第49話 Since I was born.

 ガルワルディアの宿屋に荷物を置き、三人で手分けをして情報を集める。

 心配なのでコロちゃんはルクレツィアの頭に陣取って貰った。



 私は、何回か自警団と顔を合わせた事があるので、自警団へ聞き込みに行く。


「こんにちわー!」

「はい、何かありまし…君は確か…ミノタウロスの子だったかな?」


「さも、ミノタウロスと血縁がある様に言わないでっ!知り合いがこの街付近で行方不明になったから探しに来たんです」

「ああ、最近この街の者が何人か行方不明になっていてね…、届け出があるだけで二十人は超える…もしかしたら巻き込まれた人が他にもいるかもしれない」


「考えたくはないですが、可能性はある…行方不明の方に共通点はないですか?同じ職業、同じ性別、同じ方向へ旅立った、とか…」

「うん、それも考えたんだが残念ながら有効な共通点は見いだ出せていない。家柄、資産、性別、戦闘能力の有無、まるでバラバラなんだ…敢えて言うなら男性が少し多い位だが、行方不明者の性別の比率は宛てにならないからね…」


 そう話していると、バタバタしてた奥に居たもう一人の自警団の方が札束を持ってきた。


「そうだ、これを君に。ミノタウロスの臨時討伐報酬だよ」

「あ…あの、それ要らないのでお願いを一つ聞いて貰えませんか?」


「この額の賞金を要らないなんて…理由を聞こう」

「この街の墓地の新しい区画に剣が刺さったお墓があるんです。クレドとフィル、友人なんです。私はこの街にたまにしか来れないので、気が付いた時でいいので花を買って供えてあげて頂きたいんです!」


「あ…あのスライムの件も君だったか、失念していた。気絶した君を運んだのも、お墓を手配したのも僕なんだ」

「え、ごめんなさい!有難う御座いました!」

 泣きそうな表情を隠す様に頭を下げる。



「そういう話なら断る理由はない。喜んでさせてもらうよ!お金は御花代と、モンスターで負傷した方にも使わせてもらっていいかい?」

「もちろんです!あの二人も絶対喜びます!」




 事情を知る人がいてくれて良かった…


 元々貰えると想定してなかったお金だし、御花代以外に治療代に使ってもらった方が、世の中の為になっていい。




 しかし、行方不明者が多発しているのに目撃者すらいない…誰かを狙っての犯行じゃない…この不規則性はモンスターが原因だからか?


 もう少し聞いて回るか。

 時間を掛け過ぎるとグレースや街の人の命に係わるかもしれないので、誰か有力な情報を持ってないのかー!?


 式部とルクレツィアと合流し、得た情報を照らし合わせるも、余り大差ない情報だった…



 歩きながら話していると丁度お墓のある場所に通りかかったので、二人に待ってもらってお花を買い、クレドとフィルのお墓に備えた。


 するといつの間にか式部とルクレツィアが一緒に黙祷していた。


「うちの嫁がお世話になりました」

「うちのボスがお世話になりました」


「ボスはやめなさい!サルか!マフィアか!」


 タオルでお墓の汚れを拭いていて気付いた。

 砂じゃない、泥っぽい。

少し前に雨が降っていたのかもしれない。


「……天候、関係あるかなぁ?」

「人攫いだとしても大雨にはしないよねー」

「モンスターだとお構いなしな気もするにゃ…」

「自警団の人、記録してるかな?」



 三人で自警団を尋ねると、パトロール中なのかドアが閉まっていた。


「あっれー?困ったな…」

「他に天気を記録してそうな人か、知り合いが居れば…」


「あ、うーん…知り合いが居るには居るが…まぁ、悪い人じゃないだろうしダメ元で聞いてみるか…」



 向かった先は以前にミドリゲネツソウという名の長ネギを貰ったお医者さんだ。


 滅茶苦茶目立つ緑の屋根が目印の家に着いて、ドアをノックする。


 返事がない。

 コンコンコン!

 追加でノックする。



「…入ってます」

「分かってるわっ!個室か!ちょっと開けてよ!」


「このドアは健康な人間は通り抜けれぬ地獄のドア…」

「家主のあんたはどうしてるのよ!年中どこか病んでるの!?」


 ドアが少し開き、顔が半分開き医者のおっさんの顔が出てきた。


「何だ、ネギの奴か」

「何だとはなんだー!安心しろ、今日は病人じゃない!」


「それを早く言わんか、病人かと思って逃走の準備をしたじゃないか」

「医者辞めてしまえ!」


「医者辞めたら国王の座程度しか残らんじゃないか」

「それ前から言ってるけど絶対嘘でしょー!!!」


「お医者様…お忙しい所申し訳ありませんが、私達最近多発している行方不明者を探してまして、ここ暫くの天気を知りたいんです。御高名なお医者様でお忙しいでしょうが、もしご存知なら私達に教えて頂けませんか?」


