第52話 indestructible body

グレース失踪事件も紆余曲折があったが終結し、ホームワールドに三人で戻ってきた。



気になったので一番にグレースにチャットを入れてみたが、がっつり療養施設に入れられて大事に扱われているらしいので胸を撫で下ろした、

撫で下ろす胸はあるからなっ!



秘密基地で普段着に着替えて、やっと自宅へ帰った。


「はわー三人ともお帰りー!」

ママが三人まとめて強めのハグで出迎えてくれた。


「お、丁度いいタイミングでパパが存在している!」

「シュレーディンガーの猫みたいに言うな」


「あ、それでね、ちょっと気になった事があってパパの意見を聞きたいんだー」

「ん、何かあったのか?」



パパにスキルを貰った経緯と昨日までの事を掻い摘んで説明した。


「そんなスキルは見た事も聞いたことも無い…そもそも、そんなスキルが何故発生する…竜との闘いで何か考える事があったり、何かを普段から願ったりしなかったか?」


「巨乳になりたいっ!」

「ごめんなー…ママの遺伝子を信じて牛乳飲んで…」

「状況に応じて変わって、普段は全く使えないのも謎だな…まるで意思があるような…」

「今一番の懸念は、これが良くない方向に変わった時…まぁ使わないだけなんだけど、パッシブスキルに変わったら少し怖いかなって思う」


「スキルを取り出して、≪社≫やしろに調べてもらう事も出来るぞ?」

「改めて思うけど≪社≫ってヤバい組織なの?」


「ヤバい言うなっ!古来より逢禍を倒す巫覡のサポートを秘密裏に行ってきた影の組織。現在は逢禍が少なくなったからスキルの調査・分析・市場の管理がメインだね」


「エージェント以外誰も見た事無いし…、闇で怖い事してそう…スキルの改造とか」


「実態が掴めない組織だが、その気になれば世界を滅ぼすきっかけ位は作れると思う。けど、どちらかというと脅威から人類を守る為にパワーバランスを取ってくれてるよ。過剰な手助けもしないけど」


「どうしてにゃ?」

「人はどんなに進歩しても自滅する道に入りやすいからさ。あと≪社≫代表は式部ママだから大丈夫」

『意外な接点!!!』



「…深い話だね…そういやファンタジー世界のヴァンパイアがSDGsって言ってたなぁ」

「なんでヴァンパイアが現代用語を…」

「クラックっていう裂け目が出来て…って、サラ、説明してくれる?」


「あーなんかそんな気がしてたわっ!クラッ……」


サラを呼び出した瞬間、唐突にママが刀を抜いてサラに切りかかったのを、サラが白羽取りで見事に受け止める!!!


「ちょ、ママ!その子は敵じゃないよ!?」

「お前…あの時の!!」

「月花が巫覡の娘って聞いて嫌な予感したのよね―――っ!!!」

高橋〇美子の漫画でしか見れない様ないがみ合いが目前で繰り広げられているっ!



休  戦  協  定  !!



ママには、サラは害がなく私の友達兼スキルになったばかりだという事を説明し、サラにはお願いしてクラックの話をママとパパにしてくれた。


「クラック…それで向こうからモンスターや人がこちらに渡っているのなら、向こうのモンスターがこちらに居る話、ミキドの一族、色々説明が付く…妖怪ももしかしたら自然発祥ではなくクラックから別世界から来たのかも?」


「あるだろうねぇ…帰れなくなってこちらで土着した奴もいるだろうし…人は見た事ない物を総じて化物に例えがちだったし」

「あー…帰れなくなった時期にママ達と出会ってたのね…理由は聞くまでも無くっ」


「…あんたが生まれる前に会ったきりだけど、あんたのパパやっぱりめちゃめちゃいい男だねーこっそり一晩持って帰…」

「せいっ!♪」

サラの首が直角に曲がった―――!!!


「六花、こんな感じでいい?」

「おねーちゃんしゅき…」


いや、スキルだし死なないけど…小町ちゃんもたまに怖いなっ!何か怒ってたのか!?

あ、サラが死に戻りしちゃった…




まずは一晩ゆっくり休憩する事にした。

特に私は、屋敷のトラップで生気を吸われたのがまだ完治出来ていない様だった。

皆で小町ちゃんのご飯を頂き、仕事の内容を聞いた小町ちゃんが生気回復の薬を作ってくれたので食後に飲む。


ルクレツィアと二人でお風呂入って、二人で貧乳を嘆き、風呂上りにパックをしたらルクレツィアに笑われたのでルクレツィアにも施すとパパとママ両方に笑われた!

いいんだー…パックは将来の自分を見据えてするものだからっ!

