると、突然アンチウイルスが消え、右目に新規獲得スキルの情報が出る!

「すまぬ、感謝するぞバグスキル!!」





 予定時間を少し過ぎたが、三人の元へ無事戻ってきた。

「おかえりにゃ♪」

「おおー赤眼月花ちゃんだー!どうだった?」

「軽い脅s…お願いで動いてくれたから大丈夫だ。まず小町ちゃんの方は行けそうか?」


「うんうん、潜入も目標地点も把握、実験施設は通勤兼脱出用の電車が地下にあるのも確認したよ!ヒルトンまで直通だって」

「流石小町ちゃん!あ、これお土産の大統領のヅラね。式部とルクレツィアはどうだった?」


「どうも生存者は大きいビル一か所に固まってるみたいで、窓からヘルプサインが出てるのはその建物だけだったにゃ」

「あと、思ったよりゾンビ鳥が多いから、式部が作業中は私のカバーが必須だね」


「済まないルクレツィア、式部を頼む。式部、技術譲渡スキルトランスファーを頼む、何とか願いを聞いてくれたみたいだ」

「おっけーにゃ!♪あいたっ」


「ん?式部どうしたのー?」

「何か首がチクっと」

「急に眠って推理が始まる奴?」

「眼鏡で蝶ネクタイの小学生がいないから大丈夫かな?♪」



「決行は軍の行動力次第…タイミングはインカムで知らせる。全員インカムは装備してるな?」

『問題な―――し!』

「総数が多い上に総当たりになるから、インターバルを置きながらゾンビの中で回復の兆候を見せた者を避難ビルに誘導、私は数が纏まったら結晶で船を作ってメットライフスタジアム周辺まで運ぶ」


「月花ちゃん、そこまで運ばなくても大丈夫じゃない?♪」

「我自身が民を巻き込むのが一番怖いのだ。小町ちゃんも仕事をこなしたら飛行でハッケンサック川より必ず西へ」

「お…おう♪」

「サラも誘導が終わったら全速力で避難ね?」

「はいはーい!」


「小町ちゃんはどんな役割するのー?」

「人助けだよ。こんな事を任せて、二つ返事で簡単にこなすのは小町ちゃん位だ」

「…すっご…」

「因みにウチのママは『斬る』一択だ」

「六花ちゃんそんなゴリラだっけ?」

「キャベツを神器で切ろうとして、キッチンを下まで斬ってしまって、小町ちゃんに死ぬ程叱られる位はゴリラだな」

「我が妹ながらフォローしずれぇぜ…♪」



「へくち!」

「ママどうした、風邪か?」

「ううん、きっとうちの愛娘が寂しがってるの!!多分!!」






 それは突然飛来した。

 米軍お抱えの戦闘飛行機が何機もニューヨークのスカイスクレイパーの間を飛来する!

 大型軍用車も物々しい数が押し寄せ、警報を告げる。


「ニューヨーク一帯に非常事態警報を発令します。住民は速やかにロングアイランドシティ方面に避難して下さい。病人や老人は軍用車で避難するので声をかけて下さい。これは訓練ではありません。繰り返す、これは訓練ではありません」


 ストリートを軍の車両が行き来し上空は軍用機が飛び交い、事の重大さを物語る。


 騒ぎのせいでニューヨーク市民の人口も減っていた所為か、避難は滞りなく進んでいる様だ。



 式部・ルクレツィアペアは一縷の望みを願い、バグスキルでスキル化したワクチンをスキルガンでゾンビさん達全員に撃ち込む!


 効いた様子が見えた人を避難ビルに誘導し、我が屋上から船に乗せて安全圏に送り出している。



 その頃、地下の研究施設。

「管制室より、全館へ緊急指示。当施設内にてバイオハザードを確認。通気ダクトにて全館へ流出の可能性があります。全館職員は現作業を放棄し、地下メトロにて速やかに脱出して下さい。なお、安全確認後研究は再開するので、機材・資料の持ち出し厳禁とする。繰り返します……」 


 管制室から各部署の様子をモニターし、職員が退避するのを確認しながら、魚肉ソーセージを食べる小町。


「んー♪皆命大事にだよー!バイオハザードは嘘だけど早く電車に乗っちゃってー!♪」


 その後、全員が脱出したのを確認すると、小町も命を危機を感じ再び地上へ戻って行った。

 魚肉ソーセージの剥きカスを管制室に残して…




『月花ちゃーん、ミッションコンプリート!♡』

「さす小町ちゃん!後は我らがやるから巻き込まれない様に西へ!」


「おっけー!」

 視界の端に飛んでいく小町ちゃんが見えたので胸を撫で下ろす。


 長時間、スキルガンでワクチンをゾンビさん全員に撃ち込んでいる式部と、ゾンビ鳥から式部を守っているルクレツィア!