「容姿端麗、言葉遣いも出来ている。君になら教えてやろう」

「この差は何だ―――!」

 式部のあざとさ、色々役に立つなぁ…私も身につけるべきか…


 医者の人がなんの為か毎日天候を書き溜めているらしくて、一月分の天候表をスキルでコピーしてくれた。


「お医者様…感謝してるよ…有難うだピヨ」

「何だ、気持ち悪い」

「世界がうらやむ超絶美少女に向かって気持ち悪いとは何だ―――!」


 式部が丁寧にお礼を言い、殺意剥き出しの私はルクレツィアに引きずられながらその場を後にした。



「あーめっちゃ腹立つ!」

「月花、今度あざとさ教えるにゃ♪」

「それって教わって会得出来るものなのかなぁ?」


 取り敢えず近くのカフェでお茶しながら行方不明者のいなくなった日と天候を照らし合わせる。


「……ちょっと、これ当たりじゃない?」

「ルクレツィアもそう思う?完璧じゃないけど殆どが雨の日と一致してる…」


 一口お茶を飲んだ式部が口を開いた。

「雨の日…雨にまつわる…人をさらう、若しくは食べるモンスター…食べるは考えたくないけど…」


「降雨を好むモンスター居たかなぁ…ああ、でもルサルカとかウンディーネ、ヒュドラとかいるか…」

「大型モンスターは何かと痕跡を残すから、除外かにゃ?」

「そうだよね…私、以前行方不明になった時は東から来たんだけど、そんなに何人も行方不明が出る凶悪なモンスター居なかったんだよね…」

「月花は強さが規格外だからにゃー♪となると北、西、南…」


「北は少し大きな廃墟し、南はアクラドシアから続く大きな河があって、西は少し大きな森が近くにあるかな?」

「お、ルクレツィア有能!ちゃんと地理を把握してる!」

「ふっふっふー!変なのに合うのも死ぬのもごめんだからねー!」

「原動力が後ろ向きだけど、しっかり下調べするのはいいことにゃ♪」


「危険度は上がるけど、行方不明の安否が気掛かりだし手分けしよっか!」

「インカムが届かなくなるから、何か見つけたら一人で片付けないで街まで戻って呼ぶ事!相手が分からないのは一番怖いからね!」

「にゃ!」

「りょ!」



 一番安全そうな廃墟にルクレツィア、南の水辺に式部、私は森を探索する。



 二人に飛行を付けて三方に分かれ、森の手前まで来る。

 いや、木が大きいなぁ!

 日本のお寺とかにご神木とかで並んでるレベルの巨木が森を成している。

 某アニメでは巨人が走ってたが気持ち悪いので思い出すのを止める。


 何かあるか分からないので、一メートル位浮いたままゆっくり進んでいく。

 道はあるのでまずは道沿いに状況を見極めていく。

 すると、大きな渓谷が見えてきて対岸を繋ぐ様に丈夫な吊橋が続いている。


 そうか、ガルワルディアの手前にも似た場所があったなぁ…


 駄目だ駄目だ、クレドとフィルの事思い出すと泣きそうになる!



 吊橋を渡って向こう側を調べ、更に谷底も調べるが、行方不明者に関係しそうな物は幸い無さそうだ。

 一旦戻って森の中を調べるか!

 …と、考えてたら雨が降り出した。

 今、雨季なのかな?とか考えてたら振りが強くなった!

 雷の予兆もあるな…


 常時着ている防刃・防弾コートのフードを被り、来た道を帰ると分岐している部分があるのでそちらへ進んで行ってみると、森の中に少し大きいお屋敷があった。


 二階部分に灯りもあるから、雨宿りついでに行方不明者の話が聞けるかな?

 もしくはここが本丸の可能性もある。



 ドアにドアノックが付いていたので三回音を鳴らしてみる。

 ………返事がない。

 もう一度三回ドアノックを鳴らしてみる。


「まさかとは思うがここの住人も行方不明に…?」


 ドアを開けてみると鍵は掛かっていない。



 目の前中央に先が左右に分かれている登り階段があり、左右はドアがあるのだろうが、暗闇になっている。

 二階に灯りがあったし、二階に上がる。

 右側に進み、灯りのあった部屋の扉でノックをしてみる。


 またしても返事が無いので、そっとドアを開けてみるとダブルベッドのある寝室、ランタンは丸テーブルの上で煌々とついていた。

 念の為触ってみるが、本物のランタンで、ほんのり熱も感じた。

 少なくとも幻覚の類ではない。


 隣の部屋もノック無しで開けてみる。

 隣は子供部屋の様で、子供ベッドにぬいぐるみがあり、あとは衣装ダンスなんかだった。


 衣装ダンスを開けて、服を触ってみる……が、手で触るとすぐ崩れ落ちる。

 経年劣化が激しい…となるとここが本格的に怪しく感じられる。



 共存する蛍火で灯りをキープし、2階から順番に部屋を調べていく。

 建物はきしみもない位しっかりしているが、壁のクロスが破れていたり、切り傷があったりと不審な点が見えてきた。


 二階から一階へ降りると……登り階段の裏に地下への階段があったのが気になった。

 雨に濡れた所為せいか少し疲労しているが、もたもたしていられない!