長寿命のエルフであるルクレツィアは何年後を見据えてるのか計り知れないが…


「あ、ルクレツィア!そういえばバイト代入ったの!?」

「貰ったよー!よく出来ましたって小町ちゃんに褒められた!」


「良かったねー!何に使うの?」

「まず、建て替えてもらってたアニメグッズ代を月花に返すね!残りは…自分が働いた内容と見合うか考えて使う!」


「あれは奢ってあげたつもりだったからいいのに…でも偉い!ルクレツィアいい体験したね!」

「しっかり自分をいましめないと、一日でグッズとおやつにお給料が消し飛ぶ自信あるわ…」

「OH…」





翌日、のんびりと学校の準備をして靴を履こうとした瞬間、スマホのバイブが鳴る。


物凄――――――く嫌な予感を犇々ひしひしと感じつつ、物凄――――――く嫌な顔でメールアプリを開く。

いや、もう通知領域見えちゃったから予感的中率は八十パーセント位だっ!



≪緊急依頼≫



デスヨネ―――!

緊急だからいいんだけど、冒険者インターセプタ―もう少し増やさない?

神殿インダストリアルのコル…何とかさん普段何してるんだよー!


丁度、式部と小花ちゃんが迎えに来てくれた。

「今から―――…折角お天気がいいのに…」

式部も同じ気持ちの様だ。


「着替えるかー…」

「でもゾンビが出るのはワクワクするにゃ♪」

「式部、好きだね―――!」


「はいはい!皆準備出来たー!?おやつ持ったー?元気に出発するよー!♪」

動きやすい丈夫な服に≪社≫謹製の防刃防弾コートを羽織り、バックパックを背負った完璧な小町ちゃんがそこにいた。


「え、ママもいくの!?」

「転送ポッドが五つあれば小花も連れて行くんだけどね―――!♪」

「私は次にするわ、お姉ちゃんの方がゾンビさんへの情熱が深いもの…」

「熱量は兎も角、本当に危険だけどお姉ちゃん大丈夫!?」

うちのママが心配してるが、もう目の輝きが凄いので護衛対象が増えたと思っておこう…



初めて四人でダイヴ・インし、初めて渡る未知の世界へ向かう。

渡るまで想像つかないけど、当該世界へ降りてみると意外にも普通。

というより、アメリカそのままに見える。

現地に行ったことないのでどれ位似てるかは分からないが、飛行結晶で飛んで上に上がってみると、ニューヨークがそのまま孤立していて、生きている橋一本を封鎖する事によって均衡が保たれている様に見えるが…橋はゾンビで埋め尽くされていて、兵糧攻めの様な状態になっている。


「式部親子はまずゾンビの方々を見に行く?」

『真っ先に見に行く―――!!!♪』


「感染対策大丈夫?式部は大丈夫だけど小町ちゃんは?」

「勿論大丈夫!感染してもゾンビなら本望!!!♪」

「気持ちが前のめり過ぎるっ!!」


「ルクレツィアも感染対策は大丈夫?」

「以前、合ったら買ってってのにあったからパッシブスキルとして常駐してるよ!」

「さーすが♡」




依頼者に会う前に四人で橋の封鎖地点に向かうと、飛んでもない密度でゾンビがうごめいていた。

唸り声を発する者、こと切れたのか動かない者、バリケードに向かって邁進するだけの者。

バリケードの前では踏まれて動けないゾンビもいる。

周囲は腐臭と荒廃した光景で、ハリウッドの映画そのままの様な光景だ。



「……ママ」

「……初対面三秒は感動しちゃったけど、実際に会うと命の重さを感じちゃうね。やっぱゾンビさんは映画の中だけでいいかなー?♪」

「流石ママだにゃ♪」

「まずは依頼者の元に行って事情を聴きましょ!♪」

『お―――!』

流石、私が世界一好きな人のママだなって思った!



依頼者は街で一番高いビルにいるというので、様子見がてら歩いて向かう。

TVで見る限り常時、人の賑わいが絶えないタイムズスクエアも人はまばらしかおらず、飲食店はスーパーや小売店を除いてどこも『緊急事態宣言中につき臨時閉店』みたいな張り紙が張られていた。


ただ、炊き出しはあるみたいでそれっぽい様子の机があり、その周囲だけ幾許いくばくかの人と、犬や猫が多い気がした。



斥候せっこうからす

二匹の鴉が目の前に現れる。

「フギン、ムニン、この島を中心に周囲を見て来て」


二羽が飛び立ったのを見届けて、我々は約束地点であるこの街で最も高いビル、ワン・ワールド・トレード・センターへ向かった。



受付で冒険者登録証を提示すると、ビルの上層階の一室に通され、普段出会えない様な革張りの高級そうな椅子に身を沈めていると、眼鏡をかけた若い男性と秘書っぽい眼鏡に秘書っぽい資料らしきものを小脇に抱えた赤髪の若い秘書が現れた。


立って挨拶しようとすると手で静止させられたのでそのままで待つ。


「失礼、本日は依頼を受理して下さり有難う御座います。私は都市部防衛参謀のロギンズ、こちらは秘書のメリルです」


「私達は冒険者のレクス、順番にデッドエンド、ストロベリーフラペン…えーと…」

「レクターです♪宜しくぅ!」



「では、本題に…まず、一つ目の任務はこのゾンビを蔓延させた、人に感染すると数日で意識の低下、周囲の保菌者以外への食欲、朽ち果てるまで食べ続ける。まるでホラー映画のゾンビの如きウイルスです。全身にウイルスが回るともうワクチンも効きません」