 二人とも相当消耗している筈だから、早く終わらせてしまわないと…



 パッシブスキルの危機感地が反応したので、名も無き刀を背後に翳すと、刀に火球が命中し消えた。


 振り向くとそこには飛行スキルで空中に浮き、メリルの首を締め上げているロギンズが居た。


「凄いな、何て分かりやすいボスなんだ。三文推理小説並に分かりやすかったぞ?」

「…私の依頼とは違うな。ゾンビの制圧とは違うシナリオが進んでいる」


「ロギンズ、あのゾンビの最初の感染者を作ったのは貴様だな?親玉の貴様ならウイルスを持ち出すのも容易、セキュリティ等意味を持たない」

「どこにそんな証拠がある?」

「つい先程、大統領と仲良くなったのだ…閉鎖区域内で実験の承認をした事、軍隊を派遣し周囲の包囲をした事を喋ってくれたぞ?」



「くそ…あの女しか頭にない無能ハゲが…」

「お前もメリルを離せ」

 見えない位薄い結晶をロギンズの手に飛ばし、出血させる。


 メリルは地上に落ちていくがロギンズは一瞥もせずこちらを見ている。

 飛行結晶を付けたメリルは落下を回避し、戻ってきた。

「メリル、西へ避難せよ。あいつは我がやる」


「分かった、有難う!!」



 上空の生温い風で私の黒髪とロギンズのネクタイがなびく…

「…さて、噂の《社》《やしろ》とやら…腕は立つ様だが、元軍人で組織を統括している私に勝てるつもりなのが、面白くないジョークだ」

「そうか?実力差を見て測れない辺りは幼稚な腕前だ。家に帰ってママにチェリーパイでも作ってもらえ」


「………ママを侮辱するな―――!」

「マザコンだった――――――!」

 コンバットナイフで切りかかって来る!

 名も無き刀とコンバットナイフがぶつかり火花を散らすが、コンバットナイフが切れない所を見ると相当にスキル強化されている。

 軍人でもこの強度は必要ないから、相当悪い事をしてきたのだろう。


「執念の蔦」

 鍔迫り合いの状態から我の全身を蔦が絡み硬直する。

 硬直を確認し、躊躇なく頭部にナイフを振り下ろすロギンズ!


「名も無き三之大刀!」

 近距離から現れた三本の爪が私に絡んだ蔦を斬り、ロギンズに直撃する!


「ふん…小賢しい!」

 後方に下がりながら両腕でガードした様だ。



「勝者の火力!」

 ロギンズの周りにガトリングガン、グレネード等ありとあらゆる火器が出現し一斉掃射される!

 嫌な予感がしたので周囲にボール状に障壁を展開すると、案の定正面だけでなく全方位から銃弾を跳ね返す音がする!


 周囲を煙が立ち込め、視界が安定しないが障壁を解くと背後から背中に投げナイフと思しき物が五本位当たるが、防刃コートで跳ね返す!


 ナイフが飛んできた方向に振り向くと、また背中側から全力の突進でナイフを刺された!

 流石に貫通したか!

 背後から羽交い締めにされて、前に回した右手がナイフを心臓に突き立てようとする!


 刀でロギンズの右腕を切り落とし、脇から背後に向けた掌からスキルを撃つ!


彼方よりの星光スターライト・ビヨンド

 コートに穴が空いたが、羽交い締めにしてる腕はホールドしていたので避けられない!



 振り返ると、右腕を失い腹に穴が空いたロギンズが居た。

「最良の肉体」

 落ちていった腕が飛んできて癒着し、腹部も再生している。


「……Round2だ!」


 剣戟けんげきの応酬が続き、間合いを離した瞬間、排撃する手裏剣シューティングスターを飛ばして様子を見るも、すぐに躱し間合いを詰め、再び鍔迫り合いになる!


かわすのが上手い上に…殺し慣れてる。星条旗の名を語り何人殺した?」


「蟻を踏みつぶして数える奴はいないだろう」


「……そうか、己が蟻である事を教えてやる!!」

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