 一階の探索を後回しにして地下へ降りると、石造りの部屋になっていて、周囲を漂う腐臭の中、左右のキャンドルに明かりが煌々こうこうともされて並んでいた。


 灯りの並ぶ先へ進んでみると多少薄暗くなっており、よく見ると人が沢山倒れている。


 その中によく見た女性が倒れていた!

「グレース!!グレース、生きてるか!?」

 叫ぶとグレースがゆっくり目を開けた!

 何も聞かずに生命の安定スタビリティ・オブ・ライフを掛けておく。

「……気をつけ……ュバ…」


 何を伝えようとしたのか理解したが、時既ときすでに遅く全身の力が抜けているのがわかった!


「くっ…何だこれ…」

 膝が上がらない…すぐに名も無き刀を取り出し封印解除でステータスアップするが…



「力無き正義は無力なり」


 その言葉と共に、名も無き刀が壁に吸い寄せられ張り付く!

 よく見ると夥しい数の武器が壁に張り付いていた。


「…人は礼儀を重んじる…知らぬ屋敷に入れば、挨拶をしようと、怪しんだとしても慎重に屋敷を歩き回り、ここに辿り着く頃には屋敷に仕掛けた生気を吸うスキルで力尽きるのよ」

 暗がりから出てきた青白い肌に水着に近い服を着た女がつらつらと話す。


「そして主武器を取り上げるスキルで何も出来なくなり…私達に死ぬまで生気を吸い取られる食料となるの、わかるぅー?」

 もう一人似た様なのが出てきた。


 間違いなくサキュバスだ!

 まさか魔物がスキルで人間を生け捕るなんて…

 あとサキュバス両方が巨乳でめっちゃ感じ悪い!!!

 個人の意見ですっ!


 だが、スキルを使いたいが、腕が上がらない…ステータスアップした分は状況打破に温存しておくべきか?



「まぁ、それだけ脱力してたら何も出来ないでしょ?そこで大人しくしておいてね」


「正直ー女の子だからそれ程興味ないんだけどねぇー!やっぱり殿方から直で吸うのがス・テ・キ♡」


「くっそ、やらしい事を平気でベラベラと…」

 横でグレースが少し吹いたから生命の安定スタビリティ・オブ・ライフが効いている様だ。


 刀の解放をしているから、まだ少し動けるが、性格が変わる程体力は残ってない…




 その時、登り階段のある暗がりから魔槍と矢がサキュバスに飛んで行く!


「力無き正義は無力なり」


 魔槍はギリギリでサキュバスから離れ、壁に張り付く!

 矢は射速が早かったのが功を奏したのか左にいたサキュバスの腹に命中した!


 だが、その後弓が飛んでいき壁に張り付く!


 服の中にコロちゃんの指環を借りて忍ばせていたから、指環で位置を探ってくれたのか!

 直で辿り着いたみたいで、まだ二人とも元気がある!


「式部、ルクレツィア、助かった…」

「グレースは無事?」


生命の安定スタビリティ・オブ・ライフを掛けて置いたから問題ないが、救助する人が多すぎる…」


「私が生命の安定スタビリティ・オブ・ライフを掛けて回るから、二人とも敵をやっちゃえる?」


「式部はスキルガンがあるし、私は余力を残している!ルクレツィア頼む!」



「この屋敷で継続して動けるものはいない!おまけに主武器を取られて何が出来る?」


「スキルも消費し続けると体力使っちゃうからねー?」



「…来い、よ」


 呼ばれて超速で我の元に飛んでくる


「悪いな、主武器がこっちで」

 我が魔槍グングニルを構え、式部はスキルガンを構える。

 主武器は矢張り良い、手応えが違う!


魔槍技・スノッリ・エッダgeirrinn nam aldri staðar í lagi!」

 魔槍を対象のサキュバスに投げると、サキュバスの爪が一メートル位に伸びて魔槍を切り裂く…筈が爪が折れ、もう片手を伸ばし槍を止める…筈が掴むことなく貫通し、凄まじい速度で死角から何回も何回も何回も何回もサキュバスを貫き続け、命が絶えると手元に戻ってきた。


「…その武器…まさか命があるのか!」


「我の世界では、全ての物に生命が宿るという付喪神つくもがみの概念があるが、命を食料にしか見ない貴様らが命を口にするとはな」



「好きでこの身体に生まれた訳ではない!そういう種族で生まれたのならそうするのが当たり前ではないのか!?貴様達も同様に命を喰らうだろう!これは我らのであり食なのだ!!」


「……そうだったな、だが我らも同胞を殺される訳にはいかぬのだ」


「ならば、死合しあおうぞ!勝者が正義等と無粋な事は言わぬ!!」


「ああ、…最後まで立っていた方が強き者よ!!!」

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