「予防接種の普及率はどうですか?」

「現存するワクチンは感染してからじゃないと効果が出ないのです」


「感染の範囲は?」

「空気感染はせず接触感染で、ゾンビ共から攻撃を受けて傷つくとまず間違いなく感染します」


「感染状況は?」

「感染が著しいのは西のユニオンシティ周辺です。その周辺は橋を落としているので被害は拡大していません。ただ、状況を焦ってニューヨーク周辺の何本かの橋も軍に落とされ、北はヨンカーズからニューロシェルまで軍が防壁をはってしまっていて、こちらも孤立しています…」


「軍の包囲で孤立していたのか…因みにウイルスの研究所はどこに?」

「このビルの地下深くです」

「このビルから漏れたのなら、ここも危ないんじゃないのか!?」

ルクレツィアの慌てぶりに少しふふってなる。


「いえ、地下の研究施設は恐ろしい数のセキュリティがあります。だが、何故外に蔓延まんえんしたのか…そこが謎です…」

秘書のメリルさんも頭を悩ませていた。


「そもそもゾンビウイルスを作る必要性はあったのかにゃ?」

「それに関しては生体エネルギーの研究実験過程で偶発的に見つかったもので、偶然被験体のラットに噛まれた研究員が死亡、その後ゾンビの様に蘇り…」

「それを隔離、貴重なサンプルとして実験を開始したって流れ?命を何だと思ってるの?」


「彼は偶然実験の過程で死亡してしまった。機密をともなう仕事の為、職務規定及びあらゆる不測の事態で己の生命が危険に晒されても了承する署名はサインしてもらっている。家族にも十分な保険が渡されている」


やば、このロギンズって奴大嫌いだ!

顔に出さない様にしないと!


「じゃ、今回の依頼は…ソンビの殲滅せんめつ…?」

「そうです、保菌者を含め一掃して頂きたい」

「ワクチンとシリンジも頂けませんか?可能な限り助けたいわ」

小町ちゃんが人道的意見を出してるのにロギンズが表情を少し変えたのを見逃さなかった。

すかさずメリルさんがフォローに入る。

「分かりましたらこの自体を受けてから製造を開始したので、数はありませんが…」 


「現場を詳細にチェックしてないので何人救えるか分からないですが、一人でも多く!」





911追悼ミュージアムを抜けて、超大きいオアシカカフェがあったので皆で作戦立案がてら軽食を取ることにした。


敵情視察と言わんぱかりに、注文後に異世界オアシカをジロジロ見る駒鳥鵙こまどり親子。

店長らしき女性が女の子のお尻触って、マネージャーらしき人に首根っこ持って引きずられていく辺り、日常感が凄い!



「はい、おまたせにゃ!」

フラペンを両方のほっぺに当てられる!

「冷たっ!」

「よしよし、めっちゃ怒ってたもんね♪」 

「あー、言葉尻からそんな気がした!」

「式部は月花ちゃんの表情読むの上手いもんねー♪」


「うん…私も沢山人を殺す奴は容赦しないけど、罪なき人を足蹴にする行為は許せない…」


「口調は丁寧だったけど結構ヤな奴だったもんねーロギンズ…ゾンビさん達とむらって、救える人救ってさっさと帰っちゃう?♪」



「………」

口に手を当てて考える…私の癖だ。


「これはそろそろ地面に数式を書き出す感じ!?♪」

「小町ちゃん、私、物真似下手だがら無理だって…ルクレツィアもワクワクしなーい!」



「小町ちゃん、《社》のトップだったよね?アメリカ大統領になら《社》の話通じると思う?」

「アナザーバースで《社》が認識してる世界なら問題ないよ!こんな現実世界に近いとこは初めてだけど…♪」


「あと…地下の施設へ侵入…出来そう?用事は五分位で終わると思う」

「おおお、これは私の有能さが姪っ子に試されてる!♪やるやるーぅ!敵が出たら小花から借りてきたレーザートラップで切り刻むんだから!」


「小町ちゃん絶対持って来てる気がした!!」

得意げに横ピースする一児の母・小町ちゃん!


「式部とルクレツィアはゾンビさん地帯へ行って、助けられそうな人の段取りをして欲しい」

丁度その話をした瞬間、眼鏡をかけたエージェントが無言で鞄を置いてすれ違う様に去っていった。

非合法な何かの取引みたいな渡し方すんなっ!


鞄の中身は先程約束したシリンジとワクチンだったが…中を見ると想像以上に数が少ない上に、マニュアルを読むと『ゾンビ化ウイルスと解毒アンプルを混ぜて1時間以内に使用して下さい』とある。

冷凍もされているし、ウイルスの性質なのか、1時間を超えると効き目が無くなると見て間違いない…


「また使いづらいワクチンを…」

「数も想定より少ない………」

また沈黙モードで考える私…


「月花が別のエンディングを考えてるからフラペンを飲みながら待つにゃ♪」


フギン、ムニンが帰ってきてくれて周囲の状況をイメージ伝達で報告してくれる。

やはり、この仕事きな臭い…